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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師ACT9-3
03

「最近、良い天気が続くな」
 朝。ダイニングの窓から見える広い庭を眺めて、アリタス国軍大佐ジョシュ・シールズは言った。
「雨が降ってくれないので、お庭の水やりが大変なのよ」
 キッチンから、シールズが青年実業家から略奪したとの噂の愛妻がティーポットを運んでくる。言葉とは裏腹に、明るい日差しがうかがえる窓の外を見ながら楽しそうに答えた。
「何だか最近楽しそうなのね。お仕事が上手くいっているの?」
 愛妻アマリエ・シールズはティーカップにプラムフレーバーの紅茶を注ぎながら、夫の顔色を覗き込んだ。夫ジョシュ・シールズは庭で啼く犬の方を見やりながら、鼻腔をくすぐる紅茶に満足げに微笑んだ。
「そうでもないけどな。三年間も同じものを探し続けているのに、未だに見つからない給料ドロボウだから」
 それを聞いてアマリエは「ふふ」と小さな鈴のような笑みを喉に転がした。
「貴方と出会って結婚するまで、三年半、でしたわ」
 それはつまり、シールズがアマリエを口説き落とすのに要した年月だ。
「もうすぐ見つかるってことか?」
 夫は、窓に向けていた視線を愛妻に向ける。
「貴方の努力次第ね」
 アマリエは最後にまた微笑むと、ティーポットを持ってキッチンへと姿を消した。
 今日も、シールズ家の早朝は穏やかに過ぎていこうとしている。
 遠い砂と石の街では、紅茶の香りとは無縁な状況に陥っているというのに。


 気候に見合わない不審なほどに厚い手袋は、自らの手の平で爆発を生成する為の防備だった。頭に引っかかっていた疑問は解けたが、それを喜ぶ暇がアレックには与えられなかった。
 顔面の片側を抑えて倒れこみながらもラファルは右手で風を起こして男を牽制した。遠くから飛んでくる弾丸も風に弾かれる。
「どういう意味だ」
 顔の片側を抑えるラファルの左手の指の間から、赤い筋が漏れ出していた。
「か、顔、顔大丈夫ですか!?」
 逆にアレックの方が狼狽して声が裏返る。
「そんな事どうでもい―」
 風の壁が消えかける向こうで男が、今度は軽く拳に握った左手を前方に突き出した。手の平の内側が赤黒く光る。
「っち!」
 振り向きざまに風を起こしながらラファルはアレックの腕を引っつかんで後ろに転がる。至近距離で肌に響く爆発音が連続し、風壁と爆炎を突き破り男がラファルに肩から体当たりを食らわせてきた。そのまま馬乗りとなり、男の右手が再び赤黒く光を宿し始める。
「やめ―」
 咄嗟にアレックが飛びつこうと動きかけると同時に、後頭部に硬い感触。
(―!)
 三人目の男が銃を突きつけている。
 アレックの目に、ラファルに馬乗りになった男の口元が酷悪な笑みを浮かべたのが映った。
「待て!」
 別方向からの声と共に、ラファルに馬乗りになった男の周囲で複数の炸裂音が上がった。複数の弾丸が円を描いて着弾し、砂煙が上がる。
「!?」
 アレックの背後にいた男も吃驚し顔を上げると、市場通りの交差道から姿を現し、こちらに銃を向けている警察局員の姿があった。騒ぎを聞きつけたのだろう。
「銃はダメです!」
 アレックが叫ぶと、警察局員は慌てる様子をみせずに銃を前方に投げ捨てる。と同時に四方八方から瓦解音と共に水柱が上がった。
「な…?」
 驚く複数の声を掻き消す爆音を上げながら複数の水柱は突如に角度を不自然に変え、蛇のように上空からラファルやアレックごと男達を飲み込んだ。
「ごばっ」
 間の抜けた事に口を開けたままだったアレックは、奇妙な噎声を発しながら転がった。川を逆流するように必死で顔を上げると、顔を抑えてうつ伏せ状態から起き上がろうとするラファルが目に入った。
「だい、大丈夫ですか!?」
「援軍…か?」
 ラファルの言葉を受けてアレックが前方を見やるとそこに見知った顔を発見して叫んだ。
「少尉!」
「あ?」
 階級で呼ばれた人影は、騒ぎを聞きつけたシュトル局の警察局員ら数名の先頭に立っていた。いずれも男を警戒してか武器を手にしておらず、代わりに押印を所有していると思われる面々が「少尉」と呼ばれた人間の背後に控えている。水を操った者も、その中にいるのだろう。ちなみにどうやら先程の水は、他の場所にある瓶の水だったようだ。
 その一隊を指揮しているのは、昨晩アレックを駅に送り届けたイリオン少尉だった。
「なんでお前がここにいるんだ」
 アレックをアレックだと見とめたイリオン少尉の第一声は、当然の疑問から始まった。
「はぁ、まぁ、それは…」
 言葉を濁しているうち、水に襲われ近くに転がっていた男が身を起こした。
「捕縛するぞ」
 すかさずイリオンが背後に合図を配ると同時に、野良着の男に向かい走り出す。「は」とイリオンの背後にいた若い女性士官が肩にかけていた軍支給の水筒を手に取ると、それを前方に向けて高く投げつけた。
「伏せて!」
「ぎゅ」
 高い声が鋭く響いた。上からラファルに押さえられてアレックも濡れた石畳に潰れる。途端、頭上で破裂音と共に水飛沫が四散した。水筒に詰まった水が女性士官の押印に反応し膨張し、鋭利さをもって幾又のパルチザンと化し地上の獲物を狙う。
「くそっ!」
 水を含み、役に立たなくなった手袋を投げ捨て、男は素手同士を再び交互に重ね合わせて赤黒い発光を生み出した。中空に爆発が広がり、三人の男を狙った水のパルチザンの刃先を砕く。
「おいおい、素手でかよ」
 爛れた両手を抱えながら男は踵を返して走り出す。残りの二人も動きを見せた。砕け、頭上から豪雨のように降り注ぐ水飛沫を浴びながらイリオン少尉は手にしていた錘のついた捕縛ワイヤーを男の一人に向けて放った。
「っ!」
 ワイヤーは銃を構えかけた男の手首に巻きつく。イリオン少尉が強くワイヤーを引くと手から銃が落ちた。
「引け、逃げろ!」
 ワイヤーに捕まった状態で男が残りの二人に向けて叫ぶ。
「く…!」
「俺に構うな!」
 躊躇する二人に叱責を飛ばして男は自由な左手で顔を覆う布を剥ぎ取った。
 現れた素顔は、黒髪で痩せ型の、何ら特徴の無い男の顔。
ただ一つ、顔半分を覆うように描かれた、模様を除いて。
「顔に押印!?」
 アレックに肩を借りて立ち上がったラファルの言葉通り、砂を操っていた男の素顔は、その半分を押印で刻まれていた。
「やめろ、それ以上使うな!」
 三人目の男が叫ぶ。仲間の声を無視して男は左手を己の顔に当てると短い息と共に殺気を放った。
「少尉、ワイヤーを放せ!」
「!」
 反射的にラファルの声に弾かれて、イリオン少尉はファイヤーから手を振り放すと部下に「下がれ」と命令を上げながら後方に跳んだ。ほぼ同時に、瓦解音と共に足元の石畳が一斉に割れた。連鎖し、呼応するように通りの両端に立つ石造りのブロック塀や壁が粉砕した。
「え、何で…!」
 アレックはその光景に瞠目する。彼の計算では、この男が操る事のできる印の力では砂の物理的操作に留まるはずであり、現に先刻までは、水が含まれて変質しただけで砂を操る事が出来なくなっていた。
 足を止められたイリオン達から踵を返し男達は駆け出す。
「逃がすか!」
 アレックの手を振り切りラファルが最も近くにいた男、銃を爆発させた男、に向かい、地を蹴る。
「追え!」
 イリオン少尉の声と共に四方から、建造物の屋根上から、いつの間にか包囲を固めていた国軍警察局員の面々が姿を現す。
「逃げろ!」
 顔に砂の押印を持った男が再び足を止め振り返る。顔面の半分を覆う押印が光り、通りの石畳に蛇のように新しい亀裂が走り、砕けた石畳と砂が瓦解して隆起した。両脇の家屋の屋根も崩れ落ちる。
「うわっ!」
「頭上注意!」
 男の押印が再び光、無数の石片が中空と四方から弾丸のように降り注ぎ始める。ラファルは空に向けて風を起こし、イリオンの背後に控えている押印所持者の士官たちも襲い来る石と砂の弾丸を、水を操り押し流す。だがここは砂と石の街、男の押印が発する命令に従い無数の砂と石達はその身を砕き、鋭い破片となり止め処なく凶器と化して周囲に襲いかかる。
「きゃー!」
「わああ!」
 防ぎきれなかった石は容赦なく国軍人達を切り裂いていく。市場通りの中心部は完全に大地の破壊により瓦礫と砂と化している。踊り狂う砂が嵐となり、その中央にいるアレックとラファルは両手で頭を庇いながら懸命に目を開けた。
「押印でこれほどの力……」
 舌打ちしたラファルの目は、砂の男の様子をとらえる。
「が……ぐ…」
 嵐の中心で姿が見え隠れする男は両手で顔面を押さえて背中を丸めていた。凄まじい音の合間に呻き声が漏れ出してくる。
「…おい、もうやめろ!」
 脳裏に浮かび上がる凶悪な不安にラファルは嵐の中心に叫んだ。一方で残った二人の男達も、砂嵐の向こうから何かを叫んでいるのが窺えた。
「これ以上は―」
 更に言いかけたラファルの声は、
「ああああああああああ!」
 男の絶叫と共に地の底からせりあがる震動と瓦解音で完全に掻き消えた。

 前方に見え始めていたシュトル・セントラルの街影、その中心に突如として巨大な砂色の柱が突き上がった。
「砂…か?」
 これまで目にした事のない光景にヴィルは目端を細めた。
「大丈夫だ、落ち着け」
 騎竜が悲鳴をあげて首を振る。優しく後ろから撫でてやる事で落ち着かせ、騎竜アーユに騎乗するアヴェルは更にセントラルに向けてスピードを上げさせた。
「明らかに自然現象ではありませんよね」
 前方を飛ぶヴィルに確認を求めると、「だろうな」と声が戻る。
 その更に前方を飛ぶラファエラはそのまま、巨大な砂柱に向かって急降下を始めた。そこに、ラファエラの主、ラファルがいるのだ。
「俺はまっすぐラファエラを追う。アヴェルは東から、ロデルは西から回り込んでくれ」
肩越しに振り返る当主の命に二人は「了解!」と応える。頷き返したヴィルは「いくぞ」と言い残し、ラファエラを追ってセントラルに向かい急降下していった。
 二人の竜騎士はお互いに顔を見合わせ、そして頷き、左右に分かれていった。二つの影が巨大な円を描くように旋回する。
 その様子を低空から見上げていたのは、エルリオとミリアム。姿を隠すために彼らの死角となる斜め下方の位置を保ちながら飛翔の印を用いて低空を進んできた。
「何だか大変な事になっているようですが…」
 横からしがみ付くミリアムの言葉通り、エルリオの目にも遠くに見える石と砂の街に異変が起きている事は充分に分かった。だが、近づく事への危険よりも、そこで起きている事象解明への好奇心が勝っている。エルリオはヴィルの影を見失わないように、押印に力を込めて速度を上げた。
「!」
 天を突き破ろうかという程に高く聳えた砂柱が、急に上昇の勢いを失うと中空で扇を広げたように膨張する。渦を巻き、竜巻と化した砂は中空で螺旋を描いて円を描きだす。地面から吸い上げられる大量の砂と石が竜巻に寄り集まり、厚みを増していくそれは、徐々に姿を象り始めた。
「な、何あれ…生き物?」
 見上げるエルリオの目に、空いっぱいに広がる砂色の巨大な蛇が現われる。蛇のように思えた長大な胴を持つそれは、前足を有しており、蜥蜴といった方が相応しい。
「ななななな何ですかあれ!」
 砂嵐に吹き飛ばされながらもアレックは辛うじて残った塀の残骸にしがみ付きながら、空を覆う砂蜥蜴を見上げた。
「なんてことを…!」
 ラファルは、出血を続ける顔に手を添えるのも忘れて、呆然と空を見詰めていた。対照的に、部下達に命令を叫んでいたイリオン少尉が舌打ちしながら言葉を吐き出す。
「あいつ、暴走しやがった!」
(―暴走?)
 聞き覚えのある言葉にアレックは目を見開く。
 暴走。押印を制御しきれなくなった人間が起こす事象。暴走の様相は様々だが、この場合は最も手が付けられない状態―力を放出したところで拠り所を失った精霊が迷走し、見境なく暴走する―それだった。
「これが、「暴走」…」
 自分の力が及ばない出来事の最たる具現を目の前に、アレックは文字通り動く事ができずにいる。
「水よ!」
 再び、少し遠方から水柱が複数本上がる。それぞれが水飛沫の尾を引きながら砂蜥蜴を取り巻くが、口を開けて旋回する巨体に飲み込まれて消失した。
「効かない…!」
「無理だ、あの程度では!」
 ラファルは固く唇を噛む。己が持つ旋風の印でも、あの砂の暴走に太刀打ちは不可能だ。
「軍曹!そこから離れるんだ!」
 砂塗れになりながらのイリオン少尉の声がラファルにも飛ぶ。
 周囲を見渡せば、男の姿は砂に飲まれて見えなくなっていた。中空を旋回していた砂蜥蜴は、足元に屯している人間達の姿を目に留める。
「目が合った…気がします…」
 アレックが引きつる笑みを浮かべると、
「悪い冗談を…っ!」
 空から急降下してくる砂蜥蜴の姿がそこにあった。ラファルはアレックの襟を乱暴に掴んで滑り込むように跳ぶ。
「ぶわっ!」
 地面に激突した砂蜥蜴の顔面が砕け、大量の砂が辺り一面に流れ散る。そしてすぐさま再び胴体に寄り集まり、砕けた顔面が再生されて口を開けた。
「下がれ!」
「っわ…」
 激しく体を押されてアレックは後方に転がった。まだ名前も聞いていなかったラファル目がけて砂蜥蜴が襲い掛かる光景に、
「そんな…!」
 そう叫ぶしか出来なかった。
―キュイイイイイイイイイッ
「!」
 瞬時、死を覚悟したラファルの耳に滑り込んできたのは死神の嬌声ではなく、頭上から降り立つ愛竜の鳴声だった。
「ラファエラ?!」
 体が自然に動いていた。空に向かい手を伸ばすと、ラファエラの首から垂れる手綱がラファルの掌に収まった。力強く握ると同時に凄まじい力で上空に体が引き上げられる。砂蜥蜴の首がラファルの足下を掠っていった。
「竜!」
「竜だ!」
 国軍兵達が顔を上げ、次々と声があがる。覚束ない足取りで何とかイリオン少尉の元にたどり着いたアレックも、竜と共に空に舞ったラファルの姿を目で追っていた。砂蜥蜴の意識を引き付け、高く上昇する。浮力を利用して体を回転させ、ラファルは愛竜ラファエラの背に跨った。
「ラファエラ…」
 名前を呼ばれ、背中から顔を撫でられ、ラファエラは満足そうに一声啼いて中空で旋回し蜥蜴の首をかわした。
「キュウウウ!」
 ラファエラは体を捩りながら翼を撓らせて風を呼ぶ。呼応してラファルの印が発動し、風が扇形となり砂蜥蜴の脳天を割る。
「―ダメだ」
 手ごたえはすぐに空回りとしてラファルに感じられた。一度は飛散した砂が再び寄り集まり蜥蜴を模りつつある。蜥蜴の造詣は所詮、砂の集合体に過ぎないのだ。崩したところで時間稼ぎにしかならない。
「キュッ!」
 ラファエラの小さな悲鳴とほぼ同時に、町の東西から更に二箇所から砂柱が上がる。
 目の前で再生しかかっている砂蜥蜴の向こうに、上がった砂柱の尾が揺らめき、それぞれが意思を持っているかのように地上に襲いかかる。民家が集まる一帯からも砂煙が上がっていた。
「セントラルを潰す気なのか…!」
顔半分を濡らす血を乱暴に拭いながら思案するラファルの頭上から、
「ラファル」
「!?」
 聞き覚えのある声がかかった。振り向くと、金色の髪の長身がある。ヴィルだった。
「ご当主!何故―」
 言いかけたラファルの言葉と重なり、背後から更に二つの竜の鳴声が交差していった。見ると、東と西の二方向から新たに現れた騎竜の影が暴れ狂う砂の尾へと突入していく。
「竜が増えた…すごいや!」
「感心してる場合かお前は」
 国軍の軍服を着用しているラファルとは異なる、新たに現れた谷の装束を着込んだ二人の竜騎士の姿に、アレックのみならずイリオン少尉率いる一隊の面々も驚嘆の声を漏らしている。
「あれは?」
「アヴェルとロデイだ。ラファエラが突然暴れて谷を飛び出した。それを追ってきたのだ」
 説明が終わらぬうち、遠方の砂柱がそれぞれ崩れ去るのが見えた。ヴィルは右手を頭上に翳して風を呼ぶと、足元で蠢く砂蜥蜴の首に向けて真上から風の斧を振り落とす。真っ二つに砂柱が割れて砂が広範囲に拡散する。
「ラファル、この首は任せた。暫く時間を稼いでくれ」
「了解しました」
 ラファルの頷きを受けてヴィルは地上に向かう。この砂嵐を引き起こした元凶の姿を探す。市場通りの中央と目見で判断し、その付近に着地する。イリオン少尉の姿を見つけるとその背中に駆け寄った。
「あ、あなたは竜翼谷の…」
「頭と尾の動きは我々が食い止めましょう。民間人を避難させて下さい」
 ヴィルの提案に頷いてイリオン少尉が背後に二言、三言の命令を発すると、部下達は一斉に動き出す。よく統率されていた。
「暴走を止める方法は」
「元凶を止めねばならないのだと思います」
「やっぱりなあ…」
 男の姿は既に砂に飲み込まれ、竜巻の寝床と化している。竜巻は周辺を瓦解させ砂と石を飲み込んでは放射を繰り返して市場通りを中心に街を削って進む。近づく事も容易ではない。
「少尉も、ここを離れた方がいい。精霊の暴走は、我々に任せてもらえないだろうか」
「しかし…」
「我々が起因している事です。責任を取らねばなりません」
 ヴィルの静かな視線を受けて、イリオン少尉は二拍ほどの呼吸の後に頷いた。
「………」
 去っていくイリオン達の足音を背中で聞きながら、離れた場所で暴れ狂う竜巻の根元を、ヴィルは凝視した。
(あの中心に人間が……?)
 嵐の中心部に飲み込まれて体が無事であるとは考え難かった。
「あ、あの……レストム元中尉…」
 振り向いたところで、瓦礫の影から遠慮がちにこちらを見つめているアレックに気がついた。
「何故お前がここに…」
 イリオン少尉と全く同じ言葉を向けられて、アレックは肩を竦める。怒られるかと覚悟を決めた子供のような視をする彼に、だがヴィルはもはや言及を諦めていた。彼が身につけていた谷の装束で、粗方の原因は想像に容易だ。
「あの…ごめんなさい、僕、迂闊でした」
「俺が言い訳を聞いても仕方がないだろう。離れていろ」
「す、すみません。僕、谷の人に間違われて襲われたんです。暴走してしまった人の他に、火の印を持つ人、通常武器を扱う人が三人いました」
 アレック達の頭上でまた竜の嘶きが響いた。
「僕、押印とかよくわかりませんけど、でもあの人たちの力はそんな大した力じゃなかったはずなんです」
「大した事ないはずが、暴走するとコレになるのか」
 辟易した面持ちでヴィルは頭上を見上げる。
「本当です。現にあの砂の人は砂に水が染み込んで変質しただけで操れなくなっていたし、爆発を起こした人だって、火力自体は大した事なくて単に、空洞を利用して小さな火花を起こす事で爆発を起こしていただけだと思うんです、エクスプロード弾と似た原理で―」
「結構な応用力だね、それは」
 また別の嫌な声が聞こえてきた。
「お前…!」
 今度は思わず必要以上に驚きを声に乗せてヴィルが振り返ると、半壊した建造物の屋根から飛び降りてきたエルリオの姿が飛び込んできた。その背中におぶられる形でミリアムも側にいた。
 谷の装束を身につけているアレックが、少女達にとって軍人だと認識されていないのは明白だった。
 街を一つ破壊しようという一大事を目の前にしながらも、トラブルメーカーが三人勢ぞろいしている光景はそれ以上の難問としてヴィルには映っていたのである。





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