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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師ACT9-1
ACT9:宿り木の選択

01

 世の中はなんて親切な人が多いのだろう!
 アレックはそんなすがすがしい気持ちと共に朝を迎えることが出来た。
 駅で途方に暮れていたアレックを見かねて駅職員がシュトル・セントラルへと車を飛ばしてくれたのである。おかげでアレックはホテルのベッドで眠る事ができたのだった。
 ちなみに途方にくれる数秒前、電話を叩ききった上司を内心で冷酷非道な鬼上官だと泣き言を零していた事は忘却の彼方に葬り去られている。
 アレックは翌朝、涼しげな水の音で目を覚ました。
 弾水性のある植物の繊維質を縫い合わせ、そこに水を流す事で空気を冷やす簡易な冷房装置が、シュトル・セントラルの居住空間には備わっている。これが存外、電動のクーラーと遜色なく涼しい。ただ、オフィスで用いるには水音が煩いために実用的ではないが、アレックにとっては逆に清々しい流水音が目覚めのBGMとなっている。
「良い天気だなあ」
 勢いよくカーテンを開けると、視界が白むほどに強い朝日が差し込んだ。それは光のせいだけではなく、白い建造物の壁や舗装の白砂を伴った白い世界がそうさせている。
 シュトル・セントラルは、乾いた石と砂の町だ。だが一方でこのシュトル・セントラルから車で一時間とかからない場所にある竜翼谷は、湿地と乾地が、狭範囲内に連立する峡谷の中に隣り合うように存在している。アレックにはそれが不思議でならない。
 何はともあれ、チェックアウトの時間が迫っている。急いで着替えをすまそうと鞄を広げたところで、昨日に谷で譲り受けた装束が目に止まった。
「スーツじゃ暑いだろうな…」
 通気性の良さそうな生地の手触りを指先で確かめる。国軍人たるもの、任務遂行中は諜報・隠密任務を除いて定められた制服着用が義務付けられている。イリオン少尉の軍用ジープに積まれていた予備のサファリスーツのジャケットは貰い受けていたが、それを今着用する気が起こらない。
「いいや」
 の一言で取捨選択を完了したアレックは、スーツを鞄の奥底に押し込んで、通気性の良さそうな装束を引っ張り出した。
「またのお越しをお待ちしております~」
 チェックアウトを済ませ宿屋の主人に見送られ、鞄を肩に担いだアレックは意気揚々と街の中心部に向けて歩き出した。
 石灰質を多く含んだ煉瓦や石畳が日の光を受けて眩い光を反射させるように、街全体が白く明るく輝いていた。空は青く、雲ひとつ無い空とはこの事で、青の中に四角に切り抜いたような建造物による白のシルエットとのコントラストが美しい。
 ここの人々の服装で特徴的なのが、刺繍が施されたケープやマント、リボンだ。セントラルでも見られるシャツやトラウザを身につける人々も増えているようだが、その上に彼らはこの地方独特の模様を縫い付けたケープを羽織ったり、腰にベルトがわりにストラップを巻きつけたり、女の子であればリボン、男の子であればバンドを頭に巻いている事で地域性を出している。
 アレックが身につけている服装もそれに近いもので、中に着ているシャツはセントラルでも購入できる白いシャツと変わりないが、その上に羽織った上着は薄いモスグリーン地に赤と濃緑と黒の交差模様の細い帯を肩から裾にかけて縫い付けてあるもので、更に腰を、黒字にオレンジと緑の交差模様が刺繍されている帯で縛る。袖や襟元の布地に余裕がある作りになっており、風が入りやすい。
「とはいえ…」
 人が多い場所、つまりは市か庁舎などの市街地の中央を構成する場所を求めて歩いていたものの、具体的に自分はここで何をするべきかアレックは考えた。とりあえず、列車事故の影響を窺うという意味でなら、この街が充分に不便な場所に位置しているという事は体感できた。
「そもそも、何でシュトル・セントラル駅がシュトル・セントラルの街からあんなに離れているんだか」
 しかも駅からシュトル・セントラルまでの交通手段がほとんどと言って良いほどに敷かれていないのだ。唯一、セントラルに支局を置く軍のバスによる定期便があるのだが、完全にシュトル・セントラル支局内の業務都合に沿っているためにアレックのような事態に陥ると、とんと役に立たない。
「市民から要望があればバス路線の一本ぐらい軍がすぐ作りそうなものだけどなぁ…」
 昨晩の悲しい思い出と同時によみがえったシールズ大佐の幻影を、アレックは急いで掻き消した。
「シュトルの局政官はなにやってんだよ、まったくー」
 局政官とは、軍の執政院が各地に据えている行政監察官の事であり、つまりは市長や区長といった肩書きの人間を差す。
 少し人通りが多くなったところでアレックは周囲を見渡した。セントラルに近付くほどに地域人種が様々に混在するが、ここを見渡す限りでは、時々見かける国軍シュトル局の巡回兵以外では、市民のほとんどがシュトル周辺の人間で構成されているようだ。シュトルの人々の多くが、アリタス国民に特徴的な肌色と比較して若干の褐色が浮かび上がった色をしている。髪の毛の色は金髪に近い茶褐色と臙脂色が多い。それと比較して、同じシュトル地区内に位置づけられている竜翼谷の人間とは特色が異なりすぎているのが面白い。
 シュトル地区は、各辺境地域の中で比較的セントラルと至近距離にありながら、未だに軍による再開発色が薄い地域の一つと言えた。局政官はシュトル土着の一勢力を担う部族の出であり、軍の支局も市街地の外れに、小隊と中隊を数個ずつのみを駐在させたごく小規模なものとなっている。軍の再開発の手が比較的入っていない地域の特徴はある程度パターン化されており、「独自の防衛能力」「独自の政治能力」を保持し、「内紛要素が希薄」な地域の場合、軍はその地における不足点を補う形の干渉に留まる。ただしそれは当然、国政の管轄下に属した上での話である。
「へ~、賑わってるんだ」
 天蓋が並ぶ通りに出くわして、アレックは感嘆の声を洩らした。市場通りとでも言おうか、真っ直ぐに伸びた幅広の道の両脇に並べられた品々は、白とベージュ色に包まれた世界に彩りを与えている。
 果物、野菜の他、鮮やかな色彩の織物や雑貨品も並ぶ。
「野菜や果物なんてどこで育ててるんだろう」
 乾いた街に相応しくない色とりどりの取り揃えにただ感心してアレックは露店の一つの前で足を止めていた。
「お兄さん、見かけない顔だけど、どこからきたんだね?」
 初老にさしかかった店番が気さくに声をかけてきた。振り返りざまに、果物を一つ放られてアレックは慌ててそれを受け止めた。瑞々しそうなプラムの実だった。
「やるよ、今日も暑いからね」
「わあ、ありがとうございます!」
 本心から嬉しそうなアレックに店主は満足そうに頷く。
「僕はセントラルから来たんです。」
 さっそく果物をかじりながらアレックは答えた。
「おや、じゃあそこのシュトル局の軍人さんかね」
「いいえ、セントラルから知り合いに会いにきていたんです。この服は貰いものなのですが、すごく気に入ってしまって」
 自分が「軍人」である事はぼかして答えたが、嘘はついていない。店主は別段と気にする様子もなく「ほほう、珍しい」と感心していた。
「その服、竜翼谷の装束だろう?俺も谷の人間なんだが、兄さんが見かけない顔だから少し気になってね。そうかそうか、谷の客人だったか」
 店主の自己紹介に、アレックは「おや」と思う。
「ご主人は、谷からやってきてここで商売してるんですか?」
「さすがに通いはできんからね。春から夏にかけては谷で作物作って、秋から冬にかけて、街に来てこうして商売させてもらうのさ」
「は~なるほど」
「粉物を作ってる連中は逆に、春から夏にかけて商売にやってくるのさ」
 瑞々しそうな品揃えを眺めてアレックは頷く。確かに谷の入り口から遠くに見えた濃緑地帯であれば、通常の農業や林業が行えそうだ。谷の人間による自給自足用のみではなく、組織的に商易が成り立っている事に感心する。
「結構、多いんですか?谷からここに来て商売されてる人って」
 食べかけのプラムを手にしたまま、アレックは通りを見渡してみる。午前中の市場は女性と年寄りを中心に賑わっており、子どもの姿もよく見られる。一見してアレックの目では、どの商人が谷の人間で、どれがそうでないのか、見分けがつかない。
「十数年前に戦争が終わってからしばらくは商売が盛んで、人の行き来が多かったのだが、最近はだいぶ減ってしまったなぁ」
 店主の声に若干の寂寥が漂う。アレックはまた軽く首をかしげた。
「そうだったんですか。それでも随分賑わっていますよね、すごいですね」
「谷の人間の行き来は減ったけど、代わりに最近は外からの商人が増えてね。むしろ全体的には増えてるんだ」
「あれ、そうなんですか」
 市場通りに来るまでにアレックが考えていた事が軽く覆される形となる。外部と太い繋がりを持たず、閉鎖的な地方市だと考えていた。
(交通網がないのにどっからきてんだろう?)
 不思議に思いながらもプラムをかじりながらアレックは、気さくな店主に別れを告げて市場巡りを続けた。
(移動民族でも通りかかってるのかな~)
 などと思いつつ市場の品揃えを見ていると、
「あ、すみません」
 背中が誰かにぶつかった。
 謝る為に振り返ろうとしたところで、背中の布地を強く掴まれて動きを止められた。前を向かされたままのアレックの背中に、何か硬い感触がした。
「…!」
「騒ぐなよ」
 耳元にささやかれた低い声と共に銃口。
 直感的に分かった。
 人の肩が触れ合うほどに込み合った通りの中央。背中いっぱいに銃口を向ける人間の気配が感じられる。周囲は気がついていないようで、人の流れが止まったり動いたりを続けている。
(でも、何で僕が?)
 恐怖よりも疑問が先に生まれた。
「そのまま左の方へ歩いていくんだ」
 低い声が命令する。
(うーん、強盗?まさか僕ご指名じゃないだろうし)
「いてっ」
 考えていると背中を銃口で小突かれた。ちょうど背骨に当たって小さな痛みが走る。とりあえず、声に従って歩き始める。
(僕ってそんなにスキだらけの旅行者に見えたのかなあ…)
 軍人として、多少プライドが傷つけられた気分になってアレックは溜息を洩らした。
「まっすぐ歩け」
 声は、市場に流れる人の流れに従った動きをアレックに求めている。どうやらこうして人波に紛れたままどこかへ連れ込もうという魂胆らしい。
(金目当てで旅行者を狙ってるってのなら、標的以外は無差別に殺したりしないよねきっと)
 そう思いついて直後、アレックは手にしていた食べかけのプラムを顔の横に持ってくると、思い切り握りつぶした。
「うっ!」
 酸を含んだ果汁がアレックの指の間から迸り、運良く背後の人間の目を晦ませた。しゃがみ込んで銃口から逃れ、アレックは背後の人影を突き飛ばすと人波に向けて走り出した。
「このヤロウ!」
 銃声が耳を掠っていった。流れ弾は道脇の天蓋の屋根に当たり、店主が声を上げて後ろに転がった。一斉に周囲からも悲鳴が上がる。
「ウソ、無差別っぽい??」
 思わず背後を振り返ると、男が一人、顔を乱暴に拭っている姿が見える。まともに目が合った。落ち窪んだ、鋭い視線が突き刺さってくる。小柄で痩せているが、蟷螂のように全身から鋭利な空気が滾っていた。
(逃げたら他の人に当たっちゃうよな)
 そう判断しアレックは腰に差していた軍の制式拳銃へ手を伸ばした。
 男が再びアレックに銃を向けるのと、アレックが銃を男に向けるのは同時の出来事だった。


 国軍シュトル局に勤務し、シュトル・セントラルの巡回任務にあたっている青年仕官がいた。彼の名はラファル。位は軍曹。竜翼谷の竜騎士隊出の青年だ。
 十三年前の大戦当時、彼は二十歳に満たない新米竜騎士であった。終戦後は国軍に仕官しシュトル局に勤務となり、谷からの召集がある日以外はこうしてシュトル・セントラルの巡回や警備を行っている。
 シュトル局勤務は彼の希望であり、三年前に精霊狩りが谷を襲って以来、彼は人が集まり易いシュトル・セントラルを自らの目で見張ることで谷への侵入者を防ぐ事を考えた。彼の他にもシュトル局には谷出身の仕官が数人いる。
 先日は駅付近で精霊狩りによる列車強盗が現われたという。終戦後は泰平が間延びしたかのように続いていたが、シュトル周辺はその限りではなかった。
「ラファルさん、休憩にしませんか。夜番でしたよね?」
 同僚が二人、中央道に沿って歩いていたラファルに声を掛けて来た。彼らはACC出身の士官学校出の仕官だ。ラファルより若いが、彼の功績については既知であり、位は同位ながら敬意を込めて接してくる。もっとも、ラファルが若い士官と同程度の位に甘んじているのは、谷との行き来にある程度融通が利くからである。
「そうするかな」
 背中のライフルを背負いなおしてラファルは空を見上げた。
 雲ひとつ無い青空。今日も、強い日差しがシュトルの街を白く輝かせている。
 日常の象徴であるはずの空模様に、この日、一発の銃声が木霊した。
「!?」
 同僚二人が弾かれるように振り向いた時には、すでにラファルは音の方向へと駆け出していた。顔を見合わせる人々の間をすり抜けて、ラファルは背中のライフルを手に構えて全力で駆け抜けた。音がした方向はだいたい推測できた。
「?」
 音の元に近づくうち、ラファルは表情を曇らせる。その場に留まる野次馬の数が増えているのだ。
(誰か死んだか…?)
 最悪の予感に突き動かされて野次馬を掻き分けると、人間と人間の隙間からその光景が見え始めた。
(谷の装束!)
 隙間から見え隠れしていたのは間違いなく、谷の人間がよく着用する衣服の模様と色だった。それを纏った若者と、シュトルの人間が着用する野良着を着た男が、銃を向け合って動きを止めていた。
 青年が手にしていた銃には見覚えがあった。
 軍の制式銃である。
(誰だあいつは)
 ラファルは疑問に思いながら、周囲にふと視線を巡らせた。
(えーっと、どうしようかなぁ僕)
 その時その青年は、銃を構えた姿勢のまま、呑気にそんな事を考えていた。
 谷の装束を着た青年、アレックの脳裏には先ほどから、不思議と恐怖よりも疑問符ばかりが浮かんでくる。パニックを起こさずにいられるのは、彼にとって幸運と言えた。
(こういう場合って、撃っちゃえばいいのかなぁ。でも撃ったら撃たれる?相手だって同じ事考えてるよねきっと。この人どうするつもりなんだろう)
 アレックが銃を向けている相手は、落ち窪んだ鋭い目を細めて、銃をこちらに向けたまま微動だにしない。焦っている様子は無く、尚更アレックはどうして良いか分からないでいる。
 この状態から既に数分が経過している。周囲にあつまる野次馬は増える一方で、余計に逃げられない状況になってきていた。
 そんな時、
「?」
 アレックの視の中で、男の口元が小さく笑ったのが見えた。
 背後に新たな殺気を感じた瞬間、
「危ない!」
 鋭い声が左側から飛んできたかと思うと、一際大きな銃声が至近距離から爆発した。
「わわっ!」
 思わず体を窄めてしゃがみ込む。野次馬の間から姿を現した国軍警察局の兵服を身につけた男が片手で発砲しながら駆け込んできた。アレックの真後ろで短い断末魔が炸裂し、足下に重たい音をたてて別の男が転がった。装いは一般市民だが、倒れた体の側にはナイフが落ちていた。
「あ、あのっうわあ」
 呆然とする間もなく男が左手でアレックにタックルを食らわしてきた。地面に転がったと同時に頭上を銃声がすり抜けていく。何か固い物に当たった音と共に、また周囲から悲鳴が複数上がった。
「どこの誰だかわからんが」
 アレックと共に地面に転がった男は立ち上がりざまに銃を前方に発砲した。「ぎゃっ」とカエルが潰れたような声と共に、アレックに銃を向けていた男が血を吹きながら空中に飛んだ。
「無闇にここでその装束を着るもんじゃない」
 一瞬で二人の強盗を撃ち殺した男、ラファルは、まだ周囲に銃を向けたまま立ち上がった。
「これ?ここで?あの…」
 銃を手にしたまま地面に座り込んだアレックは、呆然と男を見上げていた。だが、のんびりと座っても入られない事に気がつく。
「?」
 散り散りに逃げ去っていく野次馬達の間から、こちらに殺気を含んだ視線を向ける新たな人影に気がついたからだ。





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