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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師ACT8-12
12

 国内の多くのアパートがそうであるように、ミソラに案内されたアパートも、鍵のかかった共通玄関を潜るとすぐに短い階段があり、踊り場の両側に各室のドアが向かい合っている造りだった。
 ミソラの自宅は一階にあり、プレートには苗字の他に何も書かれておらず、中に入ってみると診療所は広めの一室をそのまま使った、医療施設とも言えない作りになっていた。
 狭いが清潔感があり消毒薬の匂いに包まれている空間の隅に、折り目のついた白いシーツが掛けられた幅広の寝台が置かれている。
 その上に、ミソラの手を借りて何とか傷に障らぬようにしてグレンを横たえた。意識の無い人間の体は、とても重たく感じられる。それは単に質量の問題ではなく、体温と脈が生々しい「命の重さ」を感じさせるのだ。
「悪い…俺、君の事があまり記憶になくて」
 棚の中を何やら探るミソラの背中に、グレンの血で汚れた自分の腕を拭いながらイルトが恐る恐る声をかける。
「あまり、というより、まったく、ですよね」
 そう言って振り返ったミソラの手にはハサミが握られていて、イルトは思わず後ずさる。診療室には天井の中央につるされている小さなシャンデリアの他、可動台や机の上に小さな卓上灯が置かれており、可動台上の灯りがミソラを不気味に照らしていた。
「気にしないで下さい。私、学校では本当に目立たない子でしたし」
(学校が同じだったのか)
 いかに自分が覚えていないのかが露見してしまう。申し訳ない気持ちでイルトは肩を落とした。
「接点もありませんでしたし。イルト君は目立つ人でしたからね。だから私が覚えていただけです」
 言いながらハサミを手にしたミソラはグレンの左腕の袖を切り刻み始めた。驚き、何か言いかけたイルトを遮るように、ハサミを動かしながらミソラは言葉をつなげる。
「ああ、応急手当の時はこうするのが素早くて良いんです」
 言い終わらないうち左腕の袖があらかた取り除かれ、最後に残った包帯代わりに縛り付けられていた布に手を伸ばした。
「………っ」
 つんと鼻先に錆臭が漂う。額の奥で強烈な痛みが差し込んでイルトは反射的にミソラから顔を背けた。
「大丈夫ですか?男の人って、女よりも血が苦手って本当なのですね」
 滴が落ちるほどに血に染まった布をグレンの腕から外して屑籠に放り込む。屠った家畜の内臓を捨てた時と似た音が耳に飛び込んできた。
「いや…この場合はそれと少し違って…」
「?」
 イルトの様子に少女無免許医は不思議そう顔で振り返る。
「弾は残っていないようなので、応急処置と消毒をしますね」
 「よろしいですか?」と血まみれになった手を平然とした面持ちで洗いながら、イルトの了承を得るためにミソラが振り返る。
「応急処置?」
 振り返って、ミソラの衣服染み付いた面積の広い赤い斑点に目を顰める。
「傷が深くて広いので、応急的に縫っておかないと、血も止まりにくいですし治りが遅くなってしまいます」
「縫う?君が?」
 無免許に加えて、イルトと同年代となれば医学校にも未就学であろう。考えているうちにミソラは「はい」と答えながら既に道具棚から出した針と消毒薬の瓶を手にしていた。
「医者志望ってだけで…その、なんだ、実務経験は無いんだろう?」
「では、やめますか?」
 質問に直接は答えず、ミソラはピンセットで糸を針に通し始める。
「このまま放置しておくと、さすがに失血量が致死的となります。ここでは輸血もできません。」
「…………」
 こんな決断をどうして十八を迎えたばかりの医療知識の無い青年が下せようか。糸を通し終わった針を手に、ミソラはイルトの答えを待った。両者から言葉が消えて、空調の緩やかなファンの音が徐々に耳につくようになる。
 一定の細かいリズムを刻む音に、不協音が割り込んできた。ドアをノックする音が三度。
「?」
 顔を上げるイルト。ミソラが針を置いて玄関に向かう間もなく、訪問者が診療室に姿を現した。黒髪の小さな少女だった。
「ミソラ先生、こんばんは。―あ」
 少女は水色のワンピースを着ており、肩が露出する袖から伸びる細い手には白い包帯が巻かれていた。両手に紙袋を抱えてミソラの元に走り寄ると、部屋の隅にいるイルトに気がついて足を止める。
「ごめんなさい、患者…さん?」
 続いて診療台上の人影にも気がついて、申し訳なさそうに会釈をする。血に驚いた様子はなく、純粋に心配そうに両眉を下げていた。
「はい。ごめんなさいね。でも明日の午前中ならまたいつでも大丈夫ですよ」
 誰にでも敬語なのか、ミソラはイルトと接する時と変わらぬ態度で少女に言葉を向けている。「これね」と少女は手にしていた紙袋を傍らの机上に置く。
「父さんが、傷を治してくれたお礼にってミソラ先生に。これだけ渡せれば良かったから、ここにおいておくね。それから、大先生にもありがとうって。」
 包帯を巻いた腕を「バイバイ」と振って少女は忙しなく出て行った。小さな足音が遠ざかっていく余韻が残る。
「「先生」って、あの子の傷とか、君が治したのか」
 イルトは机の上に置かれた袋を一瞥する。店で品物を包む時に使われる、どこにでもある茶色の紙袋だった。
「治していません」
「え?」
「治したのはあくまでも、あの子の力。私はそのお手伝いをしただけです」
 そう答えて、ミソラは再び針を持つ。
 淡々とした調子で己の美学を口にした少女の姿が、急に大人びて見え始める。
「だから、今もそのお手伝いをさせてもらえないかと、思っているのです」
 ミソラの視がグレンを見やった。
 これだけの事で、首を縦に振りたいと思う自分はやはり、言葉に踊らされやすいだけの人間なのだろうか。
「………」
 一度、静かに瞳を閉じて、また開く。寝台上のグレンに目をやり、それからミソラを見つめた。
「何で君を覚えてなかったんだろう俺…ごめん」
「え…」
 真っ直ぐに見つめてくるイルトの視に、ミソラは気圧されるように顔を引いた。
「頼む、お願いします」
 イルトの言葉を受けてミソラはただ「はい」と短く答えた。


「大丈夫ですか?イルト君のほうが貧血起こしそうですけど」
 そんな軽い皮肉に、乾いた笑いが返って来た。
 応急処置を終えたミソラは赤く汚れた布をシンクで洗い流している。血は水で洗い流す事でほとんど色落ちするが、相当量を吸い込んでいたのだろう、幾度と揉み解し続けても、布からにじみ流れ出る赤色が止まらない。
「父は明後日もどります。それまでここに留まってくれても私は一向に構いません。ここに泊まるのが問題であれば、二日後に来ていただければそれでいいです」
 淡々と流れ出る水の中で布を揉みながら右に視線をやると、寝台の側に置いた椅子に座るイルトの横顔が見えた。神妙な顔つきで、連れの顔を眺めている。寝台の上にいる男は、変わらず寝息一つ立てず静かに眠り込んでいる。麻酔を使わなかったにも関わらず、目を覚ます様子がなかった。だが今は、衣服とシーツを取り替えて体を温め始めているため、肌に色味が戻ってきていた。
「あ…ありがとう、でもそこまでしてもらうのは―」
「私の患者さんですから、最後まで責任をとりたいのです」
 すっかり医師の顔になっている少女の言葉にイルトはただ頷いた。どうするのが一番良いのかを考えていると、
「そういえばイルト君、学校にいた頃に石で頭を切りましたよね」
 とミソラが話題を変えた。一晩ゆっくり考えろ、という意味のようだ。
「そうだっけ?」
 今度は赤く汚れきったエプロンを脱ぐと、ミソラはそれもシンクに突っ込んだ。
「はい」という短い返事が水音にかき消される。
「こめかみの辺りを切って、顔中血まみれにしてみんな驚いていましたけど、当のイルト君は平気な顔していて。」
「あ~…そんな事もあったっけ」
 友人との悪ふざけの結果、倒れこんだ場所に運悪く石があり、額からこめかみにかけてを切った。
「なのにずいぶんと今は血を怖がるから、少しおかしくて。」
 エプロンを揉みながらミソラは小さく口元だけで笑った。イルトは照れが混在した苦笑を漏らし、指先を昔の傷跡があるこめかみに当てた。
「何ていうか、今回は少し特殊なケースで…」
「…??」
 イルトの言葉には違和感が残るが、質問を重ねるのは野暮に思えてミソラは話題を変える事とした。
「イルト君、今はどうしてるんですか?」
「今?」
 学校を卒業してから何をしているのか、という意味だと気がつきイルトは「ん~」と言葉を濁した。
「別に…村で農作業の手伝いしたり、かな」
「農作業、ですか」
 エプロンを洗う手を止めてミソラがグレンを見やる。農作業をしていて何がどうなったら今の状況になるのか、不思議がっているのはイルトにも感じられた。
「えっと―この人については、その、色々あって…」
「良いですよ、無理に誤魔化そうとしなくても。事情は聞きませんから。」
 ミソラの言葉に苦笑いしつつ、イルトは視線を周囲に逃がした。
 改めて眺めてみると、動物診療所だと言っていたが表に看板一つ無く、表札にも記されていたのは苗字のみ。訪ねて来た少女の言う「大先生」は父親であろう。だが寝台や治療台は全て人間用のもので、動物を入れるためのケージ等も一切見当たらない。
「ここって…本当に動物診…」
「なんですか」
「いえ、なんでもナイデス」
 ぴしゃりと言われて辺りを見渡すのを止めると、本棚の隣に置かれた机上に目が留まった。机の足元には、ミソラが背負っていた膨らんだリュックが無造作に置いてあり、机の上には広げられたノート、分厚い本が数冊、先程まで誰かが勉強していたのか、筆記用具が無造作に置かれていた。
 そして何故か、ノートの上にはまだ新しい緑葉が数枚、散らばっている。
「それは、薬草です」
 イルトの視線に気がつき、ミソラが先に答えを出す。もちろん、薬草園から「拝借」してきた薬草だとは口にしなかったが。
「これも、独学、なのか?」
「これまでは、そうですね。でも私は正規の医師免許が欲しいです。」
「どこか受験するのか?」
「はい。士官学校に」
「士官学校?」
 机から振り返るとミソラは、洗い終わったエプロンとシーツを部屋の隅に干していた。
「はい。士官学校には専門技術訓練カリキュラムがあって、ちゃんと資格も取らせてもらえるんです」
「そうなのか」
 無意識にイルトの視線はグレンを一瞥していた。
「士官学校は国からもお金が出ていますから、設備も最新ですし、入学金、授業料も安かったりするのです」
「やっぱりそうなんだ」
 学校を卒業する際に一連の書類を貰ったが、目を通さないまま放置していた事を思い出す。机の上を見ると、イルトが持っている士官学校から届いた紋章入りの封筒と同じものがあった。
「ただ、修了後は一定期間の士官が義務付けられているのですが。」
 それでも、多くの卒業生は退役する事なく国軍に骨をうずめる者が多いという。
「士官学校……国軍か…」
「イルト君は、進学しないんですか?」
 イルトが封筒を気にしている事に気付いたようで、ミソラも机の前に歩み寄ってくる。ブックエンドと辞書の間に立ててあった封筒を手に取り、イルトの前に置く。
「成績良かったですよね。推薦一番乗りだって、みんなで騒いでいたのを憶えています」
「そういえばそうだった気もする…な」
 あの頃、推薦がとれたと教師がイルトに報告に来たとき、同級生達が当のイルトを置き去りにして騒いでいたのを思い出す。グレリオ一帯では最も大きい学園ではあったが、それでも田舎町の学校から士官学校入学生を輩出するという事は一大事だった、らしい。
「士官学校に少しは興味があったけど…、自分が何をするべきかよく分かっていなかったし、学びたい事がよくわからなかったんだ」
 当時のイルトにはその価値がよく分かっていなかった。
「少しもったいないですね」
「君は志望理由がはっきりしているんだな。父親の影響?」
 少し苦笑を見せながらイルトは室内を見渡した。今は姿が見えない、この診療所の主人。訪れる患者が「大先生」と呼んで慕っているようだ。それなのに、看板一つ立てず、「動物診療所」を名乗っている点がやはりどうにも気になるが。
「そのようなものです。イルト君のお父さんは国軍人さんだと聞きましたが?」
「だけど大戦以降はほとんど村に帰ってこないまま死んだから、正直、軍人としての父さんはよく憶えていないんだ」
「そう、ですか」
 ミソラの平坦な声の中に後悔の微粒子が漂った。
「でも最近、といっても本当に急になんだけど、この先の事について考る機会があって」
 封筒に描かれている国軍紋章を見つめる。三つの獣を抽象化したという、一言では形態を説明し辛い模様だ。国軍紋章の三獣とは、一つは権力の象徴たる獅子、一つは知の象徴たる梟、一つは力の象徴たる竜を言う。
「父さんの事、父さんのしてきた事について、自分が受け継ぐ事について―、と考えるうちに、グレリオについて、この国について、外の国について、自分の知らない所に広がる世界について…っていう風にどんどん考えが膨らんで…」
 イルトと向かい合う位置の椅子に腰掛けたミソラが、数度頷いていた。抽象的なイルトの言葉の中にある詳細をミソラが知る由もないが、
「分かる、気がします」
 枝葉が増えていくばかりの気持ちの膨張、その苦しさは理解できた。
「そういう物が、もしかしたら自分も見られるんじゃないかって。少なくとも、グレリオにい続けたら見られないものが多すぎる、というのは分かるんだけど」
 また無意識に、イルトの視はグレンを見やっていた。つられてミソラの視線もそれを追う。
「でも、それでいいのだと思います。」
「ん?」
 振り向いたイルトと、ミソラの視線がかち合った。
「最初から明確な目標を持っている必要はないのだと思います。イルト君が言う通り、人が知る事ができる量には限界があって、見ることができる世界にも限界がありますよね。」
だからこそ、まずは知ってみる事、見てみる事、その上で己の意思を確立させればいい。
「好機は自ら作り出す物とよく言いますが、私は与えられた好機を最大限に活用してみるのも大事だと思うのです。その好機はきっと、何かしらの意味があって、自分に与えられているのですから」
「与えられる意味…」
「そう、私は思います。」
 少女の淡々とした声や態度の中に通っている、熱くまっすぐな芯。それは、グレンにも感じていた、根底にある揺るぎ無い自信。今の自分には無いものだ。
「汚れたので、流してきますね」
 会話が途切れたところで、ミソラが席を立った。体を洗い流してくるという意味のようだ。部屋の隅干してあるシーツやエプロンは、嘘のように白くなっているが、露出していたミソラの腕には赤黒く血液がこびり付いていた。
「台所はそっち、お手洗いはこっちの奥ですので、ご自由にどうぞ」
 淡々と言い残してミソラは足早に浴室へと消えて行った。
「あ、ど、どうも」
 落ち着きなく声が上ずってしまい、イルトは無意味に視線を本棚に逃がした。
「くくっ…」
「!!」
 傍らの寝台から笑い声が漏れてきた。壊れた玩具のように振り返ったイルトは、寝台で眠っていたはずの人間が口元に手をあてて笑いを堪えているのを見た。
「あんたいつから…!」
「ついさきほど」
 会話のどの辺りから聞かれていたのだろうとイルトが訝しがる視線を寝台に向ける。グレンは小さく笑いながら、無事な右手で体を起こした。途中で僅かに顔をしかめたが、イルトの手を借りずに動かない左手を使わず巧く上半身を起こす事ができた。
「寝てた方が良い、と思うんだけど」
「左腕以外は何ともないよ」
「えーっと」
 ミソラに言われた事を一言ずつ思い出す。
「出血と濡れたせいで、体温が下がりすぎてたんだって言ってた」
 それを聞いてグレンは初めて、今自分が身につけている服が変わっている事に気がつく。くすんだ水色の、前開きのシャツだった。その下に肌着代わりだろうか、これも前開きの白いシャツが重ねて着せられていた。下半身を覆う白いシーツは二枚重ねられており、その上に更に黒と白の格子模様が目立つブランケットが掛けられていた。枕元を見ると、敷布の上にもブランケットが敷かれており、それらが自分の体温を上げるための処置だと気付く。
「彼女は中々の名医だ」
 包帯が巻かれた左腕を静かに撫でながら、グレンは左手の指を少しずつ動かしていた。神経がやられていない事を確かめているのだ。
「独学だって、言ってた」
「そのようだね」
 どうやら、治療が終了した辺りで既に意識があったらしい。イルトはその頃まで記憶を遡らせて、懸命にミソラとの会話を思い出していた。また笑われるネタとなる事を口走っていないだろうかと、変な汗が出そうになる。
「君は…」
 視線を左腕に向けたままのグレンから声が掛かった。
「うん?」
「士官学校に興味があるのかい?」
 声調と視線はそのままに、グレンの言葉が質問に繋がる。イルトはすぐには答えずに、視線を寝台からそらして、組んでいた足を解いた。反らした視界の隅で、グレンがこちらを向いたのが分かったが、イルトは視線を戻さなかった。
「朝になったら俺、村に戻る」
「それがいい」
 グレンは答えに満足したような頷きを見せたが、
「それで、二日後にまたここに戻る」
「え?」
 二度目の答えに、ちくりと、何か小さな痛みが体に刺さった時のようにグレンが目を細めた。
「聞いていたと思うけど、明後日に戻る彼女の父親にちゃんとした治療を受けて欲しいんだ。折角だから、ちゃんと治して欲しい。」
 グレンが「それなら君が戻って来る必要はない」と言うであろう事はイルトにも分かる。だからすかさず、口を開きかけたグレンよりも先にイルトは「まだ、」と滑り込んだ。
「どうなるか分からない。もう少しだけ考えたい。二日の内に結論を出す。村の皆や、それからあんたにも、ちゃんと話したいんだ。俺は話をする為に戻る。だからちゃんと聞いて欲しい」
 相槌がわりに呟いて、グレンもイルトから視線を外した。
「君は私に、その結論に対してどうして欲しい?」
「別に」
 短く答えたイルトが、グレンを一瞥した。
「後はあんた思うようにすればいい。俺も、俺が思うようにするから」
「そう、か」
「分かった」と了承が戻ってきた。グレンが安堵しているのか不満なのか、イルトに窺う事が出来ないが、声音は静かだと感じられた。
「…………あ」
 考え込むように目を伏せていたグレンが、唐突に顔を上げてイルトを振り返った。
「ところでマクダムさんはどうしたんだ?」
「え?―あ!」

 その頃話題のお人好し商人は、しくしく泣きながら町の入り口に止めた車の中で毛布を被って寝ていた。翌早朝に庁舎職員に駐車違反を咎められて起こされた時、彼は全身を寝違えて、数日間、商売に響いたとか響かなかったとか。
 それはいずれイルトがマクダム本人から直接聞くことになる。




ACT9「宿り木の選択」⇒
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