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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT2-1
ACT2:銀髪の少女

01

 三年前に起こった、住人が全員死亡したという悲劇のアパートメント爆発事件。
 父ワイヴァンは死の直前に「まさか」という言葉を残している。
 考えすぎかもしれない、だがその言葉が始終、エルリオの脳裏から離れないでいた。喉に詰まった異物のような感覚が残り続ける。
 あのアパートに踏み込んだ人間が、アリタス国軍人である事に間違いは無かった。街中で見覚えのある武装服が、煙の充満した廊下でも確認できた。
 軍の報道によれば、あの惨状は止むを得ない判断の結果だという。数年前よりACC内外にて幾度とテロ事件を起こしていた武装グループが、アパートメントの一室に潜伏していた。軍が調査に踏み込んだ際に銃撃戦となり、潜んでいたテロリスト戦闘員は皆殺しに出来たものの、巻き込まれた住民は全員死亡。アパートは最終的に地下に仕掛けられた爆発物により全壊、炎上。寝静まっていた住人の多くは銃撃戦の最中に射殺、もしくは吹き飛ばされて爆死した。死体はほぼ判別できない状態。

 エルリオが生き残ったのは偶然の奇跡と言って良かった。覆いかぶさった父親の遺体が、瓦解した建材から彼女の体を守り、なおかつ侵入者からカモフラージュの役目を果たしてくれた。あの後、正面は危険と判断してエルリオは一度部屋に戻り、裏通りに面していた風呂場から外に出ようと試みた。その瞬間に、アパート全体が爆風により瓦解。エルリオの体は吹き飛ばされたが、それが幸いして侵入者からも、アパートの炎上からも、逃れる事が出来たのだった。
「………やめやめ」
 追憶に支配されかけた頭を強く振って、エルリオは顔を上げた。
「キュー、市場に行こう」
 転がった椅子の配置を直し、エルリオは鏡の前に向かった。
 部屋の隅、唯一ある窓の隣に設置された鏡は、縦に長い全身鏡だ。父の姿を借りて仕事をした後、エルリオは必ず鏡に向かう。変化の押印を長く使う事はできない。押印による精神力、体力の消耗も勿論の事だが、己が何者なのかという認識が、曖昧になる危険性も伴うからだ。こうして鏡に向かい己を確認する事で、エルリオは己の精神防衛を図っている。
 薄暗い部屋の中、薄汚れた鏡の向こうにいる少女の姿。
 父親よりブラウン色が濃い髪の毛は、顔の両側で低い位置に結わえられている。毛先が小動物の尻尾のように、歩くたびに肩先で柔らかく揺れる。大きくはないが丸い両目は硝子球のようで、光を受けるとこれもまた小動物の瞳のように物憂げに見える。
 クリーム色のシャツの細い肩の上に、エルリオの体を伝ってきたキューが飛び乗った。
 これが、三年前から続いてきた「いつもの私」。

 肩にキューを乗せたまま、エルリオはアパートメントを後にした。JN通りの石畳は、いつも雨が降った後のように黒く湿っている。石を選びながら踏み越えて、一人と一匹は市場通りへと向かう。
 ACCで最も大きな市場は、ハート・オブ・アリタスと呼ばれるACCの中心部にあるロータリー通りの外周に沿って、早朝から夕方近くまで露天が開かれている。十三年前に終息したばかりの戦の最中でも、一日たりとも閉じる事が無かったという。
 国土や人口規模に拠らずアリタスが保有する軍事力は強固であり、強国に囲まれた地理的不利を抱えた小国ながらも、軍需が経済の潤滑油として機能し着実なる発展の途にいた。
 発展の象徴の一つである、首都内を結ぶ緻密な交通網。エルリオはトラム(路面電車)を数度乗り換え、徒歩で寂れた裏通りを潜り抜けつつ、ハート・オブ・アリタスを目指す。
「次は、ACC中央駅(セントラル・ステーション)」
 最後に、全ての交通網が必ず交わるACCの中央駅で降りて、エルリオはそこから徒歩で市場を目指した。同じように市場に向かう人波がまばらな列を成しているが、道幅が広いためにあまり苦にはならなかった。
 ハート・オブ・アリタスを中心に八方に伸びるメインストリートは、巨大な軍用車が隊列を成して進行できる事を想定して作られているという。いくつもの小路や裏通りによって八本の大通りは網の目のようにして結ばれており、上空から見ると複雑な蜘蛛の巣に見えるらしい。
 さすがに国の中心地に近づいてくると、裏通りを歩いていても浮浪者の姿は無い。中央に近づくにつれ、警察局の警備が多くなるからだ。だからエルリオのような少女が一人で街を歩いていても、何の問題もない。
(JN通りとは大違い)
 綺麗に掃除された石畳を見るたび、エルリオは溜息をつく。
家の無いもの、職の無いものは外へ向かって逃れていく傾向にある。エルリオが住むJN通りやその周辺まで来ると、屋根がついているアパートメント共通玄関が、宿無しの寝宿と化している時もあるのだ。
「ん…?」
 通りと通りを結ぶ小路を通り過ぎた瞬間、エルリオは視野の隅を通り過ぎていく灰色の影を見た。反射的に足を止めて振り返る。
「とと」
 肩の上のキューが振り落とされそうになりエルリオのおさげ髪を掴んだ。
「どうした?」
 エルリオの視線を追ったキューのプラスチックの瞳にも、小路の奥へと移動していく影が映る。建物の暗がりを選びながらかけていくその人影は、灰色のショールかコートをすっぽりと頭から被っているようだった。小柄で、さもすれば、エルリオと変わらぬ体型。
 まるで逃げるようにして、入り組んだ路地へと姿を消してしまった。
 二人の瞳がその影を観止めたのはほんの一瞬。
「ストリートチルドレンの類かな」
「この辺りでは珍しい」
「うん……」
 気に留めたものの、特に後を追う理由もなく、エルリオは「まあいいや」と踵を返した。
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