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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT8-10
10

「中和―毒を中和させるという治癒系統の高等印なら存在しているみたいだ」
 キューの出した回答にエルリオは首をかしげた。
「ちょっと…違う気がする」
 真夜中。
 眠りそびれたエルリオは、与えられた寝室からキューを伴い外に抜け出していた。東を向く高台の岩場に腰掛け、一連の事象から思いつくキーワードを次々とキューに問いかけてはその答えを聞く、そんな事を繰り返していた。
「酸が中和されるってどういう事なのかな」
「天変地異で水質が変わる事象は幾らでも例があるね。でも震動からわずか数分で酸が完全に中和された現象は知らないな」
 覚えさせた記憶量が足りないのか、一般常識的に異常事であるのか分かりかねるが、キューから関連性のある情報はこれまでのところ、引き出せていない。
「精霊の力が弱まった現象と、関連性があると思う?」
 ヴィルが言っていた風を呼び出した瞬間の違和感、竜王の言う風の迷走。効力が失われたという意味において、澱の現象と似ている気がしないでもない。

―それは、とても恐ろしい力を持った印で、軍には渡してはならないと私もグレンに言われました。軍部内の押印技術でそれが実用化されようものなら―世界はおしまいだと―

 ミリアムと出会った日に聞いた言葉が甦る。
「世界はおしまい…世界を破滅に導く…って事よねきっと」
 自らが連想した「破滅」という言葉から、何かしらの破壊力を持つ印」なのだと解釈していた。だが少し考えを変えてみる。
「中和―打ち消しあうこと、解消しあうこと、つまり「無」とすること?」
 無へと帰す破滅。
 あの印が持つ能力が例えば、あらゆる事象を無へと帰化させる力を持っているとしたら辻褄は合わないだろうか。
「でも、風はまた元に戻っているよ」
「そうなんだよね~」
 一瞬思いついた名案も、キューの言葉で簡単に覆されてしまう。腹いせに膝にのせた白い体を強く抱きしめて潰してやった。
「でも「澱」は酸性を失ったままなんだよね。あれも時間が経てばまた元に戻るのかしら。」
 それに、まだ不合点な事が多く残っている。
 なぜ大地は移動したのか。
 ミリアムがあの印にどう関わるのか。
 消え掛けた印は今回の件と関係しているのか。
 第二の人格リューシェとは。
「リューシェ…」
 本名次第ではライザの人間でも有り得るが、アリタスの人間の可能性も含んでいる愛称。
「それにしてもあの高慢ちきぶりは何なの」
 思い出すと湯が沸騰してくるように苛立たしさが膨れ上がってくる。谷の絶壁の頂上から見下ろされている気分だった。
「もー、普段のミリアムがミリアムなだけに余計に高飛車ぶりが腹たつ!」
「無礼ね」
「そう、無礼!…………」
 背中に投げかけられた言葉に、ほぼ反射的に思い切り同意してから、エルリオは脊髄を冷たい水が走っていくような感覚に襲われた。
「あ、あんた…」
 肩越しに振り返ると予測どおり、そこには熟睡していたはずのミリアムの姿があった。ただし、両腕を組んでエルリオを見下ろす姿は、明らかに別人格のリューシェ。寝巻きの上に、コートを羽織っていた。
「あんたに訊きたい事がたくさんあるんだけど」
 腰掛けていた岩から飛び降り、エルリオはリューシェと向き直った。威圧的な相手と対等にやり合うにはまず姿勢から、だ。だが強敵は「ふふん」と口元に鈴のような失笑と共にエルリオの気概を撥ね退けた。
「その前にその言葉遣いを直してくるのね」
「む…っ」
(腹たつぅうう!)
 ここで言葉を失っては相手の思うツボだと、エルリオは負けじと問いをぶつけた。
「あんた一体、誰?」
「名乗ったじゃないの。もう忘れたの?鶏以下の子ね、あなた」
「トリ…っ」
 怒鳴りつけたい気持ちを抑えてエルリオは、声のトーンをできるだけ落として質問を変えた。
「~~~……ミリアムとあんたは、「具体的に」どういう関係、なの?」
 また鶏呼ばわりされないよう、エルリオは先手を打つ。だがそれも、
「あなたに答える義務はないわ」
 と即答されてしまう。
「ある、あるの!」
 すかさず食いつくエルリオに、リューシェは大きな両瞳を僅かに瞠目させた。
「私、ミリアムから依頼を受けているの。その時にミリアムと約束した。「何でも協力する」って彼女は言った。だからその体の中にあんたがいる以上、「ミリアムとして」約束を守ってもらいます!だから私の質問にも答える義務があるの!」
 かなり強引な論法だが、エルリオにとってこれ以上ない切り札だった。
「……っふ」
 両腕を組んだ姿勢のままリューシェは顰めた瞳を更に細めて、呆れた風に苦笑する。
「それはつまり、ビジネスの関係にあるという事なのね?」
「え?」
「なら、契約書はあるの?」
 組んでいた手を腰にうつしてリューシェは首をかしげた。子どもがよくみせる仕草のそれではなく、高みから人を見下ろす時にする、僅かに顎を突き出した形だ。
「契約書なんて……無いよ…それにビジネスなんて…」
「なら、お話にならないわね。私どころか、この子にだってあなたに協力する義務なんてないわ」
「この子」と言う時にリューシェは右手を己の胸元に当てた。それはつまりミリアムを指している。
「…っ」
 エルリオは再び、己の脳裏で糸がぶつ切れる音を聞いた気がした。
「友達に契約書なんていらないじゃない!」
 発作的に、手にしていたキューをリューシェに投げつけていた。白くて丸いぬいぐるみは不規則に回って勢いを失い、弱々しくリューシェの手元に落ちていった。
「……」
 リューシェの手の中で、キューは静かだった。まだ「縫いぐるみ」の振りを続けているらしい。ミリアムの姿をした少女は静かな瞳で白い縫いぐるみを見下ろしている。指先で耳を引っ張ったり、大きく開いた口に指を入れて玩んでいる。そうしている内に、口元から「ふふ」と小さな笑みがこぼれた。
「そうね…」
 何故だかそれが嬉しそうに聞こえて、エルリオは怒りが空転する。
「私の事を話す前に、確認しなければならない事があるの」
 キューを抱き直してリューシェはエルリオを真っ直ぐに見つめた。これまでの高飛車を着飾った気配が消えている。だが凛とした声はそのままに、まっすぐ伸びた姿勢と体の奥底まで見据えてくるような視線は逆にエルリオに与える畏怖を増していた。
「な、なに…?」
 反論が許されない気がしてエルリオはリューシェの問いを待った。
「この子が気を許しているのなら、本当なのでしょう」
「…?」
「ワイヴァン・グレンデールがあなたのお父様だと言ったわね」
「そう…だけど」
 他人の口から父親の名前が出ると、何故だかエルリオは体がこわばった。
「でも、「グレン」と聞いて、誰の事かわからないのね?」
「うん……」
「地面に描かれたあの印、あれについても分からないのね?」
「うん…」
「あなたお父様から何も?」
―知らされていないのか?
 ヴィルも、そう言っていた。
 それに対してエルリオは、頷くしかできない。
 いつかのミリアムのように。
「そうなの」
 ミリアムの姿をしたリューシェは鸚鵡返しのように頷き返した。
「なら、私も…今は何も言えないわ」
と一歩ずつエルリオから踵を返し背中を向けた。
「待…どういう事!?」
 ずっと真実を得る為に動いてきた。否定を簡単に受け入れるわけにはいかない。自分と同じ小さな背中に手を伸ばして追いすがろうとする。
 なんで、
「何でみんな何も教えてくれないの」
 その言葉にリューシェが足を止めた。
「私も、ミリアムも、自分だけ何も知らなくて、私達が知らない事を隠している周りだけが勝手に動いて私達を引きずりまわしてる…人は、」
 息がつまり、エルリオは一度そこで言葉をきって呼吸を挟んだ。
「人は自ら思う心と、考える頭を与えられている。それはつまり、人が、自分が望む事が何かを考える権利が与えられているという事だ―」
 ミリアムから聞いた言葉を引用する。聞き覚えがあったようで、リューシェにも反応が見られた。肩越しに、僅かに首をこちらにもたげている。
「これ、グレンって人が言った言葉なんでしょう?それって知る権利、選ぶ権利があるって事じゃないの?」
「……少し違うわ」
 ミリアムの銀色の瞳が月光を受けてくすんだ輝きを放っていた。エルリオの視はそこから離れなくなる。
「確かに人は知る事も選ぶ事もできるわね。でも、それは自ら思い考える事で知り、その上で選ぶのよ。事実も選択肢も誰かから与えられるものではないわ。グレンの言葉はそういう意味よ」
「………でも…」
「あなたのお父様は、あなたに何も知らせないという選択肢を選んだのだわ。でもそれに従うかどうかはあなたの自由。だからこうして旅をしているのでしょう?もうあなたは自分で考え、選んでいる。知る事で事実を得ようという道を。」
 煌々と光のベールを谷に落とす月が、ミリアムのシルエットを薄闇の中に浮かび上がらせている。エルリオの足元から伸びる影が、差し伸ばされる手のようにミリアムに向かっている。
「糸はすべて繋がっているわ」
 リューシェの言葉が続く。これも、ミリアムから聞いた引用だった。
「私が目覚め、こうしてあなたと会話をしている事もきっと、糸の一部かもしれないわよ」
「繋がってる…本当に?」
 膝の横に添えたエルリオの両手は知らぬうちに固く握り締められていた。腕を通じて体中の神経と筋肉までこわばったように直立している様子にリューシェは苦笑を向け、そしてまた踵を返した方向に歩き出した。
「ごきげんよう。私は少し眠るわ」
 沈黙したままのエルリオを置いて、リューシェは両手にキューを抱えたまま、二人にあてがわれた寝宿へと歩いていった。ふわりふわりと、黒く染めた柔らかい髪が足取りと共に踊っているのが遠ざかる。
「……―あ」
 建物の影にミリアムの姿が消えるまで呆然と見送っていたエルリオだが、ふとキューを持っていかれた事に気がついて我に返った。
「アイツいつまで縫いぐるみのフリしてるのよ…」
 後を追ってエルリオも宿へと入る。リューシェが姿を消していった寝室へと足を踏み入れると、寝息が耳に入ってきた。エルリオが抜け出してきた時に見せていたのと同じ、あどけない寝顔でベッドに沈み込んでいるミリアムの姿がある。キューを抱き枕がわりに腕に収めて穏やかな寝息を奏でていた。もう今は、リューシェではない。
「…エル」
 白い腕の間から、助けを求めるような小さな声が聞こえてきたが、引き剥がしてミリアムを起こしてしまうのも気の毒に思えてエルリオはキューをそのままに自分もベッドによじ登った。
 ヴィルが用意してくれた部屋は、高台にたつ離れの一室だった。元々は見張り役の仮眠所とされていたのだが、しばらく特別に使わせてもらう事になった。西側は岩壁に面しているため、窓の外は灰色の景色だが、東側の窓からは谷が一望できる。緑と水色に覆われた地平が緩やかなカーブを描き、常に靄がかかって境界線を曖昧にしている。きっと朝になれば陽光を眺める事ができるのだろう。
「もう、このまま起きてようかな。」
 まだ仄暗い窓の外をベッドから眺めながら呟いた。
「日の出は五時半だよ」
 ミリアムの方からキューの声がする。壁の時計を見ると、まだ三時間以上ある。眠くはないが、ブランケットの上に大の字になった。
「ん…」
 開けた窓から入り込んだ小さな蚊が足下を飛びまわっている。脛のあたりに着地した感触がしてエルリオは上半身を起こし、「もうっ」と脛を叩く。蚊は再び窓から飛び立っていった。それを目で追っているうち、
「……印…」
 頭に曖昧模糊としたイメージが浮かび上がりエルリオはベッドの上を這ってミリアムの元に移動した。下の方からブランケットからはみ出ている脛を覗き込む。
 治癒しかけた痣のように、もう形をとどめていない印の残骸が、白く細い足に染みを作っていた。完全に消えてしまうのも時間の問題のように思える。
「もしかして…」
 思い立ってエルリオはベッドから飛び降りた。足下に置いてあった鞄からノートとペンを探り当てる。窓際に移動して、僅かな月明かりの下で白紙のページを開いた。
「確か、こう」
 初めて会ったあの日、ミリアムの脛にある印をスケッチさせてもらった事を思い出しながら、その時に描いた物を同じものをノートに描き出す。歴史ある帝国の皇族血族の人間が受け継ぐ印にしては、酷く抽象的であった印の模様。
「あの時すでに、印が薄れ掛けていたとしたら…それともこれは、押印…?押印が薄れてきたものなんじゃ」
 一般的に、印の力の大きさは、時間に比例する。高等印の多くが古来より存在する原始に近い印であり、また、低~中級印の多くは時間の経過と共に高等印から派生した物が多く、したがって力が分散されて威力も落ちる傾向にある。
 押印師が扱いやすいとされる低~中級の印は、単純な模様である場合が多いのだ。
 改めてノートを見つめる。勾玉に似た輪郭の上に、改めて太い線を重ねてみる。点と線で勾玉を描き分けてみると、二重円と三角の組み合わせにもなるし、長方形と円と三角形の組み合わせにもならないだろうか。思いつく限りのパターンをノートいっぱいに描き、エルリオはミリアムの両腕からキューを引っ張り出した。
「うーん…」
「―ほっ……と、こっちこっち」
 起こしてしまうかと思いきや、ミリアムは寝返りを打ち再び寝息を立て始める。安堵の溜息をする間も惜しんでキューを開いたノートの前に置いた。
「ここにある図形パターンに似た印って、何があったかな」
「最近人使いが荒いよ」
 ノートの上で動かしにくい体を移動させながらキューが呟く。
「私は何でもかんでも頭に入ってくるような天才じゃないの」
 頬を膨らませるエルリオの声を背に、キューがノートの上の図形をなめるようにプラスチックの目を這わせ始めた。
「これ、」
 僅か一秒で答えが出る。
「僕のと同じだ」
「え?」
 ノートから外された無機質の視線がエルリオを向く。エルリオは窓枠の隅まで転がっていたペンを拾ってキューに持たせた。ノートをめくり白紙ページを開くと、おもむろにキューは全身を駆使し、ペンで模様を描き始めた。
 二重円の下部に下方を向いた三角形が繋がっており、円の中は螺旋が、三角の中には縦波が描かれている。
「記憶を司る系列の印の中でも上位に位置する「記憶封解の印」。」
 キューの背中、内部に縫い付けられている印と同じものだった。
「どういうこと…」
 思わずノートを引ったくると、キューが膝の上へ転がり落ちてきた。エルリオはかまわず紙面に顔を近づけて、キューが描いた印を凝視した。徐々にノートを近づけて、焦点をぼやかすと、じんわりと水に濡れたように印の模様がぼやけて広がった。
「……んー…」
 ミリアムの足で拡散しつつある印の状態と同様に見えなくもないが、確証は持てなかった。第一、もしエルリオの推測が正しいのならば、何故彼女の足にそのような印があり、また押印であるなら誰の手によるものなのか、いつ付けられたものなのか、不明な点ばかりが浮かび上がる。
「キューの印はお父さんが着けたもの…だとするとミリアムの印がキューのものと同じなら、それもお父さんが…?」
 それならワイヴァンはいつミリアムに会ったのだろう。単純に考えて、同じアパートにいたのだから、その時だろう。それにしたって同じアパートにミリアムほどの美貌の子がいればエルリオとて気付かぬ筈はないのだが。
(でもミリアムは、押印されたなんて話は一言も―これはライザの血族に受け継がれるものだって言っていた。信じていた。)
「ミリアムが嘘をついていたの?」
 否。エルリオは自分の言葉に自分で首を横に振った。
 父親を亡くして独りで暮らすようになってから、エルリオは人の顔色を読むのが得意になっていた。ミリアムのような力がなくとも、目を見ていれば、その人間が真実を口にしているのか嘘を口にしているのか、何を含んでいるのか、大抵は読み取れた。特に押印にやってくる客は危険だった。命と財産を守るために必要な事だった処世術だ。
 だから、分かる。ミリアムが言葉と共に人に向ける視には、曇りが無い。
何も知らないからこそ、白いままの心。
「記憶封解の印…リブロの弟子、フーミの印…」
 ノートにキューが描いた記憶の印を、穴が開くほどに見つめる。リブロとは創世神話に登場する知を司る神の名で、アリタスでは幼い子に本をよく読むよう躾ける際によくその名を出す。記憶の操作に関わる精霊は全てこのリブロの弟子と神話で伝えられていた。フーミとはリブロの弟子の一人である記憶の精霊の一人。そのフーミを象徴するのが、記憶封解の印」と呼ばれる精霊印だ。
「『イタズラ賢者フーミ』」
 キューが呟いたのは、エルリオが所持していた童話の一冊。
知の神リブロの弟子、フーミは優秀だが少し変わっていて悪戯好き。人間界に降りては、物忘れを起こさせたり、記憶を取り替えたり、作り変えては困らせて楽しんでいる。特に狙われるのは、本や勉強を嫌って遊んでばかりの悪い子供で―、というもの。
思わず懐かしさにエルリオは笑みを零した。
がー、壁で仕切られたようにその笑みが止まった。
「物忘れを起こさせたり、記憶を作り変えたり、取り替える…」
 口走ってから、苦笑する。
「まさか…ね…そんな事が」
 突飛な思いつきが我ながら可笑しかった。だが一部で辻褄は合うのではないかと思う自分もいる。
 あまりに記憶が断片的すぎるミリアム、そしてもう一つの人格。二つの人格は互いに記憶を共有していない。
(あの印がリューシェを抑え込んでいたとしたら?)
 脛の印が消えかけた事に気付いた直後に表出したリューシェ。タイミングを考えれば、地震を起こしミリアムが不可解な反応をみせた「鍵」の印が脛の印の効力を弱めたと考えてもおかしくない。
「―そもそも「世界はおしまい」なんてレベルの印は一体どこから…」
 ミリアムが「グレン」という人間から託されたという謎の印。
 今エルリオの中にわだかまっている全ての謎に、この「グレン」という人間が関わっている。父は無く、リューシェが何も語らないとすれば、今はヴィル意外にエルリオにとって情報を得られる人間がこの「グレン」しか残っていない。だがその数少ない手がかりも、生死が分からないのだ。
謎が一つ解明すると、また次の謎が立ちふさがってくる。
「本当に全部…繋がってるの…?お父さん」
 ノートを閉じて、エルリオは窓の外を眺めた。
視界に入りきらない望遠の世界が広がっている。
 セントラルにいた頃、目の前に見えていたのは細く長い一本道だった。道の先は薄暗く、重たい闇がかかっていた。
 ミリアムとであった事で道幅が急に開けて、景色が広がった。
 そして今は、道は幾本もの枝にわかれ、更にあらぬ方向から伸びてくる別の道とも交わり、複雑に螺旋や十字や格子を描いている。
「教えてくれないと、ますます知りたくなるよね、キュー」
 膝の上のキューは無言でプラスチックの瞳をエルリオに向けていた。
「世界って、もっともっと広そう」
 幼い頃に歌った唱歌に、そんな歌詞があったけなと思いつつ、
 エルリオは急に押し寄せてきた眠気と共に、ミリアムの足下に重なるようにベッドに沈み込んだ。



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