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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師ACT8-1
ACT8「運命の依り拠」

01

「イルトのぼっちゃん、遅いなあ…」
 約束の時刻になってもイルトが現われない。
 村とグレリオ・セントラルとを行き来する行商人の男、マクダムは、市街地へと続く門の傍らにとめた車の前で背伸びをした。
 門の前に敷かれたロータリーの中央に立つ時計塔を見る。定刻はとうに過ぎていた。街から村へと帰っていく人並みや車の列がロータリーを抜けて外へと流れて行くのを眺めながらマクダムは溜息をつく。
「何かあったんだろうか…長に示しがつかないぞ…困ったな…あれ?」
 弱音を吐き出したところで異変に気がついた。外からロータリーに向けて物々しい車が視界に飛び込んできた。ほぼ同時にロータリー側からは庁舎所属の警備局の制服を身につけた男達が駆け寄ってくる。
「国軍警察局…?」
 物々しい車は一台の軍用ジープだ。警備局の人間に導かれてロータリーの脇にジープが止まる。その間もなく扉が勢いよく開かれて国軍警察局の制服が一人、二人と降車してきた。運転席の人間は車に残っているようだ。
 出てきた二人は迎えに出た男達としばし言葉を交わすと、短く頷いた後に車のトランクを開けてライフルを取り出した。
「えぇ…!?」
 マクダムが絶句して瞠目する中でライフルを背中に担いだ二人の警察局兵は町の中心に向けて駆け出して行った。
「……まさか…イルトのぼっちゃんに何か…?」
 完全に陽が落ちようとしているロータリーの片隅で、「まさかね」と苦笑しながらマクダムは立ち尽くした。

「な、何やってんだ、さっさと殺せ!殺せ!」
 慌てふためいた命令が初老の男の口から叫ばれる。別の男の方がテイダスに向けて再び駆け出した。
「テイダ…」
 イルトも再び足を踏み出すが、メイリと呼ばれた少女が間に割って入った。
「このっ!」
 幼く甲高い声が吐き出され、同時に再び焔が繰り出された。
「恐れるな!」
「!」
 後方から声が上がる。グレンだった。額に熱を感じた直後にイルトは右手で顔を庇いながらも、今度は足を止めなかった。
(恐れるな…!)
 自分に言い聞かせ焔に突き進み右手を振り払う。
「きゃぁ!」
 少女の悲鳴と共に焔の緞帳が切り裂かれる。視界を占領していた紅が取り払われ、代わりに両手で顔を庇い後方に尻もちをつく少女の姿が目に入った。
「あ…」
「二人目の少年だ」
 また背後から声。少女の姿を目端に、声に従い反射的にテイダスの後方にいた少年に意識を向ける。警戒する姿勢をとった直後に少年の腕が鈍い光を発した。足元、ロータリーに敷き詰められたブロックが瓦解し石片となり浮かび上がる。
「うそっ!」
 石の雹が横殴りにイルトに襲い掛かる。右手の平に熱を感じ、本能に従い右腕を前方に振り上げた。手の平から指先にかけて真っ直ぐに棒状の光が一瞬生まれ、迫る石を全て払いのけて消えた。砂塵の向こうで少年が瞠目する様子が視界を過ぎり、
「止まれ!」
「っわ!」
 刺すような命令がイルトの足を縫い付けて動きを止め、直後、爪先数センチ先からブロック敷きの歩道を何かが突き破りイルトの鼻先を掠った。
「フィルの攻撃が読まれた!」
「いつもはこれで殺れるのに…」
 メイリの掠れた声と、フィルと呼ばれた少年の舌打ち。
 イルトの目の前に現われたそれは槍状に積み上げられた細かい石片。そのまま足を踏み出していれば串刺しとなっていた。
「………な…」
 それに気がついた途端、内臓を中心に体全体の体温が下がっていく感覚に襲われる。だが命を落としかけたというのに恐怖は中々湧かなかった。
「右から行くんだ」
 気を取り直す間もなく背中かから掛かっていた声が真横を通り過ぎた。
「え」
 言葉の意味を確かめる間もなく後方にいたグレンがブロックの石片を一つ手に取り、水平に手首を撓らせて前方に投げつける。
「ぐほっ」
 石はテイダスに手を伸ばしかけた男の顔に命中した。小切手をつかみかけていた指先が引っ込められ、男は顔を両手で覆い背中を丸めて呻く。その瞬間にイルトが右から、つまりテイダスの死角となる肩左後方から回り込み手を伸ばした。
「テイダス!」
「!」
 死角から肩を掴まれてテイダスは恐怖の混在した悲鳴に喉を引きつらせた。同時に、肩を掴んだ手を通じてイルトは凄まじい電流を感じた。
「うわっ!」
 たまらず体を翻して丸める。その動きにあわせて足元から空気が逆流し動きかけた少年達を遮る壁となった。三歩、四歩と転げるように後退するとグレンとぶつかった。
「イルト…!」
「いって~…なんだ今の…」
 右手が指先から肘にかけて痺れが残る。動かない腕を左手で押さえ込んだ。
「何よ、何よあいつら!どっからつれてきたのよジュドス!」
 メイリが癇癪と共に両手を乱暴に振る。動きに呼応して腕から焔の尾が筋を描いた。ジュドスと呼ばれた中年の方の男が「俺が知るか!」と背後の初老の男を見やる。
「レダン、どうすんだよ」
 レダンとは初老の男の名らしい。
「ここまで知られて顔も見られてるんだ、殺るしかないだろうが」
 ジュドスよりは冷静さを残した声でレダンはイルトとグレンに鋭い視線を向けた。
「った~…」
 押さえ込んだ右手からようやく痺れが抜けかける。イルトはぶつかって背中を預ける形になっていたグレンから体を離して立ち上がり振り返った。自然と、次の指示を仰いでいる自分がいる。
「……まずいな」
 返って来たのはそんな言葉で、余裕ともとれる無感慨を保ち続けていたグレンの面持ちに、苦渋が混在していた。
「どう、したんだ?」
 「まずい」状況である事は始めから重々に承知の事だが、念のために訊いてみる事にした。それには直接答えずグレンは短く溜息をつくとテイダスらに向き直った。
「君たち、本意で押印を宿しているのでないなら、一刻も早く外した方がいい」
 グレンの言葉に三人が三様の驚きを顔に表出させた。
「附憑がかなり進んでいる。暴走するのも時間の問題だ」
「暴走…って…?」
 「暴走」の言葉に表情を変えた子供達。その様子が只事でないと感じてイルトは問うた。グレンは子供達に目を向けたまま言葉を続けた。
「押印は精霊が作り出した自然の規則に反した、人間が無理やり作り出した技術で本来あってはならないものだ。無闇に使いすぎては精霊の怒りを引き起こして君たちの心も体も傷つける」
 グレンの単語の選び方が幼くなっている事にイルトは気がつく。易しい言葉を使って子供達の理解を掌握しようとしているのだ。
「押印を使い続けると、印が神経を支配し最後には印に附憑…意識を支配されてしまう場合があるんだ」
 それを、暴走という。
「子供がつけた場合、大人よりも印への適応率が高く、体の成長とともに大人よりも根深く印が体に浸透してしまう」
「うるさい!わたし達はそんな風にならない!」
 グレンの言葉を遮断してメイリが叫ぶ。両手を強く握り地団駄を踏むように片足を地面に打ち付けた。足下から焔の帯が伸び上がって消えた。
「印が感情の動きに呼応するようになっている。感情的でヒステリックになりやすいのも附憑が進行している証拠だ。貴方がたがこの子らの保護者であるなら、すぐに外してやるべきです」
 今度の言葉はジュドスとレダンに向けられた。
「保護者か…」
 だが答えは、別の方から別の声で戻ってくる。ロータリーを挟んで三方から向かい合う面々が声の方向に一斉に振り返った。
「ラースル!」
「ラースル…」
 複数人から声が上がる。
 グレリオ・セントラルの中心部方面からの小道から足音が響き始めた。ライトがなく、陽が沈んだ直後の月明かりも出ない、最も人の目を惑わす時間帯。足音の正体は見えないが、子供達や男らは声で分かったようだった。
「誰だ」と叫ぶのが定番なんだろうけれど、名乗られたところで知る由もないのでイルトは黙って様子を見ることに決めた。隣でグレンも挙動を見せずにただ声がした方を眺めているだけ。
 一方で男達や子供達は、安堵に若干の畏怖が混ざった面持ちで、近づいてくる足音を待つ。
「お前、軍人だな?」
 吹き抜けのように空が開いたロータリーの広場に、ようやく足音の正体が姿を現す。
「命令の下し方が様になっている。反射神経と勘もいい」
 声は低いが若かった。若干笑っているように語尾が軽く転がる。現われた人影は、黒を基調に全身をかためた長身が威圧的で、レダンやジュドスより明らかに格が上だと分かる気配を漂わせていた。
「市街戦指示に慣れているとすれば、大尉か…中佐以下の佐官経験があるってところか」
 ラースルと呼ばれた青年は重たいブーツの音を響かせてロータリーに徐々に近づきつつあった。黒く短い袖のシャツに、国軍の兵士が着用するものと似た黒いサファリスーツのトラウザに頑丈そうなブーツを着用していた。これでヘルメットと長銃でも担げば一見、本当に国軍の兵士のようにも見える。
「ただの民間人です」
 大嘘だが事実でもある言葉がグレンの口から無感慨に流れる。
「参考までに聞かせてもらいたいな」
 男が足を止めた。ちょうどロータリーを挟んで四角形を描く形の位置だ。
「『民間人』のお前らが何故テイダスの居場所を突き止め、押印の事まで?」
「答えてもいいけど、これで間違っていたら恥かしいね」
 男から視線を外してグレンがイルトを見やった。苦笑、というより照れている。
「俺に言われても……」
 だがここまでほぼ間違いは無かった。何かしらの計算違いがあったようだが、イルトが慣れないケンカで五体無事にいられるのも、全て彼の判断による命令のお陰である。
(ケンカっていうレベルじゃないよな…なんだろう、「戦闘」…??)
 グレリオの田舎町に住む自分にとって最も無縁と思われていた単語に今更ながら戸惑いを覚える。そういえば死にかけたのだと思い出して今頃恐怖が心臓から滲み出て来るように鼓動が早くなってきた。
「まず…」
 グレンが男に向き直る。
「テイダス少年が窃盗を働いていた場所で、組織的なものだと推測した。孤児が一人、または少人数で食いつなぐ為なら庁舎なんか狙わない。あれだけ市場が賑わっているならそこでスリなり窃盗を働くのが普通だし、安全だろう」
(なるほど)
 と思って直後にイルトは感心している場合かと己を戒める。対峙するラースルは口元に不敵な笑みを浮かべたまま表情を変えずに無言だった。
「後ろ盾か仲間が存在するなら現場付近のどこかに中継地点となる集合場所があるだろう。宿屋街や歓楽街が定石だがその両方ともないとすれば可能性が高いのは人込みにまぎれられる場所で裏通りに面している所。市場通りと露店通りが当てははまるが露天通りに絞った理由はグレリオセントラル内外の人間が集まるからだ。市場通りの方は登録制のために顔見知り同士が多い」
「それでか…」
 思わずイルトの独語が漏れる。
「庁舎警備局から国軍警察局へ届けが出る程であればグレリオセントラルに根を据えた生活を送っていないと推測した。カモフラージュの品は非生鮮物で尚且つ簡単に仕事現場付近で得られる物を使うだろう。野菜は用心の為としては良い手だったが、入り口付近の別の店と同じ包装が成されていたのが致命的な手抜きだった。肥料に牛の堆肥を混入していると言っていたが、グレリオセントラル周辺で牛による酪農は行われていない。店番が二人以上なのは、店番役のほかに監視と匿い役を担う人手が必要だからだ。あの店から集合場所を割り出したのは地図を見て見当がつく」
 長い台詞を言い終えた役者のように、グレンは言葉を止めて小さく溜息のような深呼吸をした。
 ラースルの表情は変わらないが、ジュドスとレダンの表情や反応からグレンの推理が全て当たっていただろう事が想像できた。
「地図を見ただけでどうやって見当が?」
 どこか楽しそうにラースルは尋ねる。
(短い時間の中でそんなにたくさんの判断をしていたのか…)
 イルトは思わずグレンを見やる。曖昧模糊とした脳裏の疑念が、鍵が合致したように収まった。
「今後の参考にされては困るのであまり言いたくないのですが…」
 苦笑と共にグレンは首を傾げる。
「露店通りから裏通りに出て郊外へ出る門道は全部で六つあった。しかしここは露店通りから三番目に近くしかもロータリーであるにも関わらず地図には名前が記されていなかった。庁舎に飾られた市民と外地人向けの案内地図は昨年改訂だと書いてありました。なのでここ数年滅多に使われない廃道だろうと思ったんです。それだけです」
「…………」
 経験の差なのか、地頭の差なのか、イルトに計る術はない。だがイルトを始めこの場にいる人間から反論や対応の余地を一切奪っているのは事実だった。一人、黒い男ラースルを除いて。
「参考にさせてもらおう…」
 口元がまだ笑っていた。
「テイダス、メイリ、フィル。こいつらに勝てる方法を教えてやる」
 グレンに向けていたラースルの視線が子供達に移動する。凝固していた時間が動き出して子供達の肩が揺れた。
「え、なになに、教えて!?」
 ラースルの言葉へ特に反応をみせたのはテイダスより若干幼いメイリとフィルだった。テイダスはイルトやグレンやラースルの間で戸惑いの視線を泳がせている。
「頭を狙え」
 言ってラースルの指先がイルトを通り越してグレンを指し示した。
「頭?」
「そうだ。ちょろちょろ動き回る手足を潰そうたって難しい。そういう時は、頭を先に潰すんだ。命令が無ければ、手足は動けないからな」
 メイリとフィル。ニつの幼い視線がグレンを向いた。無垢で純粋な殺気を有した白い目だった。
「……」
 イルトは言葉にできない不気味な恐怖を覚える。同時にラースルの言葉が暗に「お前は一人じゃなにもできない」と揶揄している事に気がつき腹が立ってくる。
「あれは士官学校で教わる基本中の基本だよ」
 なのに隣からは呑気な余談が投げかけられた。
「………へぇ…」
 普段は祈らない神にすがりたい気分だった。
 そして知らぬうちに腹立たしさが消えている事にも気付くのだった。





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