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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT1-2
02


 扉を開けた訪問者は、椅子の一つに腰掛けて自分を待つ人の姿を見た。
 パイプの机にパイプの椅子という、無機質な中で待っていたその人物は、まっすぐ人の目を見つめてくる男だった。
「あんたが、押印師ワイヴァン・グレンデールか」
 訪問者は問いかける。
 部屋の主は無言で頷いた。まるで必要最低限の言葉しか持たぬかのように。
「さ、どうぞ」
 訪問者を対の椅子に座るように促してから、部屋の主ワイヴァン・グレンデールは客を眺めた。緩慢な動きで椅子に腰掛けたのは、大柄な男だ。年の頃を窺ったが、耳元から顎にかけてたくわえられている髭が、男を老年にも、若年にも見せている。
「力系統の印をご所望と聞いておりますが、見たところそんなもの必要なさそうに感じますが」
 筋骨隆々な男の体、机の上に乗せられた逞しい両腕を見て、ワイヴァンは笑う。暗がりの中で男がくつくつと笑い返してきた。
「いやいや、なにぶん、見かけ倒しなんでね」
 男は腕力を欲していた。年老いた両親の世話をするために印を授かりたいと、この男はワイヴァンを尋ねてきたのだ。
「粗方ご存知だとは思いますが…一通り説明させてもらいます。契約の儀式的なものと思って下さい」
 始終、薄い笑みを目元に湛えたまま、ワイヴァンは事務的に口を動かす。契約書と冒頭に書かれた紙を取り出し、その横にペンと紙袋から出したインク瓶を沿えて依頼者の前に置いた。
「まず、『精霊』について説明させてもらいます。」

 世のあらゆる事象、事物には『力』が宿っている。
 人々はそれを『精霊』と呼ぶ。
 水には水の、樹木には樹木の、風には風の。
 森羅万象に宿る力、すなわち八百万に宿る精霊は、生くものに恩恵をもたらすとして人々に奉り、崇められていた。
 人により信仰の対象は異なる。鍛冶を生業とするならば、鉄の精霊、医者を生業とするならば、治癒の精霊と、千差万別に神がいるが、総じてそれらは「精霊信仰」と呼ばれ、全ての精霊を束ねる精霊神と呼ばれる存在がおり、根流を辿れば一つに終着するのだ。
 精霊はそれぞれに、「印」を持っている。
 「創世神書」と呼ばれる神話の書によれば、「印」とは、精霊を束ねる精霊神が八百万の精霊を区別するためのものであり、また同時に、精霊が己の主人を見つけ出すための目印ともされている。その数は、書物に記されているだけでも数百種類にのぼる。
「人は時として、体のどこかに「印」を受けます。印は精霊の寵愛を受けた証です」
 「印」は三つの種類に分類される。
 生まれついて受けた印を、「天啓印」。
 後天的に体に印が現われる、「使命印」。
 いずれも、精霊に選ばれ、印を賜った者の証。印を受けた人間の数は役所が戸籍にも記して数を管理しているが、確認されている存在数は稀少だ。
「そして、三つ目が、『押印』。意図的に印をつけて、精霊の力を得ようという技術です。押印師は、印を刻む技術を持つ者の事を指します」
 圧倒的に数の少ない前者二つの印に対し、押印師とよばれる技術の台頭により、押印の数は爆発的に増えている。その汎用性から、全世界的に軍事使用はすでに実用化レベルとなっている。しかし軍が法的に規制しているため、民間における押印技術の実用は違法とされている。従って、公式の押印師はいずれも軍属の人間だった。だがワイヴァンのような軍に属していない押印師も存在している事から、裏取引による民間レベルの押印市場は秘密裏に拡大していた。

「押印は、自然の摂理に反した技術です。民間での押印は法律にも反してるんですけどね。まあこれは軍が勝手に決めた事なので置いといて、話を戻します」
 言いながら、ワイヴァンは数ページある契約書の最終ページを開いた。そこに記された項目をペンの尻で指し示す。
「言うなれば押印は、精霊を無理やり従わせている事になるのですから。それなりのペナルティが使用者に生じるのです」
「ペナルティ…」
 無言でワイヴァンの説明に頷くばかりだった男が、そこで初めて言葉を漏らした。
「副作用、と言った方が分かりやすいでしょう。精霊を力ずくで抑え付ける為、印の保ち具合は使用者の体力、精神力に依存します。精神力や生命力が低下すれば、精霊を抑え付ける事ができなくなり、暴発、暴走する事態も起こりえます」
 契約書に目を落とせば、同様の事が記されていた。
「押印は使用者を蝕みます。長い間印を保有していると、使用していなくても、体調に異変をきたす可能性も十分考えられます。この契約では、そうした副作用の可能性を了承して頂き、押印によって生じた変調に対し、当方が何の保障や賠償も致しかねる事をご了解して頂く物です。」
「ふむ…」
「ご了承頂けるなら、契約書の末尾にサインと拇印をお願いします。それから押印しましょう」
「やってもらおう」
 男は即答し、ペンを手に取ると軽い動きでサインを走らせた。朱肉に指を押し付け、拇印を押す。契約書に記された金額と同じ札束を懐から取り出し、契約書の上に置いた。そして満足したような面持ちで、対面に腰掛けるワイヴァンを見上げた。
「……わかりました」
 ワイヴァンはまた目元に薄い笑みを浮かべると、契約書と札束を己に引き寄せた。
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