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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT6-5
05

 はしゃぐ少女二人の脇をすり抜けてジャスミンは前方にて背中を向けるヴィルの隣に並んだ。
「ヴィル様」
 ジャスミンの声は、少女たちの声にかきけされて彼女達の耳には届かない。
「あの二人…不自然です」
「そうだな」
 穏やかに笑みを湛えていたジャスミンの黒い瞳には今、鋭い鷹の眼が宿っている。
「血縁関係は無いでしょう。しかし付き合いの長い友人同士でもないように見受けられます」
 僅かに振り返る事でヴィルは「どういうことだ」とジャスミンに続きを促す。
「行動パターンと感覚が違いすぎます。お互いに似ている、近しい環境で接触していればあそこまで不一致は起こらないはずです。」
 一方で短い付き合いの人間同士が、しかも子供が、旅人として辺境地に訪れる理由がそうそう存在するとは考えられない事だ。
「共通点は印保持者と押印師の組み合わせという、「印」の存在だけ」
「……」
 「印」というジャスミンの言葉にヴィルは手袋に覆われた己の手を見る。
「『印』というのは…常識の及ばない力が思わぬものを呼び、思わぬえにしを結ぶ事があるからな…」
「それは…人工物である「押印」でも同じことが言えるのでしょうか?」
「どうかな。俺は押印に詳しくないが…印自体は人工とはいえ、宿る力は本物だから。」
 ふむ…と納得を飲み込む。
「……あの二人、エルリオとミリアムとお互いを呼び合っておりましたが…その二つの名前を最近目にした事があります」
「なに?」
 峰の向こうから竜の遠吠えが湿地まで響いてきたのを聞きながらヴィルは体を半分ジャスミンに傾ける。ジャスミンの視線がちらりと、後方の少女達を見やった。
「指名手配書です」
「………」
 ヴィルがその視線を追う。
「あの黒髪は恐らく染めているのでしょう。本当は銀髪のはず」
「銀………帝国人か…」
 少女二人は水面を覗き込んだり遠くの峰を眺めている。その中で黒髪の少女―ミリアムという名の方―が、「あ」と呟いて立ち上がった。遠い峰の方に目を凝らしているようだった。
 肌を撫でていく風の質が、変わった。
「…あれ…?」
 エルリオも異変に気がついたようで、不思議そうに辺りを見回し始める。やがて、辛うじて肌で感じられている程度の微風が、髪の毛を揺らす風へと変化し、肌に触れていく空気の質が「鋭さ」を持ち始めた。
「見て」
 とキューに促されて水辺を見る。
 鏡のように静寂を保っていた水面に、波が立ち始める。一定方向から押し寄せてくる風が、少しずつ水辺を騒がし始めている。大きな影が落ちる。水の色が漆黒に変わり、遠くにあった咆哮がすぐ耳元でとどろいた。
「うわ…」
 思わず驚嘆が声に出た。走る列車の窓から顔を出した時のように顔を、体を、空気の激流が薙いで行く。一瞬呼吸を奪われる。大量の風をその身み纏い、竜の谷より舞い降りて姿を現した巨大な影。
「ドラゴン……」
 呆然と立ち尽くす少女達の頭上に、一匹の巨大な翼竜がその首を擡げていた。巨大な両翼が羽ばたく度に押し寄せる空気の壁がその場にいる面々を突き抜ける。湿地の水面を荒く揺らした。
「シュテラリオン」
 ヴィルが竜をそう呼んだ。
 この竜翼谷で唯一、固有の名前を持つシュテラールの王。
 その巨体の腹には竜翼の印と呼ばれる、風を司る印の中でも最高位にあたるものが、刻まれている。
『随分と毛色の変わった客人をつれてきたものだ』
 腹の底にまで響いてくる声がした。
「え、しゃべった!?」
 エルリオが声を上げると竜の巨大な瞳がじろりとこちらを向いたので、思わず身を縮める。
「谷の竜の中で人間の言葉を操るのはシュテラリオンだけだ。この谷の王だ」
「王様……ふーん…えっと…」
 阿呆みたいに口を開けたまま空を見上げている訳にも行かず、エルリオは戸惑い気味に「お邪魔してまーす…」と会釈を向けた。
「王様に「お邪魔してます」はないだろうさ」というキューの皮肉がポケットから聞こえてきた。
「うっさい!」
 頬を膨らませながらポケットの中に居座る相棒を上から押さえつけると「ぎゅっ」と潰れた声。
「……」
 ふと隣を見ると、戸惑い気味に空を見上げていたミリアムがスカートの両裾を持ち上げて膝を折るところだった。
「………」
 美人はやっぱり画になる―というよりもこれはやはり、「血」なのだろうか。ぎこちなさはあるものの、ミリアムの礼からは敬意と畏敬が醸し出されている点で完璧だった。
 それがジャスミンの目には、仮説の信憑性を上げる材料となる。
『―谷につれていくつもりか?』
 少女二人の礼を見届けた後、シュテラリオンの視はヴィルを向いた。
「恩人だ。谷に招待する事を許して欲しい」
『そのようだな』
 精霊の化身と謳われる神妖獣の王は万象を見通す千里眼を持っていると言われる事がある。よく幼い子供が楽しむ小説等には、そうした伝承が多く取り入れられていた。
「それに、知りたい事も多い」
『谷の当主はお前だ。好きにするが良い。これは必然なのだから』
「え…?」
 体中に響き渡るような竜王の「声」。しかしよく観ればシュテラリオンの口元は動いていない。いわゆる声帯を震わせる事で声を発する「会話」とは異なる言語の疎通法なのであろうが、エルリオにはそれが何だか分からなかった。
『全てが繋がり始めている。いずれ道を選ばねばならない時がくる。今はその微かな一歩の一つなのだろう』
「……何の話だ…?」
 言葉の意図を測りかねてヴィルはシュトラリオンを見上げて目を細める。竜の羽ばたきが起こす風が強くなり、湿地の水面が跳ねて水しぶきを上げ始めた。見るとシュトラリオンの周囲に、王の覇気を感じてか体の小さい若いシュテラール達が遠巻きに集い始めている。
 空は竜の影に覆い尽くされた。谷を見渡せる集落からは、そこだけ暗雲が立ち込めているように見える。
「シュトラリオンが降りている」
 集落の高台から、警備兵の青年が湿地帯方向を指差した。竜の群れの中において竜王シュトラリオンは抜きん出て大きく、シルエットで容易に判別できる。
「ヴィル様なのだろうか…」
 早朝に谷を飛び出していった当主の遅い帰りに民達は不透明な不安に包まれていた。
『お前が言う通り、精霊の印は共鳴しあうもの。』
 竜王の大きな瞳がヴィルを始め、ミリアム、そしてエルリオにも向けられ、最後にその宝玉のような眼は再びヴィルに戻る。
『その共鳴し合う力が以前よりも増しているのだ』
 体に印を宿した竜の王はもたげていた首を空に向けて持ち上げた。その一動に周囲に集い始めていた若いシュテラール達はギャーギャーと声を上げながら一斉に散っていく。さながら、空が動いているような迫力だ。
「それって、どういう事なの?」
 峰の向こうに消えていく若い竜たちを見送りながらエルリオが問う。臆する様子を見せずに無垢を装えるのは子供の特権である。再びシュテラリオンの長い首が擡げられた。
『いずれ分かる。それに娘…、お前達は既に出逢っているのだからな』
「え…」
 竜の瞳がミリアムにも向けられて、エルリオの影に隠れるように一歩後ずさりする長い黒髪の少女。少女達がその言葉の真意を汲み取る前に、再びシュトラリオンの瞳はヴィルに向いた。
『案ずるな。我はお前を選んだのだから』
「シュトラリオン…」
『古き道は閉ざされていくのみ。選んだ以上は先道にのみ己が手にある灯りを照らせ。我のようにな』
「……だがそれは…」
 言うが否やヴィルの言葉を拒否するように、再び大きく翼がはためいた。巨大な風の幕がその場にいる面々を飲み込むように撫でていき、水面に荒々しい波飛沫を生む。擡げた首を再び天に向けて、竜王シュテラリオンは浮上を始める。一瞬、中空で動きを止めてヴィルを見やると竜の王は急激に浮力を上げて瞬時のうちに太陽の中へと消えていった。





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