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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT6-3
03

 最初の数歩は、抗いがたい力を感じた。
 次の数歩に、己の体を任せてみる。
 最後の数歩は、確かに自分の意思だった。
 浮遊したような夢現な感覚が醒めた時、気がついたらイルトは父が差しのばす手に自らも手を伸ばし、光に包まれた指先に触れた。
「!」
 突如発せられた凄まじい光に目が眩み、イルトは両腕で思わず顔を庇った。全身に降り注ぐ光には熱さえ感じられる。ビリビリと電気が走るように体中の空気に触れる部分全てが痺れる。それが次第に体の中心に集まるような感覚がしたかと思うと、強烈な胸の痛みに襲われた。
「っつ……!」
 堪らず胸を両手で覆い隠して背を丸める。背後でアムリが叫ぶ声がした気がしたが、それさえも全身を包む光の束が掻き消してしまうよう。
「ぁあああ!」
 胸元を押さえていた右手に燃えるような熱が走った。肉が焼け焦げる音がすぐ耳元で響く。強張った指先が凄まじい痙攣に襲われ、自分の体ではないように無秩序に暴れた。

 ―抑え込め!

 頭の中で声が響いた。
「!」
 目を見開くと、右手が紅い焔に包まれていた。それを左手で包み胸に抱きこんだ。
「鎮まれ!!」
 飲み込まれそうな己への恫喝。
 その瞬間、光が消え去った。
「…………」
「……――…一体…」
 装束の袖で顔を覆い隠して座り込んでいたアムリが顔を上げると、先ほどまで爆発しそうに空間中で暴れまわっていた光の渦は完全に消え去っていた。始めにここへ足を踏み入れた時と同じ、淀みなく涼やかな空気。耳鳴りのように響いていた音も消えて、自分が発した弱々しい声が天井に響いて大きく聞こえた。
「イルト…!」
 視線の先にいる弟は、己の右手を眺めて立ち尽くしていた。その近くにいるのは、グレン・イーザー。面持ちに無を宿したままイルトの様子を見つめていた。
 父の気配はもう、無い。
「………姉さ…」
 アムリの声にイルトが顔を上げると、背後で新しい物音が響いた。
 重たい石が擦れ合う音。
「?」
 音の方に首を傾げると、そこには巨大な戦士の像。音の正体を確かめようと見上げると、
「え?」
 その手には無いはずの剣が握られていた。
 聖地グレリオの防人が決して手にしてはならなかった、刃が。
「な、なんで…」
 如何な理由があろうと、神は聖地の防人に刃を携えることを赦さなかった。背命した物は例外なく防人の資格を失い只人とされる。そんな防人の像が、素手であったはずの手が、刃を掲げていたのだ。
「う、嘘…」
 誰の耳にも再び、石が擦れる音が響き始めた。
 それに重なるようにアムリの小さな悲鳴。
 刃を手にした防人像の腕が、体が、足が、それぞれが僅かに錯覚のように動いた。次の瞬間、それは石とは思えぬしなやかな動きをもって巨大な刃を振り下ろしたのだ。
 側に立つグレンの頭上に向けて。
「な…!」
 イルトが息を呑み、グレンは振り下ろされる刃を見上げた。
「きゃぁ!」
 アムリが悲鳴を上げる。
 咄嗟にグレンが後方に下がる。彼が立っていた場所に刃が轟音を立てて沈み込んだ。凄まじい風圧が砕いた石畳を吹き飛ばし、辛うじて刃を避けたグレンの全身を襲う。
「く…っ」
 両手を顔の前に交差させ弾丸のように襲いかかる石から身を守るが、容易に衣を引き裂く威力を持つ石と共に赤い水滴が散った。
「!」
 それが血だと頭が理解した瞬間、イルトの胸の中心に籠もる熱が急激に沸点に達した。
 石とは思えぬしなやかさで像の腕が横に刃を薙ぎらせる。寸時、グレンの反応が遅れた。
「ぁ…!」
「滅びよ!!」
 恐怖にアムリの両眼が閉じられようとする直前、イルトの叫びが重なり、網膜が捉えたのは光の亀裂を発した像の姿だった。
「っつ!」
 直後に凄まじい破裂音がして、顔を庇った腕を、足を、体を、砂の粒が叩きつける。
 凄まじい破裂から顔を守ろうと再び左腕で顔をかばったグレンが、飛び散り頬にこびりついた砂を払いながら目を開けると、目の前に聳えていた像は跡形もなかった。足下が埋まろうかというほどの量の砂と小石となって像は完全に「無」と化している。
「………君…」
 砂の中央に座り込むのが、イルトだった。
 グレンの視線に気付き、ばつが悪そうに苦笑を向けた。
「………何がなんだか…」
 イルトは傍らに立ち自分を見下ろして笑むグレンの姿を確認して妙な安堵感を覚える。だが頬や腕、足に衣服ごと肌が切り裂かれている箇所を無数に見つけて眉目を顰めた。
 一方のグレンも、イルトの笑みに苦悶の気配はないと読み、安堵を目許に浮かべたが、中々立ち上がろうとしない彼に気がつき、一瞬不安を覚えた。
「…大丈夫かい?」
「………足が笑って……立てないんだよ……」
 拗ねた子供のように顔を逸らして肩を竦める。「もう、馬鹿ね」とグレンの背後からアムリが顔を出した。
「ほら、立って」
 とアムリが両手を差し延ばし、イルトは右手を差し出した。
「あら」
「あれ」
 の声に動きが止まる。
 イルトの差し出した右手の平に、肌とは異質な色が見え隠れした。慌てて翻して確認すると、そこには黒く焼きついた火傷らしき跡があった。
「これ……」
 アムリが両手で口元をおさえる。
 右手を包み込んだ焔による気が狂いそうな熱の苦痛が、今は嘘のように引いていた。その手の平にあるのは、明確な意思をもった「形」の刻印。
「まさか…精霊の印………?」
 ぼんやりと口にしたものの、頭が状況を理解しきれていない。

 目に映るのは、肌色の手の平に黒く刻み付けられた印だった。






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