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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師ACT5-7
07

 乾燥の地、シュトルセントラルステーション付近で列車強盗。
 その報せはただちに軍の中央本部警察局にも伝えられていた。
「精霊狩りだそうです」
「なんだって?」
 警察局から車輌局鉄道部の職員に届けられた列車事故の第一報は、「精霊狩り」の四文字のために通常の事故処理ルートではなく、本部の情報局諜報部と精霊印研究局にも回された。
「乗客の証言によりますと、精霊狩りは頭領と思われる人物が一人、その配下と思わしき集団を引き連れており、頭領の名は「バスクス」と」
 アイラスがメモを読み上げる声を聞きながら、シールズは手元の書類にサインを続けていた。
「バスクス・レンバッハ。タチの悪い人身売買屋だな」
「すげぇ。前科者リストが頭に全部入ってらっしゃるんで?」
 ランドの驚嘆が混ざった声に「たまたまだ」と答えてまたサインの続きをする。
「…そうっすか」
「奴は『部品屋』の片棒を担いでいてな」
「部品屋?」
「人身売買というより、人体売買というべきかもしれない。要するに臓器や角膜といった体の部品(パーツ)を売買する目的で主に貧困層を狙い誘拐を繰り返していた」
 大量の資料を膝にのせてページをめくっていたランドの手が止まり、その横でアイラスも目端を細めた。
「そいつがなんでまた精霊狩りを」
「さあな。今更宗教観の違いで…なんて事はないだろう。おそらくそれも『部品屋』としての仕事の延長線上なんだろう」
「事業拡大…か。あ、スミマセン、悪い冗談でしたね」
 呟いてランドは肩を竦めた。だがシールズは苦笑しつつ否定する素振りを見せなかった。視線はさきほどから書類を向いたままで、ペンを握る手は動きを止めない。
「『部品屋』として印保持者を狩る需要ができたという事実は、精霊印研究局でも重く見ている。あながち悪い冗談でもないのさ。以前、とある地域の役所の戸籍科から印保持者のデータが盗まれる事件があった。可哀想に、リストにあった何人かは殺されたよ。奴らの仕業だった」
「すでにかなり組織化されているという事ですね」
「列車強盗なんて独りじゃできんな…。」
 眉をひそめたシールズの口から溜息が漏れた。だがすぐに「話しを戻そう」とアイラスに続きを促した。
「はい」と短く答えて表情を崩さない黒髪の部下は手元のメモの続きを読み上げ始める。
「どうも証言に不可解な部分が多いのです。なんでもその精霊狩りと対峙した男女二人組みと少女がおり、男は竜巻を起こし、女は銃を乱射し、少女は「何をしたかよくわからない」がとにかく強盗に立ち向かっていったと。最後は男が車輌を目茶目茶にし、強盗は去っていき、男が少女二人を抱えてどこかに「飛んでいってしまった」そうです。」
「はあ?」
 そこでようやくシールズは手を止めてアイラスを見上げた。
「面白そうなB級アクション映画だな」
 とランドがアイラスの手元のメモを覗き込む。
「証言をそのまま再現しただけだ」
 冷ややかな目でランドにそう応えた後、アイラスはシールズに向き直り再び説明を続けた。
「証言に出ている「二人の少女」ですが」
 ランドの茶々を横目にアイラスは五枚綴りの書類をシールズの机に置いた。
「襲われた列車の乗客リストです」
 シールズがペンを置き、それに手を伸ばすのを確認してアイラスは続ける。シールズの手がページを捲ると、三枚目に赤いインクでバツ印が二つ見えた。
「警察局が現場検証を行った時に、乗客リストに基づき一人一人に証言を求めたのですが、その赤印の二名がおらず、おそらく乗客の証言にあった、その男女と共に去った少女二人がそれだと推測されます」
「ふむ。マリア・ルースとセリア・ルース。姉妹か」
「ちなみにシュトル・セントラルステーション近辺で竜巻を起こす人間がいるとすれば、それはおそらく竜翼谷、シュテラールバレーの人間でしょう。谷の一族は印保持者を継承する血族です。戸籍管理局の印保持者リストでも確認済みです」
「竜翼谷…シュテラールバレー……ドラゴンと共に生きてきた一族がいるっていう話は聞いたことあるな」
 以前、軍部内のどこかでその名と話を耳に入れたことがあった。
「どこで聞いたんだったか…」
 拳で頬杖をついてシールズが短く唸ると同時にアイラスが次の書類を机の上に滑らせた。
「シュテラールバレー集落の現当主ヴィル・シュテラール・レストムは三年前に退役するまで軍部セントラルに印保持者の戦闘員として所属していた経歴があります。」
 机の上には退役軍人アーカイブから引き出してきた、ヴィルの履歴書の写しがあった。
「そうか、だからか」
 履歴書に張られているヴィルの写真を見てシールズは頷いた。かつて辺境警備局の一部隊を統括していた頃に見たことがある顔だった。明るい金髪と、黒に近い深い緑の瞳の持ち主だった。
「その精霊狩りの野郎は誰を狙って列車を襲ったんでしょうね」
 隣からランドの呟きが転がり込んできた。見ると、本人は隅で書類を整理しながら傍らに置かれたコーヒーの入ったマグを手に取っているところだった。何気ない一言だったのだろうが、それは正にアイラスが言葉にしようとしていた疑問。
「乗客リストにヴィル・シュテラール・レストムの名はありませんので、バスクスの「狩り」対象が始めからレストム氏であった事は考えにくいと思われます」
 アイラスが補足する。
「ヴィル・レストムを誘き寄せるために列車を襲ったという線も…強引なところだな。だとすると、そのバツ印の姉妹がそうか」
「ちなみに、役所の印保持者リストを調べたのですが、この姉妹の名前はいずれもありませんでした」
 無論、軍の戸籍科がその全ての数字を把握しているのではない事は、周知の事だった。
「だとすると、バスクスはどうやって標的を定めたんだろうか」
 シールズの言葉の直後、小さくコーヒーをすする音がして、カップに口をつけたままのランドの呟きが割り込んできた。
「ちょっと思いついたんですが。ミリアムはライザ皇室が継承してきた印の保持者っすよね。その姉妹が偽名つかった偽姉妹でセントラルから郊外へ逃亡中の指名手配中の小娘二人なんて都合のいい話はないっすかね、ははは。あ、だとするとそうやってバスクスがそれを知ったのかが説明できないですけど」
「………」
「………」
「………ん?」
 手に書類を持ったまま動きを止めて目を丸くする上官と同僚の異変に気付いてランドはカップから口を離した。パターンとしてこうした「気まずい静寂」の直後にアイラスの口から冷たい視線と共に突き刺さるようなつっこみという名の反論が吐き出されるのだが、今回は予想に反してアイラスの面持ちは平常だった。
「可能性として」
 とアイラス。
「『鍵』はエルリオ・グレンデールの手に渡りました。それを求めてミリアム皇女が行動するとすれば、この両名が遭遇する確率は極めて低いものの動機が存在する限りゼロとはいえません」
 アイラスの言葉を聞きながらシールズが頷く。
「アリタス国内でミリアム皇女が動けるだけの人脈ルートや力があるとは到底思えないが…だが「精霊の印」がもつ我々には理解の及ばない「力」の可能性を思うと…あながち侮れないところがある。『鍵』が何なのかもわかっていないしな」
 言いながらシールズの視線がアイラスを向いた。
 常に片手に手袋を着用しているアイラスの手の甲には、印が刻まれている。いつの頃からから、体に現われた印だった。
「諜報は情報が命。可能性がゼロでない限り動くのがプロってもんだ。念のため事情をうかがいに谷に人を派遣しよう」
 どんな意見も退ける事なく聞き、そして決断が早い。そこがこの大佐の部下から慕われる所以であった。噂には聞いていたが、あまりの即決に驚き、アイラスとランドは寸時顔を見合わせた。
「わかりました。…で、誰を派遣しましょう」
 はたとアイラスがシールズに向き直る。
「下手に事情を知る人間を行かせないほうがいいだろうな」
 悪戯が見つかった少年のように、シールズは肩を竦めた。
「普通に事情聴取として警察局シュトル支部に所属している若い奴で使えそうな奴と、そうだなぁ、ヴィル・レストムと接触経験のある人間を一人、探しておいて派遣要請の手続きをしてくれ。元部下か同僚が望ましい」
「了解しました」
 答えると同時に敬礼し、アイラスは資料室に向かうために踵を返した。






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