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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT5-5
05


「やっば、警察局だ…!」
 少女がそんな言葉を洩らしてヴィルの腕からすり抜けた。
 シュトル・セントラルステーション方面から数台のジープが砂煙をあげながら向かってくる様子が見える。未舗装道の多い荒野地区に対応した四輪駆動の軍用車だ。
「大丈夫??」
 それを目端に確認しながら、メロウに弾かれて倒れた少女にかけよるおさげ髪の少女。
 その後ろを飛び跳ねながらついて行くペット。
「……ペット…??」
 土埃に汚れた小さく白い動物。
 それがジャスミンには縫いぐるみに見えて仕方が無い。
 考えが纏まらないうちにヴィルに腕を引かれた。
「立てるか」
「あ…」
 ヴィルの金髪から火薬の匂いが仄かに漂ってきた。白い頬には土煙による汚れの他は、小さい擦り傷が窺えた。
「はい。ヴィル様は、お怪我は…?」
 手足の砂を叩きながら立ち上がり腕をとるヴィルを見上げる。一見して大きな外傷はなく、面持ちにも痛みによる苦悶などは見られない。
「お前は?」
 安堵を覚えながらジャスミンはヴィルの問いに短く答えた。
「どこも。それより―」
 あたふたと瓦礫を掘り返して荷物を探している少女二人と、謎の生き物一匹を見やる。
「……ふむ」
 その光景と、背後に迫りつつある軍用ジープの群れとを二度見比べてからヴィルは次の指示をジャスミンに示す。
「ひとまずここを離れる」
「はい」
 言うが早いかジャスミンは乗り捨ててあるバイクのもとに駆け出し、ヴィルは右手を一振りして風を起こした。モスグリーンの裾が翻り、音もなく彼の足は地面を離れる。すべるように半壊して瓦礫と化した車両の方へと移動し、ようやく鞄を掘り当てて走り去ろうとする二人の少女の行く先をふさぐように降り立った。
「な、なに…」
 訝しげに眉をひそめるエルリオを無視し、
「つかまれ」
 片方ずつの手でエルリオとミリアムの体を掬い抱えた。
「わゎっ!」
「きゃっ」
 という間にエルリオとミリアムの足は地面を離れ、ヴィルに抱えられた状態で宙に浮いた。
「ちょっとちょっと!」
 あわてて小さく白い動物がエルリオの靴にしがみ付く。ヴィルはそれを見なかった事にして腕の中で暴れる少女をしっかり抱える事に意識を集中させた。
「どこにつれてくのよ!」
「警察局と鉢合わせるのはまずいんだろう?」
 バイクで先を飛ばすジャスミンが小高い丘の先を指差し、ヴィルはそれに軽く頷いて風をその方向に吹かせた。
「自分達で逃げられるってば!」
「うるさい、暴れるな」
「誘拐魔、誘拐魔~~~~~っ!」
「………」
 ひたすら暴れるエルリオを叱る気力も失せる。ヴィルは意識的に見えない耳栓をしてただ軍用車の陰が見えなくなる距離を目指して飛んだ。小高い丘を越えた麓で、ジャスミンを乗せたバイクが軽いスピンと共に停車した。ヴィルもそこに着地する。それと同時に両手に抱えていたモノを放した。
「ぎゃーっ」
 急に手を離されてエルリオの小柄な体が砂地に転がった。「ぎゅっ」と寸詰まりの声がその下から聞こえる。無事に着地できたミリアムが駆け寄った。
「…大丈夫?」
 バイクのスタンドを足で立てながらジャスミンが小さく笑った。
 警戒心を盾に身構えるエルリオを見下ろす形でヴィルが右手から水を払うような仕草を見せると、地から湧き出し足元を漂っていた風がぴたりと止み、円を描くように翻っていたモスグリーンのコートの裾がふわりと動きを収めた。その裾から伸びた長い足が一歩踏み出した。
「色々と訊きたい事は多いが、まずは礼を言う」
「え」
「結界の援護がなければ油断の隙を突かれていた」
「あ~…」
 このモスグリーンの男が一瞬だけ、あのバイクの女に気を取られていた瞬間があった。気がついたら守檻の印を発動させながら駆け出していた事を思い出す。
「いや…あれは…別に…」
 あの瞬間を思い出してエルリオは口ごもる。短い金髪がどことなく父親、ワイヴァンを彷彿とさせるこの男の危機を、放っておけなかったのだと気がついたから。
「そんな事より、」
 心の揺れを隠すために勢いよく立ち上がる。ミリアムとキューがキョトンとした顔をして自分を見上げているのが気恥ずかしかった。
「お兄さん、風系の印保持者なんでしょ?」
「ん…?」
「しかもけっこうな上位の。私も風印は使うけど、せいぜい大人一人の体を押しのける程度にしか使えないもの」
 ヴィルとジャスミンが短く顔をあわせる。
「印の気配がないな。お前は押印師か?」
 視線を戻したヴィルが短く問いた。明確な答えが無いのを肯定を受け取ってエルリオも頷いた。
「…うん」
 ヴィルの視線がエルリオの小さな手に向いている。その手の甲に、今は何も描かれていない。視線は次に、エルリオの側で不安そうに二人のやりとりを見ているミリアムに向いた。
「だとするとこの印の気配は…お前か」
「……」
 警戒してか、肯定も否定も戻ってこなかったが、ヴィルは気にしなかった。
「お兄さんて…もしかして竜翼の谷の人?」
 と再びエルリオ。
「ああ、よく知っているな」
 乾いた大地、シュトラルの北西に広がる羊歯森を越えた渓谷地帯の奥地一帯が、「竜翼の谷」と呼ばれている。現存する原始的な印の発祥地の一つとして、エルリオが尋ねていようと考えていた場所だった。
「私達、シュトル・セントラル駅で降りてそこに向かうつもりだったんだ」
 無表情を保っているヴィルの目端が僅かに揺れた。
「竜翼の谷は…お前たち子供二人がとてもたどり着ける場所ではないぞ」
 言いながらヴィルは谷方向を指差す。乾いて荒れた広野の向こう、うっすらと蜃気楼のように山々の灰色の影が並んでいた。
「大丈夫、アシはあるよ」
 エルリオは左手で拳を作って小さくガッツポーズをする。翼の印があれば、ミリアム程度の重さであれば二人で飛んでいける。ヴィルはそれを察してかエルリオに手段を問いはしなかったが、軽いため息をつきながら首を横に振った。
「距離の問題じゃない。あそこは有翼獣らの住処でもある。下手に迷えば餌食だ」
「有翼獣…ドラゴンみたいなの?」
「ドラゴン?」
「そうね、近いかもしれないわ。谷の有翼獣は神妖獣だから」
 ヴィルの背後からジャスミンの声。スタンドで立たせたバイクに凭れてエルリオとミリアムの方を向いていた。
 世界の生態系は捕食する側とされる側によって関係がツリーチャート状に表される。だが神妖獣と分類される存在は、生命維持と祖先継続を目的とした捕食を行わないためにそのチャートに位置づけられず、学術的分類で異例値とみなされている。古典神話からの読み方をそのまま借りて「神妖獣」と呼ばれるようになったという。
「へぇ…神話の通りだね。私たち、谷に行きたいの。一緒につれていって」
「谷に何の用だ」
 ヴィルの声に警戒の色が薄く滲む。
「印について…、その技術や歴史についてもっと知りたいんだ。それだけ。本当だよ?そのために旅を始めたの。竜翼の谷は原始的な印の発祥地の一つだと聞いて、ほら、古典神話にもシュトルの名前が出てくるでしょ?で、旅順的に近かったから立ち寄ろうと思った。」
 エルリオの言葉に間違いはない。創世を物語る古典神話にシュトルを含む現存する幾つかの都市、地域名が出てくるのは確かだ。それに、伝承を元に見聞目的で谷に訪れる人間はこれが初めての事でもない。
「いいだろう。」
 短く答えながらヴィルは背後に立つジャスミンに目配せを向けた。ジャスミンは頷いてスタンドで立ててあるバイクに向けて踵を返した。
「本当!?」
「すごい、ドラゴンが見られるのですね!」
 顔を輝かせる二人の少女。ヴィルは肩を竦めた。
「救ってもらった恩もある。断る理由はない」
「ただし」と続くヴィルの言葉。エルリオとミリアムがほぼ同時にヴィルを見上げた。
「押印師や他所の印保持者を谷に入れるのは、俺の代では初めてだ。シュテラールらがどう反応するか…。何かがあっても責任はとれないぞ」
「シュテラール?」
 ミリアムが繰り返す。
「シュトルの竜翼の谷に生息する有翼獣のことだね」
 エルリオの足下に隠れる小さな声がそれに答えた。






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