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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT5-4
04
 傍らでミリアムがエルリオの袖を握った。
「あの人…印保持者ですね」
「やっぱり。そうみたい」
 目に見えない風が足下から木屑や鉄片を巻き上げながら渦を巻いた姿を表している。自然の風向に逆らった動きで、モスグリーンの男の足下から吹き上げている様子が分かった。
 手袋をされた手元を見ると、手の平の中で今にも暴れだしそうな風の子供が渦を巻きかけている。
(なんだろうあの印……凄まじく強力な…)
 簡単な風を起こす印ならエルリオにも扱えた。
 しかしあの男、確か風と共に空から降ってきたはず。しかも鉄と木の塊である車両の天井を突き破るほどの威力となって。
「……」
 風の合間から男の瞳がちらりと肩越しにエルリオを見やり、すぐにまたバスクスとメロウに戻された。
 彼らの間にどんな関係性があるのか知ったことではないが、とにかくモスグリーンの男に倒れられては困る。バスクスと共にいる少女、メロウはエルリオとミリアムの存在を言い当てた。あの男がいなければ、標的となるのは自分たちだ。
「メロウを返して貰おう」
 モスグリーンの男が口を開く。鋭く、憎悪の混在した声だった。
「そう言われてもなぁ。羅針盤がないと困るんでね」
 言いながらバスクスは少女を己に引き寄せた。虚ろを宿した瞳のまま、少女は無表情でバスクスとモスグリーンの男のやりとりを見ていた。
「俺の妹をお前らなんぞの羅針盤呼ばわりするな!」
「ヴィル様」
 激昂した男をバイクの女が静かに窘める。呼び方からみると、モスグリーンの男の配下にあたるのだろうか。ヴィルと呼ばれたその男は瞳に殺気を宿したまま、だが幾分か落ち着きを取り戻したようで食いしばった口元を解いた。
「そんなら、邪魔しないでもらいたいねぇ」
 喉の奥で嘲りを鳴らしながらバスクスはくつくつと哂った。
「次の、もっと良い羅針盤が見つかりゃ、メロウに用は無くなるんだからな」
 「例えば…」と楽しむような視線が、客席の間に身をかがめている二人の少女、エルリオとミリアムに向けられた。
「そこのお嬢ちゃんたちよう、どっちか「そう」なんだろ?」
「え?」
「……」
 突如はなしを振られてエルリオは思わず弾かれるように声をあげた。キューを抱いたままミリアムがエルリオに肩を寄せてくる。
「……それとこれとは話が別だ」
 エルリオの視界にモスグリーンの裾が翻る。長い足が乱暴な音をたてて目の前に立ちふさがった。足下から風が湧き上がる。
 バスクスが肩を竦めた。
「別にお前だっていいんだぜ…ヴィル」
 ゆらりと酒に酔ったような動きを見せたかと思うと、瞬時後にはバスクスの不適な笑みがヴィルの目の前にあった。
「!」
「ヴィル様!」
 バイクの女の声。ほぼ同時にヴィルの足下から吹き上げる風に鋭さが宿った。
「ちっ!」
 ヴィルの全身を纏う風が瞬時に沸点に到達したかのように猛り狂い始めた。右手を前方に薙ぎらせると風の筋が鎌鼬となってバスクスを襲った。切り刻まれてはたまらないと、バスクスの体が今度は車外へと飛び出していった。
「ジャスミン!」
 ヴィルの声がバイクの女をそう呼んだ。車両から飛び出してきたバスクスに向かい銃を放つ。背後から襲い掛かる男から身をかわしながらアイドリングさせていたバイクに跨りざまにスピンさせて人波をかき分ける。車両の後方にスライディングするようにバイクを乗り捨て、片方の銃を棄てると車両の屋根に飛び乗った。
 ぽっかり開いた屋根の上に立ち尽くす虚ろな少女に手を伸ばす。
 ほぼ同時にヴィルがバスクスに向かい地を蹴った。
 全て一瞬の出来事だった。
「風よ!」
 エルリオの視界の中心で、ジャスミンの弾丸を辛うじて避けたバスクスの頭上に飛びかかるヴィル。ひときわ強烈な風が彼の体を中心に輪を描いて広がった。
 視界の隅でジャスミンが少女メロウを抱きかかえる。虚ろな瞳の少女は無抵抗だった。
 凄まじい音がして暴風が車両を巻き込んだ。ヴィルとバスクスを爆心地とし強烈な空気の爆発が螺旋を描いて外周へと広がる。
「ぐおっ!」
 バスクスの低い呻きがくぐもる。
「きゃあああああ」
「ひぃーーー」
 まるで竜巻の中心にいるようだ。その場にある全てのものが渦をまきながら空に巻き上げられていく。乗客たちは悲鳴をあげて床にはいつくばり、飛ばされないように座席や鉄筋にしがみ付いていた。
「すごい…あいたたっ」
 小さな悲鳴をあげてキューがエルリオのおさげにしがみついてきた。隣のミリアムは両手でエルリオの腕にしがみ付いている。
 懸命にあけた目の前に映る光景は、片手に風の刃を宿したヴィルがバスクスの喉を狙い腕を振り上げた瞬間だった。
「っ!」
 だが直後、指一本動かす事さえ困難な猛風の中でバスクスが動いたのが見えた。手にしていた巨大な拳銃の銃口を、ヴィルに向けて上げた。
「な…っ」
 銃声…
 とは言いがたい、むしろ爆発音がバスクスの手の中で発射される。閃光の筋が風の幕に突き立つところまでが、エルリオの視がとらえられる限界だった。
「く…っ」
 全身にビリビリと電気のようにひびく轟音、そして遠く離れたエルリオの肌をも切り裂かんばかりの鎌鼬。本能的にエルリオは両腕で顔をかばい体を丸めた。
「ヴィ…さ…!」
 ものすごい轟音の中で、若い女の声が途切れ途切れに聞こえた気がした。
「―――」
 どれくらい時間が経ったのか。やたら静寂が耳に痛い。
 実際はほんの一瞬だったのだろうが、その場にいる人々にはそれが永遠に近いものに思えた。
「あーらら」
 間延びした声を耳元に聞いてエルリオが顔を上げると、
「ひゃぁ…」
 景色は三百六十度、どこまでも広がる荒野に包まれていた。
 車輌の天井と壁は無残に剥がれ、荒野にその残骸を撒き散らしていた。木造にクッションをあしらった簡易な座席もまるでばら撒かれたチェスの駒のようにあちこちに無造作に転がっている。エルリオ達が乗車していた車輌のみならず、前後数台も含めた車輌が同じ状態となっており、呆然と体を丸めて怯える乗客の姿がここからでも丸見えとなっていた。
 その中央にいたはずの、ヴィルとバスクスの姿が無い。
「!?」
 慌てて左右を見渡すと、
「あんなところに」
 モスグリーンの男、ヴィルは車輌から弾き飛ばされたのか、車輌の外、砂の吹き溜まりの上に片膝をついており、ゆらりと立ち上がるところだった。一方、
「ちぃ…まだまだ足りんな…」
 そう低く呟きながら車輌の反対側に飛び散った瓦礫の下から姿を現したのはバスクス。黒い装束の裾が風に切られたか、ボロ布のように裂かれていた。片腕をやられたらしく、力なく垂れている。
「………ありえない…」
 エルリオが呟く。
 あれほどの強靭な風の印による攻撃を受けながら、なぜあの精霊狩りの男は致命傷を負う事なく立ち上がれるのだろう。
「あの男も、印を…?」
「いいえ」
 砂煙に噎せながらミリアムが顔を上げた。
「あの黒い人からは…感じられません。印の気配が」
「………」
 天啓印や使命印のように精霊から授けられた印を保持する者は、同じくそれを保持する者の気配を感じ取る事が出来るというのは聞いたことがある。だとするとバスクスの言う「羅針盤」とはそれを指すのだろうか。
「…何も感じられないんです」
 ぶるりと小さくミリアムの肩が震えた。
「押印かもしれないよ」
 キューが呟く。
「やっぱりそうなのかなぁ…」
 精霊狩りのルーツを紐解くと、元は宗教上の理由で精霊信仰を拒む輩の集団で「制裁」と称して印保持者を抹殺する事を目的とした過激宗教集団が始めだ。彼らは精霊に強い憎悪を抱くことから当然、印保持者や押印技術を拒んだ。押印を使用しているのであればバスクスはその類とは異なるという事だろうか。
「それにしたって、天性の印保持者とやり合うなんて…」
 印保持者の軍人に結界を容易く破られた事が思い浮かび、エルリオはこめかみにちくりと痛みを感じた。
「ヴィル様」
 ジャスミンの声。吹き飛ばされた列車の屋根から飛び降りたのか、車輌のすぐ側にメロウを抱えたジャスミンがいた。少女の細い体を抱えたままジャスミンがヴィルに駆け寄ろうと足を踏み出す。
「拒め!」
「!」
 バスクスの怒声と共にメロウの体が大きく揺れた。
 瞬間、その体から電流のような閃光が放電される。
「きゃぁ!」
 メロウの体を抱きとめていたジャスミンの全身が弾かれた。
「ジャスミン!」
 数メートル先に弾き飛ばされ辛うじて受身をとるも、両手に大きな痺れが残り立ち上がれない。ヴィルが駆け寄る。同時に、バスクスが地面を蹴るのがエルリオから見えた。
「あぶな…!」
「え…」
 エルリオの叫び。それに気付きヴィルが顔を上げた時には、メロウの体を飛び越え目の前に迫るバスクスの禍々しい笑みがあった。
「護れ!」
 硝子がぶつかり合うような硬い音がこだました。ヴィルの足下にエルリオの小柄な体が滑り込んできたかと思うと目の前に水が膜を貼ったかのように壁が現われた。間一髪、バスクスが打ち込んだ弾丸を受け止める。ミシリと音を立てて巨大な亀裂が生まれていた。
「やっぱ一発しか防げないや」
 素早くエルリオは左手の印に右手をかざし、新たな印を発動させる。音をたてて左手の指を鳴らすと、青い電流が蛇線を描いてバスクスに放たれた。
「ぐ!」
 電流は金属製と思われる武器にまとわりつくと、小さな火花をあげた。
「お前…」
 左手の甲に印を輝かせるエルリオにヴィルが軽い驚きと共に目を見開く。
「ガキが!」
「またくるよ!」
 小さな声が脇から叫ぶ。ヴィルは咄嗟に片手にジャスミン、もう片方でエルリオの体を抱えると横に飛び込んだ。ちょうどジャスミンが倒れていた場所目掛けて弾丸が打ち込まれる。地面から湧き上がる風が三人の体から重力を奪い、エルリオは不自然な浮遊感を感じた。
「くっ!」
 小さくヴィルが息を吐き出すと同時に彼の体を纏う風の一片が撓り、バスクスに襲い掛かる。それを辛うじてかわして黒い狩人は踵を返すと列車の残骸を飛び越えていった。
「戻れ!」
 バスクスの声に従いメロウの体もまた、ふわりと重力を感じさせない動きで車輌の方へと戻っていく。
「メロウ!」
 ヴィルの声。しかし車輌の残骸の上を歩いていくメロウの足取りに反応は見えない。
「待って!」
 が、ふと、その足が止まった。
「あ……」
 車輌の残骸の上、壊れた座席の陰に残っていたミリアムだった。土埃と木屑を全身から被った状態で、通り過ぎようとするメロウの腕にしがみ付くようにつなぎとめていた。一方のメロウも、ミリアムを肩越しに見下ろしたまま、完全に足を止めていた。
「何をしてる!戻れ!」
 バスクスの声も耳に入っていないようだ。
「だ…ダメ…です、…戻ってはダメ…」
 震える声でミリアムがメロウに語りかけた。
「だって貴方は、こんなにも帰りたがっているのに」
「メロウ!」
 またバスクスの怒声とともに電流が流れた。
「っあ!」
 メロウの腕をとる両手に凄まじい熱と痺れを感じてミリアムは思わずその場に倒れ込んだ。
「ミリアム!」
「………」
 一瞬、メロウの瞳に光が宿ったように見えたのは錯覚だったのか、だが直後にはもう、また深い虚ろを視に湛えて少女は踵を返すと二度と振り返らなかった。
 煩い複数のエンジン音、そして黒い狩人達を乗せた車は砂煙を上げながらその場から消えていった。
 それと入れ替わるように遠くからサイレンが木霊となり荒野に流れてきたのであった。
 




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