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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT5-3
03

「何かが近づいてくる」
 短い前髪を揺らして逃げていった風を追いかけるように、ヴィルは顔を上げた。同時にガチャリと金属が重なり合う音がこぼれる。今度は足元からごく小さな風がつむじとなって下から吹き上げて、薄いモスグリーンのコートの裾を翻した。
「列車が通る時間ではありませんか?」
 低く落ち着いた口調が足元から呟かれる。ヴィルがそちらに目をやると、彼が腰掛けていた岩場の下に若い女が立っていた。傍らには女性が一人で操るには不釣合いなほどに巨大な二輪駆動車(バイク)。
乾いた盆地は風が集まりやすい。ここらは年中どこからともなく吹き上げる涼しげな風が大地に立つ者の肌を撫でていく。麗らかな季節でさえ、肌寒いのだ。ヴィルは肌を風に触れさせるのを嫌い、常にハーフコートをまとう。対照的に若い女は両肩を出した軽装だった。
「ジャスミン」
 ヴィルは女をこう呼んだ。
「ほら」
 ジャスミンの言葉とほぼ同時に平原の向こう、地平線にそって走る線路の向こうから汽笛がこだましてきた。
「だとすると、汽車が来るのは五分後ぐらいだな」
ここいらは地形の関係で、湖を越えてやってくる遠くの汽笛が渓谷を越えて平原まで響いてくる事がある。
だがヴィルが感じた「何か」は汽車の気配ではない。
「この気配があるという事は、“奴ら”も来るはずだ…」
 胸元を握りつぶすように手を当てた後、ヴィルはその場から立ち上がった。傍らにおいてあった皮のポーチを拾い上げると、見栄えに不釣合いな重たい音をたてた。それを素早く腰に巻く。その動きをみてジャスミンはバイクに素早く跨るとクラッチを捻った。
「だからお前は来るな」
「いいえ、ヴィル様」
「…ふん」
 もはや儀式的なものになりつつある、いつものやりとりを交わしてヴィルは皮の手袋をはめた手を前方に突き出した。
「シュトルの風よ」
 ヴィルの呟かれた言葉と同時に大地が呼吸をしたかのごとく、足下から風が巻き上がり、短い前髪がうるさくはためく。風を一つ吸い込むように大きく呼吸をするとヴィルは岩場から中空へと身を躍らせた。そのまま彼の体は重力に逆らい地平線へと文字通り「飛んで」行った。そのすぐ下方、ヴィルを追いジャスミンのバイクが追う。後輪がかきあげる砂煙がまるで羊雲のように広い大地に筆を走らせていた。
「ヴィル様、あそこに!」
 ジャスミンの声と同時に指し示された方向を見ると、はるか彼方から姿を表し始めた汽車と、それと並行して走る数台の車の陰が見えた。
「奴らだ…!」
 舌打ちと共にヴィルの体は加速度を増した。

 水と緑のから一転、車窓が映す景色は一面の褐色となっていた。
「先ほどまでは水でいっぱいだったのに」
 少々青白い顔をしながらもミリアムは窓枠に手を乗せて外を眺めている。肩にはまだエルリオのコートが羽織られていた。
「暑そう~」
 初めて見る景色にエルリオも、そしてキューも窓枠に乗っかり瞬きも忘れて魅入っている。
『あと十五分ほどでシュトルセントラルステーションに到着します』
 そう車内にアナウンスが流れると、乗客は座席に広げた服やら食べ物やらを片付け始める。エルリオもコートを鞄に仕舞ってしまおうと傍らの鞄を膝に乗せた。
「あ」
 ふと、鞄の中にある水筒の中身が少なくなっているのに気がついた。
「食堂車で水を貰ってくるね」
「はい、荷物、見張っていますね」
 新しい大地への期待からか、若干頬が上気したエルリオに、ミリアムも目を細めて見送った。だが突如、
「……っ!」
 美しい少女の笑みが瞠目の面持ちに変わった。
「ダメ!」
「?」
 隣車両への接続扉に手をかけていたエルリオが振りかえるのと、
 ミリアムが座席から立ち上がりかけ、周囲の乗客が数人か振りかえるのと、
「きゃああ!」
「っい…!」
 複数の悲鳴と爆発とがほぼ同時に上がった。
 すさまじい金きり音をたてて列車は左右に激しく揺れ、そして幾度とノックしながら停車した。脱線しなかったのが幸いだが、エルリオやミリアムを含めて中途半端に立ち上がっていた乗客達は通路に放り出される結果となる。
「ぃたた…」
 恐る恐る目を開けると、あたりは煙と砂塵に包まれていた。かすんだ視界の中で倒れた乗客たちが蠢くのが見えた。すえた悪臭はおそらく油と火薬と金属の摩擦によるものだろう。
「ミリアム!キュー?」
 手探りで四つんばいのまま二人を探す。すぐに反応があった。
「エルリオさ…」
 向かい合った座席の間に丸まっていたミリアムが立ち上がりエルリオを呼ぶ。
「怪我はない?痛いところは?」
 外傷がない事を簡単に確認し、エルリオは鞄を拾い上げると散らばった中身を素早くかき集めて詰め込み始めた。
「早くここから離れよう」
「え?」
 問い返しながらもミリアムもそれに倣う。
「事故だとしたら軍の警察局が現場に来る。見つかったら厄介だよ」
「た、大変…でも、エルリオさん…」
「なに?」
 ミリアムの手が止まる。
 釣られてエルリオも、顔を上げた。
「何かが…近くにいるんです」
「『何か』って…」
「これは恐らく、事故ではないのではないかと…」
 ミリアムの語尾を弾き飛ばすように、また爆発音が間近で起こった。
 砂塵と共に乗客の悲鳴が再び上がる。ふりかかる木屑や鉄の破片。エルリオは手にしていたコートでミリアムを包み込むと自分もその場で丸くなった。
「出て来い!人外!」
 喧しいエンジン音と複数の足音、そして低い怒声。恐る恐る座席の背から顔を上げると、車両の天井が破壊され、そこには果てしない青空が広がっていた。そして、列車を取り囲む幾人もの人影たち。
「列車強盗かなぁ」
 キューの呟き。
「列車強盗??」
 思わずそれを鸚鵡返しにしてしまったエルリオは、はっと口を噤んだが、手遅れだったようだ。
「列車強盗??!!」
「きゃーーーー!!」
 乗客の悲鳴を皮切りに、恐怖は次々と伝染していき車両中に悲鳴の波が通り過ぎた。
「死にたくなきゃ静かにしろ!」
 また低い怒声と共に銃声が一発。
 悲鳴は引きつった呻きに変わった。
「……」
 小さな体を座席の間に隠して身を縮めながらエルリオはほくそ笑む。
 迷惑なことには変わりが無いが、事故よりは楽だ。騒ぎに乗じて逃げ出してしまえばいい。
「関係ない奴まで殺すつもりはねぇ。だからケガしたくなきゃ大人しくしてるんだな」
 強盗のリーダーらしき男が車両に乗り込んできた。大型のオートマ式の銃を片手に、そして背にもライフルに似た銃が背負われていた。いずれも、対人用にしては巨大すぎる印象がある。
「この列車に乗ってるはずだ。いるんだろ?精霊の印を持つバケモノが」
(!?)
 エルリオは息を殺した。思わずミリアムを抱える腕に力がこもる。
(まさかこれが……精霊狩り…)
 精霊狩り。
 印保持者や押印師を狙った強盗・誘拐団の総称。
 タイプは幾つかに分かれており、一つは世界全土に広がる精霊神信仰をよしとしない集団の中でも、最も過激行動を行う一派で、印保持者や押印師を狙い見せしめ目的で殺害する宗教的な理由から派生した一派もある。または、人身売買目的の一派もおり、目的は様々だが手段は同じで、そのために役所が管理する個人情報を狙う窃盗団も横行しているという。
(こいつらは何のために…?誰を探しているの…ミリアム??私?それとも他にこの列車に…?)
 乗車券は偽名で買った。乗客リストがこの集団に流れていたとしても、二人が印保持者と押印師である事が知られるはずもない。
「名乗る気はないか」
 無反応に痺れを切らした男は安全装置を解除した状態の銃を指先でくるりと回してみせる。
「あまりゆっくりは出来ないんでね。軍に駆けつけてこられちゃたまんねぇ」
間違って引き金に触れればいつ発射されてもおかしくない状態である。
「メロウ!」
 男が背後に向かって叫ぶ。列車の外、荒野に居並ぶ男の手下らしき面々の中から、前に歩み出る者がいた。細い影。
「………は…い」
 細い声。
 少女だった。
 金髪に近い茶色い髪を無造作に横に束ねられ、来ている物も町娘の物とは違う、男らが身につけている黒い装束に似たワンピースを着ていた。
 まるで人形。そんな印象を与える。
「どいつだ。メロウ。この車両なんだろ」
 人形の細い首が、かくりと縦に振られる。
「……」
 エルリオの心臓が大きく鳴った。焦点がうつろな少女の瞳がふらふらと車両内を漂っている。被せたコートの下でミリアムの体が小刻みに震えていた。
(あの娘は一体…)
「そこ……」
 細い腕が、細い指が、
「!」
 座席の間に身を隠すエルリオとミリアムに向けられた。
「くっ…」
 逃げなければ。
 反射的にエルリオは右手を構え、印を左手に宿そうと意識をこめた。だが次の瞬間には、
「バスクス!!!」
「!?」
 新たなる声が空から降りかかり、エルリオの意識はそちらに向けられた。
 破壊された天井から見える青空。その青に溶け込むかのような、薄いグリーンのコートが視界いっぱいに広がった、かと思うとそれは凄まじい風の塊と共に男の頭上へと突落した。
「やはり来たな!」
 そう叫んで男は風をかわして崩れた天井へと身を移した。車両の周囲に控えていた男たちが武器を手に一斉に動き出すが、目の前に滑り込んできたバイクに妨げられ動きを失い、直後には車上の若い女が放った銃弾の雨により次々と倒れていった。
「???」
 そこで何が起こっているのか、もはや把握する事はできない。さきほどから乗客たちはただ次々と起こる爆発から身を守るだけに精一杯となり、落ち着いたかと思えばまた新しい誰かが現われ…。
「………一体…」
 コートの下からミリアムが顔を出す。腕にはキューが抱かれていた。
 車両の天井には精霊狩りの男。バスクスとは恐らくこの男の名なのだろう。腕にメロウと読んでいた人形のような少女を抱いている。
 その二人を見上げる、薄いモスグリーンのコートの男。短くはねる金髪の青年だった。
 車両のすぐ脇には、両手に銃を構えた若い女がバイクから軽い身のこなしで飛び降りたところ。着地して振り向きざまにまた一発、背後から襲ってきた男に一発、撃った。
 何が起きているのかは分からない。
 だが一つエルリオに分かる事があった。
 あのグリーンのコートの男に死なれては困るという事だった。






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