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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師ACT5-1
ACT5 流浪する花

01
 国営バスや路面電車は、いつでも混雑している。最もそれが顕著なのが、ACCと郊外を結ぶターミナル駅への接続線だ。市内中心部ではピーク時に五分置きにやってくるのだが、市内から郊外へ向かう線の数は逆に比べて若干少ない。そのために、平日の午前中といえども、人と人とか触れ合いそうな程度には混雑する。
 午前十一時。通勤や通学による混雑もすっかりなくなった時間帯、ACCと東地区を結ぶ列車が発着するターミナル駅に一台のバスが到着した。大小さまざまな荷物を持った様々な風貌の乗客たちがバスから吐き出されるように降り立ち、その中に小さな二つの人影もあった。
「ふー、息苦しかったぁ」
 そう停留所のポスト付近で大きく伸びをするのは小柄な少女だった。おさげに結わえた髪が体の動きにあわせてコミカルに動く。小さな背中が隠れる程よい大きさのリュックを背負っていた。
「いいお天気ですね!」
 おさげの少女より少し遅れてバスを降り立った、こちらも小柄な少女。肩から鞄をかけており、鍔のひろい帽子を目深に被っている。おさげの少女の倍はありそうな長く黒い髪の毛を後ろで束ね、こちらも体の動きにあわせて漣のように揺れた。
 おさげの少女はエルリオ・グレンデール。黒く染めた長い髪の少女は、ミリアム。
 そしてエルリオのリュックにつめこまれている荷物の一つが、キューだった。今頃はリュックの底でふてくされているのだろう。
 次の列車の発車時刻が迫っていた。二人はチケットを握り締めて足早にホームへと駆け出す。傍から見れば、幼い姉妹が田舎に遊びに行く、そんな光景にしか見えないであろう。誰が片や亡国の末裔で、片や闇の押印師であると思えようか。
 何も知らぬ乗客たちと、二人の少女を乗せた長距離鉄道が発車の時刻を向かえ、長い長いプラットホームから滑り出していく。平日の昼。都心から郊外へと向かう長距離列車は空いていた。少女二人は向かい合って座り、お互いの荷物を脇の座席に置いてようやく一息ついた。
「窓、開けてもいい?」
 額にじんわりと汗を浮かべたエルリオ。同じようにまだ荒い息をついているミリアムが嬉しそうに頷いた。急に開けた景色から吹き込んでくる風は温かな午睡の陽気のようだ。窓から見える景色は、トンネルを一つ抜けたところで急に田畑が敷き詰められた田舎の風景に変わっていた。
 ようやく、「旅に出た」という実感がわいてくる。
 アパートは、引き払ってきた。元々、偽名と偽装身分証を使って借りていた住まいだ。捨てるのも簡単だった。長い旅になるであろう事は想像できたし、状況によっては二度と戻る事は出来ない可能性も考えておかねばならなかった。それは「覚悟」として。
 軍が追う「鍵」。
それを手中に収めた事は、エルリオにとってこれ以上ない幸運だった。しかもそれが、得意とする「精霊の印」であること。これを自ら解明し、利用してやる事で軍に打撃を与えられるかもしれない。
 ピルケースを開けた瞬間から、急に目の前に道が開けた気がした。非常に単純明快な公式が音を立てながら組み立てられていく様が脳裏に浮かんだ。
 世界を破滅させる可能性を秘めているという、強大な印。軍の元研究員でもあった父の所蔵や資料に何一つ手がかりらしき事を見つけられなかったのだから、軍でも恐らくその詳細を掌握してはいないだろうと、エルリオは踏んでいる。
「印はね」
「ん?」
 エルリオの口からぽつりと言葉が漏れる。窓枠に両手をかけていたミリアムは姿勢を戻した。
「形が複雑であればあるほど、原始に近いんだって」
 先述したように、印は同じ系統の中で幾重にも種類が派生しており、そのルーツは非常に根深いものがある。ピルケースに入ったあの印は、これまでエルリオが見てきた数多の印の中でもっとも複雑なものだった事から、「印」についてのルーツを探るのが先決と考えたのだ。
「そうなんですか、逆かと思っていました」
「精霊の印はね、軍事の実用化を皮切りに非公認押印師の暗躍により民間レベルにまで広がった。印に関する資料は焚書も含めて山とあるんだけど、でも概してその起源や、そもそも印とは何か、その存在について記したものは少ないの。みんなそんな事には興味がないんだ。お金になるのは実用だけだしね。」
「……その中でも特に…なのは、やはり軍需なのですよね、きっと」
「……」
 哀れみにも似たミリアムの静かな声。一呼吸置いて「そうだね」とエルリオが応える。
「実際、お父さんの資料の中にもそれらしい物は何もなかった。お父さんも結局最初は、軍つきの研究者だったから…ね」
「でも」とエルリオの言葉が続く。声調に陰は見られず、静かながらむしろ揚々としており、ミリアムは安堵の息を一つ吐いた。
「でもね、お父さんの書棚にあった古典神話の一節に、印の始まりじゃないかと見えるのがあるの。
『世界は始め、一枚の紙だった。創世神は筆をもつとそこに五つの大陸を描き、それぞれにことなる模様を描いた。それが最初の命となり、それぞれが大陸の長と定められた。創世神はそれぞれに筆の毛を分け与え、それぞれの長はその毛で筆を作った。その筆で五人の長たちは白紙の神に次々と文字や絵を描き、それらが民となり、獣となり、山河となり、村となり、国となった。』
…ってね。」
「その筆で描かれた模様が、印?」
「そう。だからきっと、今現在、幾万とある印が元はたった五つの印から始まったんじゃないか…ってわけ。」
「………五つの模様…五つの大陸と長…」
 胸元に隠したペンダント状のピルケース。そこにミリアムはそっと指先を添える。服生地の下に固い感触。押すと、肌に冷たい感覚が伝わった。
「あれが世界の運命を左右するほどの物であるという言葉と照らし合わせると、つじつまが合いそうですね」
「命に代えても軍からそれを守ろうとして亡くなった人間もいる…」
 その事実を、忘れられない、決して忘れてはならない。
 窓から吹き込んでくる風が強い草の匂いを運んできた。視線を窓ガラスの向こうに戻す。景色は変わらず敷き詰められた田畑のまま。あぜ道の人影が一瞬のうちに後方へと流れていく。次々と流去って行く、決して手の届かない景色たち。
 二度と取り戻せない過去と似ていた。
「……」
 少女二人の口がつぐまれ、会話が止まる。規則正しく足元からの鼓動音。閑散とした車内の微かなざわめきや、あちこちで開けられた窓から飛び込んでくる牧歌的な香り。
 車内は、静かだった。



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