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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT1-1
ACT1:ジャックニコル通りの押印師


01


 軍事政権を中枢に据える小国アリタスの首都は、その名の通り「アリタス・セントラル・シティ」と言う。略してACC。首都ACCの中心地から東南に約二十数キロ下ると郊外となり、俗に「ACCアウトアーバンエリア」などという造語で呼ばれている。
 ACCとアウトアーバンエリアを跨ぐ、周囲で最も長く大きな通りがある。大きな道標に「メルリン職人通り」と書かれているここは、政府に認められた技術者資格「マイスターライセンス」を持つ職人達が店を構えて集う。それ故、アウトアーバンエリアのみならず、セントラルからも多く人が集まる。
「いつも助かります」
 店の一つから、少女の声が飛び出した。印刷機のマークが描かれた看板を掲げる活版印刷屋から、大判の袋を胸に抱えた少女が出て行くところだった。茶色い髪の毛を肩の高さで左右に結んでおり、クリーム色のブラウスと相まって素朴な雰囲気の娘だ。
「おっと、ごめんよ」
「きゃっ」
 飛び出したところで、背の高い人影とぶつかりかける。人影は、緑地の軍用服を身につけており、肩に小銃を担いでいる。アリタスを統治する国軍の警察局に所属する、巡回兵だった。
「あ……す、すみません」
 自分がぶつかりかけた相手が軍人だと知り、畏怖のためか声を落として少女は頭を下げた。まだ若い兵士は少女を怖がらせまいと「大丈夫かい」と微笑むが、少女には見えていない様子だ。
「すみませんでした」
 視線を逸らしたままおざなりに頭を下げると、少女は石畳に靴音を響かせながら走り去ってしまう。
「ああびっくりした」
 呟きながら少女は、道端に立つ時計塔を見上げる。家に戻らなければならない時間が迫っていた。人とぶつかりかけた事も忘れて少女は走る速度を上げた。もう一軒、寄らねばならない店がある。
「おじさん、いつもの下さい」
 目的の店に入るなり、少女はカウンターに向けて声を上げた。背後でドアベルが乱雑な音を立てているが、幸い店内には他に客がいなかった。カウンターの奥から緩慢な足取りで小太りの男が顔を出す。
「ああ、エルリオか。ちょいと待ってな」
 騒々しい馴染み客の姿を見とめて、店主は奥から茶色い小さな袋を持ち出した。それを少女に放る。
「危ないよ、割れ物が入ってるのに」
 慌てて受け取って、エルリオと呼ばれた少女は、不自然に大きく膨らんだエプロンスカートのポケットに手を突っ込んだ。財布を出そうとして、ポケットの中に突っ込まれていた白い物体が危うく飛び出しかける。
「今日も連れ歩いてんのか、その縫いぐるみ」
 カウンター越しに、店主が覗き込む。少女の腹ポケットの中には、無理やり変な姿勢で縫ぐるみが詰め込まれていた。窮屈そうなその様子に、縫いぐるみとはいえ店主は同情する。白い作り物の長い耳が不恰好に捻じ曲がってポケットから飛び出した状態になっていた。
「うん。相棒なの」
 縫ぐるみを愛でる少女の児戯な趣向に小さく笑って、店主は代金を受け取った。
「ま、ペットみたいなもんなんだな。俺んとこも犬コロがいるけど、長年一緒にいると情がうつるもんでなあ」
「私も昔、おっきな犬かってたよ」
「ほほう、そうかい」
 店主が釣りを用意する間、エルリオは飛び出た白い耳をポケットの中に詰め込む。仰向けにされた縫いぐるみについたプラスチックの瞳が、恨めしそうに天井を向いていた。
「はいよ」
「ありがとう」
 釣りを受け取ると、エルリオはまた店外に飛び出していった。今度は巡回兵がいないかどうか確かめてから、通りを横切っていく。再び時計塔を見上げると、約束の時間まで間もなくだった。
「まずい、お客さん来ちゃう」
 幅の広いメルリン通りを横切って、エルリオは小さい横道から路地裏へ飛び込んだ。そのまま、小さな裏道を更に二つ横切る。すると、途端に周囲の風景が変わった。
 メルリン職人通りから東に二本目の位置に、ジャックニコル通り(JN通り)という、これも職人通りがある。都心から見て東に半径二十二キロ地点にあるその通りは、隆起した丘の麓にあたる少々陥没した地帯を縦断するように伸びており、地図によっては名前も載っていないほどの細い裏通りだ。人間二人がようやく並んで歩けるほどの道幅で、足下は整備状態の悪い石畳。空を覆うように立ち並ぶ中層の建物を見上げて歩こうものなら転ばずにはいられない。
 メルリン通りと比べ、ここJN通りには看板の一つも見えやしない。ここは公の登録を受けていない職人達の坩堝、いわゆる職人通りの影なのである。
 JN通りの北の入り口から五件目に、三階建ての崩壊寸前のボロアパートメントビルが建っている。エルリオはそのアパートの外階段を勢いよく駆け上がった。鉄階段は長い間外気と雨に晒されたせいでひどく錆臭い。鉄階段を小刻みに叩く足音を連続させ、三階まで一気に駆け上がる。非常口から内廊下へと入り、最奥の扉の鍵を開けて中に滑り込んだ。心地悪い蝶番の軋音をたてて扉が背後で閉まる。急いで鍵を閉めた。
「ただいま」
 玄関から見渡せる広いリビングらしき部屋は、コンクリートがむき出しの灰色の空間だ。その中央に置かれた机と三脚の椅子そして、カーテンが完全に閉められた窓際においてある本棚が、そこにある家具らしきもの全てだった。
「時間ギリギリだ、お父さんの出番ですよ~」
 エルリオはテーブルの上に二つの紙袋を投げ捨てるようにして置くと、部屋の隅のドアから奥の部屋へと滑り込んだ。騒々しく扉が閉められ、しばらく静寂が横たわる。
 数秒後、金属音がして再び扉が開かれた。
「十時半……もう来る頃かな」
 エルリオが姿を消した部屋の扉から、今度は男が姿を現した。中肉中背の背格好で年のころは三十代半ば。ところどころブラウンがかかった金髪と、茶褐色の瞳を持っている。
「お客さんが帰るまで、大人しくね」
 奥の部屋へ向けてそういい残し、男は後ろ手に扉を閉めた。二つの茶色い紙袋が置かれたテーブルに歩み寄り、乱雑に散らばりかけた袋の中身を正す。
 そうするうち、玄関の向こうに人の気配が近づいてきた。
「きたかな」
 呟きながら、男は顔を上げた。
 男の直感は正しくちょうどその時、三階へと続く外側階段を昇ってくる人影があった。
 訪問者はやたらと周囲を気にしている。
 丸めた背中のせいで面持ちは分かりづらいが、背格好からして中年の男といったところ。一歩一歩、薄暗い階段を用心深く上がってきた。
 訪問者は非常口から内廊下へと入ると、再奥の扉を目指した。この訪問者がこの場所に来るのは初めてだが、一本廊下の再奥に位置するその部屋のドアはすぐに分かったようだ。
 表札の無い鉄のドアをノックする音が室内に響き渡った。
「先日、電話で話した者だ」
 扉の向こうからの名乗りに、「お入り下さい」と部屋の主であるワイヴァン・グレンデールは低く応えた。
 声に導かれて訪問者は、ノブに手をかけて強く押す。
 それに合わせて、ワイヴァンは椅子に腰を下ろした。
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この記事に対するコメント
さっそくA&Cから来て見ました。さくらみかんです。
すごくミステリアスな文章ですね。
歯切れがよくて、スラスラ読めてしまいます。
謎がたくさん絡んで、ドキドキの小説と聞いて(読んでおりますので)楽しみに読みススメさせていただきたいと思います。
文章読むのが遅いのでちょこちょこコメント残すことになると思いますが、邪魔がらないで許してなってくださいね。
【2006/05/11 ()】 URL // さくらみかん #bXefcIJo [ 編集 ]












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