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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT4-5
05
 常温が保たれているはずの室内に一筋に涼風が吹きぬけた気がしてアリサは手を止めて肩を竦めた。感傷的なグスタフ准将の声、言葉になるべく意識を向けないように努力するのだが、如何せんそう広くはない室内、無視するのも不自然に思えたが、今のアリサの立場では言われたままに仕事を続けるしかなかった。
「ダメだな!年くった証拠だな」
 グスタフは窓から視線を戻す。すでに勢いよく入室してきた時と同じ面持ちに戻っていた。
「そういう訳だ、シールズ大佐。国境線近辺への注意も怠らずに調査を続けてくれたまえ。また邪魔しに来る」
「は!」
 踵を返す将軍にシールズが再び敬礼。それに倣い二人の尉官も礼をとった。
(こ、これには敬礼しなくてもいいの…よね?)
 アリサは肩越しにこっそり後ろを見やる。准将とがっちり視線が合ってしまい…、
「手が止まっているぞ」
「は、はぃ!申し訳ございません!」
 結果的に敬礼をしたがために、更に手元にあった資料を全て落として仕事を増やしてしまうのだった。
「ははははは」と笑いながらグスタフ准将は部屋から出て行った。大きな歩幅でガツガツと廊下を歩いて遠ざかる音。それが止む頃に、今度は逆方向から複数の忙しない足音が向かってきたかと思うと、
「失礼します!」
 と若い男女二人が半ば駆け込む形でやってきた。同じ顔をしている。
「………」
「今度はなんだ」といった風に出迎える室内の面々の様子に女の方が気付いて敬礼する。
「騒々しくて申し訳ありません!私はライアン・グスタフ准将が護衛官、ソフィア・リディル中尉であります」
「オースティン・リディル中尉であります」
 少々有名な双子の尉官であった。射撃や体術の腕と両者の連携を買われて現在はライアン・グスタフ准将の護衛官を勤めている。
「ああ、准将なら先ほど出て行かれたばかりだぜ」
 ランドが答えるとほぼ同時に二人は「恐れ入ります!」と声をそろえて再び部屋を出て行った。バタバタと廊下の奥へと足音が去って行く。
「やれやれ。行動範囲が広い上司を持つと部下は苦労するな」
 護衛官に告げぬまま会議から直接ここにきたのであろう准将の行動力にシールズは肩を竦めた。
「書籍の入れ替えが終わりましたので、私も失礼致します」
 機を見て本棚の前から出口へと移動していたアリサが小さく敬礼し、未だ残る騒々しい風と共に扉の向こうに去っていった。
「ご苦労」
 ようやく室内に元の空気が戻ってきたようだ。
「それにしても…」
 准将が残していったファイルを眺めながらアイラスが呟く。
「このファイルを見る限り、准将は勤務時間外の殆んどをこれに費やしたと見えますが」
「俺なら勤務時間以外にこんなもん作ってたら寝る時間がなくなりますよ」
「いや、お前には足りないだろう明らかに」
「む……っ…うん…足りないな…」
 ランドとアイラスのやりとりを軽く笑い飛ばしてからシールズは一つ長い息を吐き出した。
「実際そうなのだろう」
「グスタフ准将は随分と「彼」にご執心なんすね」
「……」
 ストレートなランドの問いにアイラスは僅かに目を細めるが、シールズは気にしている様子はなく頷いた。
「イーザー将軍の探索任務メンバーに任命されずに激怒したって話だ。そもそも三年前のアパートメントを軍が突き止めたのも、唯一コンタクトをとっていたグスタフ准将の身辺を内密調査した結果だというしな」
 その当時、グスタフ准将は未だ佐官の地位におり、当時の直属上司である准将に食って掛かったのは一部で有名な出来事だ。こうした私情を交える恐れのある立場の人間を正式任務から除外するのは定石である。
もっとも、それに大人しく従う性分でもないわけだが。
「『執心』つながりで、疑問があるんですが」
 とランド。手元の資料を丸めてホワイトボードに描かれたチャートを指しながら。
「なんだ」と答える代わりにシールズとアイラスがほぼ同時にそちらを振り向いた。
「イーザー将軍と、彼が持つ『鍵』にたどり着くために」
 ランドの手に丸められた資料が、チャート上に書かれたそれぞれの名前を辿る。
「その『鍵』を託されたと思われるミリアム、ミリアムから託されたシェファルト、更にシェファルトから託されたグレンデールの娘…結果的に我々は将軍と『鍵』の行方にたどり着くためにミリアムとグレンデールの娘も有力な手掛りとして追っているわけです」
その動きが、ミリアムと「彼」の間に引かれた線の上で止まった。
「それで?」
 アイラスが続きを促す。
「アイラスの証言によれば『鍵』も結局シェファルトが所持していたという事は元々ミリアムの手にあったわけですが、そしたら何故将軍はそれをミリアムに託したのか。」
 シールズは黙って耳を傾けていた。
「将軍と、ライザの末裔であるミリアムとの立場的な関係性は、戦後処理の過程で関わる可能性が濃厚だとしてまだ分かります。しかし、その後ごく短期間のうちに将軍はまだ赤ん坊のミリアムを伴い強引に軍を退役なさっている。そして三年前のアパート騒ぎで再び行方不明となり軍がミリアムを拘束するまで彼女とずっとすごしており、すでに『鍵』は秘密裏にミリアムに託されていた。それだけの事をする動機が、どうにも俺はこの線上に見出す事ができないんですよ」
 ミリアムとイーザー将軍の間に引かれたホワイトボードの線。少々消え掛けた線を、徐にアイラスがマジックを手に取り引きなおした。「キュッ」と小気味良い音が転がる。
「動機?」
 好奇心が混在した悪戯な少年のように、シールズ大佐はボードを指差した。
「何故イーザー将軍はミリアムを伴い軍から離れる必要があったんすかね」
「そんな込み入った事情は知らん」
「この両名をつなぐこの線が、」
 ランドの手がボードの線を二度、叩く。指の背にインクが付着したのをランドは無造作に軍服に擦り付ける。
「何かしらの『情』によるものなのか、『利害』によるものなのかを知る必要は…あるんですか」
「………何を言い出すんだお前は」
 苦笑しながらシールズは立ち上がる。ホワイトボードの前にたつと、線の上に添えられたランドの手を軽く叩いた。
「いいか、それが『情』によるものならスキャンダル、『利害』によるものなら国際問題だ。疑問に思う気持ちは分かるが、それを公の場で口にするなよ。市井レベルにまで漏れたら更に事態が混乱する。俺達はただ、そこにある『状況』だけを見ていれば良い。というより、そうでなければならない。我々に与えられた任務の最優先事項はイーザー将軍だ。彼さえ軍に戻ってきてくだされば、全てが解決する……我々にとってはな」
「……はい、了解っす」
 存外、釈然としない様子でもなく、ランドはあっさりとシールズの忠告を飲み込んだ。軽口を叩く性分に見られがちだが、彼も子供ではないという事なのだ。





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