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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT4-4
04
 アリサは今日も本を抱えていた。
積み上げて体が隠れてしまうぐらいの本やファイルを抱えて遠慮がちに歩く姿が、毎日のように軍部敷地内のあらゆる場所で見られるのだが、それを気に留める者は極端に少なかった。
「アリサ・ラフォント君」
「あ、は、はい」
 名を呼ばれてアリサは振り向いた。
「これも頼むよ」
 と無造作に積み上げられた本の上に更にファイルを足された。先輩にあたる尉官の男は何事もなかったかのように同僚と共にその場を立ち去ってしまった。
 職場の人間は彼女をこうして揶揄をこめてフルネームで呼ぶ者が多い。絶世の美女である事で有名な同姓同名の女優がいるのだが、アリタス軍中央部情報課に所属する新米下士官のアリサ・ラフォントはそれと似ても似つかない。
不細工ではないが、華がないのだ。司書の資格を持つ彼女は軍部でひたすら毎日、ありとあらゆる「紙類」に接する日々を過ごしている。アーキテクチャー論上、たいていの施設では「資料室」「図書室」といった空間は隅に追いやられがちなものであるが、軍部においてもそれは例外でなく。
「隅っこが私にはお似合いだわ」
 そんな自覚もともなって彼女の地味さに更に磨きをかけていた。外貌に見合い、もともと社交的な性格でもなく、彼女は現状に満足している。ただ、もう少し無難な名前にしてほしかったと両親にたわいもない文句を持っているだけ。
 彼女の現在の主な業務は、平たく言えば軍部内の「資料整理係」である。だがいずれ資格をとり高級書記官になるのが彼女のささやかな夢だった。高級書記官の中でも更に出世すれば、将軍や総統の専門書記官の席がのぞめるが、彼女はそこまで高望みはしていない。
 現在でも新米とはいえ、ちょっとした会議の書記や、佐官クラスが取り扱う書類を手にするぐらいの機会と権利は彼女に与えられていた。もっとも情報漏洩は大罪にあたるため、何かあれば新米とはいえ首が飛ぶ。そこもアリサはちゃんと自覚していた。
「失礼いたします」
 大量の資料をかかえてアリサはとある佐官室へと入る。ここは諜報に長けたジョシュ・シールズ大佐を主としている。
「やあ、いつもありがとう」
 そう彼女は出迎えたのは当のシールズ大佐だ。部屋全体を見渡せる位置にある、ベッドほどの大きさはあろうかという巨大なデスクの向こうにいた。見慣れたアリサの姿を一瞥して、すぐにまた手元の書類に視線を落とす。アリサはいつものように部屋の脇に設置された資料棚へと向かった。デスクの脇に、部下だろうか若い男が二人、立っていた。さりげなく制服の作りを観て彼らが尉官である事を知る。片方の顔には見覚えがあった。確か、生まれながらの印保持者としてちょっとした有名人の、アイラス大尉だ。
「その少女がワイヴァン・グレンデールの娘であることは確かなようだな」
「はい。学園に提出させたそちらの在籍証明書類が決定的かと存じます」
 三人の会話が流れてくる。
(…女の子を捜しているのかしら?)
 棚の前に陣取り、大量の資料の入れ替えと整頓などを行いながらアリサは三人の会話をBGMにしていた。
「しかし肝心の父親の足跡は五年前に住んでいた借家までしか辿れない…」
「ええ」
「技術を他国に横流しする事態だけは避けて欲しいものだが…追跡が途切れているとしたらなんとも言えんな…」
「娘が国内にいるのだとしたら、その可能性は低いのでは?」
「分かったものか。旧ライザの亡霊やあまつさえディノサスのハイエナどもも訝しい動きをしているというし」
(うわー…物騒な話ね)
 肩をすくめながらも聞き流す振りをしてアリサは作業する手の動きを速めた。
「大佐、いるかな」
 外からノック。
「失礼するぞ」
 返事を待たずにドアが開けられた。ほぼ同時にカツッと軍の長靴が床にあたる音が二つ、そして椅子から立ち上がる音が一つ。
「!」
 慌ててアリサは手にしていた資料をその場に置き、振り向いた。
 入室してきたのは、准将の位を持つ将官、いわゆる「将軍」様であったのだ。
「は!」
 二人の尉官とシールズ大佐は背を伸ばして敬礼し、将軍を出迎える。アリサもそれに倣った。
「急に悪いな。ちょうど近くで会議に参加していたところだったんだ」
 温和な口調でそう微笑んだのは、ライアン・グスタフ准将。
 先の対ライザ帝国との戦いで指揮をとり戦果を上げ、数年前に将官に昇進したばかりの新任将軍だった。齢四十前の、将官としてはまだ若い。なのに驕る態度もなく、部下に友人のように接する事から若い士官達には受けが良かった。「楽な姿勢でいい」とシールズ大佐に着席を促し、自らは立ったままでシールズから報告書類を受け取った。
 軍服は基本的にどの位でも深緑と黒で統一されているが、将官の場合は軍帽のデザインが他の仕官たちと異なる。アリタス軍の紋章をあしらったプレートが縫い付けられているところは同じなのだが、鍔が無く一見したところ略帽のようにも見えるが、黒の縁取りは幾重にも編みこまれたシルクに金糸が織り込まれているもので、裾の長い将校制式服と合わせるといかにも厳しく、将に相応しいそれだった。
「君も仕事にもどっていいよ」
 傍らの資料棚で直立敬礼し、半分ぼんやりと制服に見とれていたアリサに小さく笑う。
「は、はい、将軍閣下」
 緊張のあまりに、壊れたブリキ玩具のようにようやく返事をしてアリサは再び資料棚と向き合った。
 シールズ大佐の報告書に目を通してグスタフ准将は己が抱えていたファイルの一つを大佐に手渡した。
「これは…」
「どうも現場時代のクセが抜けなくてね、貧乏性も抜けないし」
 グスタフ准将が手渡したファイルは、先日しかれた全ての検問所近辺での調査結果と、反応があった区域周辺に的をしぼったこれもまた重箱の隅をつつくような興信調査の結果を記したものだった。
「まさかこれ全部…ご自分で…調査されたので?」
 尋ねたのはアイラス大尉の横にいたブライトナー大尉。尊敬とも畏怖とも、「呆れている」とも言える色を両眼に浮かべているようだった。実際、グスタフ准将は「鍵」と「彼」の失踪から端を発した一連の押印師騒ぎの調査任務は担務の範囲外で、正式な任務担当指揮官であるシールズにこうして接触する事は個人的な約束レベルで内密とされていたのだ。
 アイラスの言葉には無意識に「忙しいのにいつ仕事しているんだ」という揶揄が含まれていたが、それを受けて「はははは」と笑い飛ばす将軍閣下。どうせここにいる全員にそう思われているのだから。
「まさか。いろいろ、あるのだよ、うん」
 人を煙に撒くような笑みで頷いた将軍はそれ以上語らずシールズ大佐のレポートを机に戻した。
「私情を挟んでばかりで申し訳ないとは思うのだがね…」
 グスタフの声に靄がかかる。
「いえ、このように我々では及ばないデータまでご提供下さりご助力痛み入ります」
 素早く中身に目を通しながらシールズが浅く息を吐いた。軍が進めている調査とは異なった切り口で、おおっぴらに外には出せないネットワークを駆使して集めた情報だった。これをどう正式な調査に盛り込むかが、将官を補佐する佐官としてのシールズの頭の見せどころだと言えよう。
「あいつが軍を離れると言った時にもっと強く引きとめていれば事態は変わったんだろうな…」
「……」
 机に添えられた将軍の手の平が強く握られる。それに気付いてシールズが見上げると、グスタフ准将の視線は窓の外に向いていたが、恐らくは何も映っていないのだろう。
 グスタフの言う「あいつ」は「彼」である事は、シールズ含めアイラスやランドにも分かっていた。准将が「彼」の友人で共に十数年前の戦いを共有し、「彼」が半ば強引に退役した後もしばらく連絡をとりあっていた唯一のパイプ役だったのも准将であったし、その事実はこの任務に関わる人間の多くは知っていた。准将がこの任務に正式任命されなかった理由もそこにあるという事実も含め。
 そして「彼」とは、十三年前に英雄として名を馳せた将軍、グレン・イーザーである事も。
 しかし「鍵」の正体を知る者は少なかった。
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