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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT3-10
10

 手配書は、数種類用意されていた。
 そのうちの一つは、サイクルがエルリオ達の元に持参した物で、内容は「賞金付きの指名手配人」。罪状は軍務執行妨害とあった。ちなみにミリアムについては頭髪の色には言及していない。
 もう一つは、主に学校や教育機関など、十六歳以下の児童が多く集う場所向けに作られた物。内容は「行方不明者捜索協力願」。
 ACC士官候補生育成学校、略してACC仕官候校には、後者が配られていた。
 教室で配布された手配書を見て、ジュスティー・スタインベルクは文字通り息を飲み込んだ。喉まで言葉が出かけたが、何らかの気持ちが働いてそれを押し込めた。
 手配書には二人の少女の人相書き。
 その片方はかつての同級生、エルリオ・グレンデールではないのか。
 反射的に、斜め前に着席している女子生徒カノンを見やれば、彼女も手配書を凝視して、瞬きを忘れているように見えた。彼女もかつて、エルリオと同級生だった過去がある。だが彼女もジュスティーと同じく、言葉を飲み込んで、じっと時をやり過ごしているように見えた。
「あの書類…やっぱりエルリオよね?」
 昼休みにそう声をかけてきたのは、カノンの方だった。
「やっぱり。で、どうする?」
「どうするって…」
 ジュスティーの問いにカノンは言葉を詰まらせた。
「俺達がこの人物、エルリオ・グレンデールを知っているという事について、報告する必要があるのだろうかという事だよ」
「知っていると言っても…これ行方不明捜索願でしょ?私達、彼女が今どこでどうしているかなんてわからないじゃない。あの子、学校には来ていなかったし」
「俺にはこれが指名手配書に見える」
「え…?」
 ジュスティーの頷き。カノンの喉が小さく鳴った。
「体よく書いてあるけど、これは彼女の素性を探る指名手配書だと思う。つまり、この人物が『エルリオ・グレンデール』であるという事実も、この手配書は欲していると思うんだ」
 捜索願い届けには、エルリオの名は記されていなかった。
「………どうするって、どうするの?ジュスティー」
 カノンの面持ちには焦りが浮かんでいた。
 とはいえジュスティーとカノンの決断を他所に、軍部内ではすでにエルリオの割り出しは行われていた。かつて通学していた初頭教育学校の学生名簿から、それはあっさりと判明していたのだ。当然、グレンデールという姓名から彼女が「ワイヴァン・グレンデール」の娘である事が割り出されるのは時間の問題だった。

「ワイヴァンは、お前の父親は、かつては軍属の押印師だった。これは知らなかっただろう?」
「…いつの話なの?」
 存外に冷静なエルリオの反応にも、サイクルは慎重な視線を崩さなかった。
「お前が物心つく頃にはもう、軍から離れていたと思う」
「という事は、大戦中…大戦が始まってから?」
 サイクルは一言分の呼吸を置いてから、「時期的には、そういう事になるだろうな」と濁した。
「別に、驚かないよ。確かに軍は嫌いだけど、かといってお父さんを軽蔑したりしない」
 一人になって、生きるために姿を偽り、押印師として活動を始めて、そして初めて気がついた。父の技術、残した資料や研究物。それらが一民間の若い裏街道技術者が、一朝一夕になし得るものではないという事を。
 軍の後ろ盾があった。それは自然なことで、そう知ったところで驚きはしなかった。
 もっとも、それらは全てアパート崩壊事件とともに消失してしまい、今はキューとエルリオの頭の中にのみあるのだが。
 押印技術が、軍事力の一端を担っているのは事実であり、大戦中に軍に所属していた父の位置付けは自ずと知れた。
「軍に在籍中、ワイヴァンが主に携わっていたのは、印の応用方法の開発とメンテナンスの研究だったはずだ。印の威力を強大化させるだけでは、無駄に味方の人命も削いでしまう事になる。軍とて人員を無駄に減らす事はしたくない。そのあたりは理性的な組織だから。押印技術の向上は、すなわち制御とメンテナンス技術の向上であると、気付いていたんだ」
 この技術をもって終戦の混乱を機にワイヴァンは軍を頓挫。その技術力から、民間の技術者となったワイヴァンに、顧客が増えるのは自然な事だった。
「……他の国はちょっと違うみたいよね」
「近代強国は、いずれも高い押印技術を有しているといっても過言ではない。帝国も、押印技術の盛んな国だった。人が多い国であればある程、押印の威力は凄まじいものとなっていく」
 ちらりとサイクルの目がミリアムを見やる。無意識にミリアムは片手を強く胸の前で握った。
「それは…どういう事なのですか」
「それだけ駒が多いからさ。威力の凄まじい押印は押印保持者自身も傷つける。アリタスは小国だ。だから慎重になっているだけだ。加えてライザは古国。歴史の深い古国には、天啓印の持ち主が多い。特に貴族、王族に多い国もあると聞いたことがあるな。古くから選民が、国の指導者である事が多いようだから。」
「………」
「少し話が脱線したな」
 それより今重要なことは、軍が再び民間の押印師を呼び集めて何をしようとしているのか、だ。エルリオがそれを口にすると、サイクルは肩をすくめる仕草を見せた。
「ライザ一族が一通り静粛されて、戦後処理が一段落したって事だろうな。ディノサス共和国との間にも不穏な空気が流れているというし、それに備えるためにも、押印研究を再開させたいのだろう」
「…もしかしたらこれはチャンスかもしれない…」
「ん?」
「ううん、なんでも。情報ありがとう。身辺に気をつけるね」
 再度注意を促して、サイクルは「また来る」と言い残して帰っていった。
 サイクルを見送り、再び部屋には少女二人と一匹が残った。完全に彼の気配が消えたのを確認すると、エルリオは玄関から踵を返した。
「?」
 不思議そうな顔をするミリアムの前で、エルリオはポケットからピルケースを取り出した。さきほど密かに隠していたものだ。
「キュー」
 呼ばれてキューがテーブルに上がる。
 エルリオは羊皮紙をテーブルの上に広げ、そこを指し示した。
「覚えて、キュー」
「あい」
 パイプのテーブルに、幾何学模様が不思議と似合った。白いぬいぐるみが、黄ばんだ羊皮紙の上を這うように、プラスチックの瞳を模様に押し付ける。同時に、白い布地の背中が薄青く光を発し始めた。
「な、何をしているのです?」
「記憶の印が反応しているの。キューにこれを、覚えてもらう」
「覚えた」
 と言ってキューは、エルリオが用意したメモ用紙の上に飛び乗ると、同じく用意されたペンを両手に抱えて動き出す。まさに、隣に広げた羊皮紙に描かれた模様と同様のものを、キューはそこに描き出してみせた。
「よし……!」
 短く気合を吐き出して、エルリオはキューからペンを取ると、その下蓋を外した。黒いインクが羊皮紙上に飛び散る。
「あ…っ」
 思わずミリアムが悲鳴を飲み込む。かまわずエルリオは黒インクを羊皮紙上にぶちまけ、模様を完全に隠してしまうほどに汚す。そしてそれをくしゃくしゃに小さく丸めると、再びピルケースに封じ込めた。溶接はせず、簡単に糊で固めた。そしてその上からインクでよごれた指先で、何かの模様を描く。
「閉封せよ」
 短く唱えると、黒い印がピルケースに焼きつくように光を発した。それはすぐに収束する。
「あ…あの…」
 呆然とするミリアムに、エルリオは何かの確信を得たような笑みを向けた。
「これ、大事に持っていて」
 差し出されたピルケース。こじ開けられた形跡は、今はなく、ただ黒い印が焼きついているだけ。ミリアムは恐る恐る、それを受け取った。
「それはあなたの切り札になるはず」
「切り札…」
「グレンという人がどういう人かわからないけど…でも何があってもその印について「知らない」を押し通して」
 ミリアムの手の上で、ピルケースは鈍い銀色の光を放っていた。
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