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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT3-8
08

「ミリアム……そうか、よろしく」
 男はサイクル・リューベンスと名乗った。白地に、名前の他に何も記入されていない名刺を持っている。ずいぶんと信憑性が無い名刺だ。
「こんな物を拾ってね」
 用件を問われて、サイクルは胸元から一枚の紙を取り出しテーブルに広げた。すぐにそれと判かる、軍公式印が押された公式広報物だった。
「「あ」」
 と二人の少女の声が重なり、お互い顔を見合わせた。
 そこに描かれているのは、二人の少女の人相書き。左側はミリアムと思われる長い髪の少女、右側におさげが特徴的なエルリオらしき少女。
 写真を撮られていなかったのは不幸中の幸いだが、しかしこれも聞き込みや居合わせた軍人たちの証言から起こしたものなのだろう、よく二人の特徴をとらえていた。
 人相書きの下には、情報通報者や捕縛者に与えられる謝礼内容まで。
「私たち、賞金首なんだ…」
 エルリオの瞳が揺れる。ほんの僅かな猜疑心を乗せた視線が、サイクルを見やった。それに気がついたミリアムも、やわらかい銀髪の毛先に隠れた肩を強張らせる。
「バカ言ってくれるなよ」
 サイクルが肩を竦める。
「これっぽっちの報酬に私が動かされるわけがないだろう。ゼロが二、三多ければ少しは考えるがな」
「え~……安い」
 エルリオが苦笑して頬を膨らますと、隣でキューが「それだと郊外にちょっと良い家が建てられる程度だね」と言ってエルリオに叩かれる。
 彼らのやりとりに小さく笑った後、机の上に置かれた手配書を、ミリアムは手にとってしげしげと見つめる。何か己について書かれている事はないか。そこに記された文字全てを読み取ろうとしているようで、淡い寒色に色づいた瞳がぎこちなく動いていた。だがすぐにそれはため息に変わる。
「私が何者かについては、この手配書には記されていないのですね」
 手配書には、名前さえ書かれていなかった。出されたマグカップを手にサイクルが乾いた笑いをこぼした。
「そりゃ、帝国の皇女が生きていたと知れただけで、国が騒ぎになるから…」
「え?!」
 少女二人から素っ頓狂な声が返り、サイクルは逆に呆気にとられて顔を上げた。
「…ん?どうした?」
「サイクルさん、今、何と……?」
 ことにミリアムは白い顔を更に青白くさせ、戦慄いているようにも見える。「君は…」とサイクルは目を細めた。
「君はミリアム…ミリアム・ファル・ライザ……じゃないのかい?その銀髪といい…」
「ミリアム・ファル・ライザ………それが私の名…?」
 分けがわからない、といった風にサイクルは肩を竦めて立ち上がった。机の上に置いた紙の似顔絵と、ミリアムを改めて見比べる。ライザ民族特有の銀髪、美しい顔立ち、人相書きは見事に彼女の特徴をとらえている。
「エルリオ、お前、知っていて彼女をかくまっていたのでは?」
 「ううん」と首を横に振るエルリオの仕草が、あどけなく見える。呆れた奴だ、とつぶやきサイクルは、再び椅子に腰を下ろして手配書に手を置いた。
「公にはなっていないが、裏の情報屋の間では有名な話だ。ライザ皇族には、大戦当時まだ乳飲み子がいて、幼いからと助命を許されたと」
「助命が許された皇女……」
「アリタスの内情も考慮して、幼子の事は伏せてあった。当然、その子を生かすか殺すかの処遇について、世論が勝手に議論を展開するのは必至だからね」
「ミリアムは、何も自分の事を知らないの。記憶喪失という事ではなくて、ずっと知らされずに育てられてきたって」
 言葉をなくしかけているミリアムにかわり、エルリオが付け足す。
「そうだな、身分を知らせず市井に紛れさせるならばそれは当然だが……後見人は誰なんだい?」
「グレン、という人?」そこで一度ミリアムを見やり、確認する。
「グレン……苗字は?」
「わかりません」という返答。
「グレンだけではなぁ…よくある平凡な名だし…。ライザ皇室の側近か何か?それともアリタスの軍関係者か?」
「申し訳ありません…アリタス出身であるという事以外何も…」
 再びミリアムが恥じ入るように俯いた。
「謝る事はないさ」
それを嗜めるように、サイクルは微笑を湛えてミリアムを覗き込む。
「でも、身分を隠して生きる事を許しているなら…なぜアパートに踏み込んで捕まえにくるのかな。そのグレンという後見人も行方不明だっていうし」
 エルリオの脳裏に浮かんだ疑問。ミリアムも頷いて同意する。
「……どういう事だい?」
再びサイクルが問う。ミリアムに代わりエルリオが、ミリアムもあのアパート襲撃事件に関わっていた事、後見人グレンが行方不明である事を説明する。サイクルの顔色に変化は見られないが、目を伏せて深く考え事をしているようだった。だが彼がつぶやいた結論は、軍がミリアムの処遇をどうしようとしているのか、その意図が読めないという事だ。
「それから、そのグレンという人物についてもだな。軍が用意した後見人でもなければ、アリタス出身であるならば帝国関係者でもない。となると「グレン」はアリタスの人間でありながら、アリタス軍に逆らい、帝国の皇女である君をアリタス軍から遠ざけて隠していたという事にならないか」
「私を隠す……」
「その意図が悪意なのか善意なのかは、分からない」
「仮にそうだとして、私を隠す事で何が得られるのでしょうか」
 弱々しかったミリアムの口調に、凛とした張りが生まれていた。
「単純に考えれば、国を相手取った誘拐、脅迫……」
 独り言のように、誰に向けているでもないサイクルの呟きの後、「待てよ」と再びミリアムと向き直る。
「ところで、君はなぜ軍から逃げ出したんだい。そこと大きく関わっていると思うのだが、どうだね」
「……」
 ミリアムは寸時、口をつぐんだ。
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