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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT3-7
07

 目の前に差し出された少女の似顔絵に、市場の女主人は首をかしげた。
「ちょっと…記憶にないねぇ。」
「毎日数え切れないほどお客さん来るからさ、よほど常連じゃないと覚えられないんだよ」
 と隣の露店主人も、顔を突っ込ませて同調する。
「まあ、そうですよね…」
 似顔絵が描かれた手配書を差し出している若い軍人は、困惑した表情で小さくため息を吐いた。
「バカ。嘘を吐いている可能性が高いに決まっているだろうが」
 報告するや否や、今度は先輩に罵られ、若い軍人はまたため息を吐く事になる。とはいえ、軍が根拠もなく民間人を尋問するわけにもいかない。かつて、恐怖軍国政治を布いた総統も存在したが、長く続かなかったのは言うまでもない。
 騒ぎを一部始終見ていた、市場の薬露店の女主人には、それがエルリオであるという事がすぐに分かった。だがどうして首を縦に振る事が出来ようか。彼女は、何の躊躇いもなく軍に嘘を吐いた。
だがその一方で、葛藤もあった。長年アリタスは、四方を囲む列強を退け続けてきた。つい近年も、強国との大戦に勝利し、アリタスの国と国民を守り抜いた。多くの市民がそうであるように、彼女もまた国を敬愛している。それが、ごく一般的にして善良なアリタス国民なのだから。彼女もまた、善良な市民である。
どちらに非があるわけでもない。死にかけた者に同情するエルリオの心も理解できる。軍が国を守る責務としてあのような行動を取る理由も尤もなこと。
だがどちらにしろ、今あの少女が、国が指名手配する容疑者とされている事実だけは確かだった。
「……あの子…」
 去っていった軍人の背中を見つめて、女店主は冷たい汗が背中を流れ伝っていくのを感じていた。エルリオについては、様々な薬剤や材料を買っていくので印象に残っていた。何度も通ってくるうちに娘のような愛着も沸いていた。
 しばらくセントラル付近は危険だ。近づいてはいけないよ。
 届かぬと知っても、女店主はそうエルリオに祈らざるを得なかった。

 しばらくはセントラルどころかうかつに外も出歩けない。
少女二人と一匹のぬいぐるみが潜む住処から外に出る時は、エルリオが変化の印を用いて近くに買出しに行く時だけに限るしかなかった。
「電話が、ごくにたまにだけど、鳴ったら私が出るから出ないでね」
 リビングの隅に置かれた壁掛けの電話。エージェントからの連絡はこの電話に掛かってくる。信用のおけるエージェントのみに敷いている専用回線電話であり、汎用電話ではない。
「探知を避けるために、絶対に家から電話はかけない、家に電話をかけない、を守ってね」
エルリオの言葉にミリアムは素直に頷くと、埃を被った電話機本体を拭き始めた。
「私、他に出来る事がないので…」
 とミリアムはこの家に来てから家の事をよく手伝った。実のところエルリオは父を亡くしてから三年間、それなりに一人で生活する術は知っていたから、ミリアムに全てやってもらう必要もないのだが。
「でも、私グレンといる間はずっと家の事をしていたから、家事については負けないですよ」
 ミリアムが微笑むと同時に、玄関の呼び鈴が鳴った。
「…?」
「しっ」
 ミリアムが顔を上げ、キューの尻尾がアンテナのように立ち上がり、エルリオは彼らの動きを制止した。室内に張り詰めた緊張が漂う。
 こっちからは決して声をかけない。
 向こうから名乗るのを待つのだ。
「………」
 扉の向こうにいる気配は、応答の無いこちら側の様子に対して戸惑っている様子はなく。そして三度目のノックの後、
「私、私だよ、エル」
「!」
 男の声がした。エルリオの表情が明るくなるのを、ミリアムは感じ取る。
「お知り合いが?」
「うん、サイ……っと、エージェントなの」
 ゆっくりとドアを開けると、扉の向こうにいたのは黒いスーツの男が一人。
「邪魔するよ」と慣れた動きで室内に滑り込むと、ミリアムの姿を見止めた。
「珍しい、友達かい?」
 ミリアムに向けて微笑む男。
 長身を黒いスーツに包んだ役人風情な出で立ちだが、その表情は穏やかだった。
 声は若いが、外貌は思ったより熟年に近いようだ。
「うん、同居人なの」
 常に何事にも警戒した気概のエルリオが、家族か兄弟かのように男に接している。ミリアムはそれを意外に感じつつ、
「ミ、ミリアム…です」
 と微笑む男に自らの名を告げた。
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