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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT3-6
06

 それを、軍内部では「鍵」と呼んでいる。
 翼を生やした少女が奪っていった、銀のピルケース。その中身の事である。

 その人物を、軍内部では「彼」と呼んでいる。外部への吹聴を防ぐ為だ。
 ピルケースの持ち主だ。

「となると、その少女とシェファルト、ミリアム、ましてや「彼」との関係性は皆無であろう、というわけだな」
「そのようです」
 肩に大佐の階級章を持つ男、アイラスとランドの「気難しい上司」、キールはアイラスの報告書を見て呟いた。その気性を象徴するかのように、頭髪は整髪料で塗り固められたオールバック。ほつれ毛一つない。ライトの光にときおり黒光りするので、ランドなぞはそこが気になって仕方が無い時がある。
(今日も元気にテカってんな~)
 などと上司の話は半分上の空のランドを他所に、
「ミリアムは勿論だが、その少女の手配書の準備も進めているか」
「は、市場での聞き込み、事情聴取なども同じく進めております」
 とキールとアイラスの間で話が進んでいる。
「しかし…」
 ここでキールは更に眉間の皺を深くする。神経質そうに書類をめくった。
「あの「鍵」を奪ったのがよりによって押印師と思わしき人間だとは…やっかいな」
「はい。その事もありもしやとも思ったのですが」
「流れの押印師の数は、底辺も数えたらキリがない。偶然だろうが……気になるのは…」
 書類をめくる手が止まり、キールの口から小さな溜息が漏れた。
「君の報告書にある、この少女の押印技術の箇所だ。」
「少し待っていろ」と 律義にもそう言って言葉を切り、キールは広い机上の電話を手に取った。彼には珍しい気が軽い口調で二、三何かを伝えると電話を切る。
 言われるままにアイラスとランドが無言のまま立ち尽くしていると、程なくして背後からノック音が響いて来た。キールの返事を待たずに扉が開く。
「動きがあったみたいだな」
 入室してきたのは、同じく大佐の階級章を肩に配わせた男、ジョシュ・シールズ。尉官二人の敬礼に「やあ、ご苦労」と手を上げて応え、キールの執務机の端に腰を降ろした。
「何度も言わせるな。座るならこっちにしろ」
 心底から迷惑そうな色を顔に出して、キールは机の隣に置かれた簡易なパイプ椅子を指差した。シールズは肩を竦めてそれに従うが、別段気にしている様子ではなかった。ここに来るたびに交わされるやり取りなのだろう。
「そのページの五行目からだ」
 シールズに、アイラスが書いた報告書が手渡される。流すように斜め読みしていたシールズの目が、書類の一点で留まった。
「……軍部内で開発中の押印技術と同じだな」
「やはりそう見えるか」
「詳しく話してもらえるか?これを書いたのは…ええと」
 温和そうな視線がキールから二人に向く。アイラスは敬礼で応えた。
「君は、」
シールズは一瞬考えてから、「矛のウェーバー大尉、だね」と問う。
「はい」
 「矛の印」と呼ばれる印を保持しているアイラスは、そう通称されていた。肉体全てを凶器となしえるその印。裏では「人間凶器」という渾名もあるらしい。
「君の印は天啓印だという事だが……それほどにこの少女の押印技術は逸脱していたのかね」
 簡易に言ってしまえば「天然」と「人工」の差であり、概して押印は天啓印や使命印に劣るとされていた。
「一つ一つの押印技術は拙いものです。守檻は容易く崩すことが出来ました。ですが、たった一人であのように応用自在に印を扱うのは、予測外でした」
 事実を説明したまでだが、我ながら言い訳がましく聞こえてアイラスは僅かに目を細めた。だがキールやシールズは、気にしている様子もない。
「知っていると思うが、現在の押印技術には利便性の限界がある。印は自然の理に背いたもの。人により相性の差が激しい。押印したものの、体や精神に馴染むまで時間を要したり、押印したものの肉体や精神を瓦解されたり…使いこなせるかどうかの保障もない」
 シールズの淀みない説明が、早口に流れる。
「印を臨機応変に扱い分ける事ができたら、非常に利便性が上がると思わないか?」
「はい、確かに」
 軍内部においても天啓印や使命印を持つ者は少なく、また押印に適応できる人材も多くはない。臨床やケアに欠ける民生の、いわゆる流れの押印師による押印で死亡する者、廃人と化す者も多いと聞く。
「どうせ君は今後、この件に関わる事になるのだから説明しておくが…、我が軍では、押印技術の研究が盛んに進められてきた。マイスター制に登録した軍部公認国家技術者の資格を持つ押印師は勿論の事、優秀であると聞けば流れの者も多く引き入れたりもした」
「押印の、簡易性と利便性を高めるためにな」
「もちろん、より強大で希少価値の高い印を扱う研究も同時に行われていた。それは普遍的なテーマだからな」
「だが結局は、実用レベルに至る前にライザとの大戦に入り、一時停滞してしまっている状態にある。当時研究に関わっていた押印師も一部は離散、行方知らずだ」
 話が途切れかけたところにランドが呟くように問うた。
「では、…この「少女」は…?」
「研究に関わった押印師の関係者という可能性もある」
「なるほど」
「後ほどデータを渡す。そこから洗い出ししてくれ」
 命を下してからキールは傍らに座るシールズを振り向いた。それにシールズが頷きを返す。任務成立という事だ。
「承ります」
 アイラスが敬礼。
「君にも加わってもらおう、ランド・ブライトナー大尉。ヒマそうにしているようだからな」
「え?あ、はっ」
 数拍遅れてランドも敬礼で応えた。
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