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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT3-5
05

 古いナイフを取りだし、エルリオはピルケースの蓋に刃先を当てた。
「これ、開けてみてもいい?」
「え、ええ。どうぞ…」
「軍に渡してはいけない、捨ててくれって言われたけど」
 溶接により口が堅く閉じられたケース。刃先で削らなければ、開かないだろう。
「そのピルケースの中身は、元々グレンが私に預けたものです。ワイヴァン先生をお訪ねした時に、これをお渡しするようにと言付かっていました。軍で持ち物を奪われそうになった時に、咄嗟にシェファルトに預けたのです」
「…………ふむ…」
 忠実なる高官は、まさに命をかけてその使命を貫いたという事だ。
 おもむろにナイフの刃に力を込めた。乾いた音をたてて銀色の幕が削れて行く。
 エルリオの小さな手にさえ、収まって隠れてしまうピルケース。こんな小さな箱の中に、幾人もの運命と軍の顔色を変えるほどの代物が潜んでいるというのか。
 秘密が暴かれる事を拒むかのように、ピルケースは堅く口を閉じている。これは中々手がかかる作業となりそうだ。
「ミリアムさん」
 地道に銀を削りながら、エルリオはさきほどから脳裏に引っ掛けていた疑問を口にした。
「ミリアムさんは、印保持者じゃないかな?」
「え?」
 ナイフを動かすエルリオの手先を眺めていたミリアムは、顔を上げた。
「さっきの不思議な力、私の付け焼刃な変化を打ち破って、私の中に入ってきた感じ。あれは純粋な印の保持者、つまり、押印じゃなくて、天啓印か使命印じゃないかって」
「今更、隠す事でもありませんね」とミリアムはスカートの裾を軽く持ち上げ、脛を包む靴下の端を捲くった。細く白い足首に痣のような痕がある。ほのかに、赤く色づいていた。勾玉という東国の宝珠に似た形をしており、エルリオの記憶に見覚えはなかったが、自然にできた痣というには不自然なそれはまさしく「印」だ。
「うーん…わからないなぁ」
 キューにも見覚えがないらしい。彼に見覚えが無いという事は、エルリオが所蔵している辞典や書物の中に、この印に関する記載が無い、という事だ。当然、国会図書館の印に関する書物も大方覚えさせているから、かなり珍しい部類に属すると言える。
「人や物に直接触れて、こう、どう説明すれば良いか分からないのですが…自らの意識を中にもぐりこませる事で、相手の記憶を読み取ることができるのです」
「へぇ~、すごいすごい」
 思わずナイフを動かす手が止まる。
「ですが、それほど昔に遡る事はできません…」
「その力を上手く使えば、人探しもやれない事もなさそうだね」
「だと良いのですが…」
 ミリアムの淋しげな声に重なり、再びナイフが動かされる音が続く。
「後でその印、書き写させてもらってもいい?本には載っていないみたいなのんだ」
 微笑の了承が返ってくる。とほぼ同時に、ナイフを握る手に空を切るような手触りが。あやうくピルケースを押さえる左手を刺しそうになる。
「開いたあ」
 削り取ったピルケースの銀が机上を粉まみれにしている。銀粉だらけの指先でエルリオは、ケースの蓋を開けた。腕にもたれているキューも、覗き込んでくる。ミリアムだけが中身を知っているようで、向かいの席に腰掛けたまま表情を変えずに、開けられていくピルケースを眺めている。
 中から出てきたのは、折りたたまれた紙だった。
「……?」
 少々の拍子抜けを感じながら、エルリオは紙片をつまむ。厚い手触りがした。水濡れなどに強い羊皮紙らしかった。ミリアムと目が合う。ゆっくりとした頷きが返った。
 慎重に紙片を開く。色あせて少し黄ばんだ紙の表面に、描かれた線が見えた。
「これ…」
 円陣が二つ重なった中に複雑な幾何学模様が、黒インクで描かれている。長い間密封状態になっていた為か、またはまだ描かれて新しいのか、インクは滲む事も色あせる事もなく艶やかな黒曜色を残している。模様が鮮明に見て取れた。
「それは、何だか分かりますか?エルリオさん」
「何のマークだろう…印にしては複雑だし……」
「それも、精霊の印なのです。印の写しです」
「へ~……」
 ここまで複雑に幾何学を描く印を、エルリオは見た事が無かった。
 円陣模様や幾何学模様の印は数多いが、これほどに緻密なものは、無い。
「見たこと無いよ…こんなに複雑な印」
「分からないなぁ…」
 キューも体をかしげる。
「それは、とても恐ろしい力を持った印で、軍には渡してはならないと言われました。軍部内の押印技術でそれが実用化されようものなら……世界はおしまいだと…」
「なんか…話が、すごいね」
 随分と大きな話だ、と呆けた次の瞬間に、だが軍が血眼になりこれを探していたのは事実でもあり、エルリオは胸のうちに小さな興奮を覚えた。
 これが本当に世界を変えるほどの力をもった印ならば、またそれほどまでに軍が欲しているのなら、これを使う事で軍に打撃を与える事ができないか。
「本来は、ワイヴァン先生に託すためにとグレンから預かったものだったので…エルリオさんの手に渡った事は本当に幸運でした」
「お父さんに…」
 父、ワイヴァンはこんな複雑な印を扱う事ができたのだろうか。
 エルリオは、教えを請う事ができない現状を嘆きたい気分だった。


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