このブログに掲載されている「英雄の屍」の著作権は、管理人である北野ふゆ子に属しています。ブログはリンクフリーですが、無断転載、引用など、著作権侵害にあたるご行為はおやめ下さいますようお願い申し上げます。

Yahoo Messenger
お気軽にお声がけ下さい


others

北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



超・長編小説同盟に参加しています。

私はClubA&Cに加盟しています。よろしければご感想をお聞かせ下さい。私も貴方の作品の感想をお送りさせて頂きます。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

このページの先頭へ
押印師 ACT3-4
04

 落ち着いたところで我にかえって現状を見てみれば、奇しくも軍の指名手配人が二人も揃ってしまった。
「やっぱり私も?」
「当たり前だ。今頃軍内部では手配書の用意がされてるだろうな」
「当分この姿で町を歩けないわ…」
 市場でのやりとりを思い起こしてエルリオは深い溜息をついた。キューがつきつける「事実」はいつも容赦ない。
「そのようですね……ごめんなさい、とんだご迷惑を……」
 ミリアムは、一人と一匹のやり取りにどう立ち入って良いか分からず、困惑した様子だ。
「ううん」
 机の上のピルケースを指先で転がしながら、エルリオは微笑む。
「シェファルトさんに助けてもらわなかったら、私も死んでいたかもしれないし…ね」
「シェファルトは……私が三年前に軍部に移されてからずっと身の回りの世話や、面倒をみてくれていた人でした。私に仕える者だと言っていた以外は…ごめんなさい、何も教えてもらっていなくて…わからないのです……」
 「わからない」「知らない」としか言えない自分を恥じて、ミリアムはただ肩をすぼめて俯いていた。
 周りから何も知らされず、自分の事さえも教えられない。そんな環境がエルリオには全く想像できなかった。
「シェファルト…シェファルト…シェファルト・レゼン、ライザ帝国高官、共歴2560年アリタス軍に出頭」
 短い尻尾が机の上で埃をはたきながら、キューの口から情報が紡ぎだされる。キューに記憶の印を施して以来、図書館に数週間通いつめてあらゆる新聞、雑誌を記憶させてあるのだ。
「2560年8月25日付けのACCタイムズ朝刊国際面」
「すごい…ですね」
 ミリアムが感嘆の溜息。
「ライザの高官か。帝国の重鎮達が粛清された中で、彼は生き延びていた。…やっぱりミリアムさんが関係していたのかな」
「かもしれません…でも、私が逃げ出した事で、彼は射殺されたという結果になったのでしょうか…」
 必然的にそう考えるべきだが、エルリオはそこを口にはしなかった。
 また、シェファルトは銀髪。ミリアムも銀の髪の持ち主。同国の関係者同士、シェファルトの言葉から考えれば「主従」と考えるのが妥当だろう。
「ね………ミリアムさん」
「はい」
 エルリオの問いに、ミリアムは目を覚ましたように顔を上げた。
 机の上でキューは踊るように、耳と尻尾を動かしている。
「これから、どうするの?」
「……まだ、何も」
「この後、どこか行くアテはあるの?」
「いいえ……でも、グレンを探さないと……彼も軍に身柄があるというのなら、私も再び軍に出頭して…」
「でも三年間、会わせて貰えなかったのでしょう?軍にいるのか、生きているのか死んでいるのか、分からないよ」
「…………」
 軍が関わっているとなれば、命の保障はないだろうと、エルリオは呟く。
 少し引き金にあてた指を動かすだけで、いとも簡単に人命を奪う人間の集まり。一歩外に出れば、ミリアムの銀髪は目立つ。しかも軍による指名手配人。周囲全てが敵だ。
 道を失い完全に困り果てた様子で、ミリアムは呆然と俯く。
「依頼…」
 机の上に組まれたミリアムの手に、エルリオは手を添えた。「え」とミリアムが顔を上げると、すぐ目の前にエルリオの瞳と、鈍い艶のあるキューのプラスチックの瞳があった。
「依頼、引き受ける」
「依頼…ですか?」
 「グレン」を探すこと。
「ミリアムさんは、お父さんのお客だもん。私が引き受けるのは道理だと思う。ここで良かったら、いつまでもいていいから。それに…」
 「グレン」はワイヴァンの死、軍の秘密、ミリアムの出生、エルリオの知らない父の一面など…様々な情報に近いかもしれない人間、でもある。
「正直に言うと…そうする事で、私の目的にも近づけるかもしれないって、思ったから」
「エルリオさんの目的って…?」
 ミリアムの言葉に、腕の中にいたキューが、プラスチックの瞳を持ち上げてこちらを見上げてくる。
「お父さんが死んだ…アパートの事件の真相を、知りたいんだ」
 それだけだよ。よろしくね。
 そう言ってエルリオは微笑んだ。
 ミリアムの面持ちが明るく色づく。
「あ、ありがとうございます!私、できる限りのご協力をします」
 今日何度目になるだろう、勢い余って立ち上がったミリアムの足に蹴られた形で、パイプ椅子が音を立てて転がった。
 こうして少女二人と一匹の生活が始まることになる。

 机の上では、銀色のピルケースが鈍い光を発していた。

スポンサーサイト

このページの先頭へ
この記事に対するコメント











管理者にだけ表示を許可する

このページの先頭へ
| BLOG TOP |
この記事に対するトラックバック
http://eishika.blog39.fc2.com/tb.php/17-db831c7c
このページの先頭へ
Powered by FC2ブログ / Template by chocolat*
Copyright © 2005 英雄の屍 All Rights Reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。