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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians19
19

「あれ~、誰か~ケータイ忘れてますよー」
 朝練終了後、更衣室で鴨崎の声が響いた。振り向くと、携帯電話を持った手を頭上にかざしている。
「誰のだろう」
「俺のじゃねーな」
「名前かいてねぇ?」
「書いてある方がおかしいって」
 それぞれが好き勝手を言う中、近くにいた要も鴨崎の手元を覗き込んだ。見覚えが無い。自分の物でもなければ、芥野や清水寺の物でもなさそうだ。
「ここにはいないみたいですね~」
「しょうがねーから、アドレス帳みちゃえば?」
 それでだいたい検討がつくかもしれない。
「いいのかなぁ」と躊躇する鴨崎の手中で、突然携帯電話が震えだした。
「わわ」
 思わず落としそうになり両手でがっしり掴み直す。持ち主からの通話だろうかと、慌てて画面を開くと、『新着メール受信』の文字。
「なんだ、メールか」
 と鴨崎の口から小さな溜息が漏れるが、直後に「ん?」という疑問符が飛び出す。どうしたのだろうと再び要が振り返る。鴨崎はディスプレイを凝視して首をかしげていた。
「持ち主、わかりそうか?」
 鴨崎の挙動が気になり、隣から芥野も上から覗き込む。ディスプレイには、「新着メール受信」の文字の下に、送信者の名前が横スクロールで流れていた。
「送信者、関西秀学・高倉、だって」
「関西秀学?」
「関西秀塾学苑、じゃないか?」
 大阪にある名門学校の名だ。そして、サッカー部が全国大会常連の強豪である。
「高倉って確かそこのストライカーだな」
 と、こういう情報に詳しい正田。
 こういう情報に疎い要は「へえ」と呟いた。
「じゃあそれ、茂森のケータイじゃないのか?」
 そんな人物から朝っぱらにメールが届くのは、この部では彼ぐらいしか思いつかない。過去の選抜合宿や試合で知り合い、アドレスの交換でもしたのだろう。
「そんな感じがしますねぇ」
 ディスプレイを見つめて、鴨崎は目を輝かせている。「全国区」の感覚に触れて感激しているのだろう。そして、関東と関西という限られた地域とはいえ、初めてその「全国区」に一歩近づいたと言っても良い「選抜される」対称になった興奮が未だ冷めやらない様子だ。
「でも、その関西秀学の高倉と、何のメールのやりとりしてるんだろうな」
 誰かがふと何気なく漏らした疑問は、その場にいるほぼ全員の好奇心を刺激した。
「………」
 鴨崎が見つめるディスプレイの中では、待ち受け画面の前面にポップアップで「新着メール」のウィンドウが立ち上がっており、どこかボタンを押しさえすれば中身が見られるはずなのだ。
「ダメですよ、ダメダメ!」
 だけど興味は有りに有る。そんな様子で鴨崎は名残惜しげに携帯電話を折りたたみかけた。すると、
「わっ!」
 また自己主張するように震える携帯電話。
 今度は電話着信か?と再び鴨崎はディスプレイを開く。が、またもや新着メール受信のお知らせだった。
「またメールか」
「今度は誰からだ?」
 プライバシーも何もあったもんじゃないが、誰ももうそんな事を注進しようという人間はいなかった。中を見さえしなければセーフ。そんな暗黙の了解が生まれている。
「えーと、送信者、国一・岡野原」
「くにいち?」
「国立第一中学校、だろうな」
 東京都内にある、ここもまた強豪サッカー部を抱える学校で、今年度の都大会で優勝している。そして岡野原とはそのチームのMFの名前だ。
「………」
「………」
 メール友達人脈の幅の広さに皆が面食らっている中で要は一人、鴨崎の手元から目を離して黙々と着替えの続きを進めていた。そのうち、更衣室の外廊下から足音が近づく。少し慌しく開かれた扉。
「ごめん、携帯落ちてなかったかな」
 そう言いながら姿を現したのは、噂をすれば、の人物だった。ちょうど出口側に背を向けていた鴨崎は、慌てて携帯電話のディスプレイを閉じた。
「は、はい!拾いました!ごめんなさい!」
 勢い良く閉じたそれを、頭を垂れながら両手で茂森に差し出す。
「??あ、ありがとう」
 謝られる意味がよく理解できない様子で茂森は携帯電話を受け取る。するとまた、しつこいぐらいに携帯電話は自己主張を始めた。
「落ち着きないケータイだな」
 制服のセーターを頭から被りながら要がつぶやくと、茂森は苦笑しながらディスプレイを開けた。今度は通話だったようだ。「ごめん」と周囲に断って茂森は電話に出た。
「も…」
 もしもし、と言う前に電話の向こうから喧しい声が突き抜ける。何を言っているかまでは聞こえないが、同年代の少年の声が早口に捲くし立てているのはわかった。どうやら送話者も相当に落ち着き無い人間らしい。茂森は受話器から少し耳を離して「うん、うん」と相槌を打っていた。
「俺も選ばれたよ。―うん、今年は五人で行く」
 受話器の向こうにそう話しながら、茂森の視線が周りを見た。鴨前と、芥野と、清水寺と、そして要へと。先ほどメンバーが決まったばかりの、東西戦トレセンの話をしているらしい。
(あ、そうか)
 要はふと気がつく。関西や東京の強豪選手から届いたメール、そして電話。おそらく彼らも同じ日の同じ時、同じ宣告を受けたのだろう。その報告と確認しているのか。
「じゃあ、もうすぐ授業だから」と相手をなだめて茂森は電話を切った。
「今のは誰からだったんですか?」
 ずっと様子をみていた鴨崎がたずねる。
「西開大付中の榎本だったよ」
「西開大付属中学?!」
 オリンピック選手も多く輩出している体育学部を有する大学だ。その付属中・高校も、桐嬰と同じくスポーツ推薦等で優秀な選手を抱えている。
「キャプテンって顔が広いんですね…」
「よく会うから、なんとなく流れでね。じゃ、俺教室行くから」
「お疲れ様」と言い残し、茂森は携帯電話をズボンのポケットに押し込むと更衣室を出て行った。
「いいなー、俺もアドレスもらえるかなあ」
 イマイチ論点がズレている鴨崎は、楽しそうに着替えの続きに入る。要はその暢気な背中を眺めながら、最後にネクタイを適当にしめて支度を終えようとしていた。
 鴨崎はまだ理解していない。
「よく会う」という事は、相手も選抜の常連だという事だ。そして彼らのサッカーはすでに「学校の部活」の枠を超えたところにあるのだと。

 授業が始まるまでの休み時間、いつものように要は隣のクラスへ足を運んだ。今朝から東西戦トレセン仲間とも化した友人二人は、いつものように教室の出口付近の窓に凭れて話をしていた。
「うす」と顔を覗かせると、今日は教室の隅、窓際にいる茂森の姿が目に入る。うつむいて携帯電話と向き合っていた。今朝のメールの返事でもしているのだろう。
 ちなみに、桐嬰の校則では携帯電話の所持は禁止していない。マナーモードは必須だが。
 茂森はキーの上に指を動かしつつ、時々画面に向かって小さく笑っている。そしてまた、メールを打っている途中に着信があったらしく、少し慌てた様子でまた電話を耳に当てていた。
 教室のざわめきに掻き消されてすべては聞き取れないが、
「去年は移動中にバス酔いしてたよね」
「監督はまた***さんなのかな」
 といった事を言っているのが分かった。話の流れから、電話の相手もまた今回のトレセンに選ばれたどこかの強豪選手なのだろう。数回頷いた後、茂森は時々、くすぐったそうに笑っている。
「何みてんだ?」
 芥野が要の意識が別に向いている事に気がつき、その目線を追う。
「電話やらメールやら忙しい奴だな」
 と苦笑する要の視は、まだ窓際の方を向いていた。
「いつもはああじゃないと思ったんだけど」
「ふーん」
 あれのおかげで鴨崎が、トレセンの場は「ともだち100人できるかな」の場と勘違いしているような気がする。だが鴨崎の前向きすぎる考えを差し引いたとしても、要とて少し不可思議に思う事があった。
「さっきあいつにメールが届いてた…なんだっけ、西開とか国立第一とかのって、どいつも有名な奴らなんだよな?」
「え、ああ、俺も名前ぐらいなら知ってるし」
 要よりはそういう情報に詳しい芥野が頷く。
「そういう奴らってさ、あんな風に他校の奴と、わざわざ筆まめにメールしたり電話したりするぐらい簡単に仲良くなるもんなのか?」
 われながら変な質問の仕方だと思う。が、他に思いつかなくて要は思ったままを口にした。
 年に数える程に会うか会わないか、しかも毎回会える確証もなく、それも選抜の場を離れてしまえばライバルとなる関係性に立つ相手と、あそこまで楽しそうに会話ができるものなのかと。不思議だった。
 思えば、部員や後輩にも、プレゼントを届けにきた女の子たちにも、そして自分達にも、茂森は常に笑みを向けるものの、それはどこか一歩遠慮しているような―そんな雰囲気があった。
「まあ、なんていうか、あいつの人柄もあるんだろうけど」と前置きして芥野が答える。
「天才同士にしか分からないイシノソツウってのがあるんじゃないか」
「天才なあ…」
 呟いて、要は窓際の茂森を見た。芥野が清水寺の方を見やり、その視線を受けた清水寺が軽く肩を竦め、そして茂森と要の間で視線を一巡させる。
 その時の要は、自分の頭上で視線のやりとりがなされている事に気づいていなかった。

 放課後の練習終了後、トレセンに選ばれた五人は部室に呼ばれた。コーチと共に中に入ると、監督の他に見覚えの無い初老の男がそこにいた。桐嬰中等部の理事会委員だという。
(何でこんなところに?)
 と要が思う隣で、鴨崎や芥野、清水寺もぎこちなくこちらを見やってくる。そんな中で、茂森だけはまっすぐ前を見たまま表情を変えていない。これは「慣例」というやつなのだろう。
「トレセン選抜、おめでとう」
 姿を現した要達に、男は開口一斉まず祝辞を述べた。
「茂森君以外は初めてだったね」と机の上に置かれた紙を手に、男は要達一人一人に視線を配った。一番端っこで、鴨崎が必要以上に緊張して背を伸ばしている様子が見える。
「いろいろと良い経験ができると思うよ。のびのびやってきなさい」
 満足そうに男は頷く。うつむくと、顎が二重になった。五人五様、バラバラに相槌を打つ中で、男は言葉を続けた。
「選抜の試合というのは、協会に存在を強くアピールする絶好のチャンスだからね。今回の出来が今後にも影響するから、肝に銘じておくと良い」
 協会。サッカー協会の事だ。国際大会を含む各種試合に選手を召集する際、必ずこの組織を通して行われる。最も大規模なところでは、オリンピックやワールドカップも含まれる。つまり協会に認められる事イコール、選手としての将来を認められる事にも繋がった。
「…………」
 にこやかに人の良さそうな笑みを浮かべる男に、要は何か引っかかりを覚える。「媚びて来い」というニュアンスが感じられて、素直に喜べなかった。そんな要の思いを他所に、男の「激励」は続く。
「優秀なコーチや監督、たくさんの他の学校の選手達と出会う事になると思う。彼らから盗めるものはできるだけ盗んで来なさい」
 そう言う男から一歩後ろに下がったところで、木炭のように直立不動な西浦は、視を瞑ってじっと男の言葉に耳を傾けていた。聞き入っているのか、聞き流しているのか分からない。
「ただ、一つ注意しておかなければならない事がある」
 立ち上がった男は、テーブルの上に置いてあったコートを羽織ながら、締めの言葉を口にした。
「関東代表となる他校の面々のことだがね。トレセンの間は確かに「仲間」かもしれない。だが、終わればライバルだ。その辺りもよく覚えておきなさい」
(………)
 無意識に目端がちくりと痛んで、要は目を細めた。
 という事は茂森の行動はこの男の意に則していないという事だ。男がそれを知ってか知らぬか、得意そうに「では、がんばって来なさい」と締めくくり、コートを着込んで部室を後にした。コーチが出口で見送る。
(何だあれ)
 肩越しに出口を振り向いた要は、闇に消えていった黒コートの残像を見据えた。隣を見ると、鴨崎がぽかんと口を開けて頭上に疑問符を浮かべ、芥野と清水寺はなにやらしっくりしない様子で顔を見合わせていた。その向こうに、西浦監督の方をまっすぐ向いたまま表情の変わらない茂森の横顔もある。
 男は現実的に、まんざら間違った事を口にしていた訳ではない。だが要は胸の内に生まれた不快感を拭い去る事ができずにいた。その不愉快な言葉に遠からずな事を自分もついこの午前中に口にしていた事を思い出したからだ。
「………」
 知らず知らず、要は両手を強く握り締めていた。
「スケジュールについて説明する。適当に座れ」
 瞑っていた両目をようやく開いた西浦が、五人に着席を促す。
「…っ……」
 低い声で我に帰り、要は小さく頷いた。五人の着席を待ってから西浦が片手に持っていた書類の束から、一部ずつを各自の前に配った。表紙に「東西戦トレセン要項」と書かれている。
 合宿と試合の日程や持ち物についてなど、書類の内容はいたって事務的なもので、必要最低限の情報以外は記されていない。内容にそって一通り西浦から説明がなされた。
「質問はあるか」
 説明の後の質疑応答に、誰も手を挙げない。数秒の沈黙が横たわった後、西浦は軽く息を吐いた。そして唐突に、
「楽しんで来い」
 そう切り出す。
「……」
 要を初め、鴨崎達も同時に書類から顔を上げた。
 これまでずっと無反応だった茂森も、ここで初めて反応らしい反応を見せる。
「友達をたくさん作ってこい」
 一席分はなれた場所に座っていたコーチは、静かに西浦の言葉を聴いている。
「試合のスタメンに選ばれる、選ばれないは考えるな。それよりも、そこで何か自分にとって大事な事を一つでも多く掴んで来い」
「………」
「………」
 西浦監督の言葉がそこで終わり、後はじりじりと、空気を焦げ付かすヒーターの音が部室内を支配した。両脇を先輩に挟まれた位置にいる鴨崎がおずおずと、そして次第に落ち着き無く左右を窺い始める。要より高い位置では長身の芥野と清水寺が顔を見合わせている。
 要は、まっすぐ西浦の目を見た。鋭く切れ長の瞳は、仁王監督と呼ばれているいつもの様子と変わらない色をたたえている。その静かな眼差しに、
「―がんばります」
 と、五人を代表する形で静かに茂森が応えた。その表情は、男の言葉を聴いている間の無表情とは違う、和らいだものだった。
「俺も俺も!ともだち千人つくってきます!!」
 その隣で鴨崎が手を挙げる。そもそも、そんなに参加人数がいるのだろうか、という疑問は彼の脳裏には浮かばなかったらしい。
「それから」
 鴨崎に苦笑を向けていた西浦の視が、不意に要を見た。
「…?!」
 少し面食らって要は思わず顎を引く。だが鋭い瞳がこちらを見たと思ったのは瞬間的な事で、一息飲みこんだ頃には無骨な西浦の横顔が、五人へ均等に視線をめぐらせていた。
「余計な事を考える必要はない。そんなものは、大人の仕事だ。やりたい事をやってくればいい。いいな」
 そして西浦は席を立った。「いいな」は彼の中で「解散」と同義でよく使われる言葉。だが五人はすぐにきびすを返そうとしない。それぞれ顔と視点を交差させ、そこでようやく「選ばれた」事を喜ぶ笑顔を向け合う。

 その時、肌に触れる空気が暖かく感じたのは、ヒーターのせいだけではないはずだ。
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