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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians17
17

 フットサルコートの周辺には、いつの間にか人だかりができていた。ファミリー向けスポーツ施設に不向きの異様な熱気に、通りすがる人々が足を止めていくのだ。
「え、なになに?」
「なんか凄い白熱してる」
 プレイしている面々のみならず、家族達の応援もどんどんボルテージが上がっていた。例外なく哉子も他のメンバーの奥さんや子供と一緒になって騒いでいる。
 スコアは4-3。要がキーパー初心者だった事を考慮しあれから一旦ゲームが仕切り直され、20分が経過していた。点を取り合うスピーディーな展開も手伝い、観戦
者が増え続けている。
「あれ、あの二人桐嬰サッカー部の一軍の先輩達じゃねぇ?」
 集まった面々の中にいた小学生数人が首を傾げ合う。
「だよなあ、あのキーパー、紅組の10番だよね?」
(紅組?)
 近くにいた哉子が耳聡く聞き付ける。そういえば要が、見学会で紅白戦をやると言っていた事を思い出す。結果は聞いていなかった。
「あっちのチームのディフェンスはキーパーの茂森だよな?」
 二人を指さして顔を見合わせる小学生達。
「ねーねー、君たちあの二人知ってるの?」
 その間に哉子は顔を割り込ませた。小学生達は驚いて一斉に振り返る。
「う、うん、桐嬰のサッカー部の人達だと思う」
 動揺しながら一人が答える。それを聞いて哉子の隣にいる奥さまが「あら、名門じゃないの」と感心している。それへ適度に相槌をうってから、
「ふーん。なんでわかるの?」
 と哉子は知らない振りをして尋ねた。
「サッカー部の見学会にいったから」
 予測通りの答え。
「よく覚えてたね~」
 という哉子の反応に、小学生たちはきょとんと目を丸くする。
「え、だって茂森は有名だし、紅組の十番だって桐嬰の副キャプテンだから覚えておかなくちゃだよ」
 他の小学生にも異論はないようで、何かのオモチャのように同時に頷いている。
「はあ~、そ~いうもんなんだぁ」
(あのキャプテン無用心だなあ、ばっちり面が割れてるじゃない)
 感心しつつも哉子は苦笑する。
 バイト中にこれまでバレなかった方が不思議だ。
 もっとも、有名プロじゃあるまいし「バイトの山本君です」と押し切られたら「そうなんだ」と納得してしまうものなのかもしれない。
「?」
 一際大きい歓声がして振り返ると、前に上がってきた茂森が零れたボールに追い付く場面だった。難しい角度からゴール前にいたチームメンバーにセンタリングを上げる。寸時早く反応した要が、ダイレクトに打たれたシュートを弾く。高く上がったボールを、ゴール前まで出てきた茂森と平山チーム最高身長の若い男が取り合う。
 マークから抜けたチームリーダーの方を確認しながら、茂森が落ちかけたボールを踵で受け止め、背後に回す。
「あっ」
 男は、不意を突かれ声を漏らす。茂森の意図を汲み取った石橋がボールに向けて駆け出した。
 だが、小さな弧を描くボールに、割り込むように飛び付く影。
「!」
 抱きつくようにボールを腕に収めたキーパーの要だった。
「ナイスセーブ!」
 誰からともなく声が上がる。チームメイトの労いに応える要に、少し驚いた顔で茂森も「ナイスセーブ」と声をかけてきた。
「今のが読まれてたとはなあ」
「へへ」
 要は思わず口元に悪戯な笑みを浮かべた。
 顔を見合わせる二人の頬が赤いのは、寒さと息切れのせいだけではない。本番の試合さながらに、お互いが高揚していた。「暑い」と呟きながら要がシャツの裾をはためかせると、茂森も襟を掴んではたきながら首に風を送っていた。
「キーパーグローブって、思ったよりムシムシしないんだな」
 グローブのために膨れ上がった自分の手を、握ったり離したりをして要が笑う。存外に通気性が良く、厚ぼったい見た目と違って軽いのだ。その手元を茂森が覗き込む。
「uhlsportの新しいのだから、通気性が良いんだな」
「やっぱ高いのか?」
「良いのだと1万円近くしたり」
「うへっ、たかっ」
「プロも使ってるしね」
「へえ…」
 これがねえ、とつぶやきながら目を細め、要はグローブの両手を繁々と眺める。言われてみれば確かに、分厚い布に包まれているにもかかわらず、指を握りこむ動作が容易い。
「………」
 お前はどのブランドを使ってるんだ、と尋ねようとして、要はとっさに口を閉じた。uhlsportのロゴマークを見て、これと同じ文字を練習や試合で何度も目にしたのを思い出したからだ。
(天才は道具にもこだわる、か)
 日本では無名のブランドだが、自分の体に合ったウェアとシューズを―そしてグローブは、プロ仕様を選ぶ。
(そんで、それを自分で稼いで手に入れる…って…?)
 再び自チームのゴール前へ歩いていく茂森の背中を、要は眺めていた。
「だいぶコツをつかんだみたいだね」
「次もがんばってこー」
 平山チームが次々と要に声をかけ、そしてセンターへと駆けていった。ゲームはまだまだ、これからだ。
「なんか、あっちのほうやたら盛り上がってない?」
要達がいるコートから最も遠い奥のコートでは、白地に淡いピンクのラインのスエットを揃いで身につけた集団が練習をしていた。
「ね、咲子」
同じ服装の少女が、グループのリーダー格である少女に駆け寄る。
「一番端っこのコートなんだけどさ」
やけに騒がしいからと、様子を見に行ってきたところだ。
「石橋さんや平山さん達でしょ?」
常連の石橋や平山と同じく、彼女達もここの施設をよく使う。リーダー格の少女はあまり驚く様子を見せない。
「そうなんだけど、なんか飛び入り参加がいるみたい」
「よくある事じゃない」
交流を楽しむ石橋達のやりかた、少女達はよく知っている。
「その子たちが凄く上手くて盛り上がってるみたいだよ」
「……へ~」
咲子と呼ばれた少女はボールを足元に置いた。後頭部で結ばれた髪が、小動物の尻尾のように揺れる。切れ長の黒目がちの瞳は、小さいながら油断ならない肉食動物のようでもある。
「ちょっと見てくる」
と踵を返した咲子の後を追って、他の少女達も続いた。
「ほらほら、あの子たち」
 咲子を誘導するように先を歩いていた少女が、コートの中を指差す。「ふーん?」とつぶやきながら、勝手知ったる場所とばかりに咲子はフェンスをくぐってコート内に入っていった。野次馬達の列を避けて、見晴らしの良い場所へ移動する。
「あれ、うそっ、マジでー?」
 途端、咲子の隣で少女達が声を上げた。
「里佳、どうしたの?」
「あれ、カズシ君だよ」
 首をかしげる咲子の隣で、里佳と呼ばれた少女をはじめ、数人が目を丸くしている。
「カズ……誰、知り合い?」
 訝しげに目を細める咲子に、里佳は視線をコートに向けたまま少し興奮気味に答える。
「知らないの??茂森一司君だよ、咲子と同じGK。中学サッカー界で知らない人はいないんだから」
「あっちは桐嬰の新副キャプテンの四条君だね、なんでこんなとこにいるだろ?」
 その隣にいた少女も、里佳と似通ったリアクションでコートを見つめている。
「なんで高校生の私が中学サッカーを知ってなきゃいけないの」
 そんな狭い世界知らないわよ、と咲子は呆れたように肩を竦め、三秒後に「ああ」と思い出したように口を開けた。
「あんたたちまだ飽きてなかったんだ?」
 ジュニアの有望選手を「観察」するのが趣味で、ブログまで開設していると聞いたことがあった。聞いた当時は「いつまで続くのやら」と冗談半分で聞いていた事を、咲子は思い出す。それでももう既に、二年近くが経過していたような気がするが。
「馬鹿にできないよ?プロ野球と違う面白さが高校野球にあるみたいに、ケッコウ面白いんだから」
 悪戯っぽく里佳が振り向き、そして「ほら」とコートを指し示した。
 振り向くと、キーパーの要がボールをキープしたままセンター付近まで上がって来る所だった。石橋チームの壁を次々とかわして、進んでいる。
「カナ兄ぃーーー!」
 と近くで叫んでいる女の子の声と共に、野次馬達からも歓声が上がった。
「さすが元FW」
 楽しそうにつぶやいて、ゴール前にいた茂森は歩を進めた。
「高橋さん!」
 茂森が動き出すのを見て、要は自チームのストライカーにボールを蹴り上げた。そして自分はボールの行方を目で追いながら、ゴールへと戻る。ボールは茂森がいる場所とは反対方向にいた高橋の足元に上手く落ちていく。
「パスが上手い子だなぁ」
 茂森の後ろにいる石橋チームのキーパーが感心している。チーム最年長の四十歳。会社では副部長だというエリートらしい。
「はい、うちの司令塔ですから」
 ボールを目で追いながら背中で答える茂森。「そっかそっか」と満足そうに答える声が戻ってきた。それを背中で受け止めて、茂森はゴールを狙ってくる高橋を阻止するべく動き出した。
「元FW?」
 石橋チームのゴール前で起きている競り合いを眺めながら、咲子は里佳の情報を繰り返した。
「うん、あの子、四条君っていうんだけど。最近までFWで、この間の紅白戦は司令塔やってた」
「じゃあ、あれは即席のGKってこと?っていうか、何でそんなに詳しいのよ」
 驚いた後に呆れて、咲子は里佳を振り返った。
「そりゃ、ファンですから」
 里佳と、その隣にいる数名が同じように笑って頷いている。
「はあ」とため息と苦笑を同時にこぼした咲子は再び、ゴール前に戻った要に視線を向けた。
「即席にしては……ずいぶんと飲み込みが早いというか…。あっちのDFやってる子も良い動きしてるし。あっちはもともとGKなんでしょ?」
「うん。ね、面白いでしょ」
 まるで自分の事のように自慢げに頷く里佳。それを一瞥して咲子は小さく笑った。
 そんな咲子らからそう離れていない場所から、
(さっきから聞き覚えのある名前が何度も聞こえてくるような)
 長いポニーテールが特徴的な少女が、隠れるようにちらりちらりと横目で視線を向けていた。噂の「四条君」の妹、哉子である。無論、さすがにそこまで里佳達が知る由もない。
 白地にピンクのラインが入ったおそろいのスウェットを来た、高校生らしき女の子集団。サッカーについてずいぶんと詳しいようで、試合の動きに対して他の野次馬達とは違う反応を見せていた。その中でも特に哉子の意識を惹いたのが、リーダー格と見られる女の子。まるで視察でもしているかのように冷静な瞳で表情一つ変えずにコートを眺めている。
「お互い、不慣れな部分を読みでカバーしてるって感じね」
 胸の前で腕を組みなおしたリーダーの女の子。
(ほうほう)
 哉子は試合を見ながらも、耳をダンボにしてリーダーの女の子、咲子の方に傾けた。
「一見、試合展開がハデだから「動」のぶつかり合いに見えるけど、私にはあの中学生二人の頭脳戦に見えるわ」
「咲子って相変わらず戦国武将みたいなんだからあ」
 と咲子の隣にいた女の子、里佳が笑う。
 戦国武将がそうである根拠は何も無いが、妙に哉子は里佳の言葉に納得して頷いた。
(頭脳戦かあ…なるほどぉ)
 他の野次馬と同じように、自分も緩急差がある試合展開に飲まれていた。咲子のコメントに、哉子は軽い驚きを感じると同時に目の奥でフィルターが一枚剥がれ落ちたような感覚を覚える。
「平山さん、右!」
「いったん後ろへ!」
 声が飛び交うコート。咲子の言葉を踏まえて、哉子は改めて試合の様子を見つめる。広くはないフットサルコートいっぱいを使って、メンバー達が縦横無尽に動き回る中、ゴール前の要とディフェンス位置に立つ茂森の動きは緩やかだ。だが、
「行ったぞ!」
 ここぞという場面で、瞬発的に二人の動きがどのメンバーよりも俊敏になる。
「シュート来るぞ!」
「くっ!」
 石橋チームのゴールを狙い、鋭角からシュートが放たれる。息を吐き出しながら茂森が踏み込み、長い足でそれを止めた。零れたボールを石橋が拾い、再び平山陣を攻めに行く。
(今度は誰だ…?)
 ゴール前の要は、再びメンバー達の動きを読む。
「……」
 要が纏う空気が変わった。それを遠くから見ていた茂森は、平山ゴールに向けて走り出した。
「?」
 いつもと違う動きに、要は目を細めた。これまで茂森は、ボールがセンターラインを越える前から前に飛び出す事が無かったのに。
(攻めて点差を広げようって事か?)
 そうはさせるかと、要は茂森の動きを意識の隅にとどめつつ、ボールを取り合いながら徐々に前進してくる石橋チームの動きを見つめた。陽動的になっている茂森に気がついた石橋が、要を揺さぶろうと長いパスを茂森に送る。すかさずそのボールは真後ろから上がってきたエースに送られる。
(また石橋さんに戻る…!)
 キャッチし損なえばおそらく、サイドにいる茂森に拾われて入れられる。
 絶対に取る。
 案の定、石橋から放たれたシュートボール。要は全神経を弾道に集中させた。蹴りこんだ位置が僅かに芯から外れたボールは、途中からカーブを描く。その弾道に合わせ、要も動いた。
「四条、待…!」
 音と周囲の景色が消えた意識の隅で、誰かが叫んだのが聞こえた。
「―っえ…」
 ゆっくりに見えたボールが、急に速度を上げ、伸ばした要の片手に当たった。直後、背中と肩に何かがぶつかる。
「い…っ」
 すぐ耳元で自分ではない誰かの声がして、
「っわ…」
 誰かと確かめる前に、バランスが崩れて要はその場に落ちた。地面の硬い感触が襲う前に、また背中に弾力を感じる。それが緩衝材となって地面への直撃を避けられた。黒と白のボールが視界の端で外へと転がっていくのが見え、周囲から沸いたざわめきが耳に飛び込んでくる。
「な…に…」
 現状を理解しようと要が背中を起こすと、「緩衝材」となっていた影も動いた。薄い水色のパーカーの布地。
「あっ……な、」
 自分もろとも横倒しになった茂森が、片腕で起き上がるところだった。その向こうに、白いゴールポスト。
「………」
 要は咄嗟にゴール周辺を見渡した。
 忘れていた。サッカーのゴールに比べて、フットサルのゴールが小さい事を。
 この時ようやく、要は自分がゴールポストに激突する寸前だったと気がついた。
「二人とも大丈夫か!?」
 両チームの面々がゴール前に集まってくる。
「すみません、大丈夫です」
 なんとも無い、と微笑んで立ち上がる茂森。要も慌てて立ち上がった。
 ほぐれ掛けた袖を再びまくる茂森の腕には、面積の広い擦り傷ができている。ところどころ、生々しい赤色が小さな珠を作っていた。
(腕……)
 本職キーパーの腕に、傷をつけてしまった。
「茂森、悪い…俺…」
 その事実に要は愕然とする。
腕だけでは無いはずだ。背中や肩も、ぶつけてはいなかっただろうか。
「そろそろ、やるかな~って思って見てたんだ」
 だが茂森の声は拍子抜けするほど平然としたもので、
「え?」
 要は眉を顰めて顔を上げた。
「俺もよく、夢中になるとポストにぶつかるから」
 だから、要の目つきと気配が変わった時に「もしや」と思って前に出た。
 あのまま突っ込んでいれば、要はポストに頭をぶつけていただろう。何のことはない。ボールをキャッチするのと同じ要領で、だけどいつもより慎重に要へと手を伸ばした。
それだけのこと。
 そう笑う彼に、要は無性に腹立たしさを覚えた。
「だからってお前なぁ!」
 急に声を荒げた要の様子に茂森は当然ながら、大人たちも驚いて目を丸くする。
「四条?」
「キーパーが無闇に手ぇ怪我する真似すんじゃねえよ!」
 要は、感情のままに近くにある肩を強く押して遠ざけた。
「………」
 軽く体を傾げた茂森は、唖然や驚きというよりもむしろ、子供が珍しい発見をした時のように罪の無い顔で目を丸くしている。それがますますムカついて、要は顔を背けた。借りていたグローブを外して丁寧に重ね、心配になって近寄ってくる平山に差し出した。
「……すみません…俺、門限あるんで…そろそろ失礼します」
「え、ああ、遅くまで引き止めてごめんね、参加してくれてありがとう」
 驚きつつも、そこはやはり大人な平山は、笑ってグローブを受け取った。
「いえ、凄い楽しかったです、今日はありがとうございました」
 最後に深々と礼をして、要はきびすを返して駆け出した。
「ちょっとお、カナ兄ぃい!」
 慌ててそれを追いかけようとした哉子も、一旦足をとめて面々を振り返り、
「ごめんなさい、ありがとうございましたあ!」
 要のコートとリュックを抱えてお辞儀をした。
「待ってよお!」
 そして忙しなく要の後を追いかける。
 その場の事態に所在をなくした野次馬達の間で、ざわめきと顔を見合わせる動きが連鎖する。だがそれも、一分としないうちにおさまり、ゲームは終わったと知った面々は「ナイスゲームでしたよ~」といくつかの声を残して散り始めた。
「あらら~、四条君、怒って帰っちゃったね」
「セイシュンって感じだ~」
 そんな里佳達の言葉を聴きながら、咲子は要が去っていった方と、そしてコートに残った茂森を眺めた。副キャプテンに説教されたキャプテンは、腕の傷を隠すように一度はまくりかけた袖を伸ばしてた。
「すみません、こんなところでケンカなんかして」
 面々に頭を下げる茂森。
石橋は「いいからいいから」と笑って大人の対応をする中学生の肩に手を添えた。
「君たちをキャプテンと副キャプテンに選んだ監督の気持ちが、なんとなくわかるよ」
「え?」
 驚いて顔を上げた茂森へ、石橋は父親か教師のような微笑を見せた。
「君たち二人は、正反対でもあり、同じでもあるんだね」
 石橋の後方で、平山を始めとする大人の面々は、それぞれに場を見守る目をして二人のやりとりを眺めていた。
「………」
石橋の言葉を完全に理解するにはまだ経験値の足りない中学生キャプテンは、相槌も返せずにいた。
「ね、里佳」
 野次馬達が捌けて行く中、最後までコートの中のやり取りを見ていた咲子は、傍らに声をかけた。
「ん?」
「今日の事も、ブログに書いたりするの?」
「あはは」と笑って里佳は首を横に振った。
「書かないよ~、私たちゴシップ記者じゃないんだもん」
自分達は「アスリート」である彼らのファンなのだ。各種試合や催し物の外にまで追いかける事はしない。それが里佳達のポリシーだ。
「ま、今日みたいなのは単なるラッキーなハプニングってことよ」
「そう」
 咲子は切れ長の瞳を細めて、傍らのチームメイト達に微笑んだ。
 その頃。
「もー、恥ずかしいじゃないのさー、カナ兄ったら!」
 新桜台駅の手前でようやく要に追いついた哉子は、乱暴にコートを兄に押し付けた。
「なんでキレるかなー?カナ兄が悪いんじゃない。あれじゃ逆ギレだよお?」
 黙々とコートを着る要を他所に、哉子は二人分の切符を買いながらぶつぶつと文句を垂れている。頬を膨らませつつも「ほら、切符」と要の手をとって切符を握らせる。
 すると、
「だからだよ」
 ようやく反応が戻ってくる。
 だがその声は微かで、遠くに流れるアナウンスと改札口が発する電子音にかき消された。
「聞こえないよ」
「だからムカついてんだよ」
 今度ははっきりと聞こえた。
「意味わかんないってば」
 ため息と共に百八十度向きをかえて、哉子は改札口を通り抜けた。背後からついてくる要の気配を確認し、隣に並ぶために歩幅を合わせる。
「明日、ちゃんとお礼いいなさいよ?」
「………」
 ホームへ向かう階段を半分上ったところで、
「―わかってる」
 また小さな返事が戻ってきた。
 電車が到着するアナウンスと重なったが、今度ははっきりと、聞こえた。
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