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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT3-3
03

 ミリアムは、改めてみると本当に「美人」だ。
 同じ年頃ではあろうが、きっと一緒に歩いては自分など霞んで見えなくなってしまうのだろう。ショールを取り去ったミリアムは、ホワイトのブラウスに、銀髪と似たグレーのジャンパースカートという学生のような地味な装いに関わらず、それでも美しさが際立っている。
「あの……お名前を…うかがってもよろしいでしょうか…」
 先に言葉を進めたのは、美少女の方だった。
「え、あ、はい」
 不覚にも彼女に見惚れていたエルリオは、先手を取られた形となる。そうと知ってか知らぬか、ミリアムは今にも消え入りそうな声で、エルリオとキューを交互に見やりながら「すみません…」と囁く。さきほどの勢いはどこへ行ったのだろうと思うほどだ。
「私は、エルリオ、エルリオ・グレンデール。ワイヴァン・グレンデールの娘です」
「エルリオさん………」
「父は、亡くなりました」
「亡くなった………」
 微かな悲鳴のような、小さく息を吸い込む音がした。
「そう…ですか………」
 道を見失ってしまった子供のように、ミリアムに暗い影が落ちた。
「ミリアム…さんは、」
 と名前を呼んだところで、「今度は私が質問していい?」とエルリオがたずねると、ミリアムは半ば呆然としながらも顔を上げて頷いた。
「お父さんを、知っているの?」
 ミリアムは軽く首を振りながら「いえ…」と答える。
「私が直接存じているわけではないのですが、グレンが旧知のご友人だという事で、もしもの時はワイヴァン先生を頼るようにと……」
 なるほどね、とエルリオは納得して溜息をつく。
「だから私がその「グレン」という名前に反応しなかったのを怪しんだのね」
 ミリアムは頷く。
「そのグレンって…誰?」
「むぎっ」
 机に両肘をついてキューを抱きこむ形でエルリオが前のめりになる。袋が潰れたような音は、キューの悲鳴だ。本当は痛く無いくせに。
 仕事に関連した父の関係者の名は、これまで幾人かエージェントを通じて聞いてきた。だが「友人」というのは初めてだった。
「私の育ての親です……保護者と言いますか。今、行方が知れなくて……」
「ふむ…」
 いまいち、ワイヴァンとの関連性が理解できない。
「このピルケースをくれた人を射殺した軍は、女の子の行方も追っている様子だった。それはあなたの事よね?」
「ええ…おそらく…」
 ミリアムが俯く。視線の先には、キューの隣に置かれたピルケースにあった。
「町の人は、ライザの戦争捕虜が逃げたと噂をしていた。その髪の毛…銀色、噂では聞いたことあったけど、あなたは帝国の人?」
 エルリオの追究に対して、返ってきた反応は軽く首を傾げる仕種だった。
「それが…ごめんなさい、私よく分からなくて…」
「よく分からない?」
 違和感の残る答えだったが、後回しにしてエルリオは質問を続ける。
「市場で聴いた話が本当なら、ミリアムさんの保護者…グレンという人はライザと関係する人だと思うの。でも父がライザの人間と友人関係があったとうい話は、あまり信憑性が無いのだけど…」
 意地の悪い訊き方であると、自覚している。だが今のエルリオは、とにかく情報が必要だった。
「グレンは、彼はアリタスの人間です。生まれも育ちもアリタスだと言っていました。髪の毛も、こんな色ではありません」
「こんな」のところでミリアムは、白く細い指先で、絹糸のような銀髪に触れた。自分の事を語る時と違い、物怖じ気味だった口調が明瞭な声音になっていた。
「ふーん……」
 父の友人「グレン」という人間はアリタスの者である、という事で父との関連性はともかく、そうなるとライザの人間でしかも軍本部から逃げ出す身分のミリアムとの関係を説明するに足らなくなる。
「グレンという人がアリタスの人となると…ミリアムさんは…何者?何故、軍がミリアムさんを追っているの?」
「私……は…」
 再び、ミリアムの視線が正面から逸らされる。
「分からないのです。小さい頃は…自分はこの国の人間だと思っていました。実際、ずっと私はこの国にいたのです。グレンと二人で…、三年前まで」
「三年前…?」
 ちくりと胸が疼いた。
「三年前に、滞在していた先のアパートメントに突然、軍の人が押し入ってきて…」
「え…?」
 思わずエルリオは椅子から腰を浮かした。エルリオの過剰な反応にミリアムはびくりと小さな肩を震わせて顔を上げる。
「それで…?」
「大きな爆発する音や銃声で…私…気がついたら見知らぬ場所に移されていて…グレンの姿も無くて…私がいた所は軍のセントラル施設内なのだと後で教えられました」
「爆発や銃声…どこのアパートメント?」
 エルリオを代弁する形でキューが問う。その声音は意外や冷静だった。
「黄色い屋根のアパートメントでした。名前は確か…ノエ……」
「コラテス通り・北三番・アパートメント『ノエヴィ』共歴2568年、爆発炎上事故により全面改築、今は倉庫となっている…かな」
 エルリオが記憶させたアリタス首都圏地図から合致した情報が、キューの口からもたらされる。体を起こして立ち上がるエルリオの足に当たった椅子が、大きく揺れて音を立てた。
「私が住んでいたアパート……」
「え?」
 立ち上がったエルリオを見上げて、銀髪の少女はグリーンがかった瞳を丸くする。恐れより、純粋な驚きを面持ちに表していた。
「私、お父さんとそこに住んでいたんだ…。三年前、軍の襲撃を受けてアパートは崩壊して、父はそこで射殺されて…アパートの住人も全員死んだ」
「そんな……」
 白い顔を更に蒼白にさせてミリアムは悲痛な吐息を漏らした。
「軍はその事件を『武装勢力粛清活動』だと報じたけど…」
「いえ、違うはずです。軍は私達を連れ出すためにアパートに踏み込んだのだと…聞きました…。でもまさか…そんな…」
「な…」
「偽装報道か」
 キューが呟く。
 与えられた情報を元に「事実のみ」を口にする、エルリオの相棒。
「何てこと……」
 銀髪が細かく震える。
 ミリアムはか弱い小動物のように背を丸めて肩を震わせていた。一方のエルリオは、足の力が抜け、崩れるように椅子に腰を落とした。
「……その、グレンという人も、連れ去られて軍本部に?」
「わかりません……」
「分からない?」
「はい…少なくとも…私はこの三年間、一度もグレンを見ていません…」
 俯くエルリオを見つめるミリアムの瞳の色が、許しを請うように見える。
「よく分からないよ…キュー」
「エル…」
 テーブルの上で所在なく座り込んでいるキューの体を、エルリオは抱きしめた。
「なんで、たかだか女の子一人を連れ出すために、お父さんを射殺する必要があったの?アパートを爆破して、住人を皆殺しにする必要があったの…」
「エルリオさ…」
「あなたは何者なの?グレンって人も…」
 ミリアムの声を、エルリオの刺すような声が遮った。ミリアムが刺し伸ばした手を撥ね退けて拒む。
「私………わからないの……私のことも、グレンの事も………」
「何で?」
 顔を上げたエルリオの双眸から涙が流れる。これまで貯めていた感情を目の前で硬直している銀髪の少女にぶつける他、こみ上げる感情の処理が出来なかった。
「何で分からないの?あなたのために大勢死んでいるのに、何でその本人が何も分かっていないの」
「ごめんなさい……私……ごめんなさい……ごめんなさ……」
 ミリアムは両手を胸の前で硬く結ぶ。白い目許を赤く腫らし、細い体が震えると共に声も憐れに震えた。
「…………」
 キューを強く抱きしめて、白い布地の体にエルリオは力いっぱい顔を押し付けた。自分が吐く息が、熱く濡れているのが分かる。なすがままに抱かれているキューの体に、涙が染み込んで熱くなっていた。
 自分の熱を感じると、不思議に気持ちが冷めていく。
「……ごめんなさい」
 キューに顔を押し付けたまま、エルリオの呟きが張り詰めた静寂の中で漂う。
「あなたは、悪くない……なのにごめんなさい……」
 ワイヴァンが死んでから、一度だって人前で泣いた事はなかったのに。
 その必要もなかったから。
 そう思うとエルリオは急に恥かしさがこみあげ、バツが悪くなった。
「ごめん…ね」
 恐る恐るキューから顔を上げると、真っ赤に泣き腫らしたミリアムの面持ちが目の前にあった。
 ぐしゃぐしゃに濡れた綺麗な顔を無造作に手の甲でこすっている。
「……あ…りがとう…ございます」
 小さな唇からは、そんな言葉が漏れていた。

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