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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians15
15

「桜台スポーツポート」は、主に親子連れを中心に賑わっていた。
 新興住宅街とあって、この町周辺には学校が多く、越してくる面々も就学児をもつ中流家庭が多数を占める。さらに最近では、定年を迎えたいわゆる「団塊の世代」組も多い。
「すっごーい、プール、テニスコート、バッティングセンター、スカッシュコートやスリーオンスリーコート、ほら、フットサルコートもあるよ!」
 入り口の案内図を見て、哉子が嬌声を上げる。
「すげー」
 要も驚きのあまり、ボキャブラリーが少なくなる。
 すぐ近くにある壁打ちテニスコーナーで、様々な年齢層の客が楽しんでいる姿が見えた。
 二人はまず、様々なスポーツ用品メーカーが出店しているという「スポーツショップモールエリア」を探索する。競技ごとにブロックが分かれており、サッカー、野球、バスケ等のメジャースポーツは勿論、バレエ、新体操といったアートスポーツの他、柔道、空手、剣道といった日本武術等、ありとあらゆるスポーツジャンルに対応したショップ構成になっていた。
「さすがにアーチェリーはあっても弓道は無いわね~。袴とかは売ってるみたいだけど」
 哉子は歩きながら案内マップを読んでいる。二人はまず「サッカーショップコーナー」を目指して歩いていた。さすがにメジャースポーツとあってショップ面積が広く、各プロチームやワールドカップチームのユニフォーム等、ファン向けの商品も豊富に取り揃えられていた。
「スパイクはどこにあんのかな…」
 天井からぶら下がる案内パネルを眺めていると、
「何かお探しですか?」
 と店員の男から声がかかった。胸元の名札に「ショップマネージャー酒井」と書かれている。店長という事か。要はスパイクを探している旨を伝える。
「お客様、部活動かクラブチームでサッカーをおやりですか?」
「え?はい、部活やってます」
 何故そんな事を訊くのだろうと思いつつ要が素直に答えると、店長は「ではこちらへどうぞ~」と店の奥を指し示して歩き出した。着いた先は、シューズコーナーで、世界中の様々なブランドのシューズが目移りするほどに展示されていた。
「うわ~、スパイクってみんな同じに見えると思ってたけど、こう見るといろいろあるんだあ」
 と後ろで哉子が関心した声を上げている。その様子に微笑んだ店長は、腰に差していた無線機のようなマイクを取り出した。
「詳しい店員がおりますので、お呼びしますね」
「あ、はい、どうも」と要が返事をするまでもなく、店長はマイクを口にあてていた。
「山本くん、シューズコーナーまでお願いします」
 呼びかけに対して二秒後、
『山本くん、向かわせました』
 と女性の声で返事があった。
「高校の部活でサッカーをしているという子で、いろいろ詳しいんですよ」
 言いながら、店長はマイクを腰にしまう。
「そうなんですか~、助かります~」
 何故か哉子が代わりに愛想の良い返事をしている。待っている間、要は店内を見渡していた。ここに来れば何でも揃いそうだ。学校からは遠いが、伯父宅を訪ねる時についでに寄るようにしよう。そんな事を考えていると、隣で店長の「あ、来ました来ました」という声。
「お待たせしました」
 との声に要が振り返ると、
「あ」
「あ」
「あ」
 見知った顔が、口を「あ」の形に開けてそこにいた。
 要と哉子も同様に、間の抜けた顔で口を開いたまま、固まった。
 そこにいたのは、スタッフTシャツの胸元に「スタッフ:山本」という名札をつけた、紛れも無い桐嬰中等部サッカー部キャプテンの茂森一司。
「おや、お知り合い?」
 固まった三人の間で、店長はにこやかな顔で首を傾げる。
「えっ、あ、はい、まあ」
 店長の問いに対応したのは茂森で、
「そーなんですよー!親戚のおにーちゃんなんですぅー」
 不自然ながらアドリブで哉子が同調した。
 目の前にいるのが兄の同級生でサッカー部のキャプテンで「山本」ではない事と、桐嬰学園中等部と高等部がアルバイトを禁止している事を、知っていたからだ。
 何もしらない店長は「そうなんだ~、あんまり似てないね」と悪気なく微笑む。
「……」
 フォローのつもりが墓穴を掘ったと、哉子の顔に脂汗が浮かんでいる。三人の焦りに全く気がついていない店長は笑顔で「高校生アルバイトの山本」に振り向く。
「なら、そろそろ時間だし、山本君、上がって良いよ。約束通りヤールフースのシューズ、好きなの一つ持ってっていいから」
「あっ、はい、ありがとうございます!」
 困惑と喜びが交互に入れ替わる複雑な表情で応えた茂森に、
「じゃあお疲れ様。選んだ商品の注文票は後で坂口君にでも渡しておいて」
 と言い残し、店長はその場を去っていった。見送る三人の間に、微妙すぎる空気が漂う。
「……」
「……」
「……」
 賑わう店内、三人の間にだけ気まずい沈黙がのさばっていた。
「………えーっと…」
 最初に口を開いたのは、茂森。
「ヤールフースって?」
 それを遮ったのは要。「え?」と茂森は戸惑う反応を見せるが、すぐに柔和な微笑みに落ち着いた。
「北欧のスポーツ用品メーカーだよ。あんまり有名じゃないけどね」
「好きなブランドなんだ?」
「うん。デザインもシンプルだし、ウェアとかも裁断が俺の体に合ってるみたいで好きなんだ」
 答えてから、茂森は要の傍らに立つ同じ顔をした哉子に視をやった。
「もしかして、四条の妹さん?」
「はい、哉子です。兄がお世話になってますー」
 待ってましたとばかりに要より前に出て、哉子は茂森を見上げた。
 哉子の方は(これが噂のキャプテンか~)と無遠慮に茂森を眺め、
 茂森の方も(本当に同じ顔なんだなあ)と思いつつ、
「こちらこそ」
 と微笑んで哉子の視線を受け止める。
「バイト料が現物支給なんて珍しいな」
 最初の一足を試着しながら、要は隣の棚を見ている茂森に問いかけた。
 結局、シューズが展示されている棚の前でそれぞれが目的の靴を物色し始め、今にいたる。
「うん…バイト料もらっても俺がここで買い物して帰るから、それで自然にね」
 店長の好意のおかげで現金を貰っていた頃より、割安で欲しい物が手に入っているという。
「ふーん」
 そう応えただけで、要は二足目のシューズを試着する。立ち上がって歩いてみて、足の感覚を確認した。
「………四条は、よくこの辺りには来るのか?」
 言いにくそうに、茂森の声調が落ちる。学校から一時間以上もかかるこの場所に、まさか部の人間が来るとは思っていなかったのだろう。その表情には疲労感に似た焦燥が浮かんでいる。
「誰にもいわねーよ」
 要はその場で軽く飛び跳ねて、中敷の感触を確認した。分かり安いほどに茂森の顔が安堵に変わる。
「ありがとう、助かる」
「いつからやってんの」
 自分はもう選び終わったのか、茂森は両手で大事そうに靴を抱え、要が試着する様子を見ていた。
「一年の夏頃、かな」
「そんな前から?」
 驚いて顔を向けた要に、茂森は苦笑を返した。
「不定期にだけど、歴は長いな。俺、この店ではいま高校二年生って事になってる」
「お前、背伸びたからバレにくいんだな」
 話したいのはそういう問題じゃない。
 要は試着した靴を脱ぎながら、言葉を継いだ。
「なんでこんなとこでバイトなんか?」
「近くでヤールフース扱ってるところがここぐらいしかなくて」
「そうじゃねえよ。なんでバイトしてるかってこと」
「なんでって……」
 苦笑いのまま、少し考えた後の茂森から答えが戻る。
「欲しい物があるから」
 至極当然の事だろうと言う風に、彼は手にとった靴を軽く掲げた。
「………」
 腰を屈めたまま、要は茂森を見上げた。
 数日前、唐突に副キャプテンになったあの日が思い浮かぶ。
 転倒したゴールキーパー、切れた靴紐、使い古したシューズ。
 そして今、彼の手の中にある新しいシューズ。
(「欲しかった」んじゃない……?)
「必要だった」のか。
―新しいのにしろよ
 そう何の気なしに口にした言葉を、要はいま軽く後悔した。

 一旦レジの前で別れたが結局、要達はバイトから上がった茂森と同じタイミングで店を出る事となった。
 左から哉子、要、そして半身分の間を空けて茂森と並ぶ。
 普段見ない私服同士、そして片や校則違反の帰りという事もあり、ぎこちない空気をこれでもかとお互いに発しあう、そんな二人を、哉子が端で眺めている構図だ。
 そのうち、店を出てから会話が全く無い二人に痺れを切らす。
「ねね、三人でフットサルコート、覗いて行ってみない?」
「なんで」
 そっけない要の即答。だが哉子は慣れた様子で両目を細めた。
「こういうところで遊ぶのに、理由なんているの?」
「土日はよくミニゲームやってるんだよ」
 茂森が言うと、味方を得たとばかりに哉子は要の腕を引いてフットサル場へ向かわせようとする。
 気は乗らないが、頑なに拒否する理由もない。半ば渋々と要は哉子に引かれて茂森も三人でフットサル場に向かった。
 茂森の言葉通り、四面あるフットサルコートではそれぞれに人でうまっていた。社会人の同好会や、大学のサークル、主婦の集まりなど、チーム模様は様々だ。要らは一番手前のコートを覗く。社会人の同好会らしく、年齢幅の広い男達がゲームの準備をしていた。
 コートの周囲にいる見物人達に気がつき、リーダーと思わしき中年の男が周囲に呼び掛ける。
「よければゲームに参加しませんか?」
 フットサルは通常五人チームで行われるが、こうした場では飛び入りを募り自由な形で遊ぶ事が多い。
「はーいはーい!!」
 すぐに応じる声が、要の真横から上がった。
 哉子だ。
「ここにサッカー部員が二人いまーす!!」
「おい、待てよ!」
「お、いいですね~、ちょっと一緒にやりません?」
 呼びかけをしていた男が手招きをする。要が次の言葉を出す前に、背後の哉子が「ぜひお願いしまーす!」と答えてしまった。
「守護神カズ君と司令塔の要ちゃんでーす。キャプテンと副キャプテンでーす!」
 哉子に強く背中を押され、二人はつんのめってコート内に足を踏み入れるハメとなった。
「頼もしいな~」
「キャプテンと副キャプテン?」
「おまけに守護神と司令塔かあ。まさにチームの要が二人そろってるわけだね」
「どう?少し遊んで行かない?」
 グループのリーダー格らしい中年の男が、にこやかに提案してくる。
「ぜひぜひー、よろしくお願いしまーす!」
 何故か背後から哉子が答えた。それを二人の了承と強引に合点して男が改めて、
「えっと、という事は君が普段GKで、君はMFって事かな?」
と、左から茂森、要を交互に見やった。
「「は、はい…」」
 勢いに押された形で二人の答えがユニゾンする。男は「そっかそっか」と笑って背後に声を上げた。
「おーい、平山さん、グローブ貸してくれません?」
 チームのキーパーらしき別の男が「はいよー」と答え、ほぼ同時にグローブが飛んで来る。キャッチした男は、それを要に差し出した。
「え?」
「?」
 目を丸くする二人に、男は白い歯を見せて笑う。
「こういう時は、いつもと違うポジションをやってみる方が面白いだろ?」
「いいですねー!面白そう!!」
 また背後から哉子。
 お前は少し黙ってろ!
 そう言いたかったが、男が「でしょうでしょう?」と嬉しそうに応えるので、言えなくなってしまった。
「じゃあ、カズ君だっけ?君は僕、石橋チームで、要君、だね?君は平山さんチーム」
 男、石橋のもとに他のメンバー達も「よろしく」と集まってくる。二十代の若い男から、父親ほどの年齢の男まで幅広い。
「「よ、よろしくお願いします!」」
 また二人の声がユニゾンすると共に、お辞儀もシンクロする。
「……」
「……」
 思わず顔を見合わせる二人へ、
「礼儀正しくていいねー」
「部活っ子は爽やかでいいなあ」
 大人達は暖かい視線を送って出迎えた。
「サッカーとフットサルって、意外と細かいルールの違いが多いけど、今日はそういうの抜きでやるから、あんまり気にしなくていいからね」
 と石橋の口から軽くルール説明が二人になされる。コートの広さ、ボールの大きさ、ゴールの大きさ等の仕様の違いはもちろん、もっとも大きな違いはファウルの基準がサッカーよりも厳しいこと。サッカーでは許されるスライディングやプッシング等が、フットサルでは簡単に警告対象となる。
「ま、基本的に紳士的なプレイをしてくれれば何の問題もないよ」
 最後にそう締めくくると石橋は背後のメンバー達に、ゲームを始める旨を知らせる。
「カズ君も要ちゃんも頑張れ~~」
 コート脇にいた知らない女性達から声が上がった。いずれも子持ちで、おそらくここにいるメンバーの家族だろう。
 その隣で哉子が楽しそうに笑っていた。
「ったくあいつは…」
 呟きながら要はジャンパーを脱いで哉子に放り、渡されたグローブを手にはめた。
「結構似合うよ」
 隣でコートを脱ぎながら、茂森が要の手元を覗き込んでくる。
「うるせー」
 グローブに似合うも似合わないもない、と思っていたら、着けてみると意外と自分には似合わないと思う。違和感というやつだ。
 逆に、素手のまま腕まくりをする茂森の姿が、不自然に思えてしまう。
 やっぱり「これ」は、あいつの手を護っている方が似合う。
(………何考えてんだ俺)
 グローブをはめた己の手を見つめ、要は首を振った。
「キーパーするコツって何かあるのか?」
「コツ?そうだなー、何だろう」
 要の質問に茂森は小気味良く笑った。
「基本的な感覚は、いつもと同じで良いと思うよ。とにかくキーパーは、体のどこにボールが当たってもいいんだから」
「―ふむ」
 なるほど。そう言われれば分かりやすい。
 要は再び己の手のひらを見て、頷いた。
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