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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians14
14

 夜の寮、消灯時間まで一時間をきった頃、要はパソコン室へとやってきた。
さすがに疲れて体が鉛のように重たい。夜行性の要には珍しく、小学生が寝るような時間で既に意識が泥に足を半分踏み入れていた。
 今日はさっさとメールやニュースをチェックして寝てしまおう。
 そう思ってやってくると、
「?」
 珍しく一台の端末を囲んで数人が盛り上がっている光景に出くわした。見れば、 サッカー部の面々だ。
「あ、先輩」
 目ざとく要に気がついた一人が手招きしてくる。
「何見てんだ?」
 規制がかけられている為、当然アダルトの類は閲覧する事はできない。ただ、今時の子供がアダルトサイトごときでこうして盛り上がるのかどうかはまた別の議論だが。
「こういうのがあるって知ってました?」
 後輩が指差す画面の中は、目がくらむようなピンクやら黄色やその他パステルカラーが支配していた。水玉のイラストパーツがあしらわれた、どうやらブログのようだ。一目で女が作ったと分かる。本文パートは活字に混じり様々な絵文字が狂い咲いていた。
「目に悪いブログだな」
「まあまあ、これ見てみろよ」
 中央に座ってマウスを動かしていたのは正田だった。画面がスクロールされて下から現れた、一枚の写真。
「ああ!!」
 思わず叫んでいた。
 紛れも無い、その写真には、自分を真ん中に、茂森、芥野、そして清水寺が写っている。四人とも視線がバラバラだ。振り向きざま、少女達に撮られた時のものに違いなかった。
「な、な・・・」
 正田の手からマウスを失敬し、要は画面をスクロールさせる。
「『残念ながらカズシくんのチームは負けちゃったケド、でもでも、一軍対二軍で一点差はサスガってとこだよね』」
「『なにやら真剣なカオで議論中のカズシくんたち。今日の反省会かな?』」
「『なんと、カズシくんたちを至近距離からの激写に大成功!左から、カズシくん、四条くん、芥野くん、清水寺くん。近くでみると、四条くん以外はおっきかった』」
「って何だこれ!?」
 画面に映る文章を後輩達がおどけて朗読する。
「カズシくんカズシくん連呼ですね」
「『四条くん以外はおっきかった』ってウケるんですけど」
 忙しなくマウスのホイールを回してみると、次々と写真が現れる。いつの間に撮ったのか、試合中のメンバー達のありとあらゆる場面が写されていた。写真の下にはそれぞれ説明文がついていて、恐ろしい事に紅組・白組双方のメンバー名とポジションを全て把握していた。
「この管理人の辞書に「肖像権」って文字はないのか……」
 呟きながら他の記事も手当たり次第にクリックしてみる。
 過去の公式戦ばかりか、他校との練習試合の様子を報告した写真と記事までがずらりとアーカイブに名を連ねている。
 さらにこのブログのみならず、別サイトもあるようで、そこでは他の地域に住んでいるらしきファン仲間による、それぞれが追いかける学生チームのファンブログのリンクが充実している。
「すげーなコレ…」
 要がマウスから手を離す。
「まるっきりアイドルファンと同じなんだな」
「いや、でもよく見るとそうでもなくてさ」
 要の言葉をやんわりと否定した正田は、再びマウスを握って画面を動かし始める。最新記事である今日の紅白戦レビューを開いた。
「今日、反省会で俺達が監督に指摘された事とか、ほとんどそれに当てはまる事を書いてるんだよ」
「え…?」
「ここ読んでみ」と示された画面に、要は顔を近づける。
「『後半十五分、芥野君が良い感じで四条君のセンタリング(ちょっと焦ってタイミングに無理があったかな?)をカットしたんだけど、寺野君や一年生達が焦っちゃったのかな~。ボールの動きにつられちゃって、キーパーの視界を塞いでしまった!小野寺君がカバーに動いて(略)』―、本当だ…」
 文章を口にして、要は息を飲み込んだ。FWがフリーになった時に焦りが生じていた事も、見抜かれている。
 躍り狂う絵文字に気をとられそうになるが、冷静に読んでみれば、試合の様子が時系列に並んで細かく解説されているのが分かる。しかも、記事についている他ファンのコメントを読めば、「**君がかわいい☆」だの「かっこいい♪」といった言葉に紛れて鋭い指摘が光る内容だ。
「これだけの事が書けるんだから、サッカー経験者なんじゃねーのかな」
 正田の言葉を聞きながら、要は見学者席にいた女子集団の様子を思い出す。揃いのスエットを着ていたが、どこぞのチームユニフォームには見えなかった。格好を真似ただけのファン集団だと思っていた。
「でも、熱心なファンってこういうもんじゃねえの?」
 と言いつつもこっそりURLを覚えてから、「そうかなー」と言う正田を横目に要は端末から体を離した。
「中坊サッカーに熱烈なファンってのもどうかと思うけどさ」
 別の端末の前に座り、日課となっているメールチェックやらに取り掛かる。
「このブログだけじゃないんだぜ」
 と、背中を向けたままの正田。お互いにパソコンとネット好きのため、要とはよくその手の話題で盛り上がる相手なのだ。正田の話によれば、特にサッカー、野球、フィギュアスケート等の日本人が世界レベルで活躍できる競技でジュニア世代を応援するファンが増えているのだとか。ファンの質も、経験者から、単純にアイドル視しているものまで様々だという。
「ふーん」
 よく見つけたものだ。感心しつつ要は先ほど諳んじたURLから、再度同じブログにアクセスする。ロードが遅いのは、やはり大量の写真や絵文字のせいなのか。少し苛立ちつつも、記事のバックナンバーを見る。最も古いのは二年前の春。タイトルは「ブログはじめました」。そしてその次が「関東に大型新人現る!」で、内容は見るまでもなく茂森の紹介だった。
 これを見る限り、元は茂森のファンブログとして始まったようだ。バックナンバーを遡ってみると、茂森が出場した試合の報告記事に混じり、次第に他校の選手を扱う内容が増えて、現在に至っている。
 アーカイブの中で目を引くタイトルがある。
『U-14イギリス親善試合』
このところ、やけに縁がある言葉だ。指が自然にそのタイトルをクリックしていた。開いた記事はやはり茂森が代表として出場したあの国際試合で、さすがに資料が少なかったのか、写真はなく文字だけだ。日本とイギリス双方の選抜チームメンバー一覧表が載っている。
 イギリス選抜メンバーの中に、要の意識を縫い付けた名があった。

#9 Souji Ren Asamiya

「日本人か?ソウジ………?」
 思い浮かんだのは、練習場で出会ったハーフのような外貌の少年。
「まさか」
 そんな短絡的な事があってたまるか。己の発想を否定し、だがどうしても確認したくなり席を立つ。壁の棚から、つい先日見たDVDを手に取り席に戻る。パソコンで再生させて番組冒頭を早送りで飛ばし、イギリス選抜スターティングメンバーがテロップで表示されたところでポーズした。
 そこに、ソウジ・レン・アサミヤの名前はない。
(あれ?)
 拍子抜けして再生ボタンを押して先に進めると、ベンチが映った。イギリスチームの監督、コーチや控えの選手が見える。
「あ…の女!」
 また驚きのあまり口から声が出た。そこに、イギリスチームのスタジアムジャンパーを羽織った美人がいる。ソウジの隣にいた美女だ。一瞬表示されたテロップには、

Coach Kaoruko Maya Asamiya

とあった。
「Coa…コーチ?」
 驚きはだいぶ収まったが、今はただ感嘆に似た息が口をついて出る。
そしてカメラは監督を映してテロップで無言の紹介をしたあと、背後に座る三人の控え選手を映し出す。その一人が、要の見たソウジだった。怪我でもしたのだろうか。
「へえ」
何に感心したのか分からないが、要は長いため息と共に画面から顔を離した。
(茂森…イギリスからも追っかけが来るなんてすげーな)
 ぼんやりとそう考えながら映像を早送りしたが、それきりアサミヤ姉弟は画面に映らなかった。どうりで談話室で観た時は気が付かなかったはずだ。
DVDの再生を止めて、二人の名前を検索してみる。英語によるニュース記事と、 イギリスのクラブチームのサイトらしきページが引っ掛かる。
「読めないし」
対訳ソフトを使ったところで意味不明の訳しか出てこないだろうし、これから辞書を引っ張り出して来て読む気力はない。気にはなるが、気にするべき事ではない。そう結論づけて要はブラウザを閉じた。背後ではまだ正田達が騒いでいる。既に先程のサイトから話題は別の事に移っているようだった。
 要が部屋に戻る途中、尻ポケットに入れていた携帯電話が鳴った。
『カナ兄、明日練習休みよね??』
 でるなり挨拶なしにそう切り出してくる。哉子だ。
「そうだけど?」
 何でも、県内に住んでいる伯父を見舞ってほしいと、実家から連絡があったというのだ。
『おじさん、最近まで入院してたらしいのよ。母さんから連絡があったの。退院したみたいだから、お見舞いにいかない?』
「入院してたのか。聞いてなかったぞ?もちろん行く」
 要は決して、伯父に関してNOとは言えない。
『そう言うだろうと思った。じゃあ、明日十時に正門前でね』
 手早く明日の約束を済ませ、電話を切る。通話の切れた携帯電話のディスプレイを眺めたまま、要はしばし廊下に立ち止まる。
(伯父さん…そういえばここ数日メール来てなかったしな……)
 無意識に親指がアドレス帳を開き、伯父のページを開いていた。
『間もなく消灯です』
「………」
 思案していた要の頭上で、今日もまたいつもと同じ、事務的なアナウンスが流れた。

 伯父の四条聡(さとし)宅は、学校からバス一本と電車を二本乗り継いだ場所にある新興住宅街にある。要の父の兄にあたり、本来は旅館の後継ぎであったが、大学から東京に進出しそのまま就職、今は大手機器メーカーにてそれなりの役職にいる。
 ギックリ腰かと思って病院にいったらヘルニアだったそうだ。
「主将に副キャプテンか!すごいじゃないか!」
 退院したもののまだ歩き方に不自然さが残る伯父の聡は、それでも二人の話を聞いて大いに喜んでくれた。
「まあ」
 と明るい声でキッチンから姿を表した義伯母。ケーキとお茶を出してくれた。ちなみに要と哉子が持って行った見舞い品は、果物である。
「あ…スポーツ選手だから、甘い物はいけなかったかしら?」
 義伯母の四条凛子は良妻を絵に描いたような穏やかで綺麗な女性で、哉子はよく「私も年を取ったらああなるんだ」と言っている。上品な趣味のインテリアは、彼女の趣味によるものだという。
「大丈夫ですよー、全部消化しちゃいますから!」
 と言っている時点で既に半分を平らげていた哉子は、テーブルに出されていたクッキーにも手を伸ばしていた。ゆったりとした柔らかい四人がけのソファと、一人がけのソファ二脚が、ガラステーブルを囲んでいる。
(よく食うなぁ……)
 カップを手に持ったまま、要は横目で妹の食欲を眺めた。
「カナちゃん、よく食べてくれるから作り甲斐があるわ~」
 満足そうに凛子は微笑んでいる。
 女同士の会話を横に、伯父はソファに背中を預けたまま要に向き直った。
「要が副キャプテンと言う事は、キャプテンは例の子なのかい?」
「例の子」。訊くまでもなく、茂森の事だ。入学して間もない頃、要が「チームに有名なGKのやつがいるんだ」と伯父に話した事があるからだ。
「うん、例のやつ」
「名前なんだっけ?」
「茂森。茂森一司」
「ああ、そうそう。茂森くんか。すごい選手なんだろ?そんなのと並んで副キャプテンなんて凄いじゃないか」
 聡は元々サッカーに詳しくなかったが、要の話に興味を示してくれる。夫婦の間に子供がいない事もあり、関東で要たちの親代わりとして可愛がってくれていた。
「そうだそうだ、あの子はどうしてる?ほら、一年生で上手な子が入ってきたって言っていただろう。キジ鍋くんだっけ?」
 鴨崎のことだろう。
「エースに育てるって監督が言ってた」
 苦笑しながら要が答えると、「ほほー」と感心した声を洩らして聡は目を細くした。
「ちなみに、鴨崎な」
「そうそう、鴨スキくん」
 違うし。
 気にした様子もなく、聡は「あの子はどうした、あの試合はどうなった」、と次々と要に質問を向ける。。
「おじさん、どうしてサッカー部の事そんなに詳しいの?」
 凛子とお菓子について語り合っていた哉子が、ふと男二人の会話を耳にして口を挟んできた。
「私達メル友だから」
 要が説明する前に、聡が白い歯を見せて答える。よく会社のアドレスから要の元にメールが届く事があり、要もまた、折を見ては携帯やパソコンから聡に返事を出していた。
「そうそう、最近この近くに「スポーツポート」っていうのができてね」
 ひとしきりサッカー部の話をした後で、聡が話題を変えた。
「スポーツポート」は、新興住宅エリアの呼び物にしようと、区が各スポーツ関係企業を誘致して作った大規模なスポーツアミューズメントエリアだ。各種室内・屋内コートやプレイグラウンドを有したスポーツクラブや、スポーツ用品店を集めたモールなどがある。「心も体も健康タウン」を標語にした区が総力をかけて作り上げた一大プロジェクトなのだ。
「へ~、面白そう!帰りに寄ってこうよカナ兄」
 すっかりケーキを平らげた哉子。どうやら体を動かしたい気分らしい。
「ぜひそうするといい。店も充実しているみたいだし」
 言いながら聡は懐から二通の封筒を取り出した。それを二人に向けて、テーブルの上に差し出す。
「必要なものとか欲しいものを、そこで買って行きなさい」
 要と哉子は、同時に首を横に振った。
「ありがとう。でもいらないよ。この間も、送ってもらったばかりだし」
「子供が変に気を遣うと可愛くないぞ。小遣いみたいなものだから遠慮するな」
 笑って聡は封筒を手に取り、改めて要と哉子に差し出した。凛子は何も言わず、微笑みの表情のまま三人の様子を見守っている。
「……」
「……」
 目を見合わせて困った顔をする双子。
「まだ反対されてるんだろ?」
 聡はそんな二人の顔を、覗きこむ。
 四条家の親戚一同は、長男である要がサッカーを続ける事を快く思っていない。四条家一同が、双子を関西圏内の名門に進学させようとしていた事を、聡は知っていた。その学校に弓道部はあってもサッカー部が無い事も。
「うん…、まあ…ね」
 要は苦笑して声調を落とした。
 首都圏内に住む聡を頼って保護者に立て、強引に桐嬰へ入学を決めた要と、「カナ兄と一緒がいい」とついていった哉子の「暴挙」を、親戚達はまだ許していないのだ。「いちおう桐嬰も名門校だからヨシとしよう」と辛うじて生活費と学費は出してくれるものの、部活に関わる援助をしてもらえなかったのだ。それを全面的に工面してくれているのが、聡だった。
 だから要と哉子は、聡に決して頭が上がらない。
 それに、自分らのせいでこの伯父は「子供二人をたぶらかした」として、すっかり親戚一同から絶縁状態になっているのだから。
 唯一連絡をとっているのが双子の母親だった。
「おじさんは、罪滅ぼしでこういう事してるんじゃないんだぞ」
 渋る二人の手をとって、聡は強引に封筒を握らせた。
「確かに私は均に旅館押し付けて家出した…それは悪いと思っているし、さらに私は均と文枝さんを裏切ってしまったしね」
 均は双子の父親で、文枝は母親の名前だ。
 両親を裏切った聡の行為とは、双子を桐嬰に入学させた事の他ない。
「………ごめん、伯父さん……」
 それを強く頼んだのは要だった。
「でも、それとこれは話が全然違う」
 謝罪の言葉を口にする要に、聡は封筒を押し付けて手を離した。その面持ちはいつもと同じ、明るく穏やかだ。
「私は、君達二人を応援し続けたい。打ち込める何かがあるのは素晴らしい事だし、それを奪う権利は誰にも―たとえ親にだって、無い」
 同じ顔と目でじっとこちらを見つめる双子へ、聡は満面の笑みを見せた。
「せっかくこれまでの努力が実りつつあるんだ。頑張れ。それは、主将と副キャプテン就任祝いという事にしよう」
 それ、で聡は要と哉子の手に押し付けた封筒を指差す。聡の隣で、凛子がゆるりと頷いた。双子が見舞いにやってくると聞いて、前日の夜から用意していた物だった。
「カナ兄、有り難くいただこうよ」
 花柄のプリントがされた封筒を大事そうに撫でて、哉子は隣に座る要の顔を覗きこんだ。複雑な顔をしている要に「ね」ともう一度推して、
「おじさん、おばさんありがとう!いただきます!」
 と両手でもった封筒に軽く頭を下げた。
「じゃあ…使わせてもらい、ます」
 目を伏せて、要も封筒を手に改めて頭を下げる。
 聡と凛子は満足そうに頷いていた。
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