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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians13
13

 高らかにホイッスルが鳴った。
 直後、いくつもの声が同時に青天へ突き抜ける。
 見学者席の小学生達、ファンの少女達。
 そして、
「おっしゃ勝ったああああああああああっ!!!」
 紅組エース鴨崎の声、
「っきしょおおおーーーーーーーーーーー!!!」
 白組DF小野寺の声、
「疲れた……」
「っしゃああ!」
 安堵したり、歓喜する紅組の面々、そして、
「…………」
健闘したがやはり及ばなかった白組の面々の、言葉にならない声やため息。
スコアボードは3対2を示していた。
「ナイスゲーム!」
 見学者席から声が上がる。
 鹿嶋少年の隣にいる男だ。長身が長い両腕を前に出してゆったりとした拍手を送っている。渋々、照れながらそれに倣う鹿嶋少年、そして他の見学者達からも拍手が続いた。
 前半は1対1で折り返した。後半、とにかく紅組はファウルを辞さない勢いで白組を攻め立てた。白組前衛陣も当初は冷静に対応し踏ん張るが、時間の経過と共に紅組の怒涛の攻めにリズムを崩される。
 後半の中盤、調子を崩された白組の前衛が茂森の視界を塞いだポジショニングをとってしまい、茂森が一瞬ボールの行方を見失った隙にゴールを許して1対2。そのまま競り合いを続けた中で、鴨崎のシュートをキャッチした茂森のカウンターにより再び白組が得点し2対2。PK戦にもつれこんでしまっては圧倒的に不利と判断した紅組は、更に攻撃姿勢を強めて五人がファウルの警告をくらいながらも、白組を圧倒する。そして終了間際に紅組FWの三人が、同時に茂森に体当たりする勢いでボールを押し込んで2対3。
試合終了となった。
(フルタイム出場した時より疲れた………)
 空を仰いで、要は深く長い息を吐いた。喉の奥が乾いて声が枯れている。前後左右にとにかく走り回り、あらん限りの声で指示を叫びまくったのだから。疲労が、頭の先から体の芯を通ってつま先まで、ドロドロと緩慢に流れているような感覚。
 早くすべて洗い流してしまいたい。
 周囲で上がる様々な歓声を遠くに聞きながら、要は固い瞬きを三度繰り返した。瞼の上を汗が通り過ぎていく。
 おそらく紅組のシュート数は白組の三倍以上。にも関わらずたった一点差。結果的に辛うじて勝ったものの、素直に歓喜する気にはならなかった。それに、茂森からの言葉が無ければ、方向を見失い続けたままズルズルと負けていたかもしれないのだ。
 五円玉を例にとった話。無駄に広がる視界をあえて狭めて不必要な情報をシャットアウトする事で、本来の標的周辺が鮮明に見えてくる。その感覚が、何となく分かってきた。
「ぁ…」
 そういえば、と我に返った。顔を振って汗を飛ばし、ゴール前を見る。正に「団子」になった状態で、ゴールの中で上から鴨崎、根岸、清水寺、そして茂森が転がっているのが見えた。
「バカモ重いーーー!」
「フォアグラ早くどけっ!」
「ぐるじぃ……」
 三人の先輩を尻に敷いたまま喜んでいた鴨崎は、
「わわわわわ、ごめんなさいいいいいい!!」
 ようやく自分がどこに乗っかっているのかを自覚する。慌てて飛びのいて、下敷きになっていた三人の先輩の救出作業を始めた。他のメンバー達もゴール前に駆け寄ってくる。要もその方向に歩み寄った。
「フォアグラって、オレって高級って事っすか?」と相変わらず馬鹿全開な事を言っている鴨崎の脇を通り過ぎる際、
「バーカ。フォアグラつったらブクブクに太らされた鴨の脂肪肝の事だ」
 と言い残す。
「ええ!!オレ体脂肪率一桁キープしてるのに!!!やっぱりヒデみたいに5%以下目指さないとダメっすか!!??」
 という鴨崎の嘆きを無視して要は茂森の様子を覗き込んだ。
「いってー…」
 折り重なっていた根岸と清水寺の体からようやく解放された茂森が、ゴールの中に座ったまま上半身についた砂をはたいている。
「どっか打ったか?」
 すぐに立ち上がらない彼に、要は上から呼びかけた。頭についた砂を拭き取りながら、茂森が見上げてくる。すぐに「いや、平気」と笑みが戻ってきた。そしてすぐに苦笑に変わる。
「実は疲れて立てない」
「またか」
 試合の後に茂森がグロッキーになるのは有名だ。立てなくなるまで全力を出し尽くす。「負ける事より後悔する事の方が嫌だ」と、いつかのインタビューに答えていたほどだ。だが練習中の紅白戦にまでこの状態になるのは初めてではないだろうか。しかも実際の試合時間よりも短いのに。
「さっきはごめんな。大丈夫かよ」
 隣から、要に代わって長身の清水寺が茂森の腕を引っ張り上げる。立ち上がったものの、平衡感覚が定かでないのか、一歩ふらついた。
(試合中ほとんどずっとゴール前で気ぃ張って動き回ってたからな……)
 ゴールポストに手をついて俯く茂森の様子を、要は黙って見つめる。気の利いた言葉も、気遣う言葉も思い浮かんでこない。お互いに、疲労のために酸素が足りなくて頭の中が真っ白なのだ。
「キャプテンすみません、痛かったっすか?」
「どこかケガしてませんか」
 鴨崎と根岸もやってくる。
 本心から心配する後輩二人にも同じ笑顔で、茂森は「平気」と応える。
「おーい、大丈夫か?」
 センターライン付近から、試合終了後二度目のホイッスルと、審判役の泉谷コーチから声がかかった。試合終了後の挨拶が終わっていない。幾人かは既に整列ライン上にいて、こちらを見遣っている。
「すみません、今いきますー」
 言って茂森が歩き出すのに伴い、要達もセンターへ並んだ。
 二つのチームが向かい合って二列に並び、その端に監督が立った。いつもの強面を崩すことなく、集まった部員達の顔に視線を一巡させた。
 また何か怒鳴られるのか。部員達は内心で恐々と監督の様子を伺う。ざわめいていた見学者席も静かになった。
「問題点、課題がはっきり浮き彫りになったな。反省すべき点が山ほどある。各々自覚していると思うが」
 静かだが、低くてよく響く声が降りる。部員達は各々が違う表情で監督の声を聞いていた。目を伏せる者、じっと目を見つめている者、目を閉じている者。要の正面に立つ茂森は、顔ごと監督を見つめていた。要も、わずかに顔を動かして監督に視をやる事にした。
「だがそれは、この新しいチームの方向性、道筋にはっきりと光が照らされたという事だ」
 この監督には珍しく詩的な物言いに、部員達は「おや」と目を丸くし、顔を上げた。あまり表情の変わらない監督の口が、確かに笑みの形を作っている。
「今日は良い試合だった」
 西浦の後ろで、コーチ達も頷いている。おもむろに西浦は首にかけていたホイッスルを吹き、両手で礼を促した。
「ぁりがとうございましたあ!」
 紅いゼッケンと白いゼッケンがお互いに礼を交わす。見学者席から再び拍手が沸いた。
「……」
 顔を上げた要の視界に、ほぼ同時に顔を上げた茂森の顔が映った。
「……お疲れ様」
「……ぁぁ…」
 途切れた言葉と共に生まれた微妙な空気。
 その間に割って入るようにコーチから次の指示が飛んだ。
「試合に参加していないメンバーで後片付けを開始してくれー。試合をしたメンバーは軽くミーティングをするから、十五分休憩した後でベンチ脇に集合な」
 ベンチの方向から「はーい」と声が上がる。他のコーチは見学者達に向けて見学会が終了する旨を説明し、来場の礼を述べていた。
 見学に来ていたジュニアリーグの関係者らしき人間達が、挨拶にきたコーチへ色々と質問を投げかけている。それを横目に、男は傍らの鹿嶋少年を呼んだ。
「どうだイチ、お前がもうすぐお世話になるチームの印象は」
 試合の後半からずっと両手を組んだ姿勢のまま身動ぎしなかった鹿嶋少年は、そこでようやく両手を解した。それを頭上で組みなおす。
「―悪くないんじゃねぇ…かな。ゲーム、面白かったし」
 唇を尖らせた、素直じゃない少年の物言いを笑って男は「そうだな」と肯定した。
「面白いゲームは、良いゲームだ」
 そこで男は視線を見学者席にいる小学生達に向ける。まだ誰も帰ろうとせず、フェンス付近に近寄って、休憩する部員達の様子を眺めていた。「面白かった」とか「凄かった」という、言葉は稚拙だが素直な感動が聞こえてくる。
「面白いスターを抱えたもんだな、西浦さん」
「ん?」
 いつもと異なる口調でつぶやく男を、鹿嶋少年は振り返る。目深に被ったキャップのツバを押し上げながら、「なんでもないよ。帰るか」とはぐらかす笑顔が戻ってきた。
「だなー」
 と頷いて鹿嶋少年は、最後にもう一度グラウンドを振り返る。休憩を言い渡された部員達が疲労した様子でグラウンドの中央から捌けて行くところだった。
「喉かわいたー」
「俺は腹減った」
「うへ、気持ち悪くて食欲ねーよ」
 いつものように、要の元へ芥野と清水寺がやってくる。汗で変色したゼッケンを脱いで、回収にやってきたマネージャーに手渡す。
「キャプテン、センパイ、おつかれさまーっす!喉渇いて腹減ってる時はアイスですよ!後で買いにいきましょーよー!」
 相変わらずテンションが高い鴨崎が根岸と小野寺を伴って近づいてくる。「なんでだよ」と要は表情をしかめるが、鴨崎は一向に気にしない。
「冬のアイスは美味いよな」
 と変に同調する茂森へ表情を輝かせて「ですよねですよね、風呂上りも最高ですよね」から始まって何アイスが美味しいか談義になっていく。
「あの…」
 話の途中で声がかかり、要達は背後を振り返る。そこに、寺野を中心とした白組の面々がいた。
「えっと、その」
 言葉を出しあぐねている寺野に、要は目を細めた。
「どうした?お前も『どのアイスが美味しいか』議論に参加するのか?」
「違うって。それも楽しそうだけど」
 要の言葉に苦笑した寺野。固くなっていた表情が崩れた。
「どうしても、言いたい事があって」
 畏まった寺野達に、要を始めとする一軍の面々は目を丸くする。
(後半以降、ちょっとやり過ぎたかな……)
 内心で要はじっとりとした汗を流す。勝ちに行く為に手荒いプレイを重ねて、ファウルの数も白組の三倍以上とっていた。紅組の誰もが「本気」モードになっていたのだ。その事を抗議されるのではないかと、要は疲れた頭で言い訳を考えた。
「言いたいこと?」
 促され、ぽつりぽつりと寺野が語りだした。
「最初、一軍対二軍のチーム構成になるって聞いたとき、二軍チームに入れられて茂森も芥野も小野寺も…本気になってくれないんじゃないかって思ってたんだ」
 視線がどこを向いて良いのかわからず、周囲に立つ面々の間を泳いでいる。
「だから一軍チームにも適当にやられちゃうんだろうなって思ってて」
「………」
 黙りこんだ面々に向けて、寺野は「一年生の時にさ」と言葉を継いだ。懸命に考えて用意していたのだろう。
「一軍の先輩達に言われたことがあるんだ」
『ヘタクソのお守りなんてしてらんねーよ』
 一軍と二軍の合同練習でミニゲームを行った時の事だった。要も、よく覚えている。
「それがずっと忘れられなくて…せっかく頑張って受かった桐嬰なのに、その一軍がこんな人たちなのかってがっかりしちゃってさ……」
 今回のゲームでも、一軍の皆が過去の先輩らと同じこと考えていたらどうしよう。
 白組二年生の胸の内には同じ思いがあった。
「あと、もう、この際正直に言っちゃうけど」
 ここで寺野の視線が要を見た。
「え、俺?」と思わず要は顔を退く。
「四条が副キャプテンって聞いたときに、「ああ、今年もダメなのかな」って思ったんだ」
 話を聞いて唖然とする面々の視線が、恐る恐る要を向いた。
「ほんとにぶっちゃけたな。俺も同感だけどさ」
 腕を胸の前で組んだ要は、苦笑する。
「四条って、涼しいカオして何でもこなすし……同学年の中で、初めてスタメンに使われたのが、茂森の次に早かったろ?」
 二年生の春大会。一回きりの代役だったが。
「―そうだっけ?」
 要自身は覚えていない。
「ほら、そういうところも」
「い?」
「だから、いくらやっても上手くなれない俺の事とか…二軍の事を気にもかけないんだろうって思ってた」
「うはは、めちゃくちゃ人望ねーなお前」
「ウケる」と清水寺が笑って要の背中を叩いた。その隣で芥野も、
「無いとは思っていたが、そこまでとはなあ」
「天晴れだ」と爽やかな笑みでそう言ってのける。
「………」
 我ながら全てにおいて同感であるが、さすがに要は目を細めて苦笑するしかない。
 さすがに鴨崎や小野寺達は軽口を忘れて、寺野達と要達の間で視線を泳がせ、他の面々も目を伏せていた。
 そんな中で、
「『思ってた』、んだろ?」
 茂森の表情だけが穏やかなのを要は見た。
 視線で寺野に続きを促して茂森は口をつぐむ。背中を押されるように寺野は再び口を開いた。
「でも、今日のゲーム、みんなすごい本気になってくれてびっくりした。茂森も芥野も小野寺も、二軍チームなのに勝つつもりで本気になってくれて…紅組も、四条が初めて見るような怖い顔してたし、他のみんなも容赦なくて」
 そんな凄いカオしてたんだろうか。
 思わず要は自分の頬に手をあてた。
「だから俺らも精一杯やれたから、嬉しかったし、楽しかった。とにかく、それが言いたくて」
 言い終えて満足した寺野が、力の抜けた笑顔になった。一緒にいる二軍の面々も、同じように和らいだ表情を見せていた。
「………」
 首の後ろが熱くなって、要は寺野から視を逸らした。
(それは、逆だ)
 要がムキになったのは、茂森ら一軍の三人と、寺野を中心によく組織された二軍達の思いがけない動きの良さのせい。頭の中が真っ白になるぐらい全力を出せたのも、白組のおかげなのだ。
 それをどう説明しようか、要が言葉に迷っていると、
「もー、寺野センパイ何言っちゃってるんすか!!!」
 言葉よりも体で表現する鴨崎が、大きな両目を輝かせて寺野に飛びついた。
「だって白組、超強かったっすよ!先取点取られたときに俺、泣きそうになりましたもん」
 その時の気持ちを思い出したのか、鴨崎は幼稚園児のように口を膨らました。
「重たいって」と鴨崎を引き剥がしながら、寺野は茂森と要を交互に見た。
「とにかく今は、今のキャプテンと副キャプテンのチームでなら、俺、もっともっと頑張ろうって思う、よ」
「………」
 ―あ。
 要は頭の中で何かが弾けるのを感じた。
(認めてくれたって事、か?)
 副キャプテンとして。
 首の後ろで生まれたむず痒い熱が、脊髄や神経を通って前進に波立つのが感じられる。条件反射で肩がぶるりと震えた。
「………」
 ぎこちなく、要は茂森の方を見る。
「………」
 彼もまた、驚いたような顔をして、要の方を見た。
 無言の視線が交差する。
 その合間に割り込んで、
「ほーらー、やっぱり!さすが俺っす!」
 鴨崎がタオルを持った手でビシッっと前方を指差した。その場にいる全員が何事かと目を丸くする。
(またこのバカは何を言い出すんだ)
 要は疲労の残った顔で鴨崎の様子を見守った。
「でも寺野センパイ、残念ながらちょ~っと気付くのが遅いっすよ~~」
 ちっちっ、と人差し指を左右に揺らす仕草で寺野に詰め寄る鴨崎。さすがの寺野も、このテンションに少々ひいていた。
「え?」
「俺なんてもう三日前に『このチーム大好き宣言』してるんですから!」
「何だそれ??」
「しかも『キャプテンと副キャプテン大好き宣言』もしてるんですよ!」
「「だから何なんだそれは!!?」」
 複数の声によるツッコミを受けた鴨崎は「ね、センパイ」と要を振り向いた。答えを求める複数の視線も一斉に要を振り向く。
「え!?」
 おそらく夜練グラウンドで交わした言葉の事を指しているのであろうが、それを最初から説明する気力は、今の要に残っていなかった。
「まあなんだ。その。ポツダム宣言みたいなものだと思えばいいんじゃないか」
 いくない。
 だがどうにも要には説明のしようがないのだ。
 そんな時、背後から神のが救いの手を差し伸べるが如く、監督から「ミーティングするぞ!」と声が飛んできたのであった。
 そしてその三十分後―
「解散!」
 と監督の口が告げる。
 心身ともに疲れている時に聞くこの言葉は、これもさながら神の声だ。
試合の反省会と、今後のスケジュールについての説明を終えて、この日のメニューは全て消化された。この時点で見学者のほとんどは帰っている。
「ドロドロだ~」
「早くシャワーいこうぜ」
 紅白戦に出た面々は口々にそう言いながら、まばらにグラウンドを去っていく。要も、いつものように芥野や清水寺と共にグラウンドを横切った。歩道へ続く出口付近では、残っている見学者達から試合に出た部員達に声がかかっている。
「お疲れ様です」
「ゲーム面白かったです」
 という小学生や、女子の集団。そして、
「茂森君」
「―はい?」
 茂森を呼び止めた、サングラスの男。他の見学者達の中で一人だけ異彩を放っている雰囲気に、通り過ぎる部員達がみな不思議そうに視線をやっていた。
「あ、さっきの英会話男だ」
 清水寺が気付き、要も振り向いた。自然な動作でサングラスを外した男が、呼び止めた茂森に話しかけている。ホメ言葉から入っているらしく、茂森は照れくさそうに男の言葉にただ頷いていたが、次第にその表情が堅くなって行くのが分かる。離れた場所から、監督やコーチ達が、その様子を窺っていた。
 三分としないうちに、男は茂森に何かを手渡すと足早に去っていってしまった。残されたキーパーユニフォームの背中が、何やら手元を見ている。
(名刺でも渡されたのか?)
 茂森の側を通り過ぎる際に要が軽く覗き込むと、
「―あ」
 ちょうど振り返った茂森と目が合った。
 要の予想通り、グローブを外した茂森の手が、白く四角い紙を持っていた。
「お、お疲れ…」
 ぎこちなく笑い返しながら、茂森はさりげなく手にしたそれをポケットに差し込んだ。この流れから行くと、またこちらから夕飯に誘うべきなのだろうか。要が一瞬迷っていると、
「あのー」
 背後から声がかかった。振り向くと、白地にピンクストライプの揃いのスエットを来た少女達。見学者の中で、あのサングラス男とは違う意味で目立っていた集団だ。
 振り向き様に、携帯電話カメラのシャッター音が連続した。
「試合、すごかったですー!」
「かっこよかったー!」
 鼓膜に悪い黄色い声。律儀に「ありがとうございます」と礼を言おうとする茂森をも遮る勢いで、少女達は一方的に黄色い言葉のシャワーを茂森や要達に浴びせる。
「……」
「……」
 要達はひたすら嵐が過ぎるのを待った。
 しばらくして気がすんだのか、
「これからもがんばってください!」
 と少女達は自己完結して去っていく。
「―お前ら、あれでもモテたいと思うか?」
 その後ろ姿を見送りながら要が問うと、両側に立つ芥野と清水寺から「いやあ~…」と煮え切らない返事が漂う。
「あははは。元気だよね、ああいう人たちって。あ、そういえばさ」
笑いながら少女達を見送った茂森が振り返る。
「シャワーあびたら、皆でアイス買いに行くみたいだよ」
と更衣室の方を指差した。
「あの話まだ続いてたのか」
おおかた鴨崎が先頭に立っているのだろう。気分が落ち着いた今、確かに要も体が甘い物を欲している事に気が付く。
「俺らも行くか」
呟いて、要は先を歩き出した。
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