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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians10
10

「おはよう四条、鴨崎を見なかったか?」
 朝っぱらの開口一番、茂森から尋ねられたのはそんな質問。
 間もなく始まる見学会を前に、部員達がそぞろにグラウンドに集まりつつある。その中で、言われて見れば確かに鴨崎の姿が見当たらない。
「朝メシん時にはいたけどな」
 昨晩のこともあるので念のために気に掛けていたのだが、食堂で見かけた鴨崎の様子に変わった点は無かったように思う。
「ぼちぼち、見学者が入ってくるからなー」
 遠くから監督の声。その予告通り、見学会開始の午前十時を前に、少しずつ小学生やその親、そしてジュニアクラブチームの関係者と思われる人影がグラウンドの外周に増え始めた。
「………鴨崎遅いな…」
 茂森は時計を気にしつつ、グラウンドを落ち着き無く見渡している。十時過ぎたらキャプテンと副キャプテンが柔軟運動の指示を行う事になっていた。
「……」
 何となく、要は茂森の横顔を見やる。困惑すると眉が下がって、本当に昔飼っていた犬が見せた表情に似ているのだ。「寂しい」「かまって」「ごめんなさい」。
「昨日の夜のことでか?」
 懐かしさに笑いがこみ上げるのを誤魔化す為に、要はあえて分かりきった問いを口にした。「え」と黒目がちな瞳が要を振り返り、そして要より少し高い位置にある頭が縦の揺れる。
「酷い事言っちゃったからな……」
「そうでもないんじゃねーか?」
「え…」
「オハヨーございまーす」
 二人の会話に割って、フェンスの向こうから高い声が聞こえた。
「?」
 同時に振り返ると、傍らのフェンスの向こうに、見学に来ている小学生達の列があった。自チームのジャージを来たサッカー小僧達が、こちらに向かいお辞儀をしてくる。よくしつけられていた。付き添いの親達も、監督やキャプテンマークをつけた茂森に会釈を向けてくる。
「おはようございます」
 監督から昨晩言われた通り、「チームの顔」として要は茂森と並んで見学者達と挨拶を交わした。通り過ぎる幾人かが茂森を見て、「GKの茂森だ」「ホントだ茂森だ」と囁きあっていく。
(有名人と珍獣って、紙一重だな)
 背後で聞こえる様々な反応を聞きながら、要は思った。見知らぬ人間から呼び捨てされるなんて、考えてみたらあまり気分の良い事ではなさそうだ。だが見学者達の様々な反応を他所に、茂森は晴れきれない面持ちでグラウンドを眺めている。
「あいつなら平―」
 要の言葉と重なり、今度は背後に気配が現われた。
「キャープ」
「ん?」と振り向く間もなく、
「テーーーーンッッ!」
 で茂森の腰から背中にかけて、衝撃が襲い掛かった。
「んあっ!?」
 完全に不意を突かれた茂森は、裏返った声と共に前方へつんのめる。
「……カモ…」
 呆れた要の目に入ったのは、茂森の背中に飛びついた鴨崎だった。にゃんマゲに飛びつくCMの女のように、鴨崎は茂森の背中に絡み付いていた。フェンスの向こうの見学者達がざわめきだす。これでは本当に自分達は檻の中の珍獣である。
「鴨崎!」
「キャプテン!先輩!おはよーっす!」
 茂森の背中にしがみついたままの鴨崎が、満面の笑みを要にも向けてくる。
「ちょ……離れろって」
 周囲の寒い視線に我に返った茂森は、健康に悪そうな汗をかきながら鴨崎の腕を外しにかかる。なかなか容易に解けず、茂森が要に助けを求める視線を向けてくるが、面白そうなので気付かない振りをする事にした。
「キャプテン、昨日の話なんすけど」
「あ、ああ、俺が悪かった。八つ当たりみたいな事言って」
 腰に巻きつく顔に向かって弁明する茂森の姿が妙に可笑しい。見学者どころか、異変に気がついた部員全員の視線も集中している。
「俺、目標はペレにしました!」
「ペレ???!」
「ぶっ」
 ペレは、ブラジルの元サッカー選手で、サッカー史上最高の選手と呼ばれる名選手である。「サッカーの王様」とも呼ばれているほどだ。
(いきなりそこに飛ぶか)
 要は呆れるしかない。さすがの茂森も困ったように口を開けていたが、やがて腕を解く事を諦めて小さく笑うのだった。
「うん。目標は大きい方がいいよな」
「えへへ」
 鴨崎は、ほめられた幼稚園児のように笑っている。
「えへへ、じゃねーよ。それに認めちゃうのかソレ」
 体感温度をこれ以上に下げられてはたまらない、と要は鴨崎の襟首を後ろから引っ張って茂森から引き剥がした。
「そろそろ柔軟始めるから、あっちいってろ」
「はーい」
 素直に要の指示に従って、鴨崎は根岸たち一年生達が輪になっている方に駆けて行った。
「っとに、あいつは発想が突飛だな」
 嫌いじゃないけどなそういうの、と思ってはいるが口に出さず、ゴム鞠みたいに飛び跳ねていく鴨崎の背中を見送る。
「そうだね」と笑って要に同意してから、茂森もその様子を見ていた。
「でも、少なくとも俺を目標にするよりは全然いい」
「……だけどあいつ、」
 ん?と要の横顔に茂森が振り向いたのが分かったが、前を見つめ続けたまま要は次の言葉を続けた。
「お前のプレイ観て泣いたんだぜ」
「泣……なんで、いつ?」
 あの鴨崎が泣いた、という事実に驚いているらしく、茂森は文字通り目を丸くして要の顔を覗き込んだ。
「U-14のイギリス戦中継を観たんだ」
「アンダー……ああ…あの試合って……え、あああああ」
 恐らく一つ一つ段階的に思い起こし、最後に自分が大泣きした事実に到達した茂森は、傍目から見ても分かるほどに顔を赤くして口を開けた。
「あれ…は、その」と浮気の言い訳をする男のように両手が無意味に中空を彷徨い、言葉も支離滅裂になっている。最後は「はは…」と苦笑に落ち着いた。
「観たのか…あれ…恥ずかしいな…」
 寮生部員のほとんどがそれを一緒に見ていた事実は、隠しておいた方が良さそうだ。要は茂森の反応を見てそう判断した。見学会どころではなくなりそうだから。
(いざって時にとっておくか)
 代わりにそんな意地の悪い事を考えつつも。
「あれは…あんまり見られたくなかった…」
 片手で首の後ろをかきながら視線を泳がす茂森に、
「だろうな」
 と要は淡白に応えた。
「かっこ悪かったよな。俺あの時はもう、必死でさ」
 周りなんて見えていなかった。
「それでも四点もとられてるんだから、情けないよな」
 段々と声が小さくなっていく茂森を横目で見やり、要は「そうじゃなくて」と苦々しく目端を細めた。
「あの試合でお前一人だけすげー泥だらけで汚ねーし、挙句立てなくなってるわ、つーか、泣きすぎだしさ」
 要の一言が出るたびに、巨大な矢印が胸に次々と突き刺さるようで、茂森は胸元に手を当てて苦笑いを浮かべた。
「カモはそこに感動して泣いたんだぜ」
「………」
「目標ってのは。レベルの高い低いだけじゃないだろ?」
「四条……」
 呟く茂森から、要は視線を遠くにいる鴨崎に向けた。
「ペレとか言ったって、多分カモ中での目標は変わってない。昨日の今日だしな」
 要に向いていた茂森の視線も、ゆっくりと鴨崎の方を向いた。何も知らない鴨崎は根岸達とふざけて笑っている。
「あいつたぶん、ペナルティエリアの外から百発百中でお前からゴール決められるようになるまで、諦めないぞ」
「っははは」
 くすぐったそうに茂森が笑う。その笑みが、太陽に雲がかかって影が指すように、静かに引いた。
「じゃあ俺は、百発百中ペナルティエリアの中からでも止める」
「お前……」
 呆れるような負けず嫌いだ。要が目を丸くした後に、
「―なんてね」
 その様子を笑うように、またふっと緊張の糸を切った面持ちの茂森が要を振り返った。
「良い組み合わせだなおめーらは」
 またやられた。
 要は大きく溜息を吐いて茂森から顔を逸らせた。時計を見上げると、長針がちょうど十二を指そうというところだ。グラウンドの周囲は見学者で埋まり、小学生の声が騒がしく背後を通り過ぎていく。
(そろそろ柔軟始めるか…)
 と思い要が視線を下げると、
「でも、俺が一番負けたくないのは四条だってこと、知ってた?」
 茂森の目がまっすぐ突き刺さってきた。
「―は?」
 一呼吸分の思案も空しく、要は茂森の言葉の意味を全く理解する事ができなかった。また数秒後に「なんてね」とタチの悪い微笑みが続くかと思ったが、それも来ない。
 本気だという事らしい。
「何でって訊いたら、お前それに答えてくれんの?」
 要の問いかけに、茂森は笑った。それは悪意のあるものではなく、「ありがとう」と言う時に見せた笑みと同じもの。
「自分で気がついた方が、いいよ」
 分からないから訊いてるんだっつーの。
 毒づくかわりに要は不機嫌そうに眉根をしかめた。
「自分で気付く事ができたらきっと…四条はもの凄く強くなると思う」
 監督と同じことを言っている。自分の事を知れば、お前はもっと強くなる、と。そして同時に、それを茂森が教えてくれるだろう、とも言っていた。が、どうやら教えてくれる気が無いらしい。
「だから、早く気付いてくれよな」
 羽織っていただけのジャージのチャックを閉めながら、茂森は時計を見上げた。
「俺に負けたくないんじゃねーのか?」
 よくわからないライバル心を剥き出しにしてくるかと思えば、塩を送るような事も言う。要はますますこの茂森という人間が分からない。
「負けたくない。でも、今のままじゃ勝つこともできないから」
「………」
 次につなぐ言葉を見失った要へ、茂森は「柔軟始めようか」と最後にまた笑顔を向けた。
「―おう」
 気持ちを租借しきれないまま要は渋々と頷いて、部員らの方へ歩き出した。

「昼食休憩を挟んで、紅白戦を行います」
 柔軟と基礎訓練が終わり、メインイベントの紅白戦の準備が進められる。
 コーンが並ぶグラウンドをスタメン出場のメンバーを除く二軍が片付け、マネージャーの倉本が手早くラインを引きなおす。傍らのベンチには、紅と白のゼッケンがすでに用意されていた。コーチからの知らせを受けて、見学者達もそれぞれ昼食をとりにまばらに散っていく。中には弁当を持参している子供達もいて、試合がよく見える場所にシートを広げて場所を確保していたりする。
「メシどーする?」
 伸びをしながら清水寺と芥野がやってくる。昼食休憩は残り三十分。これから食堂に行くには時間が足りない。
「購買で適当に買って軽く済ませるか」
 満腹になる訳にはいかない。オニギリとバナナで済ませとくかな、と考えつつ要は二人と共に購買に向かった。
「あ、茂森はどうすんだ?」
 一歩進みかけて、先を歩く芥野が振り返った。
「茂森?」
「一緒に食わねえの?この間も打ち合わせとかで一緒に食ってただろ?」
「なんで俺とあいつをセットにすんだよ」
 当然の事ながら何もしらない無邪気な様子の友人に、無性に腹が立った。長身の二人の間を追い越し、要は購買の方向へ足を速める。
「ケンカでもしたのか?」
「いや、あれだろ。紅白戦前でお互い闘志をメラメラと―」
「燃やしてねーよ!」
 強引に言葉を遮って、友人二人の憶測をシャットアウトさせる。
「俺はそういうノリが嫌いだっての知ってるだろ?」
「まあな」
「ジャンプとかに出てくる熱血主人公とか大嫌いだもんな」
 早く行こうぜ、と二人を急かそうと要が振り向くと、遠目に茂森の姿がよぎった。同学年の寺野や一年生の庄司や船越ら白組のメンバー達と、グラウンド隅のベンチを占領していた。今日も弁当かと思いきや、試合に臨む腹具合を考慮して持参してきたらしきオニギリを食べている。更に、膝の上に黄色い物体が見えるが、あれはバナナだろうか。
(………)
 要は目を細めた。
 自分が食べようとしていたモノと同じメニュー。何となく面白くない。
「バナナはやめてリンゴにするか……」
 無意識につぶやいていた。
「バナナのほうがスタミナつくぜ?」
「リンゴは試合の後だろ」
 無邪気な友人二人は「基本だろー」と笑っている。
 結局その三分後、「一本オマケするよ」と購買のおばちゃんにバナナを一本ずつオマケしてもらっている三人がいた。
「それにしてもさ」
 グラウンドに戻る道すがら、歩きながらバナナの皮をむく清水寺がつぶやく。
「今回の見学会、やたら盛況だな」
「あ~、そうかもな」
 どこへどのような告知をしているのか知らないが、桐嬰スポーツ部の見学会はいつも盛況だ。関東圏内の子供とその親、クラブチーム関係者のみならず、都内や地方からの来訪者もいる。
「関東大会ベスト4が利いたのかな」
 その数は直前までの大会成績で上下する。もし全国大会に進むことが出来れば、その数は更に膨れ上がるだろう。
「来年、入部希望者が増えたら三軍を作ろうかって話も出てるらしいぜ」
 これは打ち合わせの中で監督が雑談レベルで漏らした情報だ。確かに二軍の規模が膨れ上がりすぎて、練習のレベルを合わせるのが難しくなっている。「マジでー!?」「やべーな」と清水寺と芥野は驚くが、今更この二人が心配する事ではないだろうと要は思う。
「別にお前らが二軍、三軍落ちなんてするわけじゃないんだから」
 バナナをかじりながら要は呆れたように笑った。
「清水寺のパス対応力とスピードは外せないし、芥野の、上下左右の守備範囲の広さは重要だし…―」
 どう考えても、と言葉を続けかけたところで、要は左右両隣の友人らが奇妙な顔をしている事に気がつく。
「なんだよ」
「うれしい事言ってくれんなあー」
「まさかお前が誉めてくれるとは」
 嬉しさよりも物珍しい動物を見るような目で両側から凝視され、
「って監督が言ってたんだよ!」
 要は手にしていたバナナを振り上げた。
「気色悪い誤解すんなっ」
 わりーわりー、と二人の友人は笑ってそれを軽く受け流す。要の反応を面白がって、芥野が後ろ向きに歩きかけたところで、
「おっと」
「あ、すみません」
 グラウンドへと続く曲がり角で出会い頭に誰かと肩がぶつかった。相手は黒いスタジアムジャンパーを羽織った男。サングラスをかけている。百八十を超えた芥野や清水寺と変わらない長身だった。手に携帯電話を持っていた。学校職員ではなさそうだ。
(見学者?)
 要は下から見上げる。
「すみません、前みてなくて」
「こちらこそ。紅白戦、楽しみにしているよ。頑張ってください」
 男は丁寧に会釈を向けてきた。やはり見学者だったようだ。三人も「ありがとうございマース」とお辞儀を返す。男は「じゃ」と三人に背中を向け、離れて行きながら携帯電話を耳元に当てた。
「Sorry, it’s nothing」
 その口から英語が飛び出す。
「?」
 驚き思わず振り返ると、男はその場に立ち止まり、携帯電話の相手に英語をしゃべりながら片手で懐から手帳を取り出す。外見はまったくの日本人で、少し角ばった印象の発音だが、男の英語は早口で淀みない。
 見学にきている子供の親が、仕事の電話をしているのだろうか。
 そう思う事にして要は「戻ろうぜ」と再び歩き出しかけた。と、
「――カズシ・シゲモリ―――」
「?」
 英語と英語の合間に聞きなれた日本語、というよりも名前がはっきりと聞こえた。芥野や清水寺にも聞こえたようで、三人同時に振り返る。
「―あ…っと…」
 会話が要達に届いていたと気がつき、男は肩越しにこちらを一度振り返ると、慌てた足取りでその場を離れて行った。
「何だったんだ?今の」
「……さあ」
 両隣で長身二人が同時に首をかしげる間で、要は遠ざかる男の背中を見ていた。
(…スカウトマン……か?)
 いつかテレビで観た事がある。その時はニュースに映ったメジャーリーグのスカウトマンの映像だった。スーツやジャケットといった事務的な服装ではなく、一見ラフなスポーツ用ジャンパー等を羽織り、サングラスをしている人が多い。そんなイメージが、あの電話の男と重なったのだ。
(まあ……本当にそうだとしてもおかしくないけどな)
 あいつなら。どっかからオファーが来ていてもおかしくはないだろう。
 そう納得して要は「いこうぜ」と再び、二人を促してともにグラウンドへ向かった。
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