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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians09
09

 寮の部屋に戻ると、同室の芥野の他に清水寺と、正田や寺野も遊びに来ていた。
「遅かったな」
 間延びした声に出迎えられる。三人は煎餅の袋を囲んで漫画を廻し読みしているところだった。
「色々長引いてさ」
 ベッドの上に鞄とジャケットを投げ捨てて要は煎餅の袋から、一枚失敬する。
「食堂のおばちゃんが弁当作っといてくれてるぜ」
「お、助かるー」
 寮生が食事の機会を逃すと、調理師が折り詰めにしてくれるのだ。
「テレビでも観ながら食うかな」
 談話室と呼ばれる、テレビが置いてあるロビーがある。部屋にテレビを持ち込んでいる生徒もいるので、意外と空いているのだ。
「あ、んじゃ俺も」と一人が立ち上がると、部屋にいる全員がそぞろに談話室へと流れていく。
 談話室には先客がいた。ソファに腰掛け前のめりにテレビ画面に見入っている背中は、誰かと問うまでもなく正体は分かった。
「あ、先輩!」
 要がもらった弁当の中身と同じおかずを頬張った顔が、振り向いた。その対角線上に根岸のほか、数人の一年生らの姿もある。
「またお前か」
 要が弁当片手に不機嫌な顔をしてみせると、先客、鴨崎は「隣きます?」と気さくに笑う。
「遠慮させてイタダキマス」と適当に空いた場所に腰を下ろし、画面を見やった。緑色のサッカーフィールドが映っている。
「何の試合だ?これ」
 身を乗り出して画面を凝視する。プロリーグの試合かと思ったが、見覚えの無いスタジアムの風景だ。
「一昨年の、U-14の試合っすよ」
 桐嬰からただ一人、代表に選ばれた茂森がスタメン出場した試合だ。
 学校やクラブチームを含む日本全国から十四歳以下のサッカー少年を選抜して代表チームを作り、イギリスの選抜チームと親善試合を行ったのだ。場所はイギリス。海外遠征だ。
「え、マジで?」
「実況つきじゃん。そんな番組あったんだ」
 国際試合とはいえ、ジュニアの、しかも親善試合とあって、日本国内の地上波放送で試合中継をとりあつかうところなどなく、当時の要たちは選抜チームのコーチ陣が民生カメラで撮影した、質の悪い映像を一部しか見ることが出来なかった。
「CSのスポーツチャンネルの番組録画みたいですけど、先輩達観た事なかったんすか??」
 鴨崎の質問に、二年生達は顔を見合わせて口をつぐんだ。
 彼ら以上の学年にとって、この試合は「禁句」なのだ。
「どこにあったんだ、そんなもん」
 刹那に生まれた静寂を覆い隠すように、要がテレビ画面を指差して尋ねる。
「パソ室のDVD棚っす」
 寮のパソコン室は壁面に本棚が設置されており、娯楽DVDの他、運動部生のために様々なスポーツの試合映像等も豊富に取り揃えられていた。
「ふーん」
「でも何だってこんなの観ようって思ったんだ」
 何気ない芥野の言葉に、鴨崎は「別に、何となくっす」と応える。きっかけは夜練の時の会話なのだろうが、要は黙っていた。
「面白そうだな、観ようぜ」
 それに、自分も興味がある。割り箸を片手で割りながら、要はソファの後ろに立ったままの清水寺達に空席を勧めた。
「でも…」と躊躇する声。
「もう時効だろ。先輩達だっていねーんだから気ぃつかう必要ないし」
「どういう事ですか?」
 弁当を頬張る鴨崎に代わり、根岸が問う。要ら二年生達の反応を、一年生の面々がいぶかしんでいるのが傍目に感じられた。
「お前ら、この試合の結果、知ってるだろ?」
 選手が登場する前のフィールドが延々と映されているテレビ画面。根岸の問いに対応しつつ要はリモコンの一.五倍速早送りボタンを押した。
「はい、一応…。1-4、ですよね」
 試合は、日本選抜の大敗だった。
「あのキャプテンが一試合に四失点なんて、想像できないんすけどね」と鴨崎。
 グラウンドキーパーが立ち去り、審判員が入場してくる映像に変わったところで、要はDVDの早送りを止めた。もうすぐ選手が入場するはずだ。
「今だからぶっちゃけられるけど、先輩たちのやり方がエラくえげつなかったよな」
 要から言葉を次いだのは芥野。ここで言う「先輩」は、要達より二学年上の先輩部員達の事だ。現在一年生の鴨崎や根岸達に接点は無い。
「茂森この試合から帰ってきてから、しばらく俺達二軍と練習するしかなくてさ」
「四失点で負けたから二軍落ちなんですか??」
 厳しいー、と一年生の間で誰からとも無く呟かれる。
「いや、そういう訳じゃないんだけど」
 次の句を口に出し難そうに苦笑する芥野の視が、自然に要へと助成を求めていた。
(また俺がこういう役割か)
 ペットボトルのキャップを開けながら、要は聞こえない溜息を吐いた。
 副キャプテンとはそういうものなのか。役職を貰ってからというもの、何かとフォローの役目を強いられるのが定石になりつつある。
「一軍の三年生達から一斉無視くらったんだよ」
 だから練習にならなかったのだ。
 心の内を現さず、要は淡白に事実を口にした。反して一年生達の間ではざわめきが起こり、当時を知る二年生らは気まずそうに目を伏せる。
「負けたのは全部が全部キャプテンの責任じゃないじゃないですか」
 根岸の呟きは正しい。要だってそう思う。そして、当時の先輩達だってそのはずなのだ。
「んな事関係ねーんだよ」
 要はテレビの音量を上げた。テレビの中で、聞き取れない英語の場内アナウンスが流れ始めた。どうやら選手が入場するらしい。
「勝ったって同じ事だったと思うぜ」
 代表に選ばれた時点で、もうアウトだったのだ。
「………そんなん…」
 鴨崎の言葉に覆いかぶさるように、『日本選抜の選手達が入場します』と実況が再び喋りだした。談話室にいる面々の意識が一斉にテレビを向く。赤と白の日本選抜のユニフォーム集団がピッチに飛び出してきた。対面に、オレンジと黒のイギリス選抜のユニフォームが並ぶ。
「あ、キャプテンだ!」
 鴨崎が画面に向かって声を上げる。他メンバーと異なる、濃紺のキーパー用ユニフォームを身につけた茂森が、列の最後に現われた。
「ほんとだ、先輩わっかーい!」
「俺達と同学年んときかあ」
「なんかかわいー」
 先刻までの気まずい空気を蹴散らすように、一年生達は画面にうつるモノの珍しさに嬌声を上げている。
「あいつこんとき身長どれくらいあったんだろ」
「今よりはだいぶ小さくね?」
「相手チーム全員でっけーな」
 一方で二年生達も、初めてみる映像へ好奇心を向けている。テレビカメラは、ゴール前に歩いていく茂森を斜め上から映していた。実況によると、両チーム中の最年少だという。遅生まれの為、同学年の中でも最年少なのだ。
 中学生の平均より大柄であるはずの日本選抜の面々。だがいずれも長身ぞろいのイギリス選抜の面々の前では、さながら高校生と中学生の対決のように見えなくもない。
 映像の物珍しさにわいわい騒いでいた談話室の面々だが、試合開始のホイッスルが鳴りゲームが進むにつれて言葉が途絶え始めた。始めはゲームの流れに沿って、選手の動きや戦略について所々で談議が生まれるが、それも後半戦以降に無くなる。
 前半にイギリスが先制。後半序盤に辛うじて日本が一点を返して同点とするが、そこから疲れが見える日本は立て続けに二点を失う展開となる。
「………」
 ふと視線の端に映る鴨崎の様子が気になり、要は画面から視線を外した。普段は落ち着きの無い鴨崎が、身じろぎ一つせずに画面に見入っている。手に持った箸にミートボールを突き刺したまま、固まっていた。
 ゴールを奪われるたびに、苦々しく唇をかみ締める茂森の様子が画面に映し出される。試合はほぼ一方的にイギリスが日本を攻め立てる展開になっていた。その分、日本側のゴールキーパーが忙しくなるのは必然で、テレビに映る回数も多い。
 ロスタイムに入った試合終了間際も、イギリスは攻撃の手を緩めない。何度も日本ゴール前に両チームが団子になる現象が起きた。
 終了直前にはイギリスのFWが、やる気を失くした日本のDFを突破し、茂森と二対一になる。
「…っ」
 鴨崎が更に体を乗り出し、開けたまんまの口から息を洩らす。弁当と箸はいつのまにかテーブルの隅に追いやられていた。FWと何度も接触しているために、茂森は全身が泥だらけだ。それでもまた、シュート体勢に入ったFWに向かって飛び出し、シュートコースを防ぎにかかった。
 相手FWが打ったシュートは至近距離から茂森の正面に当たり、高く跳ね上がる。
「おっ!」
 ナイスセーブ。誰からともなく声が上がる。だが―
「DF何やってんだ!」
 画面に向かって鴨崎が声を荒げた。
 弾いたボール、それを処理してくれる味方DFが、誰もいなかったのだ。
 グラウンドに倒れたままの茂森を通り越し、別のFWがボールを奪ってそのまま四点目のゴール。そしてホイッスル。実況アナウンスが試合終了を告げ、観客席が沸き、画面には3D文字で大きく点数が表示されていた。
「………今のは…」
「何だかなあ…」
 寮の談話室にいるのに、そこにいる誰もが全力疾走したような脱力感に見舞われていた。
「最悪…」
 呟いた鴨崎は、八つ当たりをするように勢いよくソファに背中を沈める。一瞬浮いたソファの足が騒音を立てた。
 番組の実況は言う。日本チームで最後の最後まで相手に喰い下がろうとしていたのは、最年少のGKだけだ、と。そしてカメラは、立ち上がれない日本チームのGKと、彼を気遣い声をかけに来るイギリスチームの選手達の様子を追っていた。
 相手チームの選手に支えられて立ち上がった茂森は、土で汚れた顔を、土で汚れたグローブで何度も拭っている。泣いていた。遠くから歩み寄ってきた相手チームのGKがハグをしてくる間も、十二歳の茂森は手の甲を顔に当てて俯いている。
「最悪の代表チームっすよ」
 テレビ的にイイ場面を映し続ける画面の前で、鴨崎は低く吐き捨てた。
「キャプテン可哀相だ」
 負けたのはキャプテンのせいじゃない。
 誰に向けるでもなく発される厳しい声は、鴨崎の感情そのままの言葉なのだろう。画面の中の茂森は、まだ泣いていた。顔もユニフォームも腕も、土と涙でドロドロだ。教室までプレゼントを持ってきた女子達は、彼のこの姿を見ても気持ちは変わらないのだろうか。
(あんだけ泣いたら、逆に気持ち良さそうだな……)
 モニターが発する光に照らされながら要は、いつか見たテレビ番組で「泣くとストレス解消になる」と紹介されていた事を思い出す。
「誰の責任とか、あいつは多分そういうの関係ねーんだよ」
 実況のコメントを聞きながら、要は呟いた。
「四点もゴールされたのが悔しくてたまらないんじゃねーか?」
 めちゃくちゃプライドが高い奴だから、自分の為すべき仕事に対して完璧を求める。それが茂森個人の性質なのか、GKという最後の砦的ポジションの性質なのかは、分からない。
「でも、サッカーはチームでやるものっすよ!」
 ソファから飛び上がるように、鴨崎は要の方に体を捩らせた。テレビ画面では、試合のリプレイが流れている。
「キャプテン、チーム運が悪すぎたんです。だから抱え込んじゃうんだ」
「……」
 なるほど、そういう考え方もあるか。要は、珍しく建設的な意見を口にした鴨崎に感心の目を向けた。
 番組はエンディングに差し掛かっており、もう誰も画面を見ていない。約一名を除いて。
「でも、あの茂森先輩がイジメにあってたなんて…なあ」
「うん……驚いた」
 一年生達が顔を見合わせる。無理もない。諸悪の根源である当時の三年生が卒業してからはイジメがなくなり、別チームのように雰囲気が変わったのだ。
「なんで……」
 ただ一人、テレビ画面をぼんやりと眺めていた鴨崎が、弱々しく呟いた。番組のエンディング音楽と共に、再び試合後の茂森が映し出されている。
「こんなに一生懸命な人をいじめるんだろ」
 しんじらんねー、と呟く鴨崎の横顔も、泣いていた。
「カモ………」
 隣の根岸が沈痛な面持ちで、相棒の横顔を見ている。
「オラ」
「いでっ!」
 斜め後ろから背中に衝撃を感じて鴨崎が振り返ると、要が蹴り出した足が、そこにあった。
「何するんすかっ!」
 と、今度は背中を足蹴にされた痛みで半泣きになる鴨崎の背中を、足裏でぐりぐりと押しながら、要は目端を歪めた。
「俺はなあ、自分が痛くも痒くもないのにそーやってすぐ感化される奴は大っキライなんだよっ」
「そんなこといわれても…先輩は映画見て泣いたりしないんすか!?」
「断じてしねぇ!」
「っははは。そういう奴だよな、四条って」
 要と鴨崎のやりとりに目を丸くする面々の中、芥野と清水寺だけが平然さを保っていた。
「「呪怨」観に行った時は途中で寝てたしなあ、こいつ」
「ええ~?」と幾人かの声が上がるが、要からしてみれば「ありえない話」で怖がる方の感覚が理解できない。
「ったく、湿っぽいもん発掘してきやがって」
 番組はいつの間にか終わって、メニュー画面に戻っていた。要はリモコンのエジェクトボタンを押し、ソファ脇に置いたペットボトルに手を伸ばした。
「先輩だって面白そうって言ったくせに」
 反論を呟きつつも鴨崎はプレイヤーから吐き出されたディスクを取り出した。大事そうにケースにしまっている。
「なにせ明日は、いかに俺たちが清く正しく美しいかを見学者にアピールしなきゃいけないらしいからな」
「なんすかそれ」と苦笑した鴨崎。涙は止まっていたが、まだ目が赤かった。
「なんか女子校みたいじゃないっすか」
「ぶ……っ」
 要がお茶を噴出しかけたのを皮切りに、静まりかけた談話室に爆笑が渦巻いた。
「女子校が清く正しく美しいとこなんて、お前まだまだだな!」
「女の花園なんてのが存在すると思うなよ!」
「変な漫画の読みすぎじゃねーの」
「えええ、じゃあ先輩達は何を知ってるって言うんすか、学年一コしか違わないのに!」
 顔を赤くして反論する鴨崎の努力も空しく、
『消灯時間まであと十五分です。寮生の皆さんはお部屋に戻りましょう』
 と、冷静な寮内アナウンスが響き渡ったのであった。
「帰るか」
 スイッチを切り替えたかのように、平坦な面持ちに戻った要が呟くと、面々もぽつぽつとその場から立ち上がり、それぞれの場所に散り始める。
「そうだ」
 立ち上がり、空になった折り詰めをゴミ箱に放り投げ、要は鴨崎の手にあるDVDケースを指差した。
「俺寝る前にパソ室寄るから、それ返してきてやるよ」
「え?」
 どうも感情の切り替えが不得手らしい鴨崎は、目と顔を赤くしたまま、キョトンとした顔で要を見上げた。
「お前は顔洗ってもう寝ろ」
「あ……、はい。どうもっす」
 おずおずと鴨崎の手が要にDVDケースを手渡す。
「じゃ、俺らは先に戻るな」という芥野と清水寺、そして鼻をすすりながら談話室を去っていく鴨崎を見送ってから、要は反対方向にあるパソコン室に向かった。メールのチェックだけしようと思ったのだ。
 パソコン室は、元々は物置であった場所を改築し、生徒達の要望に応える形で作られた部屋だ。中には十台のラップトップパソコンが並んでいる。生徒はそれぞれアカウントを持っている。
 部屋に入ってまず要は、パソコンの一台を起動させる。IDとパスワードを入力して、デスクトップが表示されるのを待つ。その間、DVDを棚に戻し、他に何かめぼしい物は無いか何となく壁一面を眺める。背後で起動音が流れたので、要はパソコンの前に戻った。
 届いたメールに目を通しながら、
「………あ、そういえば…」
 ふと思い出す。
 ブラウザーを立ち上げて、Googleにアクセスした。
(哉子が言ってた……なんだっけ…)
―桐嬰の「賞金稼ぎ」
 妹が口にしていた言葉が思い浮かぶ。
 検索窓に「賞金稼ぎ」と入力する。検索ボタンを押す前にふと考えた。
(これだけじゃすごい数がヒットしそうだな…)
 だが他に手がかりが無い。とりあえず検索してみると、二十万件以上がヒットする。
「うへ…」
 素直に哉子に訊いた方が良さそうだ。げんなりしてブラウザを閉じようとしたところで、一番上に表示された検索結果に目が行った。

『「生徒は賞金稼ぎ」発言で委員が辞任―文部科学省アスプロの問題点―』

「………文部科学省……」
 どうやらニュースの見出しが引っかかったようだ。クリックして間もなく開いた記事ページ。日付を見ると、そう古い記事ではなかった。
「文部科学省が打ち出したアスリート育成プロジェクト、通称アスプロは、優秀な成績を収めた運動部を有する学校やクラブチームに、成績内容に応じて援助金を配当するという、長期育成を見越した教育施策で……」
 要は小声で記事を読んでいく。つい先日、茂森の口から聞いた話だ。
 記事の冒頭はプロジェクトの概要を説明し、二節目でようやく本題に入っている。
「だが援助金の使用用途を明らかにしている教育機関は少なく、不透明なプロジェクト運営を懸念する声は多い……それが学校側による特定生徒の囲い込みや熾烈な獲得競争に拍車をかけている……優秀な成績を残した生徒は学校にとって大金を稼ぐ賞金稼ぎだ、と表現した教育委員会の○○委員の発言は波紋を呼び、このたび委員会は○○委員に辞任を求め……」
 内容にざっと目を通した後、要はブラウザのバックボタンを押して、検索結果に戻った。ずらりと並ぶ結果に目を通していると、上位表示はいずれもこの、教育委員会の委員による「賞金稼ぎ発言」を取り上げた記事である事が分かる。「波紋を呼んだ」は嘘ではないようだ。
「ふーん…」
 パソコン画面から目を離し、要は一呼吸分の間を置いて考える。
『野球部エースの杉本君、バレー部の竹岡君、バスケ部の伊中君、サッカー部の茂森君といえば、桐嬰四天王って言われてて』
 哉子がそんな事を言っていた。
 言われてみれば最近、体育館やグラウンドのバスケット用ゴールが取り替えられたり、野球部グラウンドのフェンスが全面修理され、土が総入れ替えされたり、クラブハウスが増築されたり等、立て続けに相当の金額が投じられたと窺える改築、新設工事が相次いだ。言うまでもなく、サッカー部の土グラウンドが芝生に生まれ変わるのも、その一環。
(いわゆる「設備投資」に代わるわけか…)
 環境が整えば、それだけ呼び物が増えて入学希望者も増える。学校にとって良循環というわけだ。
「まあ、確かに「賞金稼ぎ」だわな」
 無感慨に感想を述べて、要はブラウザを閉じた。
「もうすぐ消灯時間ですよー」
 廊下を見回る寮母の声が背後から聞こえてくる。
「ウース」
 間延びした声を返しながらパソコンをシャットダウンさせた。
「…………」
 ガリガリと音を立てながら終了作業を行っているパソコンを、要はしばし無言で眺めていた。
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