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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians07
07

 哉子と別れて教室に向かう途中、全校舎にアナウンスが響いた。
『ただいまより、約三分間、スプリンクラーが作動します。生徒の皆さんはグラウンドから離れてください』
 グラウンドが乾燥して砂塵が舞うのを防ぐためだ。
「四条」
 教室に戻ると、窓際に立つ茂森が手招きしてくる。誘われるままに窓の外を覗くと、サッカーフィールド二個分の広いグラウンドいっぱいにスプリンクラーの花が咲いていた。その中に、見知った人影が……
「カモ!?」
 思わず要は声に出していた。
 水を吐き出しながら狂ったように回転するスプリンクラーの花々、その合間を潜り抜けて走り回るバカ一人。
 桐嬰サッカー部次期エース、鴨崎だった。
 巧みに水しぶきをかわしながら、楽しそうにグラウンドを駆け回っている。足下には、サッカーボール。
『グラウンドから離れてください』
 生真面目な口調で警告アナウンスが流れるが、端から聞こえちゃいない。
「あははは。楽しそうだな」
 隣で呑気に大ウケしている茂森。気がつけば、他の生徒も次々と窓の外を覗きに来ていた。
「こらー!バカモ崎ー!」
 そんな声と共に、鴨崎を追って数人がグラウンドに飛び出してくる。恐らくクラスメイトか。中にはサッカー部の仲間も混ざっていた。ますます楽しそうに鴨崎はボールを蹴りながら、水とクラスメイト達をかわして走り回る。
 スプリンクラーは緊急停止し、ついには教師や用務員が鴨崎を追ってグラウンドに現われる始末。蜘蛛の子散らすように悪餓鬼共はそれぞれ逃げていった。そんな騒ぎを尻目に要は茂森の席の隣から椅子を引っ張ってきて腰を下ろす。
「スプリンクラーが動くと、必ずああいう奴がいるよな」
「でもあいつ、ほとんど濡れてないんじゃないかな」
 席に戻ってくる茂森が呟く。口元には、微笑が浮かんでいた。
「………」
 笑いながらも、鴨崎の細かい動きを全部観察していたのか。
「俺が用務員なら、水量と回転数の調整弁を全開にしてやんのにな」
 そうなりゃ流石のバカモ崎とて無事ではいまい。そう意地悪に笑いつつ、要はメンバー表を手にとった。
「スプリンクラーって用務員さんが動かしてるんだ?」
 向かいの席に茂森が腰掛ける。
「ああ。メイングラウンドのコントロールパネルは用務員室の隣なんだけど、サッカー部のグラウンド用のは、倉庫の横にある用務小屋んとこにあんだ」
「へえ~」
 素直に感心しながら茂森も、メンバー表の写しとシャーペンを手にとった。
「四条、何でそんな事知ってるんだ?」
「だって俺、一年のときにイタズラでスプリンクラー動かした事があっから」
 鴨崎の姿を見ていて、唐突に思い出した。
「あはは。鴨崎より大胆だな」
 と茂森は笑う。
「そりゃバカモ崎より上を行くバカって事か」
 我ながらそう思うが、面と向かって言われるとなんだか面白くない。要は「うっせー」と苦笑しつつシャーペンをノックした。
「一軍グラウンドをビチャビチャにしちゃって、監督に怒鳴られた怒鳴られた」
 すげー武勇伝だろ、と要が顔を上げると、茂森はメンバー表から視線を外して要を見ていた。
「それ、一年の、いつやったんだ?」
「え?いつだっけな。今みたいな寒い時じゃなくて、暖かい時期だったと思うけど」
「夏の選手権の前……とか?」
「あ~、そうそう。「お前のお陰で練習できなくなったじゃないか」って、すっげー怒られて……あれ?」
 俺、なんだってそんな大事な時期にスプリンクラーのイタズラなんて。
 シャーペンを回す手を止めて、要は眉を顰めた。
(何だか物凄く、嫌な事を思い出しかけている気がする)
 自然と要は身構えるように背を丸めていた。
「あの時のアレは、四条だったんだな」
「…………」
 机を挟んで向かい合う茂森は、まっすぐに要を見つめてくる。気後れせず至近距離から視線を向けてくる目の前の顔に、要は思わず体を後ろに倒して背もたれに体重を預けた。
「あ」
 そうだ。
 思い出した。
 あれは一年時の初夏。
 夏の選手権を控えた、土曜日の練習中。
 茂森が一年生で唯一スタメンに選ばれ、要達が「人食い花発言」をした翌週だった。
 監督やコーチ、キャプテン達は大会出場前の手続きやら、学校との打ち合わせやらで留守にしており、部員達に自主練習を命じていた。二、三年生で構成される一軍達は一軍用グラウンド、一年生と二年生中心に構成された要達二軍は二軍グラウンドに分けられる。要は芥野や清水寺を含む一年生メンバーの友人らと、日常のメニューを消化していた。
 そんな中、一軍グラウンドの方向から青い顔をした倉本マネージャーがやってきた。近くにいた二年生に声をかけ何やら言葉を交わすが、つっぱねるように首を横に振られて話を遮られている。その後、倉本は他の二年生にも声をかけるが、いずれも同じようなリアクションで遠ざかられる。
(?)
 ドリブル練習をする要の視界の端で、倉本は途方に暮れていた。大きな溜息をつきながら、要達がいる一年生が固まるエリアへやってくる。最初に声をかけられたのは、たまたま二軍グラウンドの端にいた芥野。
「どした?」
 芥野が気の良い返事をするが、倉本の表情は冴えない。
「ちょっと…一軍グラウンドで……」
 近くにいた他の一年生達も、足をとめている。
「監督やコーチもまだ戻ってないし、どうしようかと思って」
 他の先輩たちにも声をかけたが、誰もとりあってくれなかったらしい。
「一体どうしたんだ?」
「………」
 倉本は無言で一軍グラウンドの方を指差した。一軍と二軍のグラウンドは高いフェンスで仕切られており、用具倉庫が狭間に並んでいるためにここからでは向こうの様子が見えない。
「ちょっと見てくるな」と芥野がそちらへ向かい、
「おう」と要達はその場でドリブル練習を再開する。そして一分後、複雑な表情と共に芥野は戻って来た。
「何だったんだ?」
 清水寺の問いに、「うーん……」と芥野の返答は曖昧だ。
「PK練習、してんだよ。隣」
「ふーん。で?」
「茂森がゴール護ってて、三年の先輩達がシュート……っていうか、多分あれはそうじゃないよな…」
 芥野がしきりに首を傾げると、側にいた倉本が「やっぱりそう思うよな?」と詰め寄ってくる。
「はっきりしねぇな」
「俺もみてこようっと」
 煮え切らない芥野の説明にしびれを切らして、清水寺や正田等、数人の一年生が一軍グラウンドの方へと様子を見に行った。野次馬根性に希薄な要は、そんな彼らを見送って再びコーンの間を8の字に回るドリブル練習を再開した。
 そしてまた一分後、彼らは芥野と同じような顔をして戻ってくるのだ。
「あれって、やっぱそうなのかな…」
「そう、なんじゃね…?」
 やっぱり煮え切らない言葉を呟く面々。
「何なんだ一体」
 目許をしかめる要に、
「じゃあ四条も観にいって確かめてみろよ」
 と清水寺が一軍グラウンドの方を指差す。
 メンドくせーな、と呟いてボールをその場に残し、要も一軍グラウンドの方へと小走りに向かった。歩道を行くと遠回りになるため、やぶれた網と倉庫の隙間をくぐって一軍グラウンドを覗き込む。矢継ぎ早にボールが何かにぶつかる音が響いた。
「?」
 その光景は、確かに「PK練習」の形をとっていた。
 一軍グラウンドにいるのは、今度の夏の選手権に出場するスターティングメンバーと、その控えたち。ゴール前にいるのは、唯一の一年生レギュラーにして唯一の正GKの座をかちとった茂森。そして、そのゴールに向かいシュートを打つ他のメンバー達。
(シュート位置がおかしくないか??)
 異変は数秒後に判明した。
 シュートをするキッカーの立ち位置が、ペナルティーエリアよりも内側、つまり通常のPK練習の位置よりも遥かにゴールに近かったのだ。それだけならともかく、最大の問題はキッカーの蹴るボールの軌道、そして間隔。
「そんな正面の球もとれねーのか!?」
 三年生FWの声、そして蹴られるボール。キーパーの真正面だ。
「っ!」
 至近距離からバッティングマシーンのように真っ直ぐ放たれたボールを、茂森は体全体で受け止める。だがほぼ同時に、そのFWの隣にいた別のFWから次のボールが蹴りだされ、同じく真正面を狙ったボールは、対応し切れなかった茂森の腕に当たる。
「そんなんでレギュラーに居座るつもりなのかよ?!」
 また先輩の怒鳴り声が響き、間髪入れないタイミングで正面を狙ったボールが蹴りだされる。
「ぃっ…」
 両手で受け止める余裕もなく茂森は何とか片手でパンチングして弾き返すも、また直後に別のMFが蹴ったボールが斜めから突き刺さり、これも対応しきれずに脇腹に直撃した。
 足元がよろめいたところにすかさず低い位置を狙ってボールが来る。そちらに気をとられると今度は頭を狙った次のボールが襲い掛かる。
「はっ…!」
 反応しかけた時にはもう遅く、ボールは咄嗟に避けようとした茂森の顔面に直撃した。
「!!」
 要は思わず身を乗り出す。
 横にバランスを崩した茂森がゴールの中に倒れこんだ。両腕で頭を抑え、背中を丸めている。
 だが、蹴りだされるボールは止まらなかった。
「寝てんじゃねーよ!」
「起きろ一年!」
 籠から次々とボールを取り出し、三年生達はゴールに向かって、正確にはキーパー目掛けてボールを蹴り続けた。
(これって……)
 要は呆然とその光景を見つめた。
 これは、PK練習なんかじゃない。
「………くだらねー……」
 くだらなすぎる。
 幕が引き下ろされるかのように、脱力感に襲われる。まったくもってこんなのは興醒めだ。
「マジくだらねぇ」
 もう一度同じ言葉を呟き、要はその場から踵を返した。三歩進んで、足を止める。そして九十度角度を変えて早足に向かった場所は、倉庫の脇に設置された、「スプリンクラー制御装置」「さわらないで下さい」の二つの札が掛かったコントロールパネル。
「頭悪すぎだろ」
 最後にそう呟いて要は、無感慨に箱の中のハンドルを最大レベルにまでおろした。
 途端、グラウンドに横殴りの滝が降り注ぐ。
「うわっ!」
「ななななんだ!?」
「つめてっ!」
 突然足元に生えたスプリンクラーに驚いた三年生達。これでもかと盛大に降り注ぐ水から逃げるために、散り散りに走り去っていく。
「…………」
 ゴールの中で身を起こした茂森はただ呆然と、グラウンドに咲き乱れる水の花々を眺めていた。
「なかなか荘厳な眺めだな」
 当の要はそうつぶやいて、スプリンクラーの弁を開けっ放しにしたまま何食わぬ顔で二軍グラウンドへと戻っていったのであった。その数十分後、打ち合わせから戻ってきた監督に何故かバレて呼び出され、これでもかと怒られる事となる。
 だが要がその理由を口にする事はなかった。
「………思い出した」
 思い出してしまった。
 背もたれに寄りかかったまま、要は苦々しく呟いた。
「なんだ、忘れてたのか?」
 目の前の茂森は、呆れた顔で苦笑を向けてきた。ボールを当てられて顔を歪めていた時の彼ではない。
「俺は、ずっと忘れた事がなかったよ」
 少し照れたように、茂森はまっすぐ向けていた視線を一度手元に落とす。そしてすぐに顔を上げて、再び要をまっすぐ見つめてきた。
「ありがとう」
 そして、微笑むのだ。ゴール前に倒れていた時とは全然違う顔。
「………別に、お前のためにやったんじゃねえし」
 両手を胸の前で組み、要は茂森から顔を逸らした。
 先輩たちの下らない嫉妬と所業に我慢がならなかっただけだ。
「うん、でもありがとうな」
 また少し視線を伏せて、茂森は二回目の「ありがとう」を口にした。一回目の「ありがとう」より、柔らかいが明るかった。
「オーダー、さっさと決めちまおうぜ」
 要は背もたれから体を離して、メンバー表を引っつかむ。
「そうだね」
 最後にまた大きな笑顔を見せてから、茂森もメンバー表を手に取った。
 視線と意識をメンバー表に向ける事で妙な照れを隠しつつ、要はオーダーを考える。一軍と二軍をバランス良く混在させて、戦力にムラが出ないようにする、それがオーダー決めのポイントだ。
 だがメンバー表と睨めっこしてわずかに数十秒後、要は早速さじを投げかける。持っていたシャーペンを茂森の顔面に突きつけた。
「お前がいるせいでバランス悪くてかなわねーよ」
 茂森と、第二以下のGKの実力差が激しすぎるのだ。
「お前が故障したらどうするつもりなんだろうな、監督は」
 購買から買ってきたパンをかじりながら、要は二軍メンバーリストにも目を通す。
「しない」
 短く答える茂森は、お茶のペットボトルを手に取った。
「あ?」
「俺は、怪我も病気もしない」
 ムキになっているように聞こえる茂森の返答。要は苦笑してメンバー表から視を上げた。
「嘘付け、こないだ熱だしてたくせに」
「え?」
「東中との試合んとき、お前調子悪かったんだろ」
「何だ。バレてたのか」
 一口飲んだペットボトルを置いて、茂森は鞄から弁当箱を取り出す。
「なに練習試合なんかで無理してんだよお前は」
茂森は「うん……」と小声で頷く。
(何でいつの間にか説教モードになってんだ、俺)
 はたと我に返った要は、またパンをかじる。
 対面の茂森は、箸箱をいじりながら俯いている。
「弁当、毎朝親が作ってくれんの?」
「ん?」
 何となく間がもたなくなり、茂森の弁当が目に入ったので要は適当に話題をそこに逸らした。どこにでもありそうな少し大きめの弁当箱に、魚の切り身や野菜の煮物等がきれいに並んでいる。純和風おかずのラインアップが、要の祖母の手作り料理と似ていた。
「大体は蓉子さん……家族が作ってくれるけど、忙しい時は俺が」
 蓉子さん?
 少し引っかかりを感じつつ、要は「ふーん」と呟いてから、
「え、お前も弁当つくんの?」
 一秒遅れて驚いた。
「栄養管理って結構奥深くて面白いよ」
 学校側から自宅生に出される栄養管理表。どうやら忠実に従っているようだ。
「変わってんなお前。そんなメンドーなことようやるわ」
 頬杖をついてパンをかじりながら、要はため息を漏らした。要が桐嬰を進学先に選んだ理由の一つに、寮制度の存在がある。学校側による食生活の徹底管理、これが両親の了承を得られた最大の要因の一つである。また、よほど問題がない限りこのまま大学卒業までエスカレーターで上れるのも、親元を離れたがっていた要にとっても都合の良いものだった。
「俺、コーチングにも興味があるんだ。大学部まで進めたら、泉谷コーチが卒業した教育学部のスポーツコースに入りたいと思ってるんだ」
食事を進めながら茂森は目を細めた。
桐嬰大学部の教育学部スポーツコースでは、コーチング、つまり指導法の他にも栄養学やスポーツ医療までトータルに学ぶ事ができる。外部入学希望者も多いのだとか。
「へえ。コーチになりたいのか?お前」
 プロを目指しているんじゃなかったのか、と要はパンを飲み込んだ後に問う。この場合の「プロ」はおのずと「サッカーのプロ選手」を指すのは言うまでもない。
「もちろん、一番の目標はプロだよ」
 さも当たり前かのように茂森は頷いた。これに対する揶揄や異論は、無い。夢としてプロ志望を語る子供は多いが、茂森の場合は現実たりえる。要は否定も肯定もしなかった。
「でも」
 否定したのは、茂森自身。
「さっきの四条の話じゃないけど…いつ故障でサッカーが出来なくなるか、わからないだろ」
 怪我も病気もしないと言っていたくせに。
(やっぱりただの負けず嫌いか)
 子供のような強がりだったのかと、要はペットボトルの飲料水を口に含みながら苦笑した。対面の茂森は、箸を持つ手を止めたまま、まっすぐ要を見据えていた。
「……何だよ」
 PKを挑む時のような視を向けられ、要は思わず身を引いた。
「俺はいつもその覚悟でプレイしてる」
 静かに呟いて、茂森はゆっくりと要から視線を下に外した。
「………」
  ―俺はいつでも本気っす!
 何故かその時、要の脳裏に鴨崎の決まり文句が思い浮かんでいた。
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