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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians05
05


 陽が落ち、夜間練習用グラウンドにライトが灯る。
 桐嬰では日替わりで「夜練日」を設けており、一週間のうち決まった曜日にのみ夜間にライトが照る。
 大会前以外、基本的に夜練は自由参加だ。特に決まったメニューはなく、走りこみ等で基礎体力作りをする者、その日の復習をする者、時に監督直々に居残りを命じられる者など、各自が思い思いに時間を使えるのだ。
「今日は、以上だ」
 監督の解散号令がかかる。要はいつものように芥野と清水寺に声をかけた。
「帰ろうぜ~」
「夜練いかねぇの?」
「今夜は寒いらしいから、俺はパス」
 朝に聞いた天気予報によると、今日の夜は低気圧の影響で冷え込むらしい。こんな日は体が硬くなり怪我もし易い。そういう理屈で、要は夜練をパスする気満々でいた。
「そうだな~、俺も宿題残ってるし」
「だなあ」
 そんな三人と正反対なのが、
「鴨崎、残るのか?」
「シュート練習してくっ!」
 鴨鍋の主役だ。ボールが入った籠を引っ張って、ゴール前を陣取ろうとしている。茂森のアドバイスが随分と効いているようだ。
「じゃあ俺も」
 と根岸も籠をもう一つ追加して鴨崎の隣に並ぶ。
「上達したら、キャプテンに勝負を挑んでやろうぜ!スーパーミラクルシュートをお見舞いする!」
 鼻息荒い鴨崎と対極的に、
「うん。せめてPKのゴール率は上げたいね」
 冷静な根岸は現実的だ。要にはついていけない鴨崎のノリを、上手に受け流す方法を体得している。
(おもしれー二人組)
「ん?」
 グラウンド脇を横切りながら要が二人の様子を眺めていると、一人、また一人と一年生が鴨崎達に加わっていくのが見える。主に二軍のメンバー達だ。更に良く観察していると、今日はいつもよりも夜練をする人数が多いように見える。
「どうしちゃったんだ?イキナリ」
「……俺もやってこうかな」
 そう呟いた清水寺へ、芥野と二人で大げさに驚いて見せると「何だよ」と照れ笑いが戻った。
「ヨソはヨソ、ウチはウチって美しい言葉が日本にはあるんだぜ」
「どこがだ。茂森と同じような事言ってんなよ」
 気がついたら、要も両手を左から右へ動かす仕草をしていた事に気がつく。一瞬、自己嫌悪しかけるも内心で一蹴することにした。
「でもまあ、せっかく一年同士で盛り上がってるから、あのままやらせとこうぜ」
 カモネギ中心にゴール前で盛り上がる一年生達。どうやら、シュートとボール拾いの順番を決めているようだ。
「そうだな」
 あと二ヶ月足らずで新入生がやって来て、最下級生だった彼らも「先輩」となるのだ。その自覚が自主性となって現われている。それに、桐嬰には関東各地から、ジュニアリーグ出身の有望選手達が入学を志願してくる。年長たりとも油断ならないのだ。
 そして、最上級生となる要たち二年生は、監督が掲げる全国制覇目標の中心を担う。後輩達の様子を眺める彼らの横顔にも、つい先日までとは違う光が宿っている事に、彼ら自身は気がついていなかった。
(そういえば……)
 たった一時間弱のミニゲームで後輩達をやる気にした当キャプテンは、どこに行ったのか。要は茂森の姿を探した。口実として持ってこさせられた日誌を、渡さなければならない。今日の当番は彼だった。
「茂森はどこいった?」と声に出しかけたが、とどまった。グラウンドの隅のベンチ脇に立つ人影が、目に入ったからだ。試合中は他メンバーと異なる色を身にまとう事を義務付けられているキーパー。桐嬰では練習用ジャージもキーパーとその他で色を変えているので、どこにいても目立つ。
「悪い、先に着替えててくれ」
「どこ行くんだ?」
「日誌、次の奴に渡して来る」
「ふーん、分かった」
 誰に、とは言わず要は茂森の方へ駆け寄った。要に背を向けるキーパージャージの主は、携帯電話のディスプレイを眺めている。
「茂森」
「え?」
 少し離れた場所から声をかけると、大げさに肩を揺らして振り返られた。
「な、なんだよ…驚きすぎじゃねぇ?」
「ごめん…なに?」
 答える代わりに、日誌を差し出した。
「あ、そうだった。ありがとう」
 日誌が手渡り、「おう」と要が返したきり言葉が途切れた。
「………」
「………」
 うっかり立ち去るタイミングを逃し、お互いに沈黙したままになってしまう。
「あのさ」
 先に口を開いたのは、茂森だった。
「今晩、家に誰もいないから、夕飯を学校で済ませてこうと思うんだ」
 桐嬰の学食には専門の栄養士がついており、運動部員の寮生には特別メニューが決められている。自宅生には栄養表とレシピ表が渡され、運動部生の栄養と体調管理を徹底してもらうよう、通達しているとか。
「誰もいない?」
 思わず、要は訊きかえす。
「うん、俺の家、共働きだから」
 大人しい苦笑が戻ってきた。
「そうなんだ」
 意外だ。庭にサッカーフィールド…とまでは行かなくとも、金持ちで息子に英才教育をしているような家庭を、要は勝手に想像していた。
「じゃあ……俺いつも芥野や清水寺と食ってんだけど…お前も来るか?」
 話の流れから、否応なしにそうなる。嫌なのではない。言わされた感が少し悔しかっただけだ。
「うん、ありがとう」
 静かに、だが確かに嬉しそうな顔で頷かれた。
「……行こうぜ。寒くなってきた」
 首筋を冷風が通り過ぎて行き、要は小さく身震いした。
 更衣室に向かう途中、シュート練習をする一年生達の脇を横切る。ちょうど鴨崎が蹴る所だった。
「あいつ、素直な良い奴だよな」
 金網越しにその様子を眺める茂森が呟く。
「馬鹿がつくぐらいな」
 それが要なりの肯定だ。鴨崎の、才能を全く鼻に掛けない素直さ、純粋にサッカーを楽しむ姿は常に、周囲をも牽引する輝きを放っている。
 鴨崎のシュートがゴール左端に突き刺さった。
「今の良かったぞ!」
 隣から茂森が声をあげた。
「あ!キャプテンと先輩!」
 夏の大花のような笑顔が振り向いた。鴨崎を始め、二人に気がついた一年生が次々と振り返る。
「スーパーミラクルなんちゃらシュートでリベンジ」がどうこう言う鴨崎を適当に笑いながらあしらって、二人は更衣室に向かった。
 帰宅組は既に出払い、シャワー室は空いていた。
「お、茂森も一緒か」
 シャワーの湯に当たりながら長話をしていた芥野と清水寺が両名を出迎える。
「茂森、今日は学食で夕飯済ませてくんだってさ」
「そか。じゃ一緒に食おうぜ」
 要の説明に、芥野と清水寺は気の良い笑みと共に頷く。また茂森が嬉しそうに頷くのを、要は横目で見た。サッカーの才能のみならず、人に構ってもらうのが嬉しいという点でも、鴨崎と同じ人種なのかもしれない。
「うわ、ひでえ痣」
 芥野の声の方を見やると、茂森の上半身が目に入った。インナーを脱いだ裸の胸元に、赤黒い痕が目立つ。
「最後のセーブん時についたんだな」
 と、後ろから清水寺も覗き込む。茂森は少しバツが悪そうに胸元を指先で撫でた。
「ったく。ミニゲームでケガしてりゃ世話ねぇよ」
 シャワー室は個々に分かれて横に並んでおり、天井までの仕切りと、胸元までの開閉板で区切られている。要は開閉板に腕をかけて顔を乗り出していた。
「こんなのケガのうちに入らないよ」
 要の言葉に少し笑って、茂森はぬるま湯で濡らしたタオルで胸元を拭う。確かにキーパーは、ボールに飛びついたり、突っ込んでくるFWと接触する機会が多いポジションだ。それでなくとも茂森は、前へ前へと出て積極的にボールを奪いに行くスタイル。シュート体勢に入ったフォワードの足下に、恐れる事なく突っ込んでいく事も多かった。
「それに、本気じゃなきゃ一組目でゴールされてた」
 と少し拗ねたように唇を尖らせる。
「他校との試合より、校内の紅白試合の方が難しい事が多いんだ」
「………」
「………」
 と、茂森はまだ少しの悔しさが残る表情で、体についた痣を丁寧に拭っている。要達三人は顔を見合わせた。
「でも俺、試合中の怪我は少ない方だと思うよ」
 今度は表情が一変して、明るいものとなる。
「そう、か?」
「ああ。FWがしっかり攻めて、MFがしっかりボールをまわして、DFがしっかり防いでくれるから、あんまり俺の所までボールこないし」
 GKが活躍するチームは弱い、GKが活躍する試合は負け試合、と言われる。
 だから桐嬰は強い。
 タオルを絞りながら笑顔を向けてくる茂森に、また三人は相槌のタイミングを失った。
「お前って、誉め上手だな」
 シャワーを止めて要はタオルで顔を乱暴に拭った。照れくさそうな顔になってしまうのを、隠すために。
「そうかな」
「んじゃどうしてGKのお前が有名人になれるってんだっつーの」
「一人だけ派手なユニフォーム着てるからじゃないのかな」
 しれっとした顔で茂森は答えた。
 桐嬰の試合用ユニフォームは、二種類ある。
 まずGK以外が着用するものには、黒と白を基調としたタイプと、紺と水色と白を基調としたタイプ。対してGKは何故か突出して派手で、オレンジと黒のタイプと、黄色と赤と黒のタイプの二種。
「一年の時」
 茂森はシャワーブースの一つに入り、お湯の温度を調節する。
「みんなで俺のこと『南国の人食い毒花』って言ってたろ」
 顔に湯を浴びながら、少しだけ意地悪な顔をして三人を見た。
「げっ、覚えてたのかっ」
 わざとらしく後ずさりし、要は仕切り板に背を預けた。
「ああ、覚えてる覚えてる!」
「あれはウケた」
 清水寺と芥野が手を叩いて豪快に笑い飛ばした。
 あれは、一年の夏の事。夏大会のレギュラーを発表する場で、二年、三年を退けて茂森がスタメンに選ばれた。監督から渡された正GKの派手なユニフォームを手に、困惑気味の新守護神。居並ぶ部員、特に先輩達から浴びせられる様々な負の感情が混在した視線の中心で、肩を縮めていた。
 続けてFWから順番に監督がメンバーを発表していくが、初っ端のセンセーショナルな発表が尾を引きずり、空気は重苦しかった。そんな中、
『キーパーのアレ、色が人食い花みてえだな』
『南国のな』
『毒もってそー』
 偶然にも監督や部員の声が途切れた絶妙な瞬間に、要と清水寺と芥野による私語が、浮き彫りになってしまったのだ。
『あ…………』
『………』
『…………』
 予想外に響いた自分の声に驚いた三人。固まった空気。恐る恐る肩越しに前方を振り向くと、監督、コーチを始めメンバーの全員が要達に注目していたのである。
 その二秒後、周囲は監督の怒声と爆笑に包まれたのは言うまでもない。
「なんだよまだ根に持ってんのか?」
「悪かったって」
「立派に着こなしてるから安心しろ」
 フォローになっているような、いないような、三人は笑いながら苦しい言い訳をする。
「怒ってないよ。あの時は俺、嬉しかったんだ」
 シャワーを止め、茂森も小さく笑う。
「人食い花って言われるのがか?」
 複雑な顔をしている清水寺や芥野の様子に首を横に振ってから、
「本当は、ずっとその事を伝えたかったんだけど、やっと言えた」
 また大きな笑みを見せた。
(………)
「変なヤツ」と肩を竦める二人の横で、要は絞ったタオルから水が落ちていく様子を眺めていた。
 あの時、監督が茂森の名前を口にした瞬間、斜め前方に立っていた先輩GKの拳が強く握られたのを要は見た。横顔しか見えなかったが、口元が固く、きつくかみ締められていた。そして、おずおずと前方に出てユニフォームを受け取った時の茂森の目が、泳いでいたことも。だから、空気が読めてない場違いに派手なユニフォームが、余計に滑稽に見えたのだ。
 監督が怒鳴って、同級生は笑った。先輩も、笑っていた。あの瞬間、茂森は、どんな顔をしていた?
(別にあいつの為じゃなかった)
 好んで仁王監督に怒鳴られる奴などいない。要はいつもの皮肉を口にしただけ。何でこんな事を今頃思い出すのだろう。
「行こうぜ、腹減ったあ」
 清水寺の声に顔を上げると、三人は既に脱衣場の方へと歩き始めていた。要もタオルを引っつかんで慌てて後を追った。
 学食は腹を空かせた寮生達でごった返していた。食べ盛りの若者が集うそこは、ある種異様な熱気に包まれている。窓際の空いている席を陣取った要達は、「いただきます」の挨拶もそこそこに、まさに「かっ食らう」という言葉が似合う有様で食べ始める。
「………」
 目を丸くして箸を止めている茂森に気がつき、要は口にキュウリをくわえたまま顔を上げた。
「どした?」
「元気だなあと思って」
「お前は食うの遅いんだな」
「そっちこそ、よく噛まないとちゃんと体に吸収されないぞ。せっかく栄養バランスを考えて作られた料理なのに」
「うへ」と顔を背けながら要はキュウリを噛み潰した。
「そんな説教きくの久々だぜ」
 水で口の中の物を流し込む要の横から、
「四条んとこ、家が厳しいからな」
 と芥野が横入りした。
「実家、京都の老舗旅館だっけ?」
 清水寺が補足する。
 老舗といえば聞こえは良いが。実のところ古くてデカくて親戚がやたら多いだけだ。そして事実、しつけは厳しかった。両親がほぼ年中無休で忙しい身の上なので、主に子供達のしつけはご隠居である祖父母が行っていた。今の要の少々曲がり角な性格は、この時の反動から来ているのかもしれない。
「へえ」
「共働きって事は、お前んとこもじーさんばーさんが親代わりって感じ?」
 思考や発言に古臭い香りがするのも、それなら頷ける。
「うーん」と茂森は視線を天井に向け、そして首をかしげた。
「まあ、それに近い…のかな。お婆ちゃんはもういないけど」
「茂森んとこ、親は何の仕事してんの?」
 肉を頬張りつつ、芥野が何の気なしに尋ねる。
「ええと。技術者と、看護士」
 なるほど、両方とも忙しそうなイメージはある。
 妙に納得が行き、要も頷いた。
「親が看護士って、何かいいな。ケガとか観てもらえそうだし」
「栄養管理もちゃんとしてくれそうだね」
「だから順調にのびてんのか」
 茶碗を手にしたまま、要はちらりと隣に座る茂森を見た。彼より頭半分ほど身長が足りない要は、否応なしに上目で見上げる事になる。
「親父が技術者なら、JPFリーガー養成ギプスとか作ってもらえるな」
 要と違い身長にコンプレックスの無い清水寺が笑っている。少し古い野球漫画が元ネタだ。ちなみにJPFとは、Japan Professional Footballの略で、JPFLは日本のプロサッカーリーグを指す。
「「「うわ、いらねーー!」」」
 要と芥野と茂森から見事にブーイングがユニゾンし、その瞬間、要らのいるテーブルは、食堂中の注目を集めてしまう事になるのであった。

 食事を終えて食堂を出る頃には完全に日が落ちており、構内に降りた闇に照らされるいくつもの灯りがトワイライトのように浮かび上がっていた。
「あ、キャプテンに先輩!」
 食堂に入っていこうとする鴨崎と根岸、そして共に夜練に付き合っていた一年生の集団とすれ違う。
「なんだあキャプテン、今日は学食だったんすか!?」
 まだ髪の毛が乾ききっていない様子の鴨崎は、首からタオルをかけていた。
「ちぇー、一緒に食べたかったのに」
 タオルの両端を引っ張りながら口を尖らす鴨崎。
「ごめんな。今度は声かけるから一緒に食べよう」
 小さい子供をあやすように茂森は、落ち着き無く動く黒い頭に手を置いた。
「絶対っスよ!」と言い残して食堂になだれ込んでいく一年坊主の様子を要も見送った。
「あいつ俺達にはあんな事言ったことねーぞ」
「言われたくねえけど」と付け加えて要は苦笑いする。
「鴨崎は単にサッカーの話がしたいのさ」
 肩のスポーツバッグを掛けなおし、茂森は食堂の外に向かう。同じ流れで要ら三人も続いた。
「選抜とか、ナショナルチームとか、そういう話ばっかりだよ」
 なるほど、と要は声に出さずに頷いた。
 チーム内で実力が際立つ茂森は、学校外での活動も多い。地域内で選ばれた選手でチームを構成して地域対抗戦を行う選抜や、有望な選手を招待、選抜して育成プログラムに参加させるトレーニングセンター制度、それに全国から選手を選抜するナショナルチーム等から頻繁に声がかかる。他の部員では経験する事のできない話を、鴨崎は聞きたがるのだ。
「カモなら、そう遠くないうちに声がかかるだろうに」
 という要の言葉を誰も否定しない。
「俺もそう思う」
 食堂のおばちゃんと親しげに会話する鴨崎の姿を、茂森は肩越しに見やった。
「あいつのシュート、だんだん取り難くなってきた」
 そしてまた背を向けて歩き出す。
「………」
 その背中を、要は思わず振り返った。
 茂森は、鴨崎に対抗意識を持っているのか。
 確かに鴨崎は日単位で著しい成長を見せている。実のところ、入部当初は「他の新入生より少しサッカーが上手」程度の認識しかなかった。それが夏の大会に入った頃にはスタメン控えとなり、出場すれば高確率で点に絡むほどになった。
 鴨崎の成長度合いが来期の桐嬰の成績を左右する。要はそう見ていた。
 だが同時に、茂森の安定度も大きく関わっているのだ。
「その言葉、カモに言ってやりゃいいのに」
「あいつ茂森信者だしな」
 清水寺と芥野の冗談が転がってきて、要は我に返る。
「喜びのあまり、木に登るんじゃねぇ?」
 しれっと、いつものように悪言を口にして、考え事にふけっていた事を誤魔化した。
「あはは。今度言ってみようかな」
 食堂玄関前の分かれ道で四人は足を止める。
 真っ直ぐ進めば外、右に曲がると寮棟へ通じている。
「じゃ、俺はここで」
 振り返って茂森が片手を振った。
「おう」
「またなー」
「おつー」
 三人三様に見送って、寮へ続く渡り廊下へと向かう。
「案外、茂森って普通に話せるんだな」
 先を歩く要は、何の気なしに呟く。背中で一瞬、無言の間が空いた。
「あ、そうか。お前クラス違うもんな」
 と芥野。
 一年生時は三人揃って同じクラスだったのが、二年次の時に要だけが外れてしまったのだ。そして、どうやら茂森は芥野らと同じクラスらしい。
「ときどき話すよな」
「まあな」
「………」
 どうりでシャワー室につれてきた時、驚かれもせずにあっさり受け入れられていたわけだ。
(ますますわかんねー)
 それなら尚のこと、芥野か清水寺あたりが副キャプテンになるのが丁度よかったのではないか。
(なんで俺なんだ?)
 二人に背を向けて歩きながら、要は再び同じ問いを繰り返した。
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