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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians04
04

 理由がよく分からない宣戦布告を受けた。
 一人でゴール前に突っ立ったまま呆然としていると、「コラァ!四条!」と木炭から怒鳴られてしまった。
(そんなにさっきのが悔しかったのか?)
 こっそり横目で茂森の様子を見やると、彼はもういつも通りの大人しそうな横顔で、監督の話を聞いている。「止める」と叫んだ瞬間の面持ちとは大違いだ。あれが彼の本気。試合中も度々見かけた目だ。フリーになったFWと一対一になった時、茂森は殺し屋のような目で相手を威圧する。ホンモノの殺し屋なんて見た事ないけれど、多分あれはそういう目なんだろう。
 一般的に「キッカーはキーパーの目を見るな」と教えられるのは、次の行動を読み取られないためだけではないと、改めて思う。
(あんなありえねぇセーブしといて、物足りないって事かよ)
 要は奥歯を強くかみ締める。
 ボールを逃がせという指示に、鴨崎が最高の動きをしてくれた。正田にボールが渡った時は、「今度こそ」と確信した。
(だけど防がれた)
 確かに要の読みは茂森の裏をかいたかもしれない。だが彼は運動神経をもってそれを上回る補いをしたのだ。何が不満だというのか。
「………」
 よく考えると腹が立ってきた。変な負けん気で宣戦布告される身にもなって欲しい。それに―
(本当なら悔しがらなくちゃいけないのは俺の方だ……)
 感情を素直に表に出せる鴨崎や、妹の哉子は得な性格だなと思った。腹底から沸々とわいてきた複雑な感情をどう処理して良いか、要には分からない。
「四条ー。………四条ー?」
「え、あ、はい」
 遠くから、数回名前を呼ばれて要は我に返った。西浦が手招きしている。
「部室から日誌を持ってきてくれ。鍵の場所は知ってるだろ?」
 部室には、トレーニングメニューファイルや日誌、部費管理ノート等の重要資料や書類を管理する棚があり、その鍵は監督やコーチ陣のほか、部員ではマネージャーやキャプテンと副キャプテンにしか扱いが許されていない。
「日誌?」
 日誌は、練習終了後に部員が日替わりでその日の気がついた事や感想を書いていくものだ。今すぐに必要だとは思えない。訝しげに見上げてくる要の肩を軽く叩き、
「頭冷やして来い」
 と西浦は小声ですれ違い様に言い残して、指示を待つ一軍達の方へと歩いていってしまった。
「……」
 自分はそんなに煮詰まったような顔をしていたのか。日誌を取ってくるよう命じたのは名目で、散歩して頭を切り替えて来いという事なのだろう。内心を見透かされたのは少々悔しいが、この際ありがたい。要は素直に部室に向かう。
 桐嬰のサッカー部用グラウンドは広い。一軍用の練習グラウンドが二つある他、他校との試合や紅白戦等で使う、観戦席を設けた試合用グラウンド、そして二軍用のグラウンドの他、PKやFK練習用の片ゴールだけを有したエリアもある。部室小屋は、それらグラウンドを横断した先に建っており、広いミーティングルームや仮眠室と治療室を有している。
「?」
 ドリブル練習が行われている二軍グラウンド脇を通りかかった時、要は見知らぬ二つの人影を見た。
 練習用グラウンドは高い金網フェンスで区切られている。二人は二軍グラウンドと、倉庫が並ぶ歩道を区切るフェンスの向こう側にいた。一人は男。一人は女。男は黒いダウンジャケットにジーンズ、スニーカーという私服姿で、年恰好は要と同じか、それより若干上に見える。上背があり、髪の毛の色素が薄く、日本人のようでもあり、外国人のようにも見える風貌だ。二軍の練習の様子をじっと眺めている。もう一人の女も、男と似た印象を持っており、緩やかなウェーブがかかった長い髪が印象的な、海外セレブのような美人。こちらは明らかに年上だ。
(……他校の奴らか?てか、外人か?)
「あのー」
 基本的に構内は関係者以外は立ち入り禁止となっており、サッカー部は外部偵察を避ける為に練習は特例を除いて非公開となっている。規則に忠実なつもりは無いが、気付いてしまった以上、仕方なく要はその人物に声をかけた。
「サッカー部に何かご用ですか?」
 二つの視線が、同時に要を向く。通じているのかいないのか、軽く首を傾げた動作が戻ってくるだけで、返事が無い。西に傾きかけた冬の陽光を浴びて逆光となる姿は、西洋絵画のようにきれいだ。
「えーっと……メイアイヘルプユー?」
 思わず見惚れたが、習いたてのフレーズで再び問いかけてみる。もっとも、これが通じたとしても、これ以上しゃべれないのでこの先の会話は成り立たないのだが。
「………」
「………」
 男と女は目を丸くして、何かを言おうと口を開きかけたまま、固まっていた。
(なんだよ…何語なら通じるんだ?)
 さすがに要が気恥ずかしくなってきた頃、
「ぷっ」
 沈黙を破ったのは、女の笑い声だった。
「あははははははは。ソウジ、また外国人に間違われてる」
 顔に似合わず豪快に笑う。しかも、
(バリバリ日本語じゃねぇか)
 まったく淀みない、自然な日本語を話していた。
「笑いすぎ!今の「you」には姉さんも含まれてるんだろが」
 と女を窘める男の日本語も、普通だった。女はひとしきり笑った後、「勝手に入ってごめんなさい」と表情を正した。
「立ち入り禁止だって、知らなかったのよ。フェアじゃないって思われたら嫌だから、すぐ出て行くわ」
「?」
 女の言葉に少し引っかかりを感じるが、要は言及を控えた。
「一つだけ、訊いて良いか」
 と、ソウジと呼ばれた男。金網に指先をかけ、二軍の練習風景を眺めたまま問いかけてきた。
「カズシはここにいないのか?」
「カズシ?」
 すぐに顔と名前が思い浮かばない。
「お前、学年は?」
 首を傾げる要に、男は訝しげに目を細めて違う質問を口にした。
「え、二年、ですけど。今度三年」
「というと、十五……十四歳?」
 言葉を挟んだのは女の方。
「ですけど」
「あら、ソウジと同じじゃない」
 女が笑顔で両手を叩く。
「「え、同い年??」」
 要とソウジ、二つの声が重なった。言葉は同じだが、二人とも正反対の事を考えているようだ。
(デカいな……180以上は余裕であるよな……)
 思わず無遠慮に要はソウジの全身を眺める。日本の中学生でも運動部内であれば170センチ代は珍しくなく、要もようやく170に届くかというところだが、そんな要よりソウジは頭半分ほど大きい。日本人離れした体格や、髪の毛や肌の色素といい、ハーフだろうか。
「じゃあカズシの事も知ってるだろ。あいつも同い年のはずだ」
「カズシねえ…」
 部外者のくせに尊大な態度だな、と思いつつ、要はそれを飲み込んだ。
「ごめんなさいね、この子、言葉と礼儀を知らないの」
 後ろから、女が片目を瞑って微笑みかけてくる。美人にそう言われれば無条件で許してしまうのが、悲しい男の習性。
 背後に「うるさいな」と投げた後、ソウジは要に向き直る。茶色い瞳が冬の陽光を受けて薄い闇をたたえていた。この瞳を、要はいつか見たことがある気がする。
「カズシはゴールキーパーをやってるはずだ。日本のジュニアハイ…えっと、中学サッカーでは有名だって聞いたが?」
 言いながら、再びソウジの瞳が二軍の練習風景に向く。そこにキーパーの姿は無い。中学サッカーで有名なキーパーといえば、この学校では一人しかいない。
「キーパー?茂森、か?もしかして」
 深く考える前に自然と要の口からその名が出た。
「シゲモリ?」
「茂森。茂森一司。有名なキーパーつったら、ウチではこいつしかいないけど?」
 答えながら、そういえば奴の名前は「一司」だったなと思い出した。
「「コクリョウ」じゃないのか」
「コクリョウ?」
 今度は要が繰り返す。弟の独語のような発言に、姉は形の良い目許を細めた。
「ソウジ」
 弟の名を低く呟きそれを窘める。姉の声を受けたソウジは、口内で聞こえない舌打ちをした。
「茂森、呼んで来ようか?ここは二軍のグラウンドだから、あいつはいないよ」
「ううん、良いわ。ありがとう」
 それ以上の会話を制したのは姉の方だった。その面持ちには既に、柔らかい微笑みの仮面が被されている。
「驚かせてごめんなさいね」
 最後にまた微笑んで、姉は不服そうな様子の弟を伴いグラウンドから去って行った。
(何だったんだ?)
 取り残された要は、しばし遠ざかる二人の背中を見送った。疑問符ばかりが頭上を浮遊する。
「まあいいや」
 考えたところで何も解決しない。要は早々に思案を諦めて、部室へ向かった。
 日誌を持って要が戻ると、一軍グラウンドでは二対一のパス練習が行われていた。地面に描いた小さな四角形の中で、二人がパス回しをして鬼役がボールを取りに行く。ボールを外に出したり、鬼にとられたら交代。狭いエリア内で如何にボールをコントロールしてパスを出せるかが鍵だ。
「俺に客?」
 鬼役でボールを追いかけながら、茂森は要の言葉を繰り返した。キーパーは別メニューで練習する場合が多いが、今日はポジション関係なくこの練習に参加している。
「ああ。私服だったから、他校の奴だと思うんだけど」
 要は芥野にパスを出す。またすかさず戻ってくるボールをキープして体をターンさせて、茂森の足から逃げる。
「外人みたいな奴らだったぞ。流暢な日本語話してたけどな」
「外人?」
「男の方は俺達と同い年で、やたらデカかったな。180以上はあると思う。名前は~なんだっけな、新撰組に出てくる奴と同じ名前…ソウジか」
「ソウジ?」
 ボールを追いながら、茂森は首を傾げる。
「それで、その二人は?」
「何もしないで帰ってったけど」
「何の用事で来てたか、聞いたか?」
「さあ。お前を呼んでこようかって言ったんだけど、いいって言われた」
「他には?」
「うーん、別に…」
 と言いかけて、要は一つ思い出す。
「ああ、お前の事を「コクリョウじゃないのか」とか」
「こくりょう………」
 突然、茂森が足を止めた。
「どうした?」と芥野も、止まる。
「茂森?」
 要は足でボールを抑えて止め、立ち尽くす茂森の顔を覗き込んだ。逃げるように、呆然とした視線が泳ぐ。何がまずかったのか。さすがに要は訝しく思い、心配する言葉をかけようとした瞬間、
「もらいっ」
 茂森の足が、要からボールを奪った。
「ちょっ、お前!」
「あははは」
 慌てた要の前で、茂森はつま先で軽く蹴り上げたボールをリフティングして、嬉しそうに笑っている。次はボールを取られた要が鬼役だ。
(こいつマジでタチわりぃーー!)
 奪い返そうと足を伸ばすが、トウとインサイドを巧く使って芥野にボールを回された。また戻されたボールも、リフティングの要領でボールをあしらい、巧みに要の足から逃げる。
「ずる賢い上に器用だなお前っ」
「あはは。ありがとう」
「だから誉めてねぇって!」
「て」と同時に、茂森が蹴り上げたボールを要が膝で横取りする。また鬼が交代した。
「一人で遊んでる事が多かったから、リフティングは得意なんだ」
 要に奪われたボールを再び取り返そうと、茂森の面持ちがまた少し、真剣になる。
「一人っ子なんだ?」
 要からのボールを受けながら芥野が問う。さっき騙された事はもう忘れているようだ。
「ああ。二人は?」
 もちろん、茂森の方もだ。そもそも、元から悪いと思っていない。
「俺は姉貴が一人。大学でバレーやってる」
 何フツーに答えてんだよ、と思いつつ。
「俺んとこは妹」
 と要も渋々短く答えた。
「四条んとこ、双子なんだぜ。しかも兄妹そろって桐嬰。弓道やってんだっけ?」
 何故か芥野が補足する。
「へえ、双子かあ。性格も似てるのか?」
 ボールを追いながら、茂森が要の顔を覗きこんでくる。この顔がこの世にもう一つあるのかあ、とでも思っているのだろう。
「それがさ、全然違うんだよな」
 と、何故かまた芥野。
「カナちゃんは素直な良い子なんだけどな」
「俺の方は素直じゃない悪い子で申し訳ねぇな」
「いでっ」
 芥野から回ってきたボールをわざと強く蹴り返してやった。膝に当たったボールはラインの外へと飛び出していく。また、要が鬼になる番だ。
「ちっ」と小さく舌打ちして、要は遠くへ転がっていったボールを追いかける。
「芥野はそのカナちゃんて子、好きなのか?」
 ボールを追いかけていった要を待つ間、茂森がそんな質問を投げかけた。
「うーん、どうだろうな」
 慌てるかと思えば意外と表情を変えず、唐突な質問をされた方は首を捻って苦笑するだけ。
「確かに良い子なのは本当だけど、顔がアイツと同じだからなあ」
「アイツ」のところで芥野が顎で要の背中を指す。
「すっげー違和感あるぜ」
「あははは」
 茂森が笑ったところで、ボールに追いついた要が踵を返した。何やら自分について笑っている二人の姿が目に入る。
「お前ら笑いすぎ!」
 要は二人に向けて、緩やかにボールを蹴った。
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