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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians03
03

「あああおしい!」
 要の背後で、誰かが叫んだ。
(おしい…!)
 声に出さずとも、要も両手に作った握りこぶしを更に強く握り締めて同じ言葉を飲み込んでいた。
 三対一のミニゲーム。面々が見つめる先のゴール前では十人十色の攻防が繰り広げられている。あれから更に数組が挑戦したが、誰一人ゴールを割れていない。圧倒的に攻撃側が有利なルールでありながら。たった今も、五組目が惜敗したところだ。
「あのバケモノめ」
 呟く要の視界の中で、バケモノ呼ばわりされているキーパー茂森はグローブを外した右手で額の汗を拭っていた。ゴールポスト付近で転がっていたFWが起き上がり、茂森から言葉をかけられている。スライディングでボールを押し込もうとしたが、惜しくも飛び出した茂森にボールを奪われた。二、三言葉を交わして頷いている。何かアドバイスを受けているのだろう。残りの二人も近くでそれを聞いていた。
「楽しそうな事をやってるな」
 センターサークルの後方から、要に声がかかる。コーチの泉谷だった。桐嬰が全国区の強豪になった初期の頃に活躍したOBだ。大学部でコーチングを学び、今は桐嬰専属のコーチ。高等部とをかけもちしている。
「誰の案だ?」
「んー…茂森です。で、俺がちょっとルールを付け加えました」
「そうか」
「楽しそうなのはアイツだけっすよ。どんな手を使っても尽く止めてきやがります」
 軽い溜息と共に要はゴール前を指差した。その先に、再びグローブをはめる茂森がいる。
「さっきの組、五十嵐と磐田の連続フェイントで結構翻弄できたと思ったんですけど…結局、焦りを突かれて終わりです」
「ほ~、五十嵐と磐田がフェイントなあ。他には?」
 泉谷はセンターサークル周辺に集まる面々と、要の手元にあるメンバー表交互に見渡す。要はこれまでの経緯を、地面にしゃがみこみ指先で図を描き、メンバー一人一人の動きを細かく説明した。頷いて訊いていた泉谷コーチが、途中からペンを取り出して、手元のボードに要の報告を書き取っていた。
「―というわけで、一度もゴールを奪えず、ですよ」
「ははは」と軽い笑いを飲み込んだ後、泉谷コーチは考え込むように低声で呟いた。
「あいつは本当になあ……どうなることやら……」
「え?」
 言葉の意味を分かりかねて要が訊き返すが、
「それにしても関心だな四条。よく細かく覚えてるもんだ」
 と急に話題の方向を転換される。まるではぐらかすように。
「で、戦略は誰が考えてるんだ?」
 僅かな違和感を覚えながら、要は泉谷の問いに答えた。
「グループそれぞれが、です。それに俺や皆で細かいところを付け加えたり」
 要の答えは泉谷コーチを満足させたようだ。「そうかそうか」と大きく頷いて、コーチは輪を作って作戦会議をしている面々を見やった。
「楽しそうなのは茂森だけじゃないぞ?」
「………」
 促されて要も視を向ける。先ほどよりも更に輪を縮めて、みなで地面に描いた図を真ん中に議論を戦わせている。
「共通の敵がいると人は団結するって、よく言うよな」
「そう、ですね」
 どこで誰が言った言葉かは分からないが、要は頷いた。立ち上がった要の背を二度軽く叩き、泉谷はまた笑みを口元に浮かべた。
「その敵が、強ければ強いほど、絆と連帯感はよりいっそう強くなる。皆、ムキになって楽しそうじゃないか」
「もちろん、お前もな」と付け加えられ、思わず要は目を丸くする。そのうち、輪の一人が「四条~!」と手を振り要を呼んだ。会釈を残してそちらに駆け寄る要の背を再度、泉谷は呼び止める。振り向く要に、自分も二軍がいるグラウンドの方へ体を半分傾けながら、泉谷コーチは言葉をかけた。
「あらかじめ決まったカードを出していってばかりじゃ、茂森にパターンを読まれるぞ」
「決まったカード…?」
「攻撃に参加する三人だけが、プレイヤーじゃない。それは通常のプレイでも同じなんだ」
「?」
 アドバイスの意図を完全に汲み取りかねて、要は眉間に浅い皺を寄せた。その背に再び「四条―」と呼ばれて、軽い会釈を残してセンターサークルに駆け寄る。それを見届け、泉谷は二軍が練習をしているグラウンドへと踵を返していった。
 センターサークルでは、地面にしゃがみこむ清水寺を中心に輪ができていた。
「次、こう行こうと思うんだけど、お前どう思う?」
 地面に描いた図を示しながら、清水寺がたった今ねり上がった戦略を説明する。
「面白そうだな。とにかく、なんでもぶつけてみよう」
『決まったカードでは読まれるぞ』
 泉谷の言葉が唐突に蘇り、脳裏に引っかかる。
『どうすれば三人で「俺」からゴールを奪えるか。それを考えて動いてくれ』
 次いで、何故か茂森の言葉も浮上してきた。
「……どうすれば、三人で「茂森」から……どうすれば三人で…?」
「四条?」
 清水寺達がいぶかしげに顔を覗き込んでくる。
―どうすれば「三人で」俺からゴールを奪えるか
(そういう意味か)
 漠然とした、だが何かを掴んだ気がして要は顔を上げた。
「茂森、次行くぞ!」
 ゴール前に呼びかけると、また「来い!」と返事が上がる。最初の集中力が全く落ちていない様子だ。
「メンバーは?」
「はい」と答えて鴨崎、根岸の一年ツートップ、そしてトップ下に置くと動きが良いと評価の高い、二年のMF正田が前に出る。攻撃的な組み合わせとなった。
「……カモとネギと……しょうゆ(正油)……完璧だな」
 要の呟きに、
「鴨鍋かっ」
 某若手芸人の持ちネタを真似た清水寺が突っ込む。一瞬の静寂の後、
「だからそれはやめてくださいって!」
 と鴨崎の抗議が上がるが、直後に沸いた面々の爆笑にかき消されたのであった。
「楽しそうだなあ」
 茂森は前方姿勢を崩さぬまま、センターサークルでの様子を眺めている。回を重ねるごとに、要を中心に雰囲気が和らいでいくのが、ここからだとよく見えた。それに伴い、攻撃も手強くなっていく。
「カモと根岸とトップ下の正田……正念場だな」
 深く空気を吸って、そして吐き終えた頃、茂森の面持ちから笑みは消えていた。
 このとき偶然、要も全く同じことを考えていた。
(ここが正念場)
 ゴール前の茂森の表情が変わっている事にも気がついている。練習とはいえ、これまで以上に本気で止めに来るだろう。
(この面子で上手く行かなかったら……正直戦力的にもうカードが無い)
 だが、戦うのはこの三人だけではない。
「いきます!」
 手を上げて、鴨崎が小走りに進みだした。根岸もサイドから続く。正田がボールを蹴りだし、三人は逆二等辺三角を描いて緩やかなスピードで進む。正田が左の鴨崎にボールを送り、それが更に根岸に渡り、そしてまた、正田に回された。
「?」
正田に再びボールが回った瞬間、一斉に三人がスピードを上げてゴールに向かう。カモネギツートップが同時にペナルティエリアに足を踏み入れた。まだパスは出ない。逆二等辺三角形のフォーメーションは崩れていない。
「!?」
 キーパー茂森の目つきが変わった。正田がどちらにパスを出すかを読み取ろとする。その視界を妨げるように、鴨崎と根岸が左右から交差するように茂森の前に走り寄った。ペナルティエリアの手前から正田がパスの体勢に入る。逆二等辺三角形はこの時、キーパーの茂森も含めて一本の線を描いていた。
「よし!」
 センターサークル付近からの声の直後、正田がボールを蹴る鈍音がする。同時に、鴨崎が左、根岸が右に傾いだ。
「っ!!」
 突如開いた茂森の視界の中、正田が蹴ったボールが低い弾道を描いてゴール左下を抉ろうとしていた。正田が蹴ったボールは、パスではなくシュート。
「くっ!」
 手では間に合わないと判断したか、茂森の右足が伸びた。
(弾かれる!)
 コンマ数秒前、要の脳裏に結果が映し出される。
「正田、動くな!」
 無意識に要は叫んでいた。
「へ…っ!?」
 背中からの声に正田が反射的に足を止めた。
「ああ!」
 叩きつけるような音をたてて、ボールは茂森の足に当たって弾かれた。糸が切れた風船のように空に上がるボールは鴨崎の頭上へ。すかさず鴨崎が飛ぶ。茂森はボールを弾いた右足で踏み込み、ボールに向かい手を伸ばす。再び平手打ちのような音。
「!」
「っ!」
 空中のボールは、鴨崎の額とパンチングする茂森の拳の間で動きを止めた。
「逃がせ!」
 また、要が叫ぶ。
「逃……っ」
 声に従って反射的に鴨崎は首を後方へ反らした。
「!」
 ボールを留める抵抗が無くなり、茂森の手が前にすり抜けてボールを遠くへ弾いた。その落下点に、正田がいる。
「正田先輩!」
「しまった!」
 鴨崎と共にゴール左側に着地した茂森の目に、シュート体勢に入った正田の姿が映る。体の向きと視線が狙うのは、茂森がいる位置と真逆の、ゴール右隅。
「止める!」
 この日はじめて、茂森が叫んだ。全身のバネを使ってゴール右隅へ飛ぶ。万全の体勢からの正田のシュート、ボールは真っ直ぐ冷たい二月の空気を突き抜けた。
「行け!」
 迷いの無い渾身を載せたボール。全身全霊で止めに行くキーパー。
 スポーツ雑誌のカラー紙面でみた画みたいだ。
 全てがスローモーションのように見えた世界の中、要の脳裏でもう一人の自分が、そんな暢気な事を考えていた。
 音が消えうせた世界の中で、ボールは再び鈍い音を立て、
「っぐ…!」
 くぐもった茂森の声と共に、ゴールライン手前に転がった。その傍に茂森の体がうつ伏せに滑り込んだ。
「な……」
 ボールは茂森の指先に当たり、ゴールライン手前で鋭角にバウンドしたのだ。地面に勢いを殺され力なく転々と転がるボールは、立ち尽くす根岸の足元にたどり着いた。
「っ…あ」
 その瞬間、周囲から人の声が渦となって沸きあがる。「すげえ」という感嘆の声が複数箇所から飛び交った。
「なんだなんだ?」
気がつくと、いつの間にか第一グラウンドを囲む金網の周辺に、人だかりができている。別グラウンドで練習していたはずの二軍や一軍のDF達が様子を観に来ていた。泉谷コーチと監督の姿も遠巻きにある。
 騒がしい声で、要は我に返った。
「ストップ!ネギ、ストップ!」
 声を上げながら、センターラインからゴールに向けて駆け出す。
「キャプテン…」
 転がってきたボールを片足で止め、それを後方にやり過ごして根岸は茂森に駆け寄った。
「っは…」
 息が逆流する音の直後、上半身を起こそうとした茂森が激しく咳き込みだした。胸からまともに落ちたようだ。気道が圧迫され、呼吸が詰まった。なりふり構わずボールに飛びかかり、受身が取れなかったのだ。
「おい、大丈夫か?」
 跪く茂森の背中を、要は手荒に撫でた。
「なんで……」
 咳の合間に掠れた声。赤くなった顔で必死に呼吸をしながら、恨めしそうに要を見上げてくる。
「止めたんだ」
「は?」
「あそこで根岸が蹴ってれば…、ゴールだろ」
「バカかお前は」
 ここまでばっさり切り捨てられれば、逆に清清しい。心底呆れたような顔をする要に、茂森は苦しさを忘れて目を丸くした。
「あんなアホみたいなセービングされちゃ、こっちの負けだろ、どー考えたって」
「ほら、立てるか」と要は茂森の腕をとって立たせる。しばらく呆然としていた鴨崎と正田も駆け寄ってきた。
「いや…」
 俯き呼吸を整える茂森は、ゆるりと首を横に振った。
「正田にボールが行った時点で……俺が負けた」
「なんでだ?」
 訝しげな要と同じように、珍しく大人しい鴨崎も、眉根を潜めて話を聞いている。
「今までで一番オフェンシブな構成で、俺は絶対に正田も前に出てくると思ってた」
 だからパンチングでボールを遠くに飛ばして凌ごうとした。だが正田の動きを止めたのは、要の判断。
 茂森は胸元を押さえて数回、深い呼吸を繰り返す。息が整ったのを確認すると、集まってきた面々に向けて大きな笑みを見せた。
「やられた。凄いな」
「………」
「………でも」
 要が言葉に詰まる後ろから、鴨崎の声。少し震えているように聞こえたのは気のせいか。振り向くと、鴨崎は両脇に垂らした拳を強く握り締めて、茂森を睨み付けていた。
「これが試合なら、あそこでディフェンダーがクリアしてたし、最悪カウンターでこっちがピンチっす!」
(まあ、そうだろうけどな)
 要は内心で同意した。鴨崎の結論は、やはり茂森の護りが攻撃側を圧倒的に上回っていたという事だ。それは要とて、根岸も、正田も分かっている。負けず嫌いな鴨崎からすれば、この状況では到底、勝った気になれるものではない。なのに茂森が笑顔で負けを認めるのが悔しかった。
 悪くなりかけた空気の中、茂森は「うーん」と他所を見ながら首を傾げ、
「それはそれ、これはこれ」
 と両手を左から右へと移動させる仕草と共に、再び笑みを見せた。
「ええ~~…?」
「てか茂森、その手の動きって「それは置いといて」って時に使うものじゃ………」
 ぼそりと呟いたのは、正田。力説がよくわからないボケに受け流されている。敵わないと悟って、鴨崎が助けを求める視線を要に向けてきた。
(また俺がこいつのむちゃくちゃな発言をフォローするのかよ)
 何となく、キャプテンと副キャプテンの関係性の図式が見えてきたような気がした。だが果たして前任のキャプテンと副キャプテンがこういうやりとりをしていたか…なんて事は覚えていない。
「まあ、キャプテンがそう言ってんだからそういう事にしておけ」
「四条先輩!」
「悔しいなら、一対一のPKやFK練習ん時にでもゴールを割ればいい」
 反論を抑えられて、鴨崎は拗ねた子供のように目を伏せる。その時、センターラインの方からホイッスルが鳴った。
「そこまでだ。次のメニュー行くぞ。集合!」
 二軍や一軍DF達を連れて来た西浦監督だ。黒いダウンジャケットを着込む姿は遠目から、巨大な木炭にも見える。正田と根岸が先立って小走りに駆け出す。鴨崎も、名残惜しそうな視線を茂森と要に残し、根岸の後を追って自分も駆け出して行った。
「四条」
 ゴール前に二人残ったところで、横から名前を呼ばれた。顔を向ける事で返事をすると、茂森の静かな横顔が、要に向いた。鴨崎に見せていた笑みは消えている。
「俺は、お前には負けない」
「へ?」
 無の面持ちで静かに告げられた。意味が全く分からず、要は眉間に皺を寄せる。勝つも負けるも、どこにそんな判断材料があるというのか。そもそも、サッカー選手として括れば、要は茂森に敵う立場ではないのに。
 寸時の無言の後、また茂森が破顔する。
「言ってみたかったんだ、この台詞」
 楽しそうに、笑ったのだ。
(ますますわけわからねぇ)
 先にセンターラインに向けて駆け出した茂森の背中を、要はしばらくその場で見送っていた。「1」を示す茂森の背番号が、とても大きく見えた。
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