このブログに掲載されている「英雄の屍」の著作権は、管理人である北野ふゆ子に属しています。ブログはリンクフリーですが、無断転載、引用など、著作権侵害にあたるご行為はおやめ下さいますようお願い申し上げます。

Yahoo Messenger
お気軽にお声がけ下さい


others

北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



超・長編小説同盟に参加しています。

私はClubA&Cに加盟しています。よろしければご感想をお聞かせ下さい。私も貴方の作品の感想をお送りさせて頂きます。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

このページの先頭へ
guardians02
02

 翌日。
 桐嬰学園中等部、第一サッカーグラウンド。
 コーチの予告通り、早速新キャプテンと副キャプテンに初仕事が割り当てられた。
「一軍FWとMFのシュート練習の進行を任せる」
 二人に渡された表には、春からの一軍メンバーとポジションが記されていた。
「とりあえず初日だからな。好きなようにやってみなさい」
 そういい残してコーチらは二軍の面倒を見るべく隣のグラウンドへと行ってしまった。監督は一軍DFと控えGKのトレーニングに付き合うらしい。
 第一グラウンドの真中では、一軍のFWとMF達が柔軟運動をしていた。体を動かしながら、誰もがこちらを気にしているのが感じられる。気のせいか、背中が痒くなってきた。
(どうするかな)
 表を眺める要の隣で、
「グラウンドの半面を使って、パスからのシュート練習にしようか」
「ん?」
 表にざっと目を通した茂森の方から、提案が出された。
「そうだなあ」と呟きながら、要は肩越しに柔軟をしている面々を見やる。
「MF一人、FW二人の組み合わせで回していくか?」
 答えながら、要は表を指差した。
「そしたらカモネギツートップも何回か組み合わさるだろうしな」
「カモネギ?」
 要の指先が「鴨崎」と「根岸」を指している事に気がつき、
「なるほどな。了解」
 と笑った後、茂森は背後を振り返った。
「柔軟やめ!集合!」
「!」
 よく通る声が至近距離から上がった。隣にいた要を始め、柔軟をしていた面々も目を丸くして動きを止め、今日は紺と黒のキーパーユニフォームの主を見やる。
「俺、何かヘンな事言ったか?」
 動きを止めた面々の様子に驚いて、子供のように首を傾げた茂森が要に問いかける。
「あ?いや?」
 我に返った要は、肩を竦める仕草でそれに答えた。
「おーい、キャプテンが集合って言ってんだぞ」
 手にしていた表をヒラヒラ振りながら、要も隣で声を出す。
「お、おう」
「すみません!」
 同じように我に返った面々は慌てて立ち上がりり、二人のもとに駆け寄る。集まった面々に、茂森はキーパーグローブをはめながら口を開いた。
「これからグラウンドの半面を使ってパスからのシュート練習を行う。MF一人、FW二人の組み合わせ。GKは俺。パスの回数は二回以上、誰がシュートを打つのか、ローテーションは自由だ。俺がボールをキャッチしたら終了、次の組と交代だ」
(決まったローテーションもなしか)
「なるほどな」と内心で頷きながら、要は茂森の指示するトレーニング内容を聞いていた。三年生が引退し、新体制となった初日では、お互いの呼吸を探り合える機会が必要だ。ミニゲーム感覚の柔軟なメニューの方が良いだろう。
 だが、メンバー達から返事が上がるものの、未だ戸惑いを見せている部員も見える。組織されきっていない集団に「自由」という選択肢を与えると、まず起こりうる現象が「迷い」の連鎖だ。
 こういう時は「副」キャプテンがフォローするべきなんだろうか。部員らの反応を見て要は考える。だが、茂森の様子は落ち着いていた。というよりマイペースなのか、率先してボール籠をセンターサークルへと運び始める。慌ててそれに倣おうと動き出す面々に向けて、茂森は立ち止まって振り返った。その面持ちは、笑顔。
「どうすれば三人で「俺」からゴールを奪えるか。それを考えて動いてくれ」
 そしてまた前に向き直り、ゴロゴロと籠を転がしていく。
「………」
 同じくボール籠を運びながら、要は軽く絶句し茂森の背中を眺めていた。
(思い切った事言うなあ。まるっきり挑発じゃねえか)
 大人しい草食動物系の外貌とは裏腹な台詞。試合中でもあまり聞いたことの無い類の言葉だったように思う。
「?」
 ふと背後が気になり、振り返る。
 準備を整えてセンターサークルに集まってくる面々に、変化が生じていた。茂森の「俺からゴールを奪ってみろ」という事実上の挑発に、面々の目つきが変わっているのだ。名門桐嬰の一軍を担う自負心と、アスリートとしての闘争心が強い連中なのだから。
(……おや…)
 と要は思う。
 キャプテンの隣という位置は、人の顔がこんなにもよく見えるのか。場の空気が引き締まったその変化も、客観的によく分かる。
(茂森にしかできない挑発だな)
 要の思案の前に、当の茂森は何事も無かった顔で、両手を組んで手首を回している。キッカーが有利といわれるPKにおいても、圧倒的セーブ率を誇る実力と自信があるからこその挑発。その裏付けが、一軍メンバー達の本気を引き出した。
「よおし!今度こそ先輩からゴールを奪ってやる!」
 両手で拳を作って落ち着きなくガッツポーズするのは、鴨崎。真っ先に挑発に乗って、いの一番にセンターサークルに駆け寄ってきた。そのすぐ後ろからネギこと根岸拓海も続く。普段は感情の起伏に乏しい生徒だが、今はその切れ長の瞳に鋭利な光が見え隠れしている。内心で沸々と闘争心を燃やしているのだろう。
 後輩の静かな陽性反応を知ってか知らぬか、当の茂森は、
「そろそろ、その台詞は聞き飽きてきたぞ」
 と鴨崎の挑発返しに笑みを向ける。「先輩からゴールを奪ってやる」は鴨崎が入部した時から、何度となく聞かされてきた台詞なのだ。だがPK練習やフリーキック練習において、鴨崎はまだ一度も茂森からゴールを割れずにいる。
「うへ、先輩酷いっす!本当のことですケド!」
 そう言う鴨崎の表情は、あくまでも底抜けに明るい。某少年漫画の主人公よろしく、強い相手と対峙する事で高揚するタイプなのだ。その雰囲気に、周囲も牽引されている。
「じゃあ、俺はゴールに行くから四条、後は頼むな」
「え?」
 片手を振って茂森はゴールへと歩いていく。その背中を、FWやMFの面々が見据えていた。
(俺が今のチョーハツをフォローすんのか!?)
 今の要に文句を言っている暇はない。せっかく上がった彼らのモチベーションを下げずに進行させていくには、どうしたものか。今度は副キャプテンたる要に、面々の視が向く。「早く始めさせろ」と息巻いているような迫力だ。
「んじゃまあ、とりあえず」
 手にしていたメンバー表を籠の上において、要は腰に手を当て軽く伸びをした。
「俺、カモ、清水寺の元FW三人で口火をきってみるか」
 慣れた面子の組み合わせだ。今年の夏は、この三人体制で大会にスタメン出場した事もある。
 名前を呼ばれた鴨崎は「よっしゃ!」と気合を入れる。
「でも、どうする?いつものパターンじゃ、奴には確実に止められるぜ」
 対照的に冷静なのは、清水寺。
 奴、ゴール前の茂森は、伸びをしたりその場で飛び跳ねて体をほぐしている。鴨崎や清水寺をはじめ一軍メンバー達に、敵を見るような緊迫感の宿った目で見られている事に、彼は気付いているのだろうか。
「まずいつも通り、四条からカモ、俺に回してみて、茂森が俺に反応したところでバックパスってのは?」
 提案してきたのは、清水寺だ。
「ノールックじゃないと意味ないな」
 そう答える要の視は、茂森に向いていたが、
「できるか?」
 と挑戦的な視線を清水寺に戻した。
「馬鹿にすんなよ「副キャプテン」」
 それを受け、口端に不敵な笑みを浮かべた清水寺も、肩越しにゴール前を振り返った。
「俺は四条とカモのド真中にパスを出す」
「オッケー。シュートはカモだ。俺も同時に走って、オトリになる。そのまま前に出て、弾かれた時に備えとく」
「了解っす!」
 要の補足に同意してから、鴨崎が籠からボールを取り出した。気合と共に地面に叩きつけて、足で止める。純粋な熱を感じながら、要は「よっしゃ」と順番を待つ面々に向き直った。
「誰でもいいから、とにかくあいつからゴール奪ってやろうぜ」
 親指でゴール前の茂森を指し示す。
「中学日本一のGKからさ」
 要の口元に浮かぶ、いつもと変わらない皮肉屋のふてぶてしさと、いつもと違う高揚感が混在した笑み。
「おし!」
 誰からともなく気合を入れる声が上がり、自然に隣同士が声をかけあい、グループが作られていく。
「茂森ー、一番手、行くぞー」
 ゴールに向かい要が手を上げると、
「元フォワード三人衆、いっきまーす!」
 どこかのロボットアニメの主人公の口調を真似た鴨崎も、勢い良く手を上げた。
「よし、こい!」
 と答えて茂森は拳で手の平を叩いた。中腰に背を屈め、戦闘態勢に入る。これだけの些細な動きだけで、まるでゴール前に鉄壁が現れたような圧迫感が生まれる。
「はい、先輩」
 鴨崎から転がされてきたボールを、要が徐に蹴り出す。
「走れ!」
「おう!」
 要からかかった号令に、二人のフォワードは即座に反応し両サイドから走り出す。茂森の視は、ボールをキープする要を追っていた。
(ギリギリまで近づく)
 ペナルティエリアまでの距離と、二人のフォワードとの距離を図りながら、要はボールを蹴り進める。下手にペナルティエリア内にボールを持ったまま侵入すれば、茂森は積極的に前に出てボールを奪いに来るだろう。弾丸のように足下にもぐりこんでくるスライディングキャッチは驚異だ。
(今だな)
 鴨崎の足がペナルティエリア手前まで踏み込んだところで、要はパスを送る。清水寺は既にペナルティエリアに入り込んでいた。ボレー気味に鴨崎はすかさず清水寺にボールを回す。茂森の体が清水寺の方に傾ぎ、だが反して視線は鴨崎に動いたのを、要は見た。
(読まれてる!?)
 どう指示を出すかを迷う一瞬の間に、清水寺のバックパス、直後ボールに追いついた鴨崎がシュート体勢に入った。得意のゴール右隅ギリギリのコース、必ずそこを狙うだろう。
「それじゃ取られる!」
 要は真後ろから追い越しざまに鴨崎の耳元に叫んだ。
「!!?な、わ、たっ!」
 咄嗟に反応したものの、見事に体勢を崩した鴨崎の足はボールの軸を外す。ボールはイレギュラーな動きでゴール左の清水寺の頭上に上がった。
「えぇえ俺!?」
 ボール目掛けて清水寺がジャンプするのと、
「くっ!」
 右に出かかった茂森が無理やり体を捻りながら左に飛ぶのは、ほぼ同時だった。
「いけるか!」
 様子を見守っていたメンバーらから声が上がる。だが清水寺のヘディングより一瞬速く、茂森の手がボールを弾いた。バウンドしながらゴール左方向へ転がっていくボールに追いついたのは、要。
「なっ…!」
 茂森は清水寺ともつれ合うように着地。要は間髪入れずに鋭角からシュートを打った。無理やりな角度からのシュートは、咄嗟に伸ばした茂森の指先を掠ってポストに当たる。
「おしい!」
 勢い良く跳ね返ったボールは、鴨崎と茂森の間を突き抜けるように転がっていく。鴨崎が駆け出し、片膝立ちの状態だった茂森は腕と片足の力だけで、ボールに飛び込んでいく。
「わあっ!」
 足下に滑り込んできた茂森の体に跳ね飛ばされる形で、鴨崎が前方に放り出された。
「!」
「ボールは!?」
 第一グラウンドに走った、刹那の静寂。誰もがボールの行方を捜して、言葉を忘れている。
「危なかった……」
 ボールは、起き上がる茂森の両腕の中で従順に収まっていた。
「!」
 静寂を破ったのは、鴨崎の嬌声。
「っくしょー!とられた!」
 地団駄を踏んでグラウンドを蹴りつけ、悔しがる。
「なあ、三人ともやたらムキになってないか?殺気すら感じたぞ」
 立ち上がった茂森の面持ちには苦笑が浮かんでいるが、そうは言いながらも余裕がうかがえた。
「自分で挑発しといてよく言う」
 茂森からボールを受け取りざまに、要は一言呟いた。その後ろから「俺はいつでも本気っす!」と鴨崎が未だ興奮冷めやらない様子。
「我ながらナイスパス、反応だと思ったんだけどなあ、悔しいなあチクショー」
 清水寺は独り言を洩らしながら、しきりに首を捻っている。
「うん、危なかった。正直、入れられるかと思った」
 茂森は土のついたキーパーグロープをはたく。伏せた瞳に浮かぶ静かな色は、安堵だろうか。だがそれもつかの間で、
「鴨崎」
 と後輩の背中に呼びかける面持ちは、既に「キャプテン」のそれになっていた。
「は、はい」
 真剣な声に呼ばれて、鴨崎は勢いよく振り返る。
「得意シュートのコースを増やした方がいいな。俺は鴨崎が右隅狙いが得意だってのを知ってたから、四条の機転がなければあそこで止めていたと思う」
「はい……」
 弱点を指摘されて鴨崎は肩を落として小さくなる。立ちすくんだ小動物のような有様は、いつもの豪胆、単純、明朗な態度からは想像できない。
「お前はシュートが正確で鋭い。あの場面でもし左隅の低い位置にボールが来ていたら、俺は取れなかったかもしれない」
「え……」
 鴨崎の顔が上がる。それに微笑んだ茂森は「それにだ」と言葉を続けた。
「桐嬰でエースになるって事は、全国に研究されるって事だからな」
「っはい!」
 打って変わって今度は輝くような笑顔に変わる。怒ったり落ち込んだり喜んだり、鴨崎の表情は忙しない。
「よし」と満足そうに頷いて、茂森は後方で待つ面々を向いた。
「こんな感じで、どんどん来い!」
 青空に突き抜けて通る声と共に、高らかに手を振る。
「茂森の奴、マジモードじゃねぇか」
「今の、入ると思ったんだけどなあ」
 様子を見ていた面々の間にざわめきが生まれ、顔を見合す動きが連鎖する。
(やっぱりとんでもねえ運動神経だなあいつは…)
 センターサークルに戻りながら、要は肩越しに茂森を一瞥した。
 鴨崎がスカったシュートが偶然にも、上手い具合に清水寺の頭上へ上がった時は、イケると思った。茂森の重心は完全に右へ傾いていたし、高身長の清水寺のヘディングに追いつくのは至難だと思っていたのに。
「おし。次は誰がいく?」
 清水寺や鴨崎と共にセンターラインまで戻った要は、籠の上に置いたメンバー表を手に取った。
「俺達が行ってもいいかな」
 すかさず、手が挙がる。二年のMF、寺野英嗣だった。春の時点では二軍にいたが、夏の大会前から急成長して一軍に上がった選手。調子次第でスタメンも狙えるだろう人材だ。この寺野と組んでいるのは、同じ二軍仲間だった二年の控えFW船越、そして一年の控えFW庄司だ。
「ほー」
 要の口から感心したような声が漏れる。
「力不足かもしれないけど…」
「チャレンジしたいって思って」
 遠慮がちに伏せられた寺野達の視線は、一度要を見やった後で、その背後に見える茂森にも向いた。当の本人は、ゴール前で体についた泥をはたき落としている。
「いやあ面白いんじゃね?」
 探偵みたいに顎の下に指先を当てて、要はもっともらしいポーズで寺野に向き合い頷く。
「寺野たちってある意味、茂森にとって未知数なところが大きいだろ?」
「ずっと二軍だったしね」
「そういう後ろ向きな考え方すんな。伏兵って言え」
 苦笑いのために俯いた寺野の顔面に向け、要は人差し指を突き出す。
「ふ、伏兵?」
 目を丸くする元二軍三人衆。要は大きく頷いた。寺野達を囲む面々からも笑いが上がる。
「よしいけ、ダークホースども」
 有無を言わさぬ勢いで、要はゴールに立つ茂森を指差した。
「おーい茂森、第二弾いくぞ」
 と声を上げると、ゴール前から「来い!」と返ってくる。
「頑張れよ!」
 誰からとも無く上がった応援の声が、三人の背を押した。連鎖するように「頑張れ」と複数の声が次々と届く。
(いい感じに機能してるな)
 要は確かな「手ごたえ」を感じた。
 既に二年間を過ごしてきた部活動の中で、初めて生まれた感覚だ。
「…………」
 ボールを蹴り出した寺野ら三人の背を見つめながら、要は軽く唇を引き締めた。
スポンサーサイト

このページの先頭へ
| BLOG TOP |
Powered by FC2ブログ / Template by chocolat*
Copyright © 2005 英雄の屍 All Rights Reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。