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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians01
01

 フォワード清水寺がボールをキープしセンターラインを超えると同時に、同じフォワードの鴨崎が速度を上げ、要も後に続いた。
「下がれ谷矢!」
 走り出す直前、要は後方へ叫ぶ。
「っえ」
 半ば脅された様な形で、ボランチの谷矢(たにや)は咄嗟に足を止める。その直後、相手チームのディフェンダーが、強引なスライディングで清水寺からボール奪った。大きく蹴り上げられるボール。
「!」
 高いアーチを描いたボールは、カウンター気味に相手チームのフォワードと、足を止めた谷矢との間に落ちた。
(あのまま俺が走っていたら、抜かれていた…!)
 素早く反応を見せた谷矢が一瞬速くボールを奪い、センターライン側にいた二年生の緒車(おぐるま)にロングパスを回す。
「おし、ナイス」
 要が指先を「おいでおいで」と動かし緒車に視線を寄越すと、それに応えてボールが飛んできた。待ち構えていたディフェンダーがプレッシャーをかけてくる前にすかさず鴨崎にパスをやる。後はセオリー通り。鴨崎がシュートと見せかけてゴール前に突っ込む清水寺にボールを回し、清水寺がそのまま得意のボレーシュート。格下相手なら、確実にこれで一点が転がり込んでくる。
「四条ナイス判断!」
 後方から仲間の声が上がる。自分の読みがもたらした結果に満足そうに要が振り返ると、ディフェンスの芥野がガッツポーズをしていた。それにピースサインで応え、立ち位置に戻ろうと踵を返す。その一瞬、視界によぎるオレンジと黒。
(茂森……)
 芥野の後ろ、自ゴール前の守護神が視に入った。大きく吸い込んだ息を吐き出して、仰ぐように視線を空に向けているその姿が、車窓の景色のように通り過ぎていく。
「………」
 後ろ髪を引かれるみたいに気になったのは一瞬の事で、審判のホイッスルが高らかに鳴り響く次の瞬間には、もう要の脳裏からその光景は消えていた。

(あの試合が原因だったのか?)
 つい数週間前に行われた他校との練習試合を思い出し、要は首を捻った。他のフォワード達が相手ゴールに向けて一斉に動き出している時に、要は一人だけ半拍遅れて後方に指示を出していた。それがミッドフィルダーに転向する事になった理由だろうか。
 だがいつもそうしていた訳ではない。前だけを見てアタッカーに専念する事も多かったはず。
(あの時はたまたまだったんだけどな)
 それを目ざとく監督に見られていたという事だろう。だがそれにしても、何故あの瞬間の自分はアタッカーの責務よりも、後方に注意を促すことを優先させたのだろうか。
「うーん…わからん」
「何してんだ、風邪ひくぜ」
「う?」
 気がつくと更衣室に残ったのは、要を含む三名のみになっていた。半裸状態で考え込んでいた要をヨソに、芥野と清水寺は既に着替えを完了している。
「悪い悪い」
 青天の霹靂の如く次期副キャプテンに任命されたからといって、すぐに何が起こるわけでもなく。「とりあえず副キャプテン」となったその日の解散後、要がとった行動は至極いつも通りだ。シャワーを浴びて着替えて、芥野や清水寺(しみずでら)らと自販機で飲み物を買って、今晩観るテレビ番組の話をしながら寮に向かう。
 桐嬰学園には寮があり、早朝練習や、夜間練習のために運動部の学生の多くが寮を利用していた。サッカー専用グラウンド、テニスコートなど、数多くの運動部用グラウンドを有している桐嬰学園は、広い敷地を確保する為に郊外に位置している。最寄の沿線駅から必ずバスを利用しなければならなく、神奈川県内在住者であっても通学の便が良いとは言えないのだ。
「あれ、茂森って自宅生?」
 サッカー部員の多くが寮生である中、外来用の校門方面へと向かう茂森の背中を見つけて、要が呼び止めた。
「ああ。バスと電車で三十分ぐらいかな」
 雨でバスが遅れても、四十五分ほどで通えると言う。
「ふーん。朝練来るの、けっこう大変そうだな」
「そうでもないよ。慣れた」
「あ、そう」と気の無い相槌と共に自販機のボタンを押すと、派手な電子音が鳴り出した。
「アタリだ」
 オメデトウ!とディスプレイに文字が表示され、電子の卵から生まれたドットのヒヨコが踊っている。
「茂森、三秒以内に飲みたいやつ答えろ」
「え?あ、っと、「しっかり野菜生活」」
 答えの直後、乱暴な音と共に取り出し口に缶が落下する。出てきたのはベストセラーの野菜ミックスジュース。
「渋いセレクトだなオイ」
 缶に描かれたキャッチコピーは、「これ一本で一日分のお野菜」。要は目を細めつつ毒づいた。
「そうかな」
 茂森は笑う。皮肉が通じていないらしい。
「誉めてるんじゃねえって。ほら」
 おざなりに、擬人化された野菜たちが微笑むイラストのプリントされた缶を、茂森に放った。
「あ、ありがとう」
 綺麗な放物線を描き、缶は茂森の手に収まった。それを見届ける前に要は反対方向に踵を返し、芥野や清水寺を促して歩き出す。
「じゃあな茂森ー」
「おつー」
 と手を振る芥野と清水寺に「またな」と微笑んで、茂森も校門方向へと歩いていった。
「やけにお前、今日は茂森に優しいな」
 肩越しに、遠ざかっていく茂森を気にしながら清水寺が言う。
「はあ?俺がか?」
 低い脅しのような声と共に、要はアミノ酸飲料缶のプルリングを引いた。
「やっぱ早速気にしてんのか?キャプテンと副キャプテンってことで」
 と言う芥野の言葉を薄甘い液体と共に飲み下して、「んなわけあるか」と否定する。だが「あ~でも」と思い直して缶の飲み口から口を離した。
「あいつのファン多そうだからな。優しくしとかないと女子に殺されるかもしれね」
「それは言えてるかも」
 そんな他愛も無い話に笑いながら歩く三人の背中を、「四条、ちょっと」と低い声が呼び止めた。
「悪いが時間をくれ。さっきの事で話がある」
 監督の西浦だった。部の創設から携わり、桐嬰の名を全国区に押し上げた立役者だ。アメフトの方が似合うのではと思わせる大柄な体躯に、低くよく響く声は学生達を威圧するに十分で、「関東の仁王」という異名が付いているとか、いないとか。
 説明は「日を改めて」じゃなかったのかと言いたいところだったが、この監督に命令されればおいそれと断れない。観たかったテレビ番組に未練もあるが、ここは大人しく従うが得策と、要は「了解っす」と頷いた。
「でも茂森は帰っちゃいましたよ。走って追いかければ追いつくかもですけど」
 気がついて、要は校門方向を指差すが、西浦は太い首を横に振った。
「今日のところはお前だけでいい」
「ふーん」
 芥野らと別れて、つれて来られたのは部室の片隅。部員の姿は無かったが、コーチとトレーナーが一人ずつ居残っていた。入ってきた西浦と要に気づき、書き物をしていた手を止める。
 適当なところに座れと言われて、要はヒーターの近くの席に腰掛けた。その正面に西浦が座る。コーチとトレーナーは再び手を動かし始めたが、耳をこちらに傾けている様子は見てとれた。
 話の端を切ったのは、「まず訊くが」という西浦の前置き。
「東高との練習試合、お前何度かわざわざ前に出るのが遅れてまでディフェンスやボランチに指示出してたな。あれは何でだ?」
 東高は、まさに数週間前に練習試合をした相手だ。
「ええっ、今更そんな話!根に持ってたんスか!」
 まるで自分の思案を全て読み取られていたようなタイミング。珍しく動揺した要は、思ったことを全て口走ってしまった。慌てて両手で口元を押さえたが、出してしまった失言を飲み込めるはずもなく。
「ス…スミマセン、今のは、ナシで…」
 難しい顔の西浦に見据えられて、要は素直に謝るしかない。
「いいから答えてみろ」
 だが存外、西浦の声は平静だ。
「うーん…」
 唸りながら頭の中を冷やして気持ちを落ち着かせ、更衣室で巡らせた思案の続きを探る。西浦は要の様子をうかがいながら、辛抱強く待っていた。
「それが、自分でもよく分からないです」
 だが結局、たどり着く結論はこれだ。
「分からない?」
「あの時は妙にディフェンスの動きが気になって仕方なかったんですよ」
「ほう」
 太い両腕を組んだ西浦の巨体が、椅子の背にもたれ掛かる。
「前だけ見てりゃいいっていう場面でも、何か後ろから呼ばれているような……肝心なところは清水寺やカモに任せれば良いやって思って、何度も振り返っちゃって」
 ちなみに、カモとは鴨崎の事だ。
「夏の大会は…こんな事なかったかな、でも春の大会では一回ぐらいあった…ような、あと練習試合とか紅白戦とかでも時々、ある、かな」
「やっぱ俺フォワードに向いてなかったって事っすかね」と苦笑いすると西浦は、
「なるほどな」
 と口元に笑みを浮かべて頷く。安物の椅子が哀れな軋み音をたてた。
「四条、気がついてたか?東高との試合で茂森が体調を崩してた事を」
「体調崩してた?茂森がですか?」
 西浦の言葉を鸚鵡返しにして、要は動きを止めた。
 そうか、それか。
 脳裏でパズルがはまったような音がした。
「実は俺も後で知ったんだがな。微熱があった事をずっと隠してたようだ」
「微熱……」
 呟くと、脳裏にあの光景が蘇る。一瞬だけ視界の端に映った、ゴール前で空をぐ茂森の姿。深呼吸していたように見えたのは、呼吸が苦しかったからなのか。
「その顔じゃ、お前もはっきり気がついていたわけじゃなかったんだな?」
「―てか、今知りましたけど」
 苦笑する要を見る西浦は、いっそう低い声で「だが」と言葉を継ぐ。
「お前は本能的に気づいていた」
 だから極力キーパーにボールを行かせない為に、ディフェンスが防御を固め易くなるよう、後方を気にしていた。結果、桐嬰は無失点で勝利。あの試合で茂森が触れたボールは、正面に来た苦し紛れのシュートと、ボテボテのゴロだけだった。
「考えすぎですって」
 要は左手の平を振って西浦の推測を一笑するが、本心がそれを否定しきれていない事を自覚していた。
「四条、俺はな」
 改まった様子で西浦が椅子の背から体を離した。思わず要もつられて背筋を正してしまう。
「茂森とは違う意味で、お前も中学生離れしてると思っている」
「俺はフツーの中坊ですよ」
 静かに、要は首を横に振った。
「天才じゃないですもん」
 茂森の実力は、いわゆる超中学級。身体も能力も未だ成長過程で、学生級を超越するのは時間の問題だという。対して要の場合、確かに強豪桐嬰でレギュラーを勝ち取り、全国区で競り合うだけの力はあるという自負はある。だが、そこまでだろうという自覚もある。このまま成長が続き、プロとして通じる素材になり得るかは分からない。
「そーいう意味では、悔しいけどカモなんかは茂森に近いタイプっすね」
 正した姿勢を少し崩した要は、言葉と裏腹に楽しそうに口端に笑みを浮かべていた。
 一年生フォワードの鴨崎隆一。試合中はボールをゴールに入れる事しか考えない、典型的なアタッカー気質。だがボールしか見えていない訳ではなく、流れの中で自分が置かれている立場を本能で理解している天才肌だ。要もそれを認めている。
「そうだな」
 西浦もそれに同意する。
「鴨崎はエースとして育てるつもりだ。相性の良い同じく一年の根岸とツートップにしようと思ってな」
「カモとネギ……確かに相性は良い…」
 要の呟きに「アホ」と呆れた笑いを挟んで、西浦は言葉を続ける。
「だが長身で動きの速い清水寺も捨てられない」
 そうなると、必然的にフォワードに要の席がなくなり、中等部を卒業していく三年ミッドフィルダーの席が空くというわけだ。
「あ~…確かに清水寺のパスに対する反応の良さはすごいすね」
 長らくフォワードとして共にプレイしてきて、よく知っている。どんな難しい角度からのパスにも対応する、清水寺の反応力。チーム一と言っても良いだろうと、要は感じていた。
「カモネギツートップと組み合わせれば、戦略が広がりそうだ」
「ふっ」
 楽しそうに語る要に、西浦は低い笑いを漏らした。
「お前、他人の事はよく分かるくせに、自分の事はまだイマイチ分かってないんだな」
「え?」
 不満と疑問を視に浮かべた要を見おろす形で、西浦は席を立った。要はしばしその長身を見上げたまま動けない。浩々と灯るヒーターの熱が、背中を炙る。
「お前自身の事は、そのうち茂森が教えてくれるだろう。そうなれば俺の意図も分かるはずだ。自分の事をもっと知れば、お前は伸びるぞ」
「ちょ、監督っ」
 部屋を出て行こうと動きかけた西浦を呼び止め、要は椅子を倒す勢いで立ち上がる。
「まあそういうわけだ。副キャプテンとして、しっかり桐嬰の守護神をサポートしてやってくれ」
「………っ」
 机を隔てた向こう側から、大きな手で頭をかき回された。驚いて反射的に身を縮める。
「桐嬰の目標は全国制覇だ。桐嬰が強くなればなるほどこれから色々、難しい事があるだろう」
「―?」
 西浦の声に翳りが生じているのを、要は感じた。顔を上げて西浦の様子を確かめたかったが、頭をかき回す大きな手に邪魔される。結局確かめる前に、西浦は部室を出て行ってしまった。取り残された要は答えを求めるように、トレーナーやコーチを振り返るが、止められているのか、
「明日の練習から早速、キャプテンと副キャプテンとしての仕事を始めてもらうからな」
 と事務的な言葉以外、何も聞き出すことは出来なかった。


 もやもやした気持ちを残したまま部室を出た要は、グラウンド脇を歩いていた。人影はとうに無く、時計はとっくに見たい番組が始まっている時刻を過ぎていたが、このまま寮に戻る気にならずに体育館沿いを遠回りする。
「カナ兄ー!」
 駆け寄ってくる声に振り返ると、袴姿の女子学生が手を振っていた。腰まで届きそうな長いポニーテールも歩幅に合わせて揺れている。
 要の双子の妹、哉子(かなこ)だ。弓道部員のシンボルたる、身長の倍はありそうな長弓を手にしていた。通常は部室に保管場所があるのだが、これは祖父から譲り受けた大事な「マイ弓」で、哉子は寮の自室に置いているらしい。ルームメイトにはえらく迷惑がられているようだ。
「カナ兄どうしたの、血色悪いよ?「ためしてガッテン」、今日は血液サラサラ効果の話らしいから観たら?」
 いかにも血液がドロドロになっていそうな兄の顔色を見て、哉子は悪戯っ子のように笑った。笑うと目が細くなって子狐か柴犬のようになる。
「誰がそんなジジくさいの観るかっつーの」
 茂森じゃあるまいし、という一言は飲み込んだ。
「まあいいやそんなことより聞いて!」
 要の様子を置き去りにして、哉子は一人で喋り続ける。
「私、弓道部の次期主将に選ばれたの!」
「………」
 哉子、お前もか。
 ありきたりな台詞が、ありきたりなタイミングで思い浮かぶ。そこは「奇遇だな」とごまかして応えた。
「カナ兄も!?双子ってこういうところも似るんね」
「副キャプテンだけどな」
「ほおお。マイペースとジコチューの権化のようなカナ兄がね……」
「否定はしないが。お前は人の事が言えるのか?俺達双子だし」
「私は違うもん。だからこうして主将に選んでもらったのよ。双子だからって性格まで似るとは限らないんだから」
(さっきまでと言ってる事が違うじぇねえか)
 そういう言い草で既にマイペースとジコチューぶりを発揮しているのを、この妹は気がついていないらしい。余計な茶々は飲み込み、要は学生食堂の方を指差した。
「久しぶりに、一緒に夕メシ食うか」
「おやああ?」
 黒い瞳を丸くして、哉子は大げさに声をひっくり返した。要の前に回りこみ、顔を覗きこんでくる。
「どうしたの、カナ兄。今日は優しいじゃない?」
「………」
 芥野らと同じ事を言われた。要の眉間が不機嫌そうに皺を寄せる。
「行こう行こう、偶然わたしもそうしたかったんだ」
 兄の心中を全く気に留めず、哉子は要の腕をとって先を歩き出した。要はされるがままに腕を引かれて、共に歩き出す。
 要が哉子と出くわしたのは偶然ではない。つまらない悩みに頭をかき乱された時、要は無意識に弓道場がある体育館脇方面へと出向く。双子ながら自分と違う、この嘘の無いまっすぐな性格の妹と接していると、自分の悩みがどうでも良く思えてくるのだ。
 当然こんな事を、絶対に本人には告げられないのだが。
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