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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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guardians00
opening

 カーブを描くボールを追うために地を蹴ったキーパーの足が、不自然に滑った。
「うっわ!」
 素っ頓狂な声と共にオレンジと黒のジャージが前方に倒れ、ボールはそのままゴールの左隅へと吸い込まれていった。
「ありゃあ?」
 滅多にお目にかかることが無い光景を目の前に、ボールを蹴った張本人は間の抜けた声を漏らした。背後でPK練習の順番待ちをしていた面々から、驚きの声が次々と上がる。
「おいおい、珍しいな、大丈夫か?」
 騒然とした声で我に返って、ボールを蹴った張本人、四条要はゴールに駆け寄った。派手に転んだオレンジ色、ゴールキーパーの茂森は笑いながら「悪い」と上半身を起こした。左足のシューズの紐が切れて、脱げかかっている。
「もうだいぶ長く履いてたからな」
「代わりのスパイク持ってきてるのか?」
 要の質問に、茂森は首を横に振る。
「持ってないんだ。でも、紐を変えればまだ使えそうだ」
「ジジくせえな。新しいのにしろよ」
 そう笑って要はゴールの隅に転がるボールを拾った。
「紐、ちょうどスペア持ってるから貸してやるよ」
 拾ったボールを次に並んでいた部員に放り、要はゴール裏のベンチを指差した。そこに鞄が置いてある。
「ありがとう、貸してもらうことにする」
 立ち上がり、自分の代わりになるキーパーを呼んでから、茂森も要の後についてベンチに向かった。途中、コーチが「変な転び方してなかったか」と茂森を気遣う言葉をかけに来る。
(さすが、チームのお宝には過保護なこった)
 背中に聞こえる会話を耳に、要はそんな事を考えた。
「…………」
 鞄の中から靴紐を取り出しながら、ふと思う。
 初めて会ってから二年。思えば、試合中の指示や作戦会議以外でこいつとまともに会話をしたのは、初めてじゃなかろうか、と。

 そして、この時は何気なく口にしていたある言葉に後悔する事となるのは、もっと後の事である。

*

 私立桐嬰学園。神奈川県内にある、中高一貫校で大学部も有する、世間が言うところの名門校だ。「文武両道の桐嬰」を標語に、スポーツや一芸等の各種推薦、奨学制度を設け、各分野に優秀な卒業生を輩出している。
 特に各運動部は全国区の強豪が多く、中でもサッカー部は有名で、ナショナルチームからお呼びがかかる選手がいる程だ。
 四条要は中等部の二年。もうすぐ三年になる。サッカー部に所属していて、ポジションは「とりあえずフォワード」。京都出身の要は、小学校卒業まで関西のリトルリーグに所属し、主にアタッカーとしてフォワードを務めてきた。リーグでの成績をネタに、桐嬰学園中等部にスポーツ推薦入学。サッカー部では二年生の時にレギュラーの座を得てから、「とりあえずスタメン」として使われ続けている。要の持ち味は「安定感」だという事だが、これはいわゆる可も不可もないという事だ。故障が少なく好不調の波も少ないので、監督も使いやすいのだろう。要自身はそう自分を分析している。
 今は二月。気象情報では暖冬と報じられているが、日が落ちかけた夕刻となれば寒風が肌に痛い。
 冬の選手権も終わって三年生が引退となるこの時期、中等部のサッカー部では次期キャプテンと副キャプテンが監督の口から発表される。冷たい寒空の下、練習メニューを終えてグラウンドに整列した部員達を前に、監督が結論を告げる。
「次のキャプテンは」
 その次に出て来る名前を予測するのは、簡単な事だった。「彼」に決まっている。
「茂森。お前だ」
 当然だろ。
 最後に「しっかり頼むぞ」と付け加えた監督の言葉を聞きながら、要は思う。そして、
「やっぱりな、茂森」
「先輩、おめでとうっす!」
 と新キャプテンに群がるメンバー達も、同じ考えだったに違いない。誰が異論なんてあるものか。茂森とはそういう奴だ。そうなるべき奴だから。
 当の茂森本人は、監督に名前を呼ばれた瞬間は、まるで迷子のような顔をしていた。一拍遅れて「はい!」と優等生な返事をして、メンバー達に囲まれようやく笑顔を見せている。
 新キャプテンに任命された茂森一司は、要と同学年。ポジションはゴールキーパー。中学サッカーでは敵なしの「鉄壁守護神」と称される名選手で、一年の頃から名門桐嬰の正GKの座にいる。京都にいた要でさえ、「茂森」の名前は聞いたことがあった。「関東に凄いGKがいるらしい」と。
 そんな彼がキャプテンとあれば、誰も文句を言えるはずが無い。要は茂森の人となりをよく知らないが、こうしてメンバーが群がるぐらいだ、人望もあるようだ。
 これ以上無いくらい、よくできた人事采配だ。監督も楽で良い。誰からともなく拍手がまばらに起こり、少し離れた場所から茂森を眺めていた要も、それに合わせておざなりに手を叩く。
「お祝いムードは後にしろよー」
 監督の静止が挟まった。
「次、副キャプテンを発表する」
 みな、そうだったとばかりに我に返って振り返る。こういう時、副キャプテンといえばミッドフィルダーかディフェンダーと相場は決まってる。少なくとも「前へ前へ」「俺が俺が」と自己主張とアクが強い傾向にあるフォワードではないだろう。
(ま、キャプテンが奴なら副キャプは誰がなっても同じだろうし)
 要はそんな事を考えながらすっかり他人事として、隣に立つ後輩の枝島と「腹減ったな」と無駄話を始めていた。
「こらそこ、四条、ヨソ見してるんじゃないぞ」
 目ざとく要の私語を見つけた監督から声が飛ぶ。
「やべっ、はい!すんませーん」
 肩を竦めながら頭を下げて謝る。全く反省している様子はないが、いつもの事だ。
「他人事みたいに聞いてるんじゃないぞ、四条。しっかり茂森をサポートしてやってくれよ」
「はいはい」
 一呼吸分の静寂の後、
「って、え?」
 間の抜けた要の声が寒空の下に転がる。あまり表情を変えずに監督が、手にしていたボードで要の顔面を指し示した。ジャンパーコートの布が擦れ合う音だけが、広いサッカーグラウンドに響く。
「副キャプテンはお前だ、四条」
「え、副キャ…誰ですか、四条…って、俺?」
 戸惑う要の台詞に被って、部員達の間からざわめきがわく。
「馬鹿者。他に誰がいる」
(そりゃそうだ)
 周囲の空気が変わった事に気がついた要は、どこか冷静なもう一人の自分が首を捻っているのを感じていた。もう一人の自分は言う。俺だって「何で四条が?」って思うだろうよ、と。
「えっと……」
 間がもたなくなり、要は無意識に茂森に視線を向けた。前方の監督に近い位置に立っていた茂森は、体を半分こちらに向けていた。年齢不相応な落ち着いた面立ちに、驚きとも微笑ともつかない中途半端な表情を浮かべている。
「ああそれから」
 言葉を失っている四条を置いてきぼりにして、監督はボードの角で己の肩を叩きながら、話を進めていった。
「お前にはフォワードからミッドフィルダーにポジションを移ってもらう」
「え」
 また、場が少しわいた。
「別にいいですけど、何で急に?」
 ポジションに思い入れがあるわけでもない。副キャプテン任命と関係があるのかと思い尋ねてみたが、それについては日を改めて説明する、と話を打ち切られる。騒然とした場を均すべく、監督は首にかけたメガホンを口元に当てて「以上!今日は解散だ」と締めたのであった。
「お前が副キャプテンかあ」
「びっくりしたよ」
 途端、近くにいた同級の部員らが数人、要の元に集まってくる。ディフェンスの芥野、フォワードの清水寺、男子マネージャーの倉本、そして、
「先輩おめっス!全然予想外でしたよ!マジ驚きましたもん!」
 後輩のフォワード、一年生ながら時々スタメン入りする天才肌のルーキー鴨崎だ。よく考えれば失礼な言葉を全く悪気なく口にしているが、これは一種の特技だと要は思う。
「俺が一番びっくりしたっての」
 人懐っこい犬のように飛び掛って来る鴨崎を押しやって、要は手荒な祝辞に軽口で応えるが、二軍や後輩らも、遠巻きに自分を見やっているのが感じられる。
「なんか視線が痛ぇな…」
 呟きながら、痒くもない後頭部を掻くが、居心地悪さは拭いきれなかった。
「納得できない気持ちはよーくわかるけど」と付け加えると、
「というより、意外すぎて驚いてるだけじゃね?」
 そう芥野が言う。彼は最近のディフェンスに多い長身が持ち味の選手だ。ポジションといい存在感といい、彼が副キャプテンで良かったのではないかと、要は思う。それを告げると「嫌だよ、大変そうだし」と苦笑していた。
「四条、君」
 外野から遠慮がちな声がかけられ、要をはじめ、その場にいる全員が振り向いた。そこにいたのは、茂森だった。周囲の一軍部員達や、少し離れた場所にいる二軍部員らも、こちらの様子に注目していた。
「おめでとう、これから宜しく」
 微笑みながら、手を差し伸べてくる。ご丁寧に、わざわざキーパーグローブを外してから。
(どっかの紳士かお前は)
 茂森という人間は、外見ばかりか、やる事なす事が年齢不相応だ。中学生離れした落ち着きぶりは、170を越した身長に伴い、彼をまるで大人の様に見せる時がある。
「そっちもな」
 握手なんて青春芝居は性に合わないと、要は差し出された茂森の手のひらを軽く叩いて応えた。
「さっきの紐、やるよ」
「え?」
 一瞬、目を丸くした茂森は、自分の足元に視線を落とした。
「シューズと色が合ってるし。ちょうどいいんじゃん?」
「駄目だ、後でちゃんと返す」
「いいって。キャプテン就任祝いって事で」
 見た目通り律儀なのだろう、茂森は申し訳なさそうに眉を下げるが、再び顔をあげた時には大きな笑顔を向けてきた。
「ありがとう。じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ」
「…………」
 彼と話をしていると、何だか調子が狂う。要をはじめとする面々はすっかり毒気を抜かれていた。その中で唯一、鴨崎はマイペースぶりを崩さない。
「あ、いいなー、四条先輩、俺にも何か下さいよー」
 と茂森の足元を見て無邪気に笑っている。
「お前がキャプテンになったわけじゃねえだろ」
 いつもの様に毒づきながら、要が鴨崎の頭をはたく。「いてぇっス」と言いながらも鴨崎は笑う。人に構って貰える事が嬉しい、犬のような奴なのだ。その様子にくすりと微笑んだのは、茂森だった。
「鴨崎がキャプテンになったら、今度は俺が何かプレゼントしてやるよ」
「マジで!やった!俺キャプテン目指しまっす!」
 単純にも程があるはしゃぎっぷりの鴨崎と、それを菩薩よろしく笑顔で見守る茂森を見て、
(駄目だ。天然同士の会話のテンポについていけない…)
 要達は内心で溜息を吐いた。
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