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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT3-1
ACT3:銀と濃紺の渦

01

「やっぱりここは、お父さんに変化するのが、一番確かじゃないかな」
「うん、分かった」
 キューの助言に意を決し、エルリオは手の甲に浮かんだ変化の印に気を込める。この三年の間、何十、何百回と借りてきた姿だが、いつになく緊張した。
 変化を終え、エルリオはワイヴァンの姿でアパートメントの正面に回った。視端に灰色の人影の存在を気にしつつ、ニ回角を曲がって正面の階段に向かう。未だ朝靄漂う中、石畳に響くワイヴァンの姿をしたエルリオの足音。数歩行くとそれに呼応するように、靄の向こうに隠れていた人陰が、若干の動きを見せた。
 錆びた鉄階段を上がる自分の姿を追う視線が、感じられる。
 気に留めない素振りを保ちつつ、自宅の扉の前に立つ。
「エル、影が動いた」
 キューの言葉尻に重なり、階下から鉄階段を駆け上ってくる音。
「……」
 鍵を開け、ノブに手をかけたままの姿勢で様子をうかがうと、灰色の人影は頭からすっぽりかぶったショールを翻しながら一直線にワイヴァンに向かって駆け上がってきた。懐から刃でも出してズブリ…という可能性も頭に浮かび、エルリオは体の内側を強張らせたが、極力顔に出さぬよう、ただその灰色の動きを眺め続けた。
「はぁ…はぁ…」
 ワイヴァンがいる頂上まで駆け上がった灰色の人影は、何か言葉を発する前に、上がった息を戻そうと背をわずかに丸めて両肩で呼吸を繰り返した。喘ぐようにようやく「あの…」と言葉を搾り出す。
 声は、若い女、むしろ少女のそれだった。
「押印師の……ワイヴァン・グレンデール先生………でいらっしゃいますか…」
「…………」
 久々に父を「先生」と呼ぶ人間を見た気がする。
「私に何か?」
 いつものように、薄い笑みと共にそう問うた。

「突然申し訳ありませんでした…しかもこのような時間に」
 こんな場所に来る割には言葉が綺麗だが、テーブルの向かいに座っても、客人は灰色のショールを取ろうとしなかった。
 その事についてエルリオは特に言及しない。依頼者が話し出すまでゆっくり待つ。そうする内に、ショールの下から遠慮がちに言葉がつむぎ出された。
「私……、ミリアムと申します」
 ちらりと、ショールの下から瞳がこちらをうかがっているのが分かる。
 こちらの反応を確かめているのだろう。だがミリアムという名に覚えは無かった。
 飛び込みの客で最も困るのが、父を知る人間。訝しがられては、同じ場所に居続ける事は危険だ。事故で頭を打って記憶を無くしただの、様々に苦しい理由をつけてその場を誤魔化す場合もあるが、そう長くつき続けられる嘘でもない。エージェントを介せば客を事前に吟味する事ができるのが、エルリオにとっても利点だった。
「人を、探したいのです」
「人探し?」
「はい」
「と、仰られましても…私は探偵業が得意ではないので…」
 依頼の種類としては珍しい。エルリオは肩を竦めるが、少女は椅子から腰を浮かせて机ごしにワイヴァンに詰め寄った。
「いいえ、貴方なら探し出せるはずです!グレンを…」
「グレン?」
 どこかしらで耳にしたようなしないような名前に、エルリオは軽く首を傾げた。
「………え……?」
 エルリオの反応に、少女の声音が変わった。
(…しまった…何かマズい事を…?)
「貴方は誰!?」
 悔いる間もなく、ミリアムと名乗った少女が立ち上がる。勢いでパイプ椅子が転がり、机が跳ねた。迂回する間も惜しみ少女は灰色のショールの下から机越しにエルリオへ手を伸ばす。一歩逃げる。少女が更にまた一歩踏み込む。机に体半分をぶつけ、前のめりになった。頭から覆っていたショールが肌蹴た。
「あ…」
 銀色がこぼれた。
 透けるような少女の銀髪が、ショールの中から現れたのだ。
「銀髪…っ!」
 エルリオが声を上げた瞬間、少女の手がエルリオの腕に触れる。
 その刹那、少女が触れた箇所から神経を伝うように、軽い痺れが体中を巡った。

 轟音のような耳鳴り。
 銀、血、銃、軍人、市場、翼、薬、開かないピルケース、浮浪者、タイル、トラム、アパートメント、灰色のショール、鉄の階段、次々と記憶がカードを捲るように蘇り頭の中を映像の洪水で埋め尽くし始める。
 全身の神経を駆け抜ける何かが、筋肉を鷲づかみにして強張らせ、そして弛緩させる。

「やめて!!」

 耐えかねて叫ぶと共に、エルリオは全身で少女の腕を拒絶した。体を翻し、搾り出した力で少女を振り払う。勢い余ってその場に崩れ落ちた。
 コンクリート床についた手は、既に父ワイヴァンのものではなかった。
 少女エルリオの、小さな指先、手のひら。
「………変化が………」
 解けていた。
「あなたは…」
 冷たいコンクリート床の上に力なく座り込んだエルリオを、ミリアムは立ち尽くして見つめる。エルリオも、長い銀髪を揺らし細い肩で息をするミリアムを見上げる。ミリアムは、緑かかった瞳が印象的な色白の美少女だった。
 何から訊けば良いのか言うべきなのか、お互いが分からず、ただ目を合わせたまま言葉を無くしていた。
 小さな二つの吐息だけが、寂しい室内の高い天井に共鳴している。
「シェファルトが死んだのですね…」
 先に発したミリアムの声は震えていた。
「………シェファルト?」
「……貴方にケースを託した…」
 市場で死んだ銀髪の逃亡者の名らしい。
「あぁ……」
 転がったパイプ椅子を立て直しながら、エルリオはゆっくりと立ち上がる。
「ケースって、これの事?」
 ポケットに入れたままだった銀のピルケースを取り出し、自分と身長が変わらない少女に突き出した。
「……………」
 ミリアムの表情が、また強張るのが分かった。

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