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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師ACT12-8
08

 キルギストック内サプライヤーカウンター。
「はいよ、ご注文の品だ。ベーシックと9mmが3箱、あとアルファ弾が2箱」
 店主はスーツを着込んだ「客」の前に、複数の小箱を置いた。部屋の隅で、客の連れらしき青年が壁に背をつけて待っている。少し視の動きが落ち着き無かった。
「アルファ?」
 身に覚えの無い追加オーダーに、スーツの客、グレンは思わず聞き返す。
「ああ、伝言もらってたよ。オマケだそうだ」
 カウンターに差し出されたメモを受け取り中身に目をやると、備考欄に「伝言:オマケしてやった。有効に使えよ馬鹿野郎」と、電話で聞いたままを書き取ったであろう文字列が書き流されている。小さく笑ってメモを上着のポケットに入れ、グレンは箱を受け取った。
「試し撃ちをさせてもらいたいのですが」
「ああ、いいよ。そこの扉から入ればすぐだ」
 あまり広くない室内にある、三つ目のドア。その先に射撃場が設けられている。大抵どこのサプライヤーにもあるものだ。店主に礼を言った後、グレンは背後を振り返った。
「おいで」
 壁を背にして立ち、物珍しさに少し落ち着きなく辺りを見渡していたイルトを、呼び寄せる。
 射撃場は三つのブースに分かれており、それぞれに腰の高さ程度の仕切りが立てられ、正面のフィールドに標的が並んでいる。先客は無く、静かだった。
「銃、使えるんだな」
 場内を見渡しながら、背後からイルトが問いかけてくる。他愛の無い質問が逆に新鮮だ。
「そりゃあね。軍人のたしなみだから」
 答えながら、グレンは物置台の上で受け取った箱から一丁の銃を取り出した。鉄の銃身が、電球の白光を受けて重厚に黒光りしている。
「国軍のプロパーとあれば、事務員にだって射撃訓練が義務付けられているんだよ」
「へえ!そうなんだ」
 感心するイルトが見守る前で、グレンは感触を思い出すために銃倉が空の銃を握った。銃弾を幾つか纏めて手に握り、カートリッジに手早く装填し、指先で器用に回転させて親指の付け根あたりを使って弾倉に押し込む。一連の動きが流れるようだ。
「これは一種の「型」みたいなもので、弾を素早く装填する動きは何度も練習させられる事になる」
「へぇ……」
 口で説明しながら、同じ動きを淀みなく数度繰り返し、今度は立ち上がった。興味津々といった様子でイルトも二歩離れた場所から様子を覗う。グレンは銃を持った方の袖を左手で少し摘んで引っ張ってから、間を空けずに標的に向け一発撃ち込む。
「!」
 密閉された室内、間近で鼓膜を震わせる発砲音にイルトは無意識に目端を細めた。
「ふむ…」
 静かな独語の後、少し握り方を調整し、グレンは再び標的に向かって腕を伸ばして一発。そしてまた間髪入れずに二発、瞬きするほどの間の後、続けて三発を撃ち込んだ
「………」
 イルトは発砲された方向を見つめる。的は人の形を模しており、眉間、心臓部分に目印が描かれている。最初の一発目は、心臓の中心から僅かに外れ、ニ発目は命中していた。だが次の二発は肩口すれすれと、続けての三発は反対側の二の腕に穴を空けている。
(……急所を外す練習……なのか?)
 イルトの目には、グレンの弾筋が明らかに「外れた」のではなく、「外している」ように見えた。
「やってみるかい?」
 突然グレンが振り返った。
「え、何を」と戸惑うイルトの前へ、当たり前のように銃が差し出される。
「でも俺、民間人だし…」
 国が発行する銃所持免許を持たない人間による銃器保有と使用は、違法行為である。だけど、興味が無いと言えば嘘になった。
「一応、私もそうだよ」
 と悪びれなく笑うグレンを見ていると、後ろめたさが消える。さすが違法上等男だと、イルトは苦笑しつつ銃を受け取った。
「重い」
 グレンの手から離れた瞬間、イルトの手の平に収まった鉄の塊は、見た目よりも重かった。物体としての質量以上に、これが生命を奪う道具だという意識も、重く圧し掛かってくる。
「弾はニ発残っているはずだから、撃ってしまって構わないよ」
「う、うん」
 的と向き合う位置に立ち、銃を両手で持ったまま正面を見る。
「………」
 徐々に、コンクリートに囲まれた灰色の空間が、闇に包まれる。僅かな空調の音も消え失せた。
(この感覚…どこかで……)
 不気味なほどに心臓の鼓動が緩慢になり、一本の針金のように神経が研ぎ澄まされていく感覚。そのうち、すぐ隣にいるグレンの姿も見えなくなり、闇色に浮かび上がる的だけが世界の全てとなる。
(あの時の感覚と同じだ)
 グレリオ・セントラルで押印持ちの子供たちと戦った時に経験した、スローモーションの世界。それに気付いた直後、銃の扱いなど知らぬはずのイルトの手が、自然に動き始めた。
「………?」
 異変を感じ取ったグレンは、イルトの横顔を見やった。
 いつもは好奇心旺盛によく動く瞳が、微動だにせず、突き刺すように的を見つめている。この年の青年に似つかわしく無い冷たい色が、降りていた。触れる事にさえ戸惑っていたはずなのに、何の躊躇いも迷いもなく、イルトは的に向けて銃を構え、
「!」
 間髪入れずに二発、撃ち込んだ。
「な……」
 グレンが駆け寄り、的に目を凝らす。
 二発残っていた弾は、それぞれ的の額と心臓に命中していた。
「イルト、君、銃を…―」
「………」
 無感慨に弾道を見つめた後、イルトは踵を返す。傍らの台に置いてある箱から弾丸を数個掴み取ると、手馴れた動きで弾倉を外し、カートリッジに弾を手早く詰めていく。呆然と見守るグレンの目の前で、田舎育ちの十八の青年は、カートリッジを押し込んだ。その際、わざと指先をスライダーに引っ掛けて音を鳴らす。小気味良い四連のスタッカートが響いた。
「っ!」
 その音を耳にしたグレンが、顔色を変える。
(この「癖」は……まさか……)
 カートリッジをセットする度に、少し人をからかうような音を立てる癖。グレンの記憶の中で、この音を立てる人物は一人しかいない。
(まさか……)
 グレンは次にかけるべき声を失う。イルトは、弾の補充を終えた銃を手に、満足そうに微笑む。そして、銃口に持ち替えてグレンに差し出すのだ。
『ほら』
 その姿と、かつての友の姿が重なる。
 イルトの父親に。
「ライ………」
 思わず口に出ていた。
「え?」
 夢から醒めたように、イルトが目を丸くする。
「あ、その…君、銃の扱い方をどこで教わったんだ」
 口走りかけた名前を飲み込み、グレンはイルトから銃を受け取りながら問いかける。
「何いってんだよ」とイルトは笑って肩を竦める。
「いま初めて触ったに決まってるだろ」
 自分が今何をしたのか覚えていないとでも言うのだろうか。だがグレンの目に映るイルトから、嘘は感じられない。黙り込むグレンの様子に、「どうしたんだ」とイルトは不思議そうな顔で覗き込んでくる。
「だってひどく外し…」
 言いながら的を振り返るイルトの横顔が「あれ?」という疑問と共に凍る。的の眉間に見事に命中している穴。グレンはそこを撃たなかったはずだ。
「凄いマグレだなあ。でも二発目は掠りもしてないみたいだけど」
 イルトは笑って目を細めている。グレンは生返事でそれに応えたが、それがまぐれであるはずが無い事を知っていた。心臓に命中した二発目は、グレンが空けた穴と寸分違わない場所に撃ちこまれたのだから。それに、イルトが見せた弾倉をセットする一連の動きは、訓練されなければ再現できないものだ。
(どういう事なんだ)
 これまで「防人の印」を受け継いできた者は、確かに遺伝の次元を超越して類似する傾向にある。軍事技術もその一つで、銃の扱い方にしても、癖が引き継がれるのは珍しい事ではない。だがそれは訓練と経験を積んだ結果であり、今のイルトのように白紙の初期状態で受け継がれているのは初めての事だ。
 これも、印の「変化」と「成長」なのだろうか。
 だが、今それを思案している場面ではない。
「行こう。ここでの用事は、終わりだ」
 植物園へ。
 銃と備品をスーツの懐にしまい、グレンは出口へと踵を返した。


 平日の昼にもかかわらず、植物園は集客数が良かった。
 植物鑑賞や見学に訪れる人々のほか、特別展示会場以外は入場料無料の為に公園代わりとして利用している町民も多いのだ。夫婦やカップルの姿もよく見られる。
 その中で、長身の男と若い女が、何やら言い合いをしている姿もあった。
「だから、ついてくるなと言っているだろう」
 そう女を退けようとする男は、稲穂のような金髪を持ち、長い手足を持つ長身だ。
「でも、お一人でなんていくらなんでも無茶です」
 男よりも少々年若く見える女は、怯む事なく追いすがる。平和な植物園の中で、傍から見れば些細な喧嘩をしているカップルに見えた。
「何でついて来ようとする?」
 男、ノア・レイブリックは女のあまりのしつこさに辟易した様子で振り返った。これ以上しつこいようなら、そろそろ一発ぐらい殴ってやるかと考えていた。
「私……」
 女は、レイブリックが所属する部隊に組み込まれた新米士官、セイラ・ブルックナー。制服から私服に着替え、レイブリックの後を追って植物園に出向いてきた。
「私、別に中尉の単独行動を容認しているわけではありません」
「ならとっとと…」
「でも」
 突き放そうとするレイブリックの袖をとり、セイラは言葉尻に喰らいついた。
「でも私、人質がいるかもしれないのに、何もしない隊長のやり方はもっと容認できません」
「………」
「本当に人質がいるなら今頃どんな怖い思いをしているか……国軍人は弱い立場の人を…人質の気持ちを思い遣ってあげるべきなんです」
 若い士官特有の、熱がこもった瞳が見上げてくる。
「人質のなあ。まるで見てきたような台詞だな」
 だがレイブリックの反応はドライだ。情熱だけにほだされて、実力の伴わない若い士官が何人も命を落とす光景を、彼は見てきた。
「私、人質になった事があるから分かるんです!」
「なに?」
 予想外の答えに思わずレイブリックは足を止めた。付近に建つ巨大なグリーンハウスへ入っていく客が、好奇の視線を寄越してくる。
「幼い頃の話ですが。だから…助けてあげたいと思うんです」
 俯くセイラを見下ろし、レイブリックは袖を掴む彼女の手を外した。
「なら、余計な事をせずに隊へ戻れ。足手まといになるだけだ」
「でも……」
「お前の昔話に興味はない」
 ナイフで落とした切り口のように、にべもなく反論を切断されては、新米はそれ以上の追随を諦めざるを得ない。「速やかに隊に戻る事だ」と言い残し、レイブリックはセイラに背を向けた。立ち尽くし、遠ざかる背中を見送るしかないセイラ。両者のその様子は傍から見れば喧嘩別れをしたカップルだ。成り行きを見守っていた通りすがり達は、残されたセイラを横目で眺めている。
「ここまで来て、このまま帰れるものですか」
 気丈に唇を引き締め、セイラは両手で作った拳へ更に力を込めた。隊に戻るにしろ、何も新しい情報を得ないままでは、ただの無断外出だ。レイブリックが園内に人質を取られているとふんでいるのなら、確率は高いのだろう。
(もう少し、探索していこう)
 レイブリックとは逆の方向に踵を返したセイラは、そのまま園内の探索を続ける事を選んだ。私服に着替えているが、念のために武器も携帯している。ジャケットの内側に忍ばせた銃の感触を確かめて、気持ちを落ち着かせた。
とはいえ、
(こういう時ってどこをどう探索したらいいのかしら)
 学校を卒業したての新米に、応用力は無い。巨大な園内マップの前で立ち止まって、しばしセイラは思案した。
(思い出すのよ。「私の経験」を)
 かつて幼い頃、セイラが被拉致を経験した、実業家だった父親の財産目当ての営利誘拐事件。犯人は玄人と言えないツマらないチンピラ連中ではあるが、誘拐犯が取る行動の傾向に大きな違いは無いはずだ。セイラはそう考え、これまで封じてきた過去のトラウマを引き出そうとする。
 誘拐犯は、音に気を遣っていた。人質であった自分に暴れられ、むやみに声を出される事に神経質になっていた。
(こんな一般人が多く出入りする場所に人質を隠すなんて…考えにくい事だけど……)
 案内図に穴があくほど食い入るセイラの姿に、一般客たちは遠巻きに避けていく。
「ここ、かしら」
 図の一点で目を止める。レイブリックが去っていった方向とは異なる場所。一般客用の簡易な地図では単なる空白となっているが、作戦会議で目にした植物園設計図では、様々な気候条件に室温を調節できるという研究用の温室が建っていたはずだ。
(確か、ボイラーと冷水管が酷く複雑に入り組んでいた……)
 私服の胸元に隠し持っている武器の感触を確かめて、セイラは意を決して歩き出した。
 何か手がかりか情報を見つけてやるんだ。
 それだけを考えていた。
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