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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師ACT12-7
07

 少女二人は、落ち合い先である貯水池の裏に到着した。ジャスミンはまだ帰っていないようで、人気の無いその場所では、相変わらず鳥の声しか聞こえない。
「はあ、はあ、あの……リオ……さ…」
 完全に息が上がったミリアムは、草の上に座り込んだ。
「あの……だん……いは……ど…様…で…」
「あの男性はどちら様ですか?だそうだよ」
 言葉にならないミリアムを、キューが代弁する。握っていたミリアムの手を離し、エルリオも一息ついた。
「わかんない。これを狙ってた」
 答えながらエルリオはその場にしゃがみ、片腕で抱きしめていた紙袋を地面に置いた。中身をおざなりに引っ張り出す。
「ノートや、本、ですか?」
 息を整えつつ、ミリアムは赤ちゃんがそうするように膝と手でエルリオの方に歩み寄る。
「うん、ライフェルさんの遺品なんだけど、実はこれ―」
「!!」
 エルリオの答えを聞き終えぬ内、ミリアムが顔色を変えて背後を振り返る。
「だ、誰か、来ます」
「ジャスミンさんじゃないの?」
 それが間違っている事は、ミリアムの様子から明白だ。
「印、精霊印の気配がすぐそこに」
「なっ!」
 咄嗟にライフェルの遺品を拾い上げ、エルリオはミリアムの腕をとった。再び逃げる為に立ち上がりかけたところで、不自然な枝葉のざわめきが頭上から落ちてきた。
「!!」
「きゃああ!」
 黒い影が落下してきたかと思うと、目の前に黒い物体を突きつけられる。
 銃だ。
「動くなよ」
 反射的にエルリオの右手が左手に触れようと動きかけたところで、男が短くそれを制す。手中で黒い銃が金属音を立てていた。
「君が印を発動させるのと、俺が引き金を引くのと、どちらが速いか考えるんだな」
「く………」
 反論の余地がなく、エルリオは動きを固めたまま舌打ちするしかなかった。
「しかし、驚いたな」
 低い呟きが頭上からこぼれて来る。改めてエルリオは男の外貌を確認する。まさにそれは、寮で遭遇した男だった。白いシャツに地味な色合いのジャケットやスラックスの出で立ちは変わらず、ただ違うのは言葉と裏腹に冷静な面立ち。年齢は、三十前後だろうか、死んだワイヴァンよりは若いようだが、ジャスミンやヴィルよりは明らかに年齢が上のようだ。
(驚いたのはこっちだっての…!)
 エルリオは内心で悪態をつき、男をにらみつける。
「妙な気配がすると思ったら……お互いに印持ちってわけか」
 天啓印や使命印、つまり押印ではない精霊印の保持者同士は、お互いの気配が通じ合うらしい。男が言う「印持ち」はミリアムの事を指している。
「あ、貴方は、何者ですか!」
 と、エルリオの体に半分隠れた状態のミリアムが、男に対して気丈に歯向かう。男の鋭い視線がミリアムを向き、びくりと彼女は肩を震わせた。エルリオの衣服を強くつかんでいる。
「まけたと思ったのに…どうしてここが分かったの?」
 エルリオの質問に、男の視線が戻った。大方、印の力であろうと想像はつく。
「何のことは無…」
と男が答えかけたと同時に、再び不自然に枝葉が擦れ合う音が頭上から零れた。直後に男は右に飛び、寸時前まで男が立っていた場所に別の黒い影が降り立った。
「!?」
「ぇ??」
 少女二人が事態を把握する前に、右に飛んだ男は体を一回転させながら銃を構えなおし、新たに現れた黒い影は着地のために丸めた体をバネにして、男に向かい踏み込む。
 二つの小さな金属音が同時に鳴り、
「………」
「………」
 それきり一切の音が消えて静寂が降りる。時が止まってしまったように、その場にあるものすべてが動きを止めた。片膝を地につけた男と、その男に向けて片足を踏み込んだ姿勢のジャスミンが、互いに銃を向け合っている。
「ジャスミンさん!」
「気をつけて、その人印保持者だって!」
 エルリオの忠告。ジャスミンは鋭い目許に更なる警戒の色を乗せ、一方で男は余裕ともとれる苦笑を口にした。
「人聞きの悪い事を言わないでくれ。俺の印にそんな殺傷力はない」
「それより」とつないだ男の言葉は落ち着いていた。
「話をしないか」
「……話?」
 警戒を緩めずジャスミンは探るような視を男に向け続ける。
「まさかとは思うが…君達では無いのだろう?あの学生を死に追いやったのは」
「ち、違うよ!」
 思わず反論したのはエルリオだ。
「俺だって違う。恐らく君達と目的は同じだ。探しているんだ、何故あの学生が死ななければならなかったのか、その理由を」
「え……?」
 目の前の危うい均衡状態にも関わらず、反射的にエルリオは腰を浮かして立ち上がる。
「じゃあおじさんは、ライフェルさんの知り合い、なの?」
「直接の知人ではない。だが俺はどうしても彼の死因を知らねばならない」
「……三つ」
 男の答えを聞いて、ジャスミンは銃を構えた姿勢を崩さず口を開いた。
「三つの質問に答えて」
「多いな。何だろうか」
 同じく不自然な体勢にも関わらず、銃を構えた腕を微塵も震わせる事なく静止した男は答える。
「一つは、何故あなたがあの学生の死因を探っているのか。二つ目は、あなたが誰なのか。三つ目は、あなたが保持している印について、よ」
「良いだろう。その代わり、君達もそれと全く同じ質問に答えてもらおうか。三人のうち、一人でいい」
 等価交換を申し出た男の交渉セオリーは、一理ある。どう応えるべきか迷う少女二人を横目で一瞥してから、ジャスミンが「いいわ」と簡潔に答えた。そしてどちらからともなく、
「3」
「2」
 とカウントダウンを始める。二つの声が「1」と発したと同時に、両者の銃を持った腕が下ろされる。お互いに未だ警戒が残った視線を向け合いながらも、ジャスミンは銃を腰に、男は懐にそれぞれしまいこんだ。
「まず、俺の名はフォークロード。フォードでいい」
 質問に答えながら男は立ち上がる。
「ジャスミンよ」
 応じてジャスミンも答えた。立ち上がったフォードはジャスミンより頭が一つ分高く、だが服装のせいかさほど大柄な印象は抱かせない。
「一昔前に国軍に居たこともあるが、今は民間で傭兵を稼業にしている」
 という男の二つ目の答えに、
「国軍から傭兵に……。私も似たようなものね。昔、国軍の警察局にいたわ」
 ジャスミンの平等に答えた。
 国軍の戦力はプロパーとなる国軍人だけではない。ヴィルが率いる竜翼谷のように戦闘能力を有する民族や集団の他、民間の傭兵斡旋団体等の、外部団体も含まれる。大規模な対外戦争の際に発せられる「第一級戦局令」を軍が行使しない限り、外部団体と軍の関係はビジネスライクな「契約」という形で結び付けられる。
 ちなみに「第一級戦局令」とは、アリタスが対外戦争の頻発を受けて設けた歴史的には新しい憲法の一つであり、国の防衛に関わる戦局を五つの重要度レベルに分けた基準である。その第一級は正に国の存亡がかかった最重度レベルを示しており、発令される事は稀だが、近年では対ライザ帝国戦の中盤に発せられた。これが発令されると、国内のあらゆる組織、個人は国防のために軍が提示した令に従う義務を負う事になる。その代わり、発令が解除されるまで国軍人と同条件の社会的保障を与えられ、成果に対し賞与を得られるというものだ。
 この他、国への貢献度を数値化する事で様々な公的恩恵を受けられる制度など、国は様々な制度を設けて国民へ国税の還元を行っている。だがこれらは言い換えれば、拒否すなわち国賊とみなされ、社会的不能者とされてしまうという事でもある。犯罪に対する処罰は非常に重く、アウトローが生きて行くのは難い国である。
「それから、俺が持つ印」
 男、フォードの言葉が続く。
「詳しくは知らないが「鷹目の印」と呼ばれているらしい」
 フォードは徐に片手で前髪をかき上げると、日に焼けた額を見せた。何も描かれていないが、男が目を閉じて精神を集中させると、その中心におぼろげに光が浮き上がる。
「本当だ!」
 状況を忘れてエルリオは男に駆け上がり、無遠慮にフォードの顔を至近距離から覗きこむ。
「これのホンモノ、初めてみた」
 エルリオは感嘆の声を洩らして、男の額に青白く浮かび上がる印を眺める。その名の通り、片翼にも見える印の中心に、ひし形の鷹の目が配置されている。幾何学的に美しい印だと、エルリオは思う。
「その分だと、この印がどういうものか、お嬢ちゃんには分かるみたいだな」
 フォードが目を開くと、額の印が消え去る。名残惜しそうに離れていくエルリオに、フォードは問いかけた。
「視覚を司る印の一つ、だね。地上にいながら、飛翔する鷹と同じ、俯瞰からの光景を視にする事ができるっていう」
 自分で言いながらエルリオは、「あ」と合点した声を上げる。
「だから私達の居場所が分かったんだ」
「そういう事だ」とフォードは頷く。
「さぞや作戦時には重宝されたでしょうにね」
 と言うジャスミンの声には感嘆が含まれていたが、フォードの面持ちは浮かない様子だ。
「まあな。探知機扱いだったぜ。そんな事はどうでもいいな。最後の質問に答えよう」
 苦笑しつつフォードが胸元に手を差し入れ、首からかけたストラップを引き出した。紐の尖端に、数枚のカードが括り付けてある。一枚は、ジャスミンにも見覚えがあった。国軍の身分証明書。おそらく偽造だろう。そしてもう一枚も、おぼろげながら見覚えがある。
 その差し出された二枚目のカードに、三人の視線が集まる。
 それは、学生証だった。クラースに見せられた事のある、レクティカ大学校関係者の身分証明書と色違いの物だ。カードに印刷された写真に写るのは若い男。フォードではない。
「俺の弟だ」
「弟……」
 三人に向けていたカードを自分に向けてひっくり返し、フォードは色あせつつある弟の写真を眺める。
「ここで医学を学んでいたのだが、ある日突然、行方不明になった」
「行方不明……どうして?」と尋ねたのはジャスミン。
「分からない」
 フォードの声が一段と低くなる。
「弟さんを探す手がかりの為に、これを狙ってたの?」
 草の上に置いてあった冊子を、エルリオが拾い上げた。フォードの視線が、向く。
「これと、弟さんの行方不明になる事と、どういうつながりがある、の?」
 ノーとは使い古され、書き込み尽くされて紙がよれている。あるはずのない温度が感じられるようだ。
「分からない」
 また、フォードの答えは短い。
「ここから先を話す前に、君たちがそれを必要とする理由を教えてくれないか」
 地味な色のジャケット袖から伸びたフォードの手が、エルリオが手にしているノートを指した。視線はジャスミンに向いている。
「どうする?」
 それを受け渡すように、ジャスミンはエルリオを見やった。
「え……」
 びくりと肩を震わせ、エルリオは声を漏らす。フォードが一拍分の間ジャスミンを見やった後、その深い群青色の瞳をエルリオに向けた。
 戸惑った様子のエルリオと、その横にいるミリアムに向け、
「私は、二人の守護者よ」
ジャスミンは落ち着き払った面持ちで頷いた。
「あなたたちに判断を委ね、従い、そしてそばにいる限り必ず護るわ」
「………ジャスミンさん……」
「…………」
 ジャスミンと少女たちの様子を、フォードは静かに見つめて待った。
「さあ、どうする?」
 この男、フォードの言葉を信じ、こちらの情報を与えるべきか。ジャスミンはエルリオに判断を仰いだ。手に持ったノートを胸に抱きしめ、エルリオはジャスミンとフォードを交互に見やった。
「?」
 足首をつつかれる感触に下を見ると、地面に置かれたままだったキューが、こっそりと耳先でエルリオの指先をつついていた。何かの合図のようだ。
(あ…)
 そこで、隣に立つミリアムの様子に気がつく。彼女は、じっとフォードの顔を見つめて先ほどから微動だにしない。また、心を読んでいるのか。
「ミリー……?」
 判断材料が得られないかと、エルリオはその人形のような面持ちを一瞥する。
「嘘をつく方ではないようです」
 と桃色の小さな唇が答え、陶器のような白い肌の横顔がゆっくりと頷いた。
 不思議と、エルリオも同じことを考えていた。弟の写真を眺めた時のフォードの瞳、雨の日の窓ガラスのような沈んだ鈍光が宿った瞳が、印象に強く残っている。
「私達…」
 一つの決断を飲み込んで、エルリオはフォードに視線を戻した。フォードの瞳がそれに応える。
「ライフェルさんが亡くなる瞬間を、見たの」
「現場に立ち会ったのか」
 明らかに興味を示したフォードに、エルリオは頷く。
「亡くなった瞬間もそうだけど、その後も、おかしいことが続いて気になって」
「君達と死んだ学生の関係は?」
「直接は無いけど、もしかしたらあるかもしれない。おじさんと同じ、かな」
「同じか」と呟いたフォードは僅かに視線を伏せた。そして再び顔を上げ、
「君は押印師か」
 とエルリオを向く。
「え、うん、一応……」
 実地を見られているので、今更ごまかす必要もない。エルリオは恐る恐る頷いた。
「………じゃあ、あの噂はまんざら嘘でもないって事か……」
「え?」
「?」
 フォードの独語に、エルリオをはじめ、ジャスミンも目端を細めた。「どういうこと」と問う前に、フォードは右手をエルリオに差し伸ばした。
「共同戦線を張らないか」
「共同、戦線?」
 エルリオにとってあまり聞きなれない単語だ。
「俺達はお互いに共有できる情報が多いと思うが、どうだろうか?」
「……」
 戸惑うエルリオの隣から、
「いいわ。そうしましょう」
 涼やかな少女の声。
「ミ……」
 驚き振り向くエルリオの視線の先で、胸の前で上品に腕を組んだミリアムがいる。リューシェと中身が入れ替わっているのは言うまでもない。最近、仕草や雰囲気だけでも見分けがつくようになってきた。
「………」
 フォードは何か違和感に気付いたようで、面持ちは変えなかったが無遠慮に探る視線をミリアムに向けている。
「……貴方」
 その視線が気に入らなかったようで、明らかに目許に不快な色を表し、リューシェはエルリオの足下に転がっていたキューを拾い上げると、
「何を見ているの無礼者!」
 と、フォードの顔面に投げつけたのである。



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