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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師ACT12-5
05

「いましたいました!」
 ジャスミンがサプライヤーに出向いていたその頃、その二人の少女は物陰に隠れながら一人の男を捜していた。
 目的の人物を先に発見したミリアムは、別の方向を探していたエルリオを手招きした。ミリアムが指差す先には、ライフェルの「自殺」について尋問を行った医務官の姿が。大学校付属の病棟ロビーだ。
「心の準備はオッケー?」
「大丈夫です!」
 門の裏側に身を潜めていた二人の少女は顔を見合わせて、気合を入れる。エルリオの背負う鞄の隙間からは、キューの白い耳が垂れていた。
「いきなりブスリと殺られないようにね」
 鞄の中からくぐもった声。
「縁起の悪い事言わないで下さいぃ」
 ミリアムが身を縮める。
「多分、平気だよ。あれだけ人が大勢いれば」とエルリオ。
 鞄から垂れる白い耳を一瞥してから、エルリオは前方を指差した。病棟の入り口は広いロビーとなっており、一般外来用の受付もある。ロビーでは、医療事務員、看護官や医務官の他、一般人も多くいた。
「行こう」とエルリオが先に駆け出す。ミリアムも後に続いた。二人が大きなガラス戸からロビーに入ったところで、医務官の方が二人に気がついた。
「………!」
「医務官さまー」
 そう声をかけながら駆け寄ってくる二人の少女が、ライフェル・ルストの「飛び降り自殺」について尋問を行った相手であると知り、眼鏡の奥で目を細めた。
(医務官次長、スターン・ヴェイニス…か)
エルリオは医務官の名札に記された名を内心で呟き、記憶する。
「あのね、あのね、私たち、見ちゃったんですぅ」
「そう、見てしまったのです!」
 わざと興奮気味に声の音量を上げて、エルリオとミリアムは医務官に詰め寄る。周囲の幾つかの目が、不思議そうに振り返るのが感じられた。それが、狙いなのだ。
「み、見たって何をだね」
 周囲を気にする医務官の様子がよく分かる。しめたとばかりにエルリオは更に続けた。
「さっきの学生さんの事なんですけど、体の真ん中がぁ…―」
「黙りなさい」
 厳しいヴェイニス医務官の声が、短くエルリオの言葉を遮った。逆効果であったようで、特に一般外来客達が目を丸くしてヴェイニスと二人の少女達を眺めている。
「………向こうで話そう。ここでは不謹慎だ」
 舌打ちを隠し、ヴェイニスはロビーの外を指差した。
「うん、いいですよ」
 頷いて同時にエルリオはロビーの外に向けて走り出す。ミリアムも続いた。
「―っ…おい」
 また舌打ちを残し、ヴェイニスも二人の後を追う。建物を出て、エルリオは左手、駐車場の方へと走る。右に誘導されては、完全に人気の無い場所となるため危険だと判断したからだ。
 一般外来客の、人影がまばらな駐車場の隅で足を止めたエルリオとミリアム、周囲に目を配らせてヴェイニスも遅れてたどり着く。
『特に同業者達に聞かれる事を避けたがると思うの』
 と前もってジャスミンから聞いていた通り、他の医務官や医療事務員の姿が無いと確認したヴェイニスは、他の場所への誘導を諦めたようだ。
「で、聞かせてもらおうか。何を見たのだね」
 周囲に気を向けつつ、きもち小声で尋ねてくる。
「自殺した学生さんがね」
 わざと、エルリオは一息の間を空ける。考えて言葉を選ぶ振りをするのだ。
 そして僅かに相手が苛立ちを覚えたところで、
「体が爆発したみたいに、見えたんです」
 と、単純明快な回答を向ける。
「………」
 ヴェイニス医務官からの顕著な反応は無かったが、冷たい光を放つ眼鏡の向こうで目尻が動いた。
(……もう一息、かな…?)
 エルリオは、彼の様子を上目で眺める。
「「姉」が、どうにも不思議だから、さっきの医務官さんに相談したほうがいいのか、それとも警察局に行った方がいいのか、どうしようかしらって」
「な……」
 ヴェイニス医務官の言葉が不自然に揺れた。驚きの直後に吐かれた吐息には、安堵が見え隠れしている。
 掛かった。
 そう確信し、エルリオは横にいるミリアムに目配せした。
「でも、こんなに早く医務官様が見つかってよかったです」
 と、申し合わせていた通り、ミリアムが口元で手を合わせてエルリオに頷き返してくる。それを受けてエルリオも示し合わせていた台詞を口にする。ヴェイニス医務官の眼鏡の奥にある瞳を見やりながら。
「医務官様が見つからなかったら、警察局に行かなきゃいけないかなって思ってたんです。でも私達でちゃんと説明できるか分からないですし、変な疑いをかけられてもいやだなって」
 エルリオとミリアムは、困った顔を作ってお互いに顔を見合わせる。
「そ、そうか……よく、報告しに来てくれた」
 僅かながら、動揺が完全に収まりきれないヴェイニスの声が頭上に降ってくる。やはりこの医務官は、ライフェル・ルストの「死に方」が他の耳に入る事を避けたがっている。鑑識官が到着する前に現場を片付けたのも、頷けた。
「どうしたらいいですか?医務官様」
 背中を押すつもりで、再度エルリオは医務官に問いかける。
「………そうだな」
 幾分ばかりか冷静さを取り戻したヴェイニス医務官は、一度エルリオから視線を外して周囲に気を向ける。きっと心の奥で、どう自分たちを処理しようか考えているに違いない。エルリオは医務官の冷たい眼鏡硝子の奥を見つめ続けた。
「詳しく話しを聞こう。君たちが見たものについて」
「私達、怖くてすぐに目を瞑ってしまったので、はっきり見てないんです」
「でも「姉」は、はっきり見たと言っていました。そのせいですっかり怖がってしまって…だから私達が代わりに医務官様に相談にきたんですぅ」
 あらかじめ用意していた台詞を、二人は畳み掛ける。シナリオの結論にたどり着くまで、相手に長く考える時間を与えない。それがポイントだ。
「では、君たちのお姉さんに話をうかがいたい」
「それがね、医務官さまぁ」
 ヴェイニス医務官が次を言う前に、エルリオが「問題」を被せに行く。眉を八の字に下げて、いかにも困った顔をして。
「姉は、かなりショックだったみたいでぇ、帰ってからずっと塞ぎ込んじゃって。外に出たくないって」
「………」
 思案するために、ヴェイニス医務官がエルリオから目線を僅かに逸らせた。
考えさせる時間を与えてはダメ。
 ジャスミンの指示とおり、次のカードを今度はミリアムが出す。
「なのに、田舎のパパやママには、心配かけるから連絡するなって言うんです……」
「田舎?」
 逆方向を向いていた冷たい眼鏡が、ミリアムを向いた。その視線を離さぬよう、ミリアムは大きく頷く。
「私達、期限講習生なのです」
 レクティカ大学校では、学徒の門を外に開く名目で、期間限定の講習を随時開催している。大規模な夏期講習や冬期講習の他、大小さまざまな講座を開講しており、学生の他多くの一般市民がレクティカ内外から参加している。「期限講習生」とは、そうした講習を受講する人々を指す。長いもので一ヶ月ほどの講習もあり、わざわざホテルや短期アパートメントを借りて通ってくる人も少なくない。
「学生だと偽れば、身元を調べられてすぐにバレてしまいますが、期限講習生なら講習によっては登録が必要としない完全オープンなものもありますので、調べようがありませんから」
 という、これはクラースからの提案だった。どうやらまかり通ったらしい。
「そうか……」
 エルリオの言葉を聞いて、ヴェイニス医務官は一つの決断を下したようだ。
「では、私から覗おう。重要な証言となり得る。ぜひ話を聞きたい」
「本当ですか?」
 顔をほころばせてミリアムは顔の前で手を叩いた。
「じゃあ、今すぐ来てくださいますか??」
 これも、カードの一つ。ジャスミンの予測では、「すぐに行く、とは言わないはず」だ。その通り、「む」と言葉を切ったヴェイニス医務官はまた、ちらりと視線を外して思案を廻らせる。
「彼は必ず、思案と仲間を集める時間を欲するはず」
 そういったジャスミンの推測通りとなる。
「今は勤務中なのでね。明日はどうだろうか」
「わかりましたぁ!では明日、また同じ時間にここへ来ますね!」
 早口にそう言い終えて、エルリオとミリアムはその場から踵を返した。
「あ、君達、滞在場所は…!」
 背後から呼び止める声を無視して、敷地外へと走る。
「教えるわけないじゃない」
「そうですよねー」
 走りながらエルリオとミリアムは、小声で笑いあった。
「どう、追ってくる?」
 とエルリオが問うと、背中に背負った鞄の中から「こないよ」と返答。
「それより何だあの舌ったらずなしゃべり方。気持ち悪い」
 背中からのクレームに「いいじゃない!」と言い返し、エルリオはわざと背負ったリュックを上下に揺らした。
「頭がわるそーにしゃべって、相手を油断させるためなの!」
 ともあれ、用意したカードがすべて機能している。これでこちらも時間が稼げた。二人は次の目的地に向けて、白い建造物の合間を縫って駆け抜けた。

 たどり着いたのは、ライフェル死亡現場でもある学生寮。血痕は完全に砂で均されて跡形もなくなっており、午前の講義から戻ってきた学生たちの姿も疎らに見えている。つい先刻、人一人がここで衝撃的な死を遂げたとは、誰も気がついていない様子だ。
 エルリオとミリアムは、その建物の影に隠れていた。エルリオはキューを鞄から取り出し膝にのせる。そして左手のひらを開いてそこに、手早く印を描いた。その手をキューの背中、ちょうど裏側に印が縫い付けられている箇所に当てた。
「血痕を片付けてた人の服装…覚えてる?」
「作業服だね」
 エルリオの質問を受けたキューの耳が、鳥のように数度羽ばたいた。手のひらと布の接点が青白く淡光を放ち、そして一瞬で消え去る。「よし」と呟いて次にエルリオは、手のひらの印を別のものに書き換える。
「青い作業服…青い作業服」
 口の中で繰り返し、瞳を閉じる。体中の神経を手のひらに集中させると、描かれた印が発光した。また青白い光が生まれ、繭糸のようにエルリオの全身を一瞬包み込む。
「!」
 眩さにミリアムが瞳を閉じ、開いた瞬間にはエルリオの姿が青い作業服の男に変わっていた。ほう、っと、ミリアムの口から羨望の溜息が漏れる。
「拝見するのは二度目ですが、やっぱりすごいですね!」
「ふふ、マカセテ☆」
 青い作業服男姿のエルリオはV字サインを作ってニタリと笑う。
「だからそういう格好でそういう事するのは公衆衛生上良くないって…ムギュ」
 余計な事を口走るキューを紙袋に突っ込み、それを肩にかけてエルリオは「じゃあ、くれぐれも気をつけて待っててね」と寮の入り口に向かった。
「はい、リオさんも……気をつけて」
 ミリアムの声を背中で受けて、エルリオは寮の玄関へと入る。声をかけてきた管理人と言葉を交わし、自殺現場の調査を行う旨を伝える。鍵を受け取ると管理人と別れ、階上へと上がった。ライフェルの部屋には鍵がかけられているが、特に立ち入り禁止テープが貼ってある等の異変はない。鍵を開けて、中に入る。
「二人部屋かあ」
 部屋に入ってまず目についたのが、左右両側の壁に据え付けられたベッド、そして机とドレッサーだ。その両側とも生活の跡が見られた事から、ライフェル・ルストには同居人がいたという事になる。
(同居人が戻る前に一通り調べないと……)
 捜査官志望のライフェルとジャスミンのアドバイスに従い、まず机の引き出しに手をかけた。遺書か、それに値する書き残しが無いかを確かめるためだ。そういうモノを意識的に遺すとすれば、机周辺か、枕元周辺と相場が決まっているらしい。
「几帳面な人だったんだなあ」
 自分の机周辺とはまったく違う、よく片付けられた机上と引き出しの中を見て、エルリオは感心する。外で見張っているミリアムがかつて言った通り、ACCの自室は書物やメモで足の踏み場も無かったほど、散々な有様だったから。
「おかげで探しやすいや」
 目に付いた手帳やノートなどを片っ端から捲って中身を確認していく。紙や封筒が挟まれているという事はなく、理学科の学生だけあってノートの中身も数式や科学記号等ばかりで、変わったところは無いようだ。
「無いみたい……」
 遺書は無いと判断し、次にこれもアドバイス通りに今度は窓を観察した。
「……?」
 カーテンレールが二重になっているが、片方にしかカーテンが取り付けられていない。
(あまり気にする事ないか)
 少し不自然に思ったものの、学生寮ならこんなものかと納得して窓枠を見る。
「爪跡等、争った形跡が無いかどうか」というローランドのアドバイスを思い出しながら、窓を開けて木枠に触れた。
「これ、そうなのかな……」
 窓枠に幾つかの傷が見られたが、争った痕跡なのか、単に老朽化してできた傷なのか、エルリオの審眼ではまったくわからない。紙袋から顔を半分出したキューに、傷の形状と場所を正確に覚えてもらう。後でジャスミンとローランドに確認してもらう為だ。
「あとは、ベッドかな?」
 窓から、最後の探索場所となるベッドへと振り向いたところで、
(誰か……来る?)
 廊下の奥から人の気配が近づいてくるのを感じた。






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