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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師ACT11-12
12

「毎度の事だから止めねぇが」
 同期の男が、オーバーに両手を広げながら部屋に入ってきた。彼は既に呆れる事を諦めた顔で、武装ユニフォームから私服に着替えているレイブリックを眺めている。
 ノア・ジェイス・レイブリック。軍事顧問ジョルジュ・ジェイス・レイブリックの末息子。士官学校卒業から間もない若年にして、アリタス国軍中尉。声をかけてきたのは、彼と同い年の同期。今回の部隊に共に組み込まれた戦友だ。ここは、待機場所として充てられた、廃屋の一室。
「現場に行くって、一人で何が出来るんだ」
「誰も何もやらないよりはマシだ」
 愛想なく答えながらレイブリックは、淡々と着替えを進めていく。私服の下に防弾服を着込み、武器を隠し持つ。
「下見なら済ませただろ」
 同期の言葉の通り、主な戦闘要員のみで植物園の下見は済ませてあった。だがそれはあくまでも、人質の可能性を知らされる前の、現行作戦の為のものである。
「下見じゃない。偵察だ。親父の情報の真偽を確かめる」
「顧問殿ご本人にお話をうかがいに行けばいいんじゃないか?家、近いんだろ?」
「……そんな時間はない」
 正当な理由があって答えたつもりが、意地から出た言い訳をしているように聞こえてレイブリックは軽く自己嫌悪した。
「時間がない」は、「忙しい」と並んでレイブリックが嫌う言葉の一つだ。仕事ができない奴ほど、よく使う。
「しょうがねぇな」
 苦笑して、同期の男は内ポケットから取り出した物体をレイブリックに差し出した。
「悪いけど俺は一緒に行けないからさ。代わりにこれやるよ」
 手渡されたのは、小ぶりな手榴弾だった。
「俺が改良した閃光弾だ」
「どう違うんだ」
 レイブリックはおざなりに手の中で鉄の塊を転がしつつ、尋ねる。
「従来品より、発光時間が三秒長い。画期的だろ?」
「………」
 沈黙する事で「たった三秒か」という文句を暗黙に浮かばせ、レイブリックは手榴弾を腰に装着した鞄に仕舞いこんだ。
「三秒を馬鹿にすんなよ?その僅かな差で命拾いする場合だってあるんだぜ?」
「そうかもな」と苦笑しつつ、最後の身支度を終えたレイブリックは持って行く武器の整備を始めた。
「俺もさ」
 少し小太りの憎めない同期は、壊れかけたドアに背中を預けて呟く。
「お前の言う事はもっともだと思ってるんだぜ。でも隊長の言い分も正しいと思うんだ」
 レイブリックは黙々と準備を進めながら、同僚の話を聞いた。
「それに、俺は…できる限り死にたくない。先月子供が生まれた」
 手馴れた動きで弾を装填しているレイブリックの指が止まる。武器から目線を上げ、同期を見やった。
「十秒まで伸ばせ。そうしたら誕生祝いの一つぐらい贈ってやる」
「あ?」
 一瞬、きょとんと目を丸くした男は、だがすぐに理解して笑った。
「お前なあ、三秒伸ばすのにどれだけ苦労したか」
「三秒で人が一人命拾いする。十秒なら世界が変わるかもしれないだろう」
「へっ、誰のうけうりだあ?」
 満更でもなさそうな男は、照れを隠すために大げさに胸の前で腕を組んだ。だがレイブリックが準備を完了させるタイミングで背筋を正し、右手で敬礼する。
「無事のご帰還を、レイブリック中尉」
「ありがとう、スタニア少尉」
 あまり表情を変えず、レイブリックは上着の内側に複数の武器弾薬を仕舞いこむと、廃アパートを後にした。人気の無い道を遠ざかっていく、同期であり、上官でもあるレイブリックの背を、スタニアと呼ばれた少尉はしばらく見送り続けた。
「本当に行ってしまわれたのですね」
 間もなく、背後から若い女の声がする。スタニアが振り返ると、先ほど損な連絡係をやらされた、若い新米士官がそこにいた。名はセイラ・ブルックナー。位は一等下士官。今回の作戦ではOJTを兼ねて派遣されている。主に装備品の準備や作戦資料の整理等の雑用を請け負う立場の為、詳細な任務情報を知らされていない。尋問や拷問訓練の施されていない若年士官に、機密を伝えないのは基本ルールなのだ。
「あいつは自分に正直な奴だからな」
 敬礼の姿勢を崩してスタニアは、新米士官セイラの脇を通り過ぎて部屋を後にした。
「自分に正直……」
 スタニアを追おうとした足を止め、セイラはレイブリックが去っていった方を振り返った。
 既に彼の姿は、消えていた。


 ホテルに戻るなり、グレンはまずクローゼットを開いた。荒らされた様子はなく、持ち物や衣服はそのままだ。それを一瞥して確認した後、靴だけ履き替える。
「着替えないのか?スーツのまま?」
「寄らなければならない場所がある。この格好の方が都合が良い」
 簡潔に答えたグレンはイルトに質問する暇を与えない。また言われるままに部屋を後にし、イルトがグレンの後をついていくとたどり着いた先は郵便局だった。隅に設置してある公衆用電話ブースの一つに入り、備え付けのメモ用紙にグレンは素早く文字を書き込む。
「イルト。今から言う番号に電話をかけて、この人物を呼び出してもらってくれ。その際、自分は地方で学生をしている、と名乗るんだ」
 手渡されたメモの一行目に、男の名前が書かれている。
「アーサー・ノーブル?」
 電報の差出人名だ。ライアン・グスタフ准将が、この人物の名を借りてソフィア宅に電報を送り続けていた。所謂、重要な連絡役だ。今回も、その役割を果たすことになるのだろと、イルトは理解する。
「本人が電話に出たら、この台詞を順番に言うんだ」
 名前の下には、三つの台詞が書かれている。
「一つ目の台詞を言ったあと、向こうの様子をよく耳を澄ませて聞いてくれ。従う様子なら、二つ目の台詞を言ってくれ。相手から二つ目の台詞の内容を了承する返事が来るまで、三つ目を言ってはいけない。三つ目の台詞を口にしたら、私に電話を替わってくれ」
「従わなかったら?」
「すぐに電話を切るんだ。別の手段をその後考える。でも…恐らくこれで大丈夫だ」
「わ、わかった」
 イルトは口の中で台詞を数度繰り返す。事細かな指示の一つ一つには恐らく、意味があるのだろう。手順を損なってはいけない、そんな使命感に駆られた。
 受話器を取る。手が少し震えそうになるが、懸命に隠した。グレンから口頭で伝えられた十桁の番号を、電話機に打ち込む。雑音交じりの呼び出し音が鳴り、三度目で途切れて若い女が応対した。イルトは指示通り、自分が地方の学生であり、アーサー・ノーブルに電話を繋いで欲しい旨を伝える。
「少々お待ち下さい」という言葉から数十秒後、「はい、ノーブルですが」と眠たそうな声が出た。
 聞かれないように小さく息を吐き出してから、イルトはメモの二行目を口にする。
「声を出さないで下さい」
『………』
 電話の向こうにいる相手は、何か言いかけた言葉を飲み込んだようで、短い呼吸音の後に、少し長い溜息が聞こえてきた。それを「了解」と汲み取り、イルトは二つ目の台詞を読む。
「今から、何を言っても驚かないで下さい。声を荒げたりせず、こちらの要求を聞いて下さい。了解なら、「分かった」とだけ答えて下さい」
『分かった』
 あっさりと返答が戻ってくる。少々、気抜けしつつもイルトは最後の台詞を口にした。
「ここからは、普段通りに会話をして下さい」
『分かった。話を聞こう』
 最初に電話に出た眠たそうな声は崩れる事がなく、回線の向こうにいるアーサー・ノーブルはただイルトの台詞に従う。もしや既に、気がついているのではないだろうか。イルトにはそんな気さえしてくる。
 アーサーの返事を聞いて、イルトは無言で受話器をグレンに手渡した。
「久しぶり」
 受話器を受け取ったグレンは、まずその一言だけを口にする。
『…………』
 アーサーから即答は戻ってこなかった。
「分かるだろ?」
『知らんな』
「冷たいな」
『冗談だ』
「分かってるよ」
『…それで?』
「久々なのに悪いが、頼まれて欲しい事があるんだ」
 そう話しを切り出したグレンの面持ちが、完全に和らいでいるのをイルトは感じていた。元々、良く言えば人当たりの良い、悪く言えば地味な外貌のため、常に穏やかな雰囲気を絶やさない男ではある。だがグレンの奥に見え隠れする、油断を許さない気概をイルトは常に感じていた。
「ああ。キルギストックだ。ベーシックと9mmを2、いや、3ダース、ライセンスを発行して欲しい。…うん…ん?……うるさいな、私は基本に忠実なだけなんだ」
 微かだが笑い声さえ洩らしているグレンはだが、受話器を持ち帰ると同時に再び真剣な面持ちに戻った。
「頼んだぞ。三十分以内にだ」
『「そっち」にはいつまでいるんだ?』
 一通りの要求を承諾した後、アーサーから初めて問いかけが来た。
「二日もしない内に出る予定だ」
『次はいつに?』
 次に連絡をくれる日はいつか、と彼は尋ねているのだ。周囲に気付かれぬよう、わざと言葉数を減らして対応するアーサーに、グレンは内心で感謝する。何も言わなくとも、友人の彼は事情を把握していてくれる。有難かった。
「近いうちに必ず。会いたがっていると、奴にも伝えてくれ」
『分かった。では、すぐに手配しよう』
「ありがとう。声が聞けて嬉しかった」
『………よせよ』
 平坦な応対の後、アーサーの方から電話が切れた。無機質なトーン音を二度ほど聞いてから、グレンも受話器を置いた。それがスイッチであるかのように、和らいだグレンの面持ちが、真摯なものに切り替わる。
「移動するぞ」
 イルトの返事を待たずにグレンは踵を返した。
「植物園に?」
「いや、もう一箇所」
「どこへ?」と尋ねるのも愚問な気がする。イルトはただ、先を急ぐグレンの後を追った。




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