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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師ACT11-11
11

 昼過ぎになってからようやく、隊長から声がかかった。
「レイブリック」
 廃ビルの屋上に移動していた、老将の倅ことレイブリックは、後ろから上官に声を掛けられた。今作戦部隊の隊長、ロイスだ。
「作戦会議は終わりましたか」
 おざなりに答えつつ振り向くと、隊長の浮かない面持ちがそこにあった。
「それが、面倒な事態になっているようなんだ。お前にも関係する話だ。来てくれ」
「……はい」
 素直に了承し、レイブリックは傍らに立てかけてあったライフルを背負って隊長の後に続いた。ミーティングのためにメンバーが集まった廃部屋に戻ると、一同が一斉にレイブリックを振り返った。
「?」
 奇異な印象を抱きつつ、沈黙したままレイブリックは適当な位置に立って隊長ロイスの言葉を待った。ロイスは溜息を洩らしながら手にしていたメモを一瞥した。
「レイブリック顧問から局経由で報告があったそうだ」
(親父から?)
 口には出さず、レイブリックは眉を顰めた。人前で父親の話を口にするのは、好きではなかったからだ。どれだけ己が努力しようと、必ず親の存在がフィルターとなる。それが我慢ならなかった。
「人質が取られている可能性がある。考慮されたし、と」
「人質?」
 誰からともなくそう声を洩らし、室内がざわめいた。
「我々の情報が筒抜けていたという事ですか?」
 低く、レイブリックはロイスに問う。「そうでもないらしい」と曖昧に返してロイスは首を横に振る。
「この町に来ていた旅行者が誘拐され、脅迫状が届いた」
「その誘拐犯人が、今回の我々のターゲットだったと?」
「どうやらその可能性が高いらしい。このタイミングで、何のためにそんな行動に出たのか分かりかねるが」
「らしい」「ようだ」という推測が多い物言いが気になったが、その前にレイブリックは最も気に掛かる事を口にした。
「では、当初作戦は却下で、その事実確認と人質救出作戦に切り替わるわけですか」
 問うまでもなく、レイブリックはそれが当然のものとして認識していた。だがロイスからの答えにより、覆される事となる。
「いや、我々は当初計画通りに動く。予定通り、明後日の閉園後に突入だ」
「何だと?」
 無意識に口調が変わり、声が一段と低くなっていた。レイブリックは一歩片足を踏み出し、ロイスに詰め寄った。
「人質の存在を無視するのか。現行の作戦のままでは人質も巻き込む」
「馬鹿野郎。よく考えてみろ。「らしい」「かもしれん」と持ちかけられた話に、いちいち右往左往してたら、せっかく掴みかけた尻尾を逃しかねない」
 詰め寄るレイブリックに対し、ロイスも怯む事なく頑と言い据えた。
「二十年前の国軍がサドバス家を根絶やしに出来たのは、敵のボロを確実に拾い上げて逃すことなく潰して行ったからだ。根深い悪事の蔓は、掴める時に掴まないと更に蔓延し状況が悪化する。敵の正体が不透明な今は、確実な戦法をとるのがベストなんだ」
 ロイスの言い分も尤もだ。だが、誰のうけうりか知らないが、その詩的な物言いがレイブリックには気に食わない。
「父が……信憑性の無い情報をわざわざ寄越す筈がない」
 こうは言いたくなかったが、レイブリックはあえて父親を引き合いに出した。父と子としての感情はともかく、悔しいが、軍人として敬うに値する人間であるという認識はあった。
「ふん。こんな時に親の威勢を借りる気か?」
 鼻先で笑うロイスの言葉。覚悟していたが、いざ口にされると腹立たしさ極まりなかった。
「そんな下らない話をしているんじゃない!」
 つい、声が荒くなる。
「何の事実確認の努力もせず作戦敢行なんて、俺は納得しない!」
 怒声を吐き捨て、レイブリックはそのまま踵を返した。大股で部屋を出て行き、ありったけの力でドアを閉める。廃ビル全体に、けたたましい音が響き渡った。
「出ましたね。「納得しない」が」
 嵐が過ぎ去った後、ひんやりと空気が冷え切った中で、尉官の一人が呟いた。「納得しない」はレイブリックの口癖で、彼を象徴する文言だ。「納得いかない」ではなく「しない」ところが、彼の性格を現している。
「勝手にさせればいい」
 隊長ロイスは、うんざりと肩を竦めた。
「どうせ今回は奇襲だ。あいつがいなくとも成功率は高い」
 そういって彼は、手にしていたメモを丸めて投げ捨てた。


「容疑者は、メアリー・マクレガン。公務員だ。庁舎の管理課に所属している」
 ジョルジュ・レイブリックがもたらす情報に、グレンは一つずつ頷いた。
「管理課、ですか」
「植物園の警備を民間に委託して総入れ替えし、大幅なコストダウンスキームを確立させたという、優秀な人材だそうだ」
「その総入れ替えされた警備関係者は恐らく?」
「全て息のかかった「黒」なのだろうな」
「黒」とは警察局でよく使われる言葉で、「犯人」「容疑者」「疑わしい人物」「(悪事の)関係者」等を指す。
「委託先総入れ替えとなると、入札がありますね。それが意図的に操作されているのなら…結構な上層部にまで黒が侵食しているという事ですか」
 グレンの示唆に、ジョルジュは「ううむ」と小さく唸った。
「地方は公務員不足気味で、一概にそうとも言えないが」
「なるほど」
 元軍人二人の会話を、イルトは一歩離れた場所で聞いていた。慣れた流れ作業のように、淀みも迷いもなく言葉がスピーディーに交わされている。容疑者の素性の話をする中で会話は、地方執政、公務員についてと、次々と枝葉を伸ばしていく。軍人は戦いの知識さえあれば良いというものではないらしく、何故士官学校が国内最高峰の学域であるのか、イルトは実感した気がした。
「植物園の設計書はありますか」
「勿論だ。取り寄せてある」
 グレンの要求を受けて、レイブリックが執事を振り返る。「はい」と一言頷いて、執事は机上の本立てから紙束を持ってきた。
「おっと」
 大判の地図がばさりと広げられ、イルトは咄嗟にテーブルの上に置かれたままのグラスを取り、隅に寄せた。
「なかなか気が利くな」
 テーブル上に地図を敷きながらジョルジュ・レイブリックは低声で笑った。
「………」
 未だ幾分かの警戒心を残した視で、イルトは老将の誉め言葉を受け止めた。レイブリックは内心で小さく笑う。この若者は、レイブリックがグレンに向けた一瞬の殺気を確実に感じ取っていた。これは現役軍人といえど万人に備わっている感覚ではない。
 元上官とイルトの間に交わされた視線のやりとり、それに気付いた様子がないグレンは、既に意識が設計図に集中していた。広げられた図面に手をつき、食い入るように線と面を睨みつけている。時々、腕時計を確認していた。
「短いな…」
 そんな独語が呟かれる。
ミソラと別行動をとった時間から、袖とキーが届けられた時間までのごく短時間の間に、しかも客の入りがある開園時間内、拉致されたのが園内であるならそう遠くには行けないはずだ。
「………この線」
 ぽつりと呟いて、グレンは図面の一点を指し示した。レイブリックが覗き込み、
「何かの配管か」
 と顎の下に手を添える。
「青い線が配水管で、赤い線が、ボイラー…スチーム管ですね」
「何が気になる?」
 また、イルトの視界の中で二人の元軍人が難しい話をし始めた。話を要約すると、配水管やスチーム管の無駄な配線構造が生み出した空間が、複数存在する点が怪しいとか何とか。だがグレンの結論は、
「とにかく、先ずは実際に確認しない事には何とも」
 つまるところ、そうたどり着く。グレンは図面から一旦視を放し、今回の突入部隊のメンバーリストを手に取った。
「このロイスという隊長はどのような判断を下すと思われますか?」
「まだ若いからな。今回のような想定外事項に対して、柔軟な対応ができるとは思えん」
 元部下に意見を求められ、元上官は淀みなく答えた。
「若い内から老獪な君と違ってな」
 この言葉にグレンは一瞬だけ、表に向けていた視線を元上官に向けた。
「誉めているのだよ。そんな目で見るな」
 そう笑ってから、レイブリックは「それに」と言葉を続けた。
「決行の選択権はこの隊長にある。正式にACCから「指令」として情報が降りない限り、現行維持だ」
 諦観の色を眉目に乗せ、レイブリックは小さく首を横に振った。顧問には発言する立場が与えられるが、あくまでもオブザーバーである。大戦時の特別体制なら兎も角、現状で正式な指令を短時間の内に現場まで降ろすのは、不可能だ。新たな作戦内容を実行できる人材の派遣にも、時が必要だ。
「それでは遅すぎます」
 グレンは低く呟く。現行作戦は、翌々日の閉園時間後の突入となっていた。
「彼らの動きをアテにしないほうが良いぞ」
 レイブリックは、グレンが手にするメンバー表の裏を手の甲で弾いた。その言葉は正しく、グレンは既に出していた次の行動指針を口にした。
「植物園に、出向きます」
 確認しない事には何とも結論が付けがたいが、時間が無い事に変りは無い。グレンはイルトを振り返り、一度ホテルに戻ってから植物園に向かう旨を伝えた。そして最後に、また元上官に向き直る。
「またご連絡させて頂きます」
 その言葉には、暗に「事と次第によっては権力を濫用して頂く」という申し出が含まれており、レイブリックは既に了解しているようで短く頷いた。
「倅を宜しく頼む。良いように使ってくれ」
「え?」とグレンは踵を返しかけた足を止めて再度、レイブリックに視を向けた。
「今頃、ロイスの決断に反発して単独行動でもとっている頃だろう」
 肩を竦めるように、レイブリックの片眉がぴくりと上がった。
「倅は私で、私は倅だ。ようく分かる」
「………ええ」
 静かに瞳を伏せて、グレンは口元に微笑を浮かべていた。
 そこにまた、「追憶」が生まれている。
 横から様子を眺めていたイルトには、そう見えた。




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