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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT2-5
05

 ―いや、あの娘の居場所を吐かせてからでも遅くはない

 きっとこの人は逃げた捕虜で、
 軍の人間は瀕死のこの人を、文字通り死ぬまで尋問し続けるんだ。

「いやだっ!軍の人間っていつもそう!」
 頭の中で糸が切れたようだった。
 ウェーバーを拒絶し左手を前方に突き出して、エルリオは右手でその手の甲を擦る仕種を見せた。右手の平が真紅の光を発し、左手の甲を嘗めるように照らす。その瞬間、浮かび上がったのは、押印。
「エル?」
 肩の上でエルリオの異変を感じ取ったキューは、思わず往来を忘れて声を上げた。だがそれを聞いた者はいない。
「守檻!」
 そう叫んだ言葉に合わせ、エルリオを中心にキューブを描いて空気が硬直した。
「っな…!」
 全てを拒絶し主を守る空気の檻が、エルリオの中心半径ニメートル内にいる全ての「異物」を弾き飛ばす。ガラスとガラスがぶつかりあう音。エルリオに手を差し伸べかけていたウェーバーの体も、不可視の張り手を全身に受けて後方に弾かれた。
「大尉!」
 部下達がウェーバーに駆け寄る。エルリオに向かった数名も、同じように不可視の壁に阻まれて弾かれた。
 結界の向こうで血相を変える軍人達の様子に、キューはプラスチックの両目を顰める。
「エル、どうするんだ?」
「分からない…分からない、けど」
 エルリオは跪き、瀕死の男に手を添える。
 高等治癒の押印が扱えれば、もしかしたら助けられるかもしれない。しかし今のエルリオにはその力がなかった。
「とにかくこのまま軍の奴らに、この人を渡したくないと思ったから…」
「エル」
「お父さんも……任務遂行の障害物みたいな扱いで…」
 父ワイヴァンとは別れの言葉も交わせなかった。
 この男もきっと、酷い死に方しか出来ない。
「何のつもりだ、あの小娘」
 数歩離れた場所から、兵の一人が銃を取り出す。
「やめておけ、どうせ銃は効かないのだろう」
 その手をウェーバーの黒手袋をはめた手が止めた。
「あれはおそらく守檻の印。無駄だ」
「しかし……それでは尋問が…」
「………」
 ウェーバーはただ、息絶えようとしている男の様子を眺めていた。兵達もそれに倣うしかない。
 結界の中で、男が動きを見せた。震える手を上げて、傍らのエルリオに差し出そうとしている。だがその力も尽きかけているようで、男の右手は地面から少し上がった位置を彷徨っている。
 その手をエルリオが握った。大量の出血により、男の手は既に冷たくなりかけていた。
「おじさん、助けてくれてありがとう……」
 でもごめんなさい、私にはあなたが助けられません。
 後半の言葉は、飲み込んだ。
 僅かな力で男が手を握り返してきた。
 苦痛に歪んでいた面持ちが、和らいでいるように見える。死がもたらす最後の慈悲だ。
「…これ……を………」
 男の空いた左手が持ち上がる。懸命に、その手に握りこむ「何か」をエルリオに向けて差し出している。
「……え?」
「捨て……くれ…軍……に…渡してはいけ…ない……ものだと……」
 エルリオが恐る恐る差し出した手を、血に汚れた男の手が握りこんだ。何か硬い感触が手の平に滑り込んでくる。日の光を受けてその何かが反射光を放った。
「それか…」
 直後、
「エル」
 キューの声。
 直立不動で銀髪の男とエルリオの様子を眺めていたウェーバーが、突如動きを見せた。短い呟きと共に、エルリオ達を守護する空気の壁に拳を突き立てたのだ。
「なっ…」
 電気が弾けるような音と、火花が飛び散る。突き立てられた拳と結界の接面が、ミシミシと音を立てた。
「壊される……!?」
「この人、印保持者だ」
 通常、精霊の印が持つ力に抵抗し得るのは、精霊の力しか無いと言われている。またはよほどに威力のある重火器。いかに豪腕といえども人間の素手で守檻を破るなど不可能に近いはずだった。
 ウェーバーが狙っている物は明らかだ。
 この銀髪の男から手渡された物。今確かにエルリオの手の中に握られている。
 確かめている暇は無かった。
「エル、守檻を重ねろ」
「くっ!」
 正にガラスが破れるそれと同じ音をたてて、
「あ…!」
 結界は砕け散った。
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