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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT2-4
04

 かつてエルリオのクラスメートに、ジュスティーという名の少年がいた。
 愛称だったかもしれない。フルネームは忘れてしまった。
 佐官の父親を持ち、母も軍つきの秘書官。ジュスティー本人も成績優秀で、エルリオと共に仕官学校入学を嘱望されていた。彼は何かとエルリオをライバル視し、エルリオもまた、彼の敵愾心を受けて自然と意地を張るようになっていた。
 ふと、そんな彼を思い出す。父が死んで以来、エルリオは学校に行かなくなっていた。成績を争っていたライバルがこのまま仕官の道を進むとすれば、本当の「敵」になってしまう。また、同じく仕官を目指していた級友達も。もっとも、彼らが直接父の死に関係しているわけではないのだが、軍に心酔する人間もエルリオにとっては同類だった。
 かつての自分さえもそうだ。

「道を開けろ!」

「?」
 追憶の靄は、突如の怒声にかき消された。
 弓なりに反った市場通りを埋め尽くす人波が、突然動きを止めてざわめきたった。整然と敷き詰められた石畳を踏む足音が、遠くから乱雑に重なりこちらに近づいてくる。
「っ…」
 真夜中のアパート、爆発、銃声、煙、怒声、父の体…あの夜と同じ音が。
 一瞬、目の前に炎と黒煙が幻覚のように広がった。まさかと思いぶるりと頭を軽く振ると、悪夢は砂塵のように消失する。視界にあるのは、やはりたくさんの人の背中。大人の体に隠れてしまい、エルリオには前方で起こっている光景を目にする事が出来ない。
「見える?キュー」
「確認する。上に持ち上げて」
「うん」
「おい、こっち来るぞ!」
「きゃーっ」
 すぐ近くで上がった叫び声と共に、人の波がうねった。突如、前をふさいでいた人壁が左右に逃げ割れて、まるで幕が開くようにエルリオの視界が開けた。飛び込んできた光景は、一人の男が駆け込んでくるところ。その背後には数人の兵。一人が銃を構えていた。
「えっ…」
 どちらからともなく、戸惑いの声が上がる。エルリオの姿を見とめて男は突如、追いすがる兵と対峙するように体を翻した。
 銃声が三発。
 人々の悲鳴。
 そして、エルリオのすぐ頭上から漏れてくる、低い男の呻き声。
「な……なに…」
 エルリオの足元に崩れ落ちる男。転がった男の胸元と腹には、銃創が三つ。まだ息がある。呼吸に合わせて、傷跡から血が噴き出ていた。

 ―お父さん!

 ワイヴァンと年恰好が似ている足元の男。毛髪は、彼と対照的な鈍い銀色だった。
「手間取らせたな…」
 銃を発射した兵が舌打ちと共にエルリオと、銀髪の男のもとに足を踏み出した。
「お嬢ちゃん、驚かせて悪かったな。もう大丈夫だから、離れていなさい」
 手にはまだ銃がある。それでこの男をどうしようというのだろう。とどめを刺すのか。
「あ…の…」
 エルリオが口を開きかけた時、
「射殺したのか?」
 兵たちの後ろから、新たに声がした。
「ウェーバー大尉。いえ、まだ息があります」
 背筋をただし、兵達は次々に敬礼。
「ですが、長くはもたないでしょう」
「そうか」
 銃を手にした兵の報告を受けて姿を現したのは、居並ぶ兵達とは異なる仕官服を見につけた軍人だった。まだ若く、後部で結わえた黒髪と、やたらと鋭い眼光がエルリオに突き刺さる。
 ウェーバー大尉と呼ばれた黒髪の男は、エルリオの姿と、遠巻きに好奇と恐れの目を向けてくる人々に、視線を一巡させた。
 そして再び兵に視線を戻すと、厳しい瞳に更に鋭い色を灯して口を開いた。
「うまい具合に三発とも当てて仕留めたのはよくやった。だが往来の最中では極力発砲せぬよう注意していたはずだ」
 背後の兵達に向けた、ウェーバーの低い声。
「三発も連射しては、そのうちの何発がこの少女に当たっていたか分からないぞ」
「はっ、申し訳ありません!」
 銃を持った男が再び、敬礼する。
「エル、この銀髪の人」
 エルリオの耳元にキューの声。何を言わんとしているのか、分かっていた。
 違う、あの兵が上手く三発当てたのではない。
 この倒れている男が、エルリオを庇ったのだ。流れ弾を作らぬように。
「…………」
 エルリオの足元で、男は息を懸命に吐き出していた。全身が小さく痙攣し、血は胸元や腹からだけではなく、口元からも流れ出ていた。
「いかがしましょうか、その男。射殺しますか」
 沈黙するエルリオを尻目に、兵は銃を腰に仕舞いながらウェーバーの指示を仰いだ。
「いや、あの娘の居場所を吐かせてからでも遅くはない」
 銀髪の男の傍で動かないエルリオに、ウェーバーは歩み寄る。
 軍の長靴が、石畳に冷たい音を響かせた。
「驚かせて悪かった。ケガは?」
「………」
 背の高いウェーバーを見上げて、エルリオは首を横に振る。
「そうか。良かった。ここから離れていなさい。もう危険な事はない」
「………その人をどうするの?」
「君には関係の無い事だ。さ、離れなさい」
 ウェーバーの声は抑揚がなく、そして低く、温度が無かった。

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