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北野ふゆ子
  • 北野ふゆ子
  • 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。



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押印師 ACT2-3
03

 フューリー総統とイーザー将軍。
その名を耳にした時、エルリオは無意識に視線を掲示板の向こうに見えるハート・オブ・アリタスの噴水に向けていた。
 ハート・オブ・アリタスの中心には、巨大で見事な塔造りの噴水がある。尖端は首都郊外からでも見えるほどに高い。塔周辺をアリタス歴代の英雄像が囲み、そのさらに外周を囲む丸い噴水池は、ロータリーの中心となっている。首都内外を結ぶ全ての交通機関が経由する「ACC中央駅」は、この噴水広場の地上、地下に設けられていた。
 噴水と塔の外縁に建てられたアリタスの英雄像。最も高い場所に、現総統フューリーの像。これは総統就任のたびに建て替えられる。若干三十ニ歳の若さでフューリーが総統の座に就いたのは二十年前で、現在五十二歳。歴代総統の就任時平均年齢を考えれば、まだまだ若い。
 そんな彼の若さを象徴するように、フューリー像はハート・オブ・アリタスに並ぶ数々の像の中で、最も雄々しく華やかだ。外套が翻り、右手は国軍制式剣を空に向けて掲げており、身に着けた軍服は就任当初の物で、肩や腰に幾つもの絹紐や、胸元には勲章が下がっている。
 総統像の少し下に、噴水を囲むようにしてアリタス歴代の英雄像が立ち並ぶ。塔と噴水の壁面には、アリタスの歴史を刻んだレリーフが填っている。
 英雄像の中で最も新しいのは、約十年前に建てられたイーザー将軍の像だ。
 像がいずれも雄々しいポーズで立ち並ぶ中、「零の将軍」と銘打たれたそれは、ただ右手を右前方に差し伸ばしたまま直立している。唯一目を引くのは、左肩に止まる双頭の大鳥。右に鷹の、左に梟の頭を持った、異形の鳥だ。
 だが、見るものを威圧するでもなく、威嚇するでもなく。ただ静かに、その像は立っている。

 アリタスは、北部東西二方と、南東部をぐるりと列強国に囲まれ、常に列強の脅威に晒されていた。他国から隔絶された地理条件の中で歴史を刻んできたアリタスは、諸外国との国交がほぼ無きに等しく、文字通り「己は己で守る」しかない。自ずと築かれたのは、軍事政権。この国において総統とは、政の長であると同時に、軍事の長でもあった。
 一般論として、他国において軍事政権が長く続いた前例がないのだが、アリタス軍事政権は既に三十七代目の長を据えている。実に五百年以上の歴史を超えてきたのだ。軍事政権国、それが、アリタスが生き残る唯一の、そして最良の形と言えたのだろう。

 そんな国において、「将軍」は民の英雄であり、「軍人」は高級公務員職である。
 義務教育である初等学校の卒業生の中から、一定の成績を修めた学生だけが、尉官以上の仕官軍人を育成する士官学校への入学が許される。
 ワイヴァンが存命だったころ、初等学校に通っていたエルリオも、士官学校入学は一種の憧れだった。教師が子供の成績について褒める時の常套句は、「仕官学校も夢じゃない」。理学と数学が得意なエルリオも、幾度かそんな言葉を受けた事がある。そのたびに、エルリオは父ワイヴァンに喜び勇んで報告したものだ。だが、「凄いな」と褒めてくれる父の瞳が、いつも灰色に濁って寂しそうに見えた気がしたのを、思い返せられた。
「………」
 エルリオが理解する事ができなかったその理由が、今なら分かる気がした。
(まただ……悪い癖だ…)
 考え込むと、過去の追憶に全身を支配されそうになる。途端、心臓の奥から淋しさが込み上げてきて、それが涙となるのだ。
「キュー、あの銅像は、右から、豪知の将軍、零将軍…」
 気を紛らわすためにエルリオは、噴水を取り囲む像を一つずつ指差した。
 像には各々、名前がつけられていた。総統の像には、現職総統の実名が刻まれるが、英雄像には一名(いちめい)、つまり本名ではなく「もう一つの名」がつけられる。かつては実名を記していたようなのだが、いつほど前からか様式が変わり、総統像以外には実名を記さないようになったのだという。話を聞かせてくれた初老の露店商は「分かりにくいじゃないか」と不満がっていたが、エルリオはこの様式が嫌いではなかった。謎解きのようで、面白い。
「ん?」
 肩の上のキューが首を傾げる。
「エルはあのサイズの文字が、この距離から確認できるのか」
 銅像の足下にはそれぞれ一名が刻まれたプレートがついている。
「うん。あれ、見えないの?」
「プラスチックの目じゃ限界みたいだ……千里眼の印とかつけてくれよ」
「そんな高等印、私に扱えるわけないでしょ」
 精霊の印には、その印が持つ力によって上位、中位、下位に分類されている。例えば同じ「力」を司る印でも、「強力(ごうりき)の印」と「巨人の印」では後者の方が上位にあたり、強い。
 キューが欲しがっている、「視力を司る」印は数種類あるが、その中で「千里眼の印」と呼ばれるものは最高位にあたる。遠方を見やるのみならず、見えない物を読み取り、上級な使い手となれば未来を読む事もできるというが、定かではない。
 そうした高位の印ともなれば、宿る力も相当なものとなり、生半可な押印師では取り扱う事などできず、ましてや、印を押印される人間はあまりの力の強さに急死してしまう事さえある。
「鳶目の印ぐらいなら…頑張ってつけてあげられるようになるわ」
 少々バツが悪そうにエルリオは頬を膨らませる。
「期待してる」
 肩の上でキューの短い尻尾がパタパタと揺れた。
 声質が平坦で感情は読み取りにくい相棒だが、最近は尻尾の動きで気持ちが読み取れる。もっとも、元はお土産用の縫いぐるみだったキューに「感情」たる物が存在するのかは、別の議論になるのだが。
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